
今日の一曲!P丸様。「ちきゅう大爆発」
レビュー対象:「ちきゅう大爆発」(2021)

今回取り上げるのは「シル・ヴ・プレジデント」や「メンタルチェンソー」(共に2021)などのメガヒッツで有名なP丸様。の「ちきゅう大爆発」です。MVの再生数準拠でシルプレの1億超えは別格として、1000万まであと約50万の本曲でさえ上から数えて7番目という事実が絶大な人気の程を物語っています。この1~7が全てオリ曲で8番目にやっとカバー(歌みた)が出てくるのも凄いと補足。
近年はアニメへの楽曲提供も増えていて、当ブログ的にはプリティーシリーズの最新作『ひみつのアイプリ』から或いはやしきんさんが手掛けた『お兄ちゃんはおしまい!』OP曲「アイデン貞貞メルトダウン」(2023)からハマる導線が考えられますが、実際はVTuber界隈に沼り出して適当に食指を動かしまくっている中で楽曲の完成度が非常に高い存在だと知れたという実はアルバムからハマった口です(ハマってからアルバムに手を出したわけではないの意)。
勿論それ以前から前述のバズり曲は聴いたことがあったけれど、界隈全体への偏見もあって余り気に留めていなかったと白状します。この点P丸様。は典型的なVとは活動形態が異なると思うものの、所謂前世でのキャリアも含めて便宜的に【ブログテーマ:VTuber】で扱う点をご寛恕ください。また、下掲MVも殊更に素晴らしくMV紹介記事でVにフォーカスしている部分(具体的には20''.の辺り)に例示していないのがもどかしいレベルなので近日中に組み込むつもりです。
【追記:2025.7.1】 組み込みました。単に旧20''.を本作に差し替えるぐらいのつもりで臨んだのに、結局上位の20.を丸ごと書き換える大改訂になった次第です。【追記ここまで】
収録先:『ラブホリック』(2022)
本曲の初出は単曲でのデジタルダウンロードで4thシングルに当たりますが、アルバムとしては2ndアルバム『ラブホリック』に収められています。「ちきゅう~」以外にもオススメが多くあり、「MOTTAI」「さよなら」「ないばいたりてぃ」「恋愛耐性値」は自作のプレイリストに登録済みです。
リストに於いてV関連楽曲は扱いが特殊で誰もかもを一つ所にまとめているためnの値は30*3=90曲と大きく設定しています。その中にP丸様。および輝夜月の楽曲は合計12曲存在し、全体の1割を占めるほどお気に入りが多いのは他にさくらみこと宝鐘マリンだけです。内訳を詳らかにしますと上位30曲までを示す1stに「MOTTAI」「さよなら」「侵略魔少女エルゼメキア」「すくりぃむ!」「ちきゅう~」、2ndに「いにしえロマンティック」「ないばい~」「メンタル~」「恋愛耐性値」、3rdに「Beyond the Moon」「アイデン~」「ガチやべぇじゃん」となっています。
上記とは別にVTuberの音源化されているカバー楽曲には7*3=21曲を設定しており、1stに登録の「命に嫌われている。」は1stアルバム『Sunny!!』(2021)に収録のものです。同曲には多くのカバー音源ないし歌みたが存在しますが、最も歌声に説得力を感じて胸を打たれたのはP丸様。のそれでした。楽曲の質が高いのはクリエイター陣の豪華さからも得心がいくけれど、快活で可愛くも切なくて力強いといった様々な感情を共時に発露させているような稀有な声質の持ち主であるのも好む理由です。ちなみに「シルプレ」はバンドリのカバー曲枠の2ndに入れているので、重複防止でオリジナルは対象外としています。
歌詞(作詞:ピノキオピー)
つい最近別の記事に使った表現をセルフ引用しまして、「目下寸善尺魔の世界情勢に悪化の一途を辿る体感治安」の背景に無気力と無関心と堕落と腐敗と陰謀論が渦巻いているけれど、それはそれとして"あなたが好き"のセカイ系な世界観がツボに刺さりまくった歌詞内容です。致命的な爆発までのカウントダウンが尚一層進んでいる気がするという意味では、発表当時の2021年より現在のほうがこの戯けつつも皮肉めいたポイント・オブ・ビューが迫真に響いてきます。
"あっさり理性がぶっ飛ぶ感じ/ぼんやり不正をやってる感じ/やめろ(やめろ) グーチョキパーで何も作るな/本当はあなたが好き わかっているかな?"が全体を総括する一節と解せますが、ここの手遊び歌の引用はとても含蓄があって感心しました。右手と左手で同じ手またはそれぞれ別の手を用いて何かを模す遊びでは、一つの手だけで完結するか溢れる手が一つ出るかの二者択一になります。これに元来のじゃんけんの三竦みの関係性も加味すると、要するに「誰にも与するな」且つ「誰とも敵対するな」とのメッセージが窺え、破滅するまで競ったり争ったりするくらいなら何もしてくれるなと呆れる心理に頗る同意のため、そんなことよりラブ&ピースでしょの陳腐さも却って痛快です。
"超テキトーに「はいはい」 沸点10℃のバイバイ"と"可愛い赤ちゃんハイハイ 数十年後に犯罪"の見事なライミングの対句に、闇バイトで捕まる若者の年齢に不相応な幼顔がチラつきドキっとして、その視野狭窄に資している"スマホばっかり見ていたら ダーリンが見えない"に大手プラットフォーマーの功罪を、"論破で満足するゾンビ 反省点はどっちらけ"に○○キッズを量産する大人の我関せずを察して暗澹たる気分になります。この○○は某氏の伏字ではなく(流石に一個人に責任を押し付けるのは違うと思うので)、影響力のある不特定存在・不干渉か過干渉の親・規制に慎重な政府を指す広範的なものです。
こうして意識の高そうな御託を並べて自分だけは例外と言うつもりは毛頭なく、僕とて"君の心は小学生 身長何センチ?"に"君の実家は埼玉県 住所は何番地?"と、デリカシーもリテラシーもない一面を持ち合わせています。曾てこの記事で「歌詞にはPDCAが関の山」と表現するくらいには無駄に上から目線だからこそ"PDCA言ってるけど サバンナ行ったらダサい"を地で行っていますし、"地球は丸かった けど形変わっちゃった"のフラットアース説には取り合う気が起きない一方で宇宙は存在そのものが壮大なドッキリではと魔が差す瞬間が全くないとは言い切れません。徒に紹介される新学説に振り回されて考えるのを止めたくなるほど、"宇宙はでっかいな けど 私はちっちゃいな"だからと歌詞に倣って一応の理屈は付けられますけどね。
メロディ(作曲:ピノキオピー)
忙しなく動き回るメロディラインが爆発に係るエントロピーの増大に相応しく、本当なら一発アウトの"ちきゅう大爆発 どっか~ん"が"死ぬと思った?"で冗談めかされるという繰り返しに、カオスとコスモスを往来するような緩急を味わえる楽想です。以降単純化して"超テキトーに~"をヴァース、"君の心は~"をコーラス、"あっさり理性が~"をブリッジとします。区分の詳細はこちらへ。
明るい調子で闇を歌うヴァースは、足早にしかし淡々としたタイパ重視の音運びから入って、"ダメ"とタブーを説くところで感極まってメロディアスになり、終わりにはサビメロに繋げるための工夫が凝らされているといった構成です。最初のスタンザのみ繋がる先が特殊で、"アイラブユー"からサビの終盤を先出しした"言わない"のラインに連続性を持たせていることの技巧性は、最後まで聴いて初めて(冒頭が例外だったのだと)解ります。このサビ終盤は先述したところの「緩」のセクションで、"言わない"奥ゆかしさの余韻および"どっか~ん"後の煩い静寂を埋める"uh ah"の息遣いが人間らしく心地好いです。
普通にサビメロに繋がっていく"アイニージュー"と"検索中..."にはそれぞれ"きっしょいかな?"と"パケ死んじゃった"の短いラインが続き、これをして超々コンパクトなBメロと区分しても構わなかったのですが、何にせよその後に控える最大の盛り上がりを前にひと呼吸置くのには適しています。
満を持してのサビメロは矢継ぎ早に展開していくのが特徴で、キャッチーな進行に耳を楽しませていたら、"メンヘラ 病み系 ラーメン 家系 ライフル 何口径?/ズキュン バキュン ドキュン バキュン どっか~ん"と予想以上にリズミカルなラインが躍り出てくるので驚きは一入です。"けど食べたら減っちゃったんだ"でメロを拡張させて傾れ込む再びの"メンヘラ~"は一段とフロウに快感を覚えました。
「緩」を通り越して最も冷静なブリッジは本曲の中では新鮮な聴き心地で、この狂った状況を横目に愛を伝えたいという歌詞の項に述べたセカイ系の世界観から写し取ったかのようなハイコンテキストな旋律に陶酔性が宿っています。
アレンジ(編曲:ピノキオピー)
MPCで合いの手を入れているとかソフトシンセのドラムキットで遊んでいるとか表現したい、メロディの間隙に細かく遊び心のあるサウンドが仕込まれた賑やかな音作りが印象的です。初手から爆発音SEなのもそうですし、スタブ系とまではいかない旧来のオケヒも軽妙で、"アイラブユー"と"言わない"の間にある「……」をそのまま音に起こした感のあるビートメイキングと、冒頭の17秒間だけでもその一端を窺えます。"検索中..."のカタカタから"パケ死んじゃった"のピコピコで"2000年代"の平成レトロを音に落とし込んでいるのも懐かしいです。
"uh ah"のセクションにてウワモノと言えるキーボードのリフにも存在感があり、古いTVゲームのBGMみたいなラインに心弾みます。これのマイナーチェンジがブリッジのバックに宛がわれているのもテクニカルです。間奏での有頂天プレイもラスト[2:46~]のエンディング感漂う進行も素敵で、もう一つの主旋律と言わんばかりに歌っていますよね。あとは2番ヴァースのシーケンスフレーズというかポロンポロンと爪弾くようなサウンドの連続も好みです。
cf. 『ぴーまる。Diary!!』(2021)
「ちきゅう~」のリリースより前に出た書籍なので直接的に関係はないのですが、P丸様。のマルチな活躍や才能を窺い知るには適した一冊で、個人的にはリットーミュージックから発売されている点に信を置けます。なぜならサンレコの愛読者だったので…と以前にもこんなことを書いた気がすると自ブログを検索したらこの記事にありました。リンク先から一部を改変して伝えますと、「同社からファンブックが出ている」というその事実だけで、「いかにP丸様。の音楽が優れているか」を証明するには充分だとの理解です。あとがきに「P丸様。はすごーく天才でエジソンなんだ!!びっくりなんだ!!って教えてあげてね!!」とあったので、本記事がその一助となれば幸いと結びます。