プリティーシリーズの神曲たち・その2 ~アイドルタイムプリパラ編~ | A Flood of Music

プリティーシリーズの神曲たち・その2 ~アイドルタイムプリパラ編~

◆ 前置き

 

 本記事は「プリティーシリーズの神曲たち・その1 ~プリパラ編~」の続きです。リンク先でレビュー済みの楽曲は以下の通り。

 

■ HAPPYぱLUCKY(2014)
■ Love friend style(2015)
■ ぷりっとぱ~ふぇくと(2016)
■ アメイジング・キャッスル(2016) ~ アメイジング・キャッスル (DJ BOSS ULTRA EDM Remix)(2018)
■ コノウタトマレイヒ(2015) ~ コノウタトマレイヒ (New Electro Remix)(2017)
■ クラブサウンドとの親和性について ―『プリパラ ULTRA MEGA MIX COLLECTION』シリーズの特集―
 □ ま~ぶるMake up a-ha-ha! (Hyper Techno Remix)(2017)
 □ ヴァーチャデリアイドル♥ (Y&Co. Dance Remix)(2017)
 □ Twin mirror ♥ compact (Taku Inoue Future Remix)(2017)
 □ 絶対生命final show女 (KAZBONGO Zettai Electro Remix)(2017)
 □ No D&D code (Y&Co. Hard Dance Remix)(2017)
 □ 0-week-old (Y&Co. R&B Remix)(2017)
■ かりすま~とGIRL☆Yeah!(2016)
■ Steps(2016) ~Secret はぁと♥~|-twinkle star-|-brandnew myself-
■ シュガーレス×フレンド(2016)

 

 『プリパラ』由来の楽曲紹介は上記のラインナップで一区切りとし、本記事「その2」はタイトル通り『アイドルタイムプリパラ』の音楽中心でお送りします。作品の順番が前後する不親切はご容赦いただくとして、最後にルーツ探訪的な流れで『プリティーリズム』(主に『レインボーライブ』)の音楽をプチ特集する構成です。

 

 

◆ 留意点再掲

 

 僕が現時点で有している『プリティーシリーズ』の作品知識は、アニメ『キラッとプリ☆チャン』の本放送分とアニメ『プリパラ』の再放送分(第67話まで)に依存しています。従って以降の文章では楽曲およびアイドルに関して、「作中での位置付けや成立過程は疎かキャラ像もよく解っていない」のが前提です。視聴に先行して楽曲だけは全て揃えて聴きまくっているので、音楽を通じて勝手なイメージだけが形成されています。レビューに必要な情報はきちんと調べた上で盛り込みましたが付焼刃ゆえ、基本的には音楽のみにフォーカスした文章を認めることになるとお含み置きください。

 

 

■ ブランニュー・ハピネス! / 夢川ゆい&真中らぁら

 

 

 新旧主人公のデュエットソングである点と楽曲から迸る大団円の趣とが合わさって、てっきり『アイドルタイムプリパラ』の中でも終盤に登場するクライマックス的なナンバーだと予想していたため、初出は第8話でその後の使用頻度も多い序盤からのパワープレイ楽曲であるという事実が調べて意外な発見でした。僕の視聴分でらぁらは当然知っているとして、ゆいもスターシステム的な感じで『プリチャン』世界に近似の存在が登場しているので、「ブランニュー・ハピネス」(2017)を聴くと尚の事不思議な気分になります。

 

 実際の使用場面は無視して本曲の魅力が上述した「大団円の趣」にあると考えると、その出所は主にサビからフック("Dreaming"~"Future!!")にかけてのセクションに求められるとの分析です。"Making"~"見てみたい"の旋律にはエンディング感があると言いましょうか、明るさと切なさが同時に押し寄せてくるハイブリッドなラインが特徴的で、手を振るジェスチャーないしハンドサインが似合うビジョンが脳内に浮かびます。それだけでも非常にエモいのですが、真に琴線にふれたのはサビメロを着地させる"未来=ゆめかわ×かしこま!!(ね!)"のキメからフックへの移行部です。有名曲とはいえ全く外部からの例示をしますと、僕はここでVan Halenの「Jump」(1983)に於いてお馴染みのシンセリフが聴こえた気がしました。

 

 これは「同曲っぽさがある」といった類似性の指摘ではなく、「同曲とのマッシュアップ欲が沸いた」という発展的な感想で、具体的にはキメの部分に当該のリフに重ねるケースと、フックの頭から伴奏的に使うケースの2パターンを想定しています。勿論どちらも多少メロディをいじる必要があるけれども、巧くハマれば本曲が持つ上昇志向の働きを一層強められるとのサジェストです。当ブログでは過去にも同曲を引き合いに出したことがあるので()、それによって演出される雰囲気の参考になれば幸いとリンクしておきます。この私案を補強する一例として、リミックス音源「ブランニュー・ハピネス! (DJ BOSS Hard Trance Remix)」(2018)に当たってみると、サビ前に挿入されたトランスパートのアンセミックなシンセ遣いによる高揚感は、「シンセを上乗せすればもっと良くなる!」との発想に基いたものだと推察される点で、差し出がましくも自分のアレンジセンスに近いと共感を覚えました。キメのパートなんか「そう!これ!!」と小躍りしたほどです。笑

 

 

■ GOスト♭コースター (Y&Co. Dance Mix) / 幸多みちる

 

 

 リミックスへの言及の流れで、ここで『アイドルタイムプリパラ ULTRA MEGA MIX COLLECTION』(2018)の紹介に入ります。代表的に取り立てるのは「GOスト♭コースター (Y&Co. Dance Mix)」で、ジャズロックで情熱的に極っていたオリジナルからクールでダンサブルなクラブサウンドへの大胆な変身ぶりをして、みちるの二面性に根差した解釈であると納得の一曲です。『ULTRA MEGA MIX COLLECTION』シリーズの凄さについては既に「その1」で大書したけれども、本リミックスには殊更にガチだと感じた要素があるため掘り下げます。主眼を置くのは、「サビ以外のメロを一切カットしている」ところです(厳密にはBメロの一部も残っていますが:後述)。

 

 独自研究の向きがあると断っておいた上で、特定作品の関連楽曲をリミックスしたオフィシャルの音源をリリースする場合、著作者側から音楽家への全般的なオーダーとして「原曲の全体像を大まかには維持しておいてほしい」というのがあるかと思います。反例として海外のダンスミュージックのリミックスに於いては、求められるワークスが「アレンジを手掛けた人間の特色が強く反映されたもの」になりがちで(ベテランならその手腕を存分に振えますし、新人なら名を売る絶好の機会となるからです)、ぱっと聴いただけでは原曲がわからないほどに大きな変貌を遂げた音源に出会すことも少なくありません。電子音楽の界隈ではその文化的背景からこのようなぶっ壊しも肯定的に受け容れられるのに対して、基本的にはポップミュージックが適しているアニメ界隈の;それも元来は女児向けの作品となると、「大衆性の大幅な欠如(オリジナルからの顕著な逸脱)はマーケティング的に不利である」との考えに発注側が至っても可笑しくありません。これを忖度してアレンジャーの側が自重するケースすらあるでしょう。

 

 ところが、本曲には上述したような注文ないし気遣いを窺わせない攻めのリミックスが施されており、それが端的に「サビ以外のメロを一切カットしている」ところに表れています。ボーカルトラックには"誰にも見せないわたしに"と"ひとりぼっちにならないで"のスタンザだけが引用され、原曲でA/Bメロに相当する部分は妖しげなシンセリフと多層的なコーラスワークに置き換えられ(辛うじてBメロから"uh"が残されているとわかるのみ、'ah'は"逢"のピッチベンド?)、落ちサビのブレイクにあった"It's show time!"を各サビ終わりに移してフィルイン的に機能させることで、間断なくインスト主体で聴かせる展開へと化けているのが新鮮です。このチャレンジングな楽想にゴーが出ている事実でもって、本曲延いては本ディスクがダンスミュージックフリーク向けに最適化されていると理解出来ます。音楽的な立脚地からも付け加えておくと、オリジナルではサビ以外がトリッキーなメロディラインと台詞およびコーラスパートで構成されており、いずれもダンスチューンのリズムには合わせにくいから省かれたという面もあるかもしれません。仮に目指す路線がクラブジャズであればそれらを活かす手も思い付くけれど、Y&Co.によるアンサーはシンプルに「Dance Mix」ですからね。

 

 

 【追記:2023.9.3/25】 先述の独自研究に関してプロの認識を窺い知れるソースを発見したので別作品のリミックス集を例に補足します。『THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS TO D@NCE TO』(2017)のブックレット上座談会に於いて、井上拓さんが前作『The Remixes Collection THE IDOLM@STER TO D@NCE TO』(2014)の制作秘話を明かしているのですが、曰く前作は著作者側(日本コロムビア)からの注釈に「原曲を壊していい」とあったためその通りにしたものの、「いささか攻めすぎてしまったらしく……(笑)」と含みのある表現で以て「次作は攻めすぎないように」の圧を背後に察せる暴露がありました。確かに2014年のは全体的にフロア志向で収録時間も長く原曲の使用は素材的という本格派のつくりである一方、2017年のは殆どが4分台とリミックス集にしてはコンパクトで且つボーカルトラックの輪郭を維持したものが多く聴き易いです。とはいえ何方のスタイルにも魅力があり、「その1」の「Twin mirror ♥ compact (Taku Inoue Future Remix)」(2017)でセンスを大絶賛した井上さんの手に成る楽曲を軸にツボを語りましょう。

 氏のアイマス関連楽曲は何れも名曲揃いだけれど、別けても代表曲と言えるのは「Hotel Moonside」(2015)かと思われます。そのプロトタイプ的な音作りに類似性を聴き出せる「Mythmaker -Taku Inoue Remix-」との関連に於いては、リミックスを通じてオリジナルの作風を垣間見るという形でクリエイターの嗜好と先見性にふれられて面白いです。また、弄るのが躊躇われるほどに卓抜した出来のコケティッシュバンガーである同曲を瑞々しい鍵盤遣いで明るい印象へと変え、奏本来の年相応な面を敷衍したと解せる「〃 -Take me away from Metropolis Remix-」については、斯様なアレンジの正解があったのかと烏屋茶房さんを讃えるしかなくなります。話を戻して「GOスト♭コースター (Y&Co. Dance Mix)」に絡めて語ると、「秘密のトワレ -Midnight Lab Remix-」はトラックメイクの方法論が近いと感じるのでリファレンスになるでしょう。原曲からの引用はサビとCメロを主として旋律性を絞った上で、Aメロの一部"chu"(或いは台詞パートの"抽"?)をカットアップしてドロップセクションを設ける鮮烈な変化にK.O.されます。原曲のA/Bメロは陶酔性が強過ぎるというかマッドサイエンティスト感に露骨さを覚えたため、思い切ってカットした井上さんによるリミックスのほうが志希のギフテッドらしさや奔放さの表現に繋がっている気がして解釈一致です。【追記ここまで】

 

 

■ 快打洗心♡カッキンBUDDY / 虹色にの&東堂シオン

 

 

 「快打洗心♡カッキンBUDDY」(2017)という曲名通り「野球」をメインテーマとするナンバーで、球場から観客の声援と応援団の演奏をサンプリングした(実際のところは知りません)かの如きラフな音質をバックに、シオンとにのの謎掛けじみた遣り取り"「囲碁も野球も目指すは?」/「当たり!」"に素直に感心した冒頭部だけでも、本曲の熱さの程は推して知れます。サウンドの基調はロックで、ギターの音色に炎天下を思わせるギラギラ感が付与されていることに加えて、Aメロのキメの連続によって演出されるメリハリのあるモーションや、シンセの音色の豊かさとリフのグルーヴィーさから役割的には金管楽器が想定可能な点などを統合すれば、吹奏楽的なマナーで作られた応援歌であると表せるでしょう。

 

 ノリの良さはボーカルラインにも表れていて、とりわけ好みなのは合いの手を含めたサビのメロディです。「その1」でも合いの手の巧さを褒めた楽曲がいくつかありましたが、本曲のそれはポップさだとか可愛さだとかに結び付けたいわけではなく、リズムセクションの一部として有機的な働きをしているところを評価しています。具体的には"誰にも負けはしない"と"ホームラン!"の間に来る"(We fight)"の存在を技巧的に捉えており、これは過去に「スキスキセンサー」(2018)をレビューした際に"Hey"の重要性を説いたことと近しい視座であるため、以下に当該部を引用する次第です。

 

 冒頭のコールパートから。ここは表題の"スキスキセンサー"とバックの"E-M-O-T-"および"I-O-N Yeah!"の応酬がキュートな部分ですが、2回目の"スキスキセンサー"の前にアウフタクト的に挿入される"Hey"によって、コミカルなリズム感が創出されているのが技巧的だと思います。

 始まりが弱い[h]の音であるため、歌詞を見ていない段階では"Hey"と認識出来ず、同じく弱い"ス"を発声する前の息継ぎで裏返った声を、そのまま「味」として収録したのかなと考えてしまうくらいにさりげない発声ですが、裏の"E-M-O-T-I-O-N"コールのパワフルさへのカウンターとしては、単に"スキスキセンサー"を二度繰り返すだけでは足りない気がするので、このフライングでインしてくる"Hey"による変化は、音の弱さに反して楽想上の意味合いは大きいと絶賛したいです。

 

 上記の"Hey"が本曲に於いては"fight"に相当すると言いたくて(全く同じというわけではありませんが)、音の弱さとタイミングのズレから聴き流してしまいそうになる一方で、その実これがあるとないとではフロウの完成度に大きな差が生じると認識している点で共通しています。そもそもこの"(We fight)"は歌詞を見るまで何と歌っているのかわからず、「"ホームラン!"の前になんか唇歯摩擦音([v]または[f])が聴こえるなぁ」と朧げな理解しかしていませんで、それでもこの音があるからこそ続く"ホームラン!"が一段と勢い付いているのは確かだと重要視していました。「この音」と言いつつ実際は2つのシラブルだったので大部分を聴き逃す残念なリスニング力を晒してしまったのはともかく、ニッチなツボを文章化出来たので満足です。

 

 

 本曲に関してはリミックスの「快打洗心♡カッキンBUDDY (DJ BOSS DISCO STYLE」(2018)も素晴らしく、都合4枚リリースされている『ULTRA MEGA MIX COLLECTION』シリーズの中でいちばん好きかもしれません。ディスコを冠しているだけはあって原曲の持つグルーヴィーさが強調されており、ご機嫌なパーカスを伴って響きがアホっぽくなったシンセのゆるさが最高です。ラスサビ後に手数を増やして(メロディを複雑にして)、新たなノリを提示してくる変化もベタですが気持ち好く踊れます。あとは声フェチ的な観点でにのの"バッチコイ!"が好き過ぎるので、オリジナルでは一度しか出てこないそれを二度味わえるお得感も本リミックスの長所です。笑

 

 ここからはアレンジ欲求の話で、このリミックスを基とした更なる発展形としてはファンコットもアリなのではと思っています。既にリズム隊のサウンドと合いの手のサンプリング的な多用でそれらしさが醸されているため、後はビートをファンキーにしてBPMを高速にしてダウンビートのセクションを設ければ、「FUNKOT STYLE」への進化もあり得るとの目算です。日本国内では最も同ジャンルに詳しいであろうDJ JET BARON(高野政所さん)の影響で、当ブログ上でも過去にふれたことのあるサウンドなので()、興味があればリンク先も参考にしてください。

 

 

■ Miss.プリオネア / 華園しゅうか

 

 

 

 先の「スキスキセンサー」の例示と同じく、後続作品のレビューを過去記事として紹介する時系列のややこしさをご寛恕いただくとして、本曲は「TOKIMEKIハート・ジュエル♪」(2019)と似た方法論で作られていると感じました。勿論「Miss.プリオネア」(2017)のほうが古くに発表されたナンバーだけれども、自分が聴いた順番は逆なのでこういう書き方になります。例によって関連記述の引用です。

 

 「TOKIMEKI~」の美点はサビメロにあると考えていて、ぱっと聴いただけでは地味にも思えるそのラインを、敢えてリズムセクションの一部として捉えてみると、実は物凄くダンサブルな振る舞いをしているとの理解に至れるというのが、これから述べることの肝です。同曲のサビメロに初めてふれた際には、「なんだか伴奏みたいな主旋律だな」と感じてしまい、ピークで後ろに下がるような作曲者の意図がよくわかりませんでした。しかし、2番サビの歌詞"スイートにスタッカートに/踊ってみたら気づくよ"(合いの手は省略)を見て、「そうか、断奏で生じた跳ね感のあるグルーヴに身を任せればいいのか!」と、文字通り気付いたのです。すると、合いの手もリズムの補助というよりはメインの一部として扱ったほうが据りが良く、ボーカルラインには全てビートメイキングが先行しているとの制作過程が推測され、ここでようやく作曲者の狙いが見えた気がしました。

 

 上記の「ボーカルラインには全てビートメイキングが先行している」というのが前述した「似た方法論」の具体的な中身で、要するに主旋律も合いの手もとにかくダンサブルに振る舞うように設計されていると言いたいのです。サビメロを「伴奏みたい」と感じた点も近い…というか本曲の場合はシンセがなぞっているラインがまさにサビメロの変形ゆえ、前奏部のリフでメロディの大枠が予め示されていることに起因した既聴感が、初めて聴く筈のサビでも踊りやすくするテクニックであると分析します。冒頭の22秒までに「本曲はこういうノリですよ」と、その指針が過不足なく示されている親切さが売りと換言しても構いません。

 

 合いの手の挿入方法ないしボーカルディレクションにも共通のものが窺え、これも過去の表現を借りると「少し笑ってしまうような面白さ」および「耳にひっかかりを残すのが上手い歌い方ないし発声法」で形容したい美点です。合いの手に限ると但し書きの上でもっと端的に表せば、朝日奈丸佳さんと林鼓子さんの声質が似ている気もします。類似性の指摘は他にも可能で、イントロ(両曲共に0:09までの展開)はこっそり入れ替えても違和感がないと思えるくらいにはつくりが近いです。

 

 

 しゅうかの信条である"アイドルタイム イズ マネー!"を体現する歌詞内容もユニークで、ビジネスライクな言辞のセンスが冴え渡っています。メロディとの調和が完璧な"努力投資 惜しまずにサプライ"や"キラキラビジュー ケーキ パルファム/さみしさをすべてトレードオフ"はフロウが良くて口遊みたくなりますし、歴史系の引用"パンがないなら 作ってやるわ"や"どうだ明るくなったでしょう"でさり気無く史実を学べる要素が取り入れられているのも正しく子供向けです。

 

 名古屋弁キャラなのに江戸っ子気質のギャップが面白い"宵越しの夢は見ないの"と"値段のついたモノは 大したことないのよ"に見える潔さだったり、"魔法よりもっと確かな/流してきた無数の涙/笑顔でV字回復 ドキドキ係数上昇中"のリアリズム(理想主義とは矛盾しないタイプ)に裏打ちされた自己肯定感の高さであったり、そして極め付きの"夢なんかよりも/ねぇ 何よりも実感がほしいよ/マテリアル!"というアンチドリーミングなフレーズで、妄想と夢に生きるゆいに対抗するキャラクターとして確立されていると得心がいきました。

 

 

■ ワクワクO'clock / MY☆DREAM&華園しゅうか

 

 

 ここまでの4曲は「その1」に掲載したリストを参考にお気に入りの上位にあるトラックを並べただけで作為性はないけれど、奇しくも『アイドルタイムプリパラ』からの主要人物である、ゆい・にの・みちる・しゅうかがそれぞれ参加している楽曲を均等に紹介する内訳になっていました。というわけで、続いてはゲームの楽曲「ワクワクO'clock」(2018)をレビューしましょう。アーティスト名はWikipedia上の表記をソースにマイドリームとしゅうかで分けましたが、『GAME PriPara BEST』(2020)に於いては上記4人の名前で「うた:」にクレジットされています。加えて、実際にはWITHの3人も主に台詞で参加しているので、ほぼオールスターのナンバーと言って差し支えない層の厚さです。

 

 本曲の秀逸さはまさにこの「オールスター感」に凝縮されているとの認識で、ダンプリから男性ボーカルが副えられたことで生まれた混声の美学が、僕に「なんて幸せな歌なんだろう!」と強く思わせてくれました。これに近しい所感は別作品の主題歌への言及ながら、この記事で「ミッション! 健・康・第・イチ」(2018)に対しても展開しています。ライナーノーツから制作陣の言を借りてきますと、児玉雨子さんの「パパラ宿組が大集合(中略)み~んなでパーティを開く」と、michitomoさんの「アイドルタイムプリパラメンバーの欲張りセット(中略)お耳を満腹にして」も、この認識の補強に資する述懐です。「◆留意点」に書いた通り、自分は『アイドルタイムプリパラ』について音楽以外はほぼ何も知らないのに、ここまでの多幸感を味わわせてくれたその効能の大きさは計り知れません。この結果から遡って言えることは、同作の音楽とりわけキャラソンは非常に出来が良いということで、音楽を聴いただけでキャラクターに多大な愛着を持てるところを殊に素晴らしく感じます。

 

 

 話を音楽面に移しまして、本曲を聴いてまず耳に残ったのはAメロの"ワクワク ワクワク ワクワクO'clock"のラインで、その癖のある響きに早い段階で神曲の確信を得ました。本曲のテーマは表題の「アイドルタイム」延いては「時間」そのものであるとの前提に立って、中でも時間軸に干渉する類の内容(後述)を有した楽曲では、直接的には不可視で通常は不可逆の存在である「時」の堅牢さを切り崩そうとした結果の表現ゆえか、揺らぎを感じさせる作編曲が選択される場合がありますよね。ここで意識しているのはタイムリープの最中に流れているような劇伴ないしSEのことで、かっちりとして安定感のあるメロディないしコードが正方向の時の流れを表すとしたら、それに抗おうとする進行は不安定なものになるだろうとのロジックです。

 

 当該のフレーズは"四六時中 年中夢中で"と"胸が躍るよ ソワソワエビデイ"に続く形で登場し、ラストの"「いくよ!」"を合図に各人のタイムラインへのフォーカスが始まるので、上述したファジーさは「これから時間軸を移動しますよ」ということを予告する音楽的な表現だと推測出来ます。本曲の歌詞内容を「時間軸に干渉」や「時間軸を移動」と形容するのは大袈裟だけれども、次々と場面(時間・人物・状況)が切り替わっていく目まぐるしさがあるため、カメラのスイッチングの忙しなさを神視点からの所業と見做した、作詞者のディレクション能力を讃える文脈です。

 

 

 台詞の部分は省略して歌詞を引用しますと、ゆいは"午後の3時 チャイムとお腹がグー"、にのは"4時の練習も全力投球"、みちるは"5時のオウマガトキにプー大陸"、しゅうかは"待ち合わせまで宿題すませて"で放課後の様子が銘々に描かれ、いずれも「時間」に纏わる語彙や語法に上手い事絡められています。始業前~授業中~休み時間の模様を描いた2番の同位置では台詞をウィズが担って一段と賑やかになり、内容的には"落ち込むこと"の列挙なのに掛け合いの前向きさで全くネガティブに聴こえてこないところが愛おしいです。夢川兄妹のはちょっとアレですが。笑

 

 「時間」にこだわった言葉繰りは他にも見られ、"たのしい瞬間こそ/足がはやいよ/ときめく未来へ駆けていく/きみを連れて駆けていく"や、"この先も/明日 あさっても/忘れられないことばっかり/ぜんぶタイムカプセルに/詰めきれないくらいで"からは、目が眩むほどの青春の輝きが放たれており惚れ惚れします。別けても好みなのはサビ後半丸々(台詞込み)で、"ぴったぴったぴったぴったりスタート!「オンタイム!」/すてきな時間 きみといれば「朝も!」/たったひとりで「夜も…」 いるより「いつも!」/自分らしくなれたよ/ワクワクO'clock「夢中!」"は、ここまでに熱弁してきた素敵さの全てが内包されたハッピーな一節です。

 

 

 このサビ後半は楽典上でも技巧的で、その枢機はサビ前半のメロディにあると踏んでいます。具体的には"持ち寄ろう"に分岐点があり、サビ始まりでは"持ち寄ろう"(↑)ですが通常のサビでは"持ち寄ろう"(→)なんですよね。先に出てくるほうをどうしても基本と捉えがちになるため、次の登場でフラットになると意外性に驚かされますが、ここで上げると直後の"もっときらめきに行こう"も釣られて旋律の着地点を求める働きが強まり、続く"ぴった"~のポップなラインを自然に導けなってしまうので(サビ始まりと落ちサビはこのラインに続かない;"アイドルパーティ 3・2・1・Go!!"でオチるから問題にならない)、職業作家によるナンバーとしては当たり前ながらきちんと理論立てられていると感心しました。

 

 michitomoさんの『プリティーシリーズ』に於けるワークスはいずれも水際立っており、『アイドルタイムプリパラ』では「Miss.プリオネア」も氏の作曲ですし、使用頻度が最多の作品を象徴する楽曲「チクタク・Magicaる・アイドルタイム!」(2017)や、にののソロ曲「あっちゃこっちゃゲーム」(2017)でも高度な作曲術が披露されています。『プリチャン』についても特集記事(「その1」の「◆過去記事紹介」を参照)で大書した「スキスキセンサー」と「シアワ星かわいい賛歌」(2019)を代表として、「レディー・アクション!」(2018)や「ワン・ツー・スウィーツ」(2018)や「インディビジュアル・ジュエル」(2019)などリスト入りしているトラックのオンパレードです。『プリティーリズム』に関しても主題歌の中でいちばんのお気に入りは「ハッピースター☆レストラン」(2014)で、「名曲しか書けない人」との絶大なる信頼が僕の中に芽生えています。

 

 

■ リンリン♪がぁらふぁらんど / ファララ&ガァララ

 

 

 「リンリン♪がぁらふぁらんど」(2018)もまた凝った楽曲なので、レビューの価値に富むと判断して紹介します。本曲の何が凄いかは聴けば瞭然で、ファララのソロ曲「サンシャイン・ベル」(2017)とガァララのソロ曲「すた~らいとカーニバル☆」(2018)をひとつに重ねて完成形とする仕掛けが施されている点です。音楽が作品に先行している僕はファララもガァララも(そのペア設定を)知らなかったけれど、上掲試聴動画の『アイドルタイムプリパラ☆ミュージックコレクション』(2018)でも『プリパラ&アイドルタイムプリパラコンプリートアルバムBOX』(2019)でも当該の三曲は連続で収録されており、このギミックには直ぐに気が付けるようになっていました。

 

 初聴時の記憶をなるべく忠実に且つ通時的に再現しますと、まず「サンシャイン・ベル」を聴いて「童話風の綺麗な旋律が印象的な楽曲」と素直に単体での評価を下した後に、「すた~らいとカーニバル☆」の特にAメロの中抜きされたかのようなメロディに違和感を覚え、「もしかしてさっきの曲が片割れだったのか?」と振り返って聴き直したくなる衝動に駆られ、果たして期待通りに両者が相互補完された「リンリン♪がぁらふぁらんど」が始まるとそこには鳥肌物の調和があり、甚く感動したまま聴き入ってしまった思い出があります。別作品からの例示をすると、『戦記絶唱シンフォギア』の「Edge Works of Goddess ZABABA」(2013)も同様の方法論で作られた合体系のナンバーで、片方だけを鑑賞した際に過る「なんか上(下)の旋律っぽいな」と相方を求めたくなる心理が、後にしっかりと報われるとカタルシスが半端ないですよね。【追記:2023.9.3】 後年のナンバーですが『ガールズ&パンツァー』の「Resonance」(2022)も類同として挙げておきます。【追記ここまで】

 

 

 二つのメロディが優位性を入れ替えながら逢瀬と別離を繰り返す進行は圧巻で、ファララの"朝を呼ぶのよ"で御来光を拝んだかと思いきや即座に"お星さま☆ララ"で陽が傾き、"ベルの"と"しゃべるの!"の見事な一致を境に今度はガァララの"よるよるよるのカーニバル"で帳が下り、その暗がりも束の間に"お日さまが"再び顔を覗かせて"だいす・き!ら!ら!"と"キラキラキラララ"で昼夜が混在し、"ずっと一緒よ!/ずっといつまでも"で表裏一体を見せるというシークエンスが、冒頭の僅か15秒足らずで表現される超ハイスピードな展開に脱帽です。次のセクションはボーカルトラックの時間差を利用した楽想が鮮やかで、「サンシャイン・ベル」の間奏部に「すた~らいとカーニバル☆」のサビ後半("遊びつづけるの"~)が重なることで、当該部が「リンリン♪がぁらふぁらんど」では役割的にコーラス(β)に変化しています。

 

 先にガァララがソロで目立ったゆえかAメロではファララがメインで、元来の旋律の美しさがガァララの寄り添いで切なさを携えているのが巧く、"早く出ておいで かくれんぼはだめ!/ひとり(ひとり) ぼっち(ぼっち)/時計の針が/まっくら(まっくら)/クルック・ルックル 回るよ/くるくるくる(ねぇ みつけて!)/ひみつのおにわを 覚えているかな/ゆめを(ゆめを) ぱくり(ぱくり)/ヒラヒラちょうちょ イッパイだね/おなか(おなか) いっぱいだよ!"は、その物語性の高さと尊みのヤバさで涙が出そうになるくらいです。"聞こえる?"を受けてのBメロはコンパクトなつくりで、"ファララアラーム!"と"ドレミで出発!どりいむ♪(1・2・3・4!)"のそれぞれがまた朝と夜を呼び、再び"手と手つなぐ タノシイ世界"でのダンスが繰り広げられるという循環が、願わくは永遠にと思って已みません。

 

 

■ しーくれっと!ラタトゥイユ / ガァルマゲドン・ミ

 

 

 ここからはイベントのみで披露されていた楽曲の紹介で、それらを纏めた言わばレアトラック集である『プロミス!リズム!パラダイス!』(2019)の収録内容では、この「しーくれっと!ラタトゥイユ」がいちばんのお気に入りです。アーティスト名の通りGaarmageddonの3人にミーチル(みちる)を加えた4人によるナンバーで、"天使も悪魔も怪獣もプリンセスも(Sing & Dance)関係ない!"と歌われているように、(設定上)ファンタジー世界の住人達が織り成す"たのしい宴"へと誘われます。

 

 「その1」では「アメイジング・キャッスル」(2016)を例に取り、ガァルマゲドンの魅力について「歌声の姦しさにある」と語り、「ダミ声」や「場合によっては汚い聴覚印象を残しかねない音素の連続」を好意的に捉える言説を展開していました。その典型として同曲から引用した"秘密の呪文"たる"デビ・ジェル・ガァルルラ~"は本曲にも仰けから登場し、その濁りっぷりが健在で嬉しくなります。真田アサミさんへの声フェチもこれまた強く喚起され、"地底のその向こう"の気の抜けたアホっぽさから"でんせつからギャアとあらわれた"で牙を剥いてくる緩急の付け方は、流石のキャリアが窺える演技で個人的にはご褒美です。この隙の無いガァルマゲドン包囲網にBメロからミーチルが"ごきげんよ~う?"と優雅に闖入してきて、これには思わず「に゛ゃ゛ん゛た゛っ゛て゛!?」"(なんだって!?)"が飛び出しますが、"今日はパーティーナイト/「「…だね!」」(ウェルカム!)"で歓待する優しい世界にほっこりします。

 

 

 この優しさがサビメロに好く顕れていて、その美メロっぷりで選手権を開けば『プリティーシリーズ』楽曲の中でも五指に入るレベルだと大絶賛したいです。肝要なのはおそらくギャップで、前奏からAメロ終わりまでは"くらい夜ふけのサ・バ・トさ"のサウンドスケープでダークに、明るく転じ始めるBメロもミーチルの解釈で絢爛でフォーマルなイメージが維持されているため、サビにここまで親しみやすいラインが来るのは予想外でした。とはいえ、幸せな歌詞内容に照らせばこのフレンドリーなメロディにも得心がいき、"踊ろう 誰だってフレンド ここにいればみんな!/モンスターも人も 手と手つなげば(Smile & Joy)一緒だよ!"に相応しいフレージングはこれしかないと思えます。後半の高揚感も天井知らずで、"そう はしゃいじゃおうよ たのしい宴はし~くれっと!/ラタトゥイユみたい なかよしになれちゃう魔法!"は、表題にピークを合わせてタイトルを回収する理想的な盛り上げ方です。歌詞を中心に考えると、文法上は二文に別たれているこの部分を曲名にしたセンスがニクいとも言えます。

 

 ここからまた妖しくギラついたギターリフに戻るところもクールというか、本曲のギタープレイは全編を通して叙情的で大好物です。生と打ち込みの双方が駆使されているふうに聴こえ、2番Aメロ"プラリ魅力なサ・バ・トじゃ"の裏で叫んだ後にメロディアスに暴れ出す変化に痺れます。ここに至るまでのタメも充分で、ミーチルの自己暗示"できるできるできる~"を促す催眠的なピアノの静けさの背後でオーケストラヒットの迫真さが際立つ中、本格的に静寂を破る役目をギターに委ねていること自体が好感触です。間奏のソロでは当然のように主役級の働きをしていて格好良い以外の感想がありませんが、その前のあろまとミーチルの口上パートも地味に凝っており、弦楽器をギターとストリングスで対比させているところから、本曲のギターは悪魔的ないしサバト的な世界を語る楽器だということが確定的になります。

 

 

■ Crew-Sing! Friend-Ship♡ / PRI-Crew Friends

 

 

 本曲の紹介をもって『プリパラ』および『アイドルタイムプリパラ』の音楽レビューは一旦終了となるので、最後には集大成的なナンバーである「Crew-Sing! Friend-Ship♡」(2019)を持ってきました。本曲に関しては何よりもまず曲名に感動しまして、「フレンドシップ」(接尾辞'-ship'')を「船」に結び付けるだけならまだありふれているけれども、「クルージング」を「クルー」と「シング」に分けて掛詞を重ね掛けする発想は天才のそれだと思います。

 

 こうして取り立てておいて何ですが、本曲を良さを語るのに分析的な文章は必要ないと考えているため、元より長文を認めるつもりはありません。僕がしばしば使う定型句で表せば、「その良さは聴けばわかる!と感性に丸投げしたほうがベター」と評するタイプの楽曲なので、作品愛が深ければ深いほど本曲の世界観は心に響きまくることでしょう。「ブランニュー・ハピネス」では僕の見当違いだった「大団円の趣」が本曲に於いては正しい理解で、そこに「ワクワクO'clock」よりも規模の大きい「オールスター感」が加われば、神曲の誕生も然りです。

 

 

 

■ 神曲たちのルーツを探る ―『プリティーリズム・レインボーライブ』の音楽プチ特集―

 

 

 小見出しに「ルーツを探る」と書いたのは僅かでも後続のシリーズと関連付けられるような言い回しにしたかっただけで深い意味はなく、例えば「○○という曲に××の影響が窺える」といった類の具体性のある記述は行いません。『プリティーリズム』の音楽を対象に、お気に入りの上位にあるナンバーをひたすら紹介していくのみのプチ特集(短いとは言っていない)です。ちなみに『レインボーライブ』に限定しているのは偶々というか結果論で、リストに記載していたのが全て同作品からの楽曲だったことに起因しています。

 

 

 一番手に据えて語りたい「gift」(2013)は、僕がリストの「1st」に振り分けている唯一の『プリティーリズム』由来のナンバーです。作品情報を調べてみるにおそらく同作の世界観を象徴するような楽曲であり、イントロダクションとエンディングの二つの役割を持っていると推測しています。だけあって歌詞内容が非常に意味深長で、特に琴線にふれたのは"君は咲く君のまま 何でも無いある時に"という金言です。「その1」で「シュガーレス×フレンド」(2016)の歌詞に絡めて僕の"『好き』"に対する哲学を披露しましたが、そこに記した「必ずしも~劇的ではない」といった感性に近いものを覚えて好感が持てます。"咲く"つまり「開花」はそのまま「成功体験」に結び付くからか、他の多くの楽曲(歌詞)が「劇的な変化」で描きがちになるところ、本曲では"君のまま"でしかも"何でも無いある時に"ととことん曖昧に紡がれているのが独特です。

 

 勿論いくら"まま"がつくとはいえ「咲く前の君」と「咲いた後の君」が全くの同一とは考えないけれども、表向きがどんなに変わったように見えても軸となる「君」は不変であるという連続性は確固たるもので、それすらを否定して全く生まれ変わったかのように"咲く"タイプの人間を目にすると、どうして過去の自分を蔑ろにするのだろうと悲しくなります。当該の歌詞ではこの暗黒面に振れない真の強さが描かれていて、僕の人生経験から来る成功哲学もまさにこのスタンスです。平時からの「君」の積み重ねがあってこそ"咲く"瞬間はいつか必ず訪れるもので、そこに劇的な何かが絡んで来る必要は必ずしもなく、傍から見たらどれだけ不可解なタイミング("何でも無いある時")であろうと、"君のまま"で"君は咲く"に至った人間は、変質を経た人間よりも鮮やかで馨しい存在になるといった美意識が垣間見えます。

 

 僕がこの手のフレーズに弱いことは過去記事でも述べてきていて、その全てが本曲とは異なり「失敗を軽減する」方向に作用するものですが、例としてわかりやすい平沢進「アディオス」(2015)の"荒んでもキミはまだキミ"や、その変形と言えるスピッツ「雪風」(2015)の"君は生きてく 壊れそうでも"、「君」から離れて発展的な坂本真綾「Rule~色褪せない日々」(2001)の"さよなら 遠い日々 汚れてゆくことを怖れないで/さよなら 遠い日々 色褪せない僕の魂"など、それぞれのリンク先で行われている歌詞解釈が上述した自論を補強するかもしれません。

 

 このように暗示的または示唆的な言葉の数々が美麗な旋律とナラティブなアレンジと共に供されるのが本曲の美点であり、別けても1番後間奏2:15以降のドラマチックなトラックメイキングには深く引き込まれます。緊張感の漂うストリングスと雷鳴の如きドラムス&パーカスに不安を煽られるけれど、りんねの問い掛けが木霊する"胸に手をあててみて なんにもないなんて間違い/感じるでしょ確かなリズム鼓動"でインターナルな自分と向き合い平静を取り戻し、"夢がどんな姿で貴方の側に来るか/分からないけど だから 素晴らしいの"と世界の仕組みを正直に告げられると、無責任に夢を肯定するだけの空言には決して宿らない誠実さに涙しそうになるほどです。この"分からないけど"も先の"何でも無いある時"も共に具体性に欠ける言葉選びではあるのですが、そうすることの意図が明白な曖昧さは陳腐に傾かないどころか翻って説得力が増します。

 

 

 

 お次に紹介するのは「ハート♥イロ♥トリドリ~ム」(2013)で、彩瀬なるの楽曲としては馴染みがないものの、彼女はゆいと同じくスターシステム的な何かで『プリチャン』の世界に幸瀬なるとして存在しており、作中でも本曲がそのまま使用されていたため、僕にとっては知らないようで知っているふわふわした位置付けです。全体を通じてぽわんとした雰囲気に包まれている癒し系のナンバーで、歌い出しの"ハピハピハピなるなるハピなる~☆"にいきなり脱力させられます。だからこそ歌詞中のちょっとした言い回しがスパイスになっている節があり、"乙女のハートだもん たいらじゃつまらない"が煽りに聞こえてしまうのも面白いポイントです。笑

 

 尤も、これは受け手側の穢れた認識に基いた曲解で…とフォローしようとしたのですが、Wikipediaでの人物評を読むに天然ゆえの煽り体質を備えているみたいなので、強ち間違った理解ではないのかもしれません。真意はともあれ続く歌詞"キラメキワクワクを盛りのせ デコれ"の通り、メッセージ性としてはチアフルなものである筈です(ここは"デコっ!"のダメ押しもツボ)。ただ、意図的にユニークなワードがチョイスされているのは確かで、"レ・イ・ン・ボーの道 ゆくのである☆"の「である調+☆」のインパクトから、"おもろいね "と唐突に関西弁が飛び出してくるフリースタイルっぷりに鑑みると、他意はないんだなとわかります。"あ・か・さ・た・なるなる は・ま・やるやる"の適当さも心地好く、電波ソングらしさもあって花丸です。

 

 

 

 「その1」の「かりすま~とGIRL☆Yeah!」(2016)のレビューでは、サウンドの形容に「90年代前半のavex感」を設定し好例としてTRFの名前を出して、過去に『レインボーライブ』とのコラボが行われていたことにふれました。作品のオリジナル楽曲でありながら、その影響を感じさせて気に入っているのが「cherry-picking days」(2014)です。冒頭のノリノリのコールパートを聴くだけでも、言わんとしていることが直ぐに伝わるでしょう。

 

 「デュオ」をコンセプトとするディスクに収められているだけはあってそれに特化した内容も秀逸で、"双子果実"たる「チェリー」をモチーフにツインの瑞々しさが随所で弾けまくっています。特に表題の"cherry-picking Duo Duo"は、ひたすらに可愛い「でゅおでゅお~」で耳が幸せです。日本語に直せば「さくらんぼ」延いては「桜」を指す点からの着想か、サビメロがオリエンタルなのも日本人としては受け入れやすく、しかし歌詞は"千夜一夜"でアラビアンなのであれと思ったけれど、わかなのエスニックが混ざった結果だと捉えれば納得です。

 

 

 

 ラストはボーイズサイドから最終話でのデビュー曲で、スピンオフ作品『KING OF PRISM by PrettyRhythm』へと繋がる「athletic core」(2014)を紹介します。当時(2016年)はアニヲタとして出戻ったばかりだったこともあって何が何やらでしたが、「キンプリというアイドルアニメが応援上映なる手法で話題らしい」という情報だけは頭に留めていて、後の2018年に『プリチャン』から『プリティーシリーズ』に入門して音楽の歴史を遡っていくうちに、「キンプリも同門だったのか!」と時間差で驚いたことを白状します。

 

 本曲は初聴時には殆ど印象に残っていなかったものの、何度も繰り返し聴くうちに楽曲の細やかな部分が見えてきて(良曲の気配を察したがゆえのヘビロテでもあります)、低音のイケボがメロディの疾走感を一層際立たせているだとか、ニューウェーブ感に満ちたシンセのポップさがレトロで素敵だとか、サビメロを引き継いだギターのラインがエモ過ぎるとか、"MADE IN ME MADE IN YOU だろ?"や"one more狙う不屈core"などの日英ちゃんぽんのフレーズが余計に格好良いとか、次々とツボな要素に気が付いていきました。そうして最終的に行き着いた感想は自分でも意外なところで、「BEAT CRUSADERSっぽいから好きなのかも」といった邦バンド畑とのリンクです。ビークルの記事は過去に一本しかアップしていないので参考になるかはともかく、とりわけイントロから醸されているらしさには誰か一人くらい共感してくれないかなと期待します。

 

 

◆ おわりに

 

 以上、二記事に亘ってお送りしてきた「プリティーシリーズの神曲たち」でした。本当は最後に総括的な文章の用意があったのですが、限界文字数の壁に阻まれてあと幾許も書けないため泣く泣くここで記事を切り上げます。