今日の一曲!あおい、ひなた、かえで、ここな「地平線ストライド」【'18夏A・可愛い系編】 | A Flood of Music

今日の一曲!あおい、ひなた、かえで、ここな「地平線ストライド」【'18夏A・可愛い系編】

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:2018年のアニソンを振り返る】の第十三弾「夏アニメ・可愛い系」編です。【追記ここまで】


 本記事では2018年の夏アニメ(7月~9月)の主題歌の中から、「アニソン(可愛い系)」に分類される楽曲をまとめて紹介します。本企画の詳細については、この記事の冒頭部を参照。





 メインで取り上げる「今日の一曲!」は、『ヤマノススメ サードシーズン』OP曲・あおい(CV:井口裕香)、ひなた(CV:阿澄佳奈)、かえで(CV:日笠陽子)、ここな(CV:小倉唯)による「地平線ストライド」(2018)です。

 当ブログでは過去に、同作『セカンドシーズン』の1st OP曲「夏色プレゼント」(2014)をレビューしており、歌唱メンバーは勿論として、作詞者が稲葉エミさん、作曲者がTom-H@ckである点も共通しているため、リンク先の記事も参考になるかと思います。




 「夏色~」のブログテーマを「切ない系」にしていたことから察せるかもしれませんが、『ヤマノススメ』の主題歌はどれも明るさの裏に切なさを滲ませるのが上手であるとの認識なので、「地平線~」も当初は後の【(切ない系)編】で紹介するつもりでした。

 しかし、個人的な判断基準で'18夏アニメの主題歌を分類したところ、「可愛い系」に属するナンバーが他のクールに比べて圧倒的に少なかったため、記事タイトルには目玉の一曲たりえる良曲を据えたいという意味でも、「地平線~」を「可愛い系」の楽曲と見做し、本記事で大きく扱うことにした次第です。


 実際、本曲にはキュートな要素もきちんとあります。全体的なメロディラインはポップで明るいものですし、冒頭と落ちのサビにのみ登場する、"キュン!Fun!キュン!Fun!"のパートには、良い意味であざとさすら感じるからです。ずっとこの調子であるなら素直に「可愛い系」でよかったのですが、そこを華麗にひねってくるのがトムハックによるトラックメイキングの魅力だと思っています。

 当ブログで氏のお名前を初めて出したのは、一昨年の振り返りで取り上げた「Deep in Abyss」(2017)にてで、これはプロデュースとしての参加にふれた間接的なものでした。しかし、別の振り返り記事では、氏が組んでいるユニット・MYTH & ROIDの「JINGO JUNGLE」(2017)を取り上げていて、同ユニットのナンバーでは他に「L.L.L.」(2015)や「ANGER/ANGER」(2016)もお気に入りですし、今期のアニメに使われている「shadowgraph」(2019)も非常に格好良いと思っています。

 また、後の振り返り記事では、オーイシマサヨシとのユニット・OxTの楽曲も取り上げる予定なので、氏の音楽性自体を高く評価しているとご理解ください。僕にはアニヲタブランク期があるため、いちばんの有名どころであろう『けいおん!』の関連楽曲がごっそり抜けているのは痛手ですが、幅広い路線に対応出来るクリエイター兼アーティストだと認識しています。



 ということで、以降はその「ひねり」を意識しながら、本曲のツボを紹介していくこととしましょう。まずは、サビの結びにあたる、"Day by Day 進め ミラクルストライド"の部分から。ここまでの記述では「切ない系」のファクターを強調していたので、更に混乱させるような分析を披露することとなり恐縮ですが、ここの旋律だけはとても「格好良い系」だと感じます。

 何度も聴くうちに慣れてしまったのですが、初聴時には"進め ミラクルストライド"のメロディ展開に対して、「そうきたか!」という驚きがありました。専門用語を使った言語化は難しいゆえ抽象的な感覚表現に逃げますが、"Day by Day"でタメた後にもっと無難な着地を見せてもいい場面で、歌詞通りの大きなストライドを感じさせるような、想像よりも先に着地点を置く音運びによって、歌詞と旋律が混然一体となって響いてくる点を絶賛したいです。


 続くAメロは僕が本曲で最も評価しているセクションとなります。「切ない系」を見出したのもここに対してで、特に"好き 極めたい! 満場一致"("ゆるめプレゼン 東西南北")の部分に見られる、明るいとも暗いともつかない絶妙なコード感にやられました。

 歌唱者的にはあおい(井口さん)とここな(小倉さん)のパートですが、お二人の声質に含まれる心地好いザラつき加減も、旋律の抱く曖昧さに巧く寄り添っていると感じます。声に関することも、倍音成分がどうとか周波数特性がこうとかの解析的な表現からは逃げますが、両者ともにユーフォニアスであることは間違いないでしょう。

 小倉さんの声に関しては、この記事ではもう少し突っ込んだ言及をしてあるので、参考までにリンクしておきます。また、井口さんについては、その歌声には言及していないものの、今回の振り返りの第五弾では、彼女が歌唱を務めた「永愛プロミス」(2018)をレビューしているため、cf.として紹介しておきます。補足をするならば、井口さんのボーカル曲に於ける個人的なベストは「白金ディスコ」(2012)で、これは神前暁さんが手掛けた楽曲であるため、今後ブログテーマ「MONACA」で取り上げるのもいいかもしれませんね。

【追記:2019.5.3】

 後に「白金ディスコ」のレビューをアップしました。

【追記ここまで】


 最後は「可愛い系」に寄せた内容として、稲葉さんによる歌詞の素敵さで〆たいと思います。とりわけ好みなのは、2番サビの"結果 地球はびっくり箱/想定してない/Wow...!! しか出ない/そんな地球が 嫌いじゃないんです"で、踏破欲求が刺激されるとでも言いましょうか、「地平線ストライド」というビッグスケールのタイトルに恥じない、何処までも未来志向の内容が美しいです。

 ただ、稲葉さんの卓越した作詞能力に関しては、後の【(切ない系)編】で紹介する予定の同作ED曲のほうがより衝撃的だったので、その魅力に真に迫るのはまた後でと予告しておきます。





 続いて紹介するのは『はたらく細胞』OP曲・赤血球(CV:花澤香菜)・白血球(CV:前野智昭)・キラーT細胞(CV:小野大輔)・マクロファージ(CV:井上喜久子)による「ミッション! 健・康・第・イチ」(2018)です。

 本曲もストレートに「可愛い系」とするのはどうかというか、なんなら「格好良い系」でもいいのではと分類に迷っているぐらいですが、楽曲から受ける上向きのイメージを考慮して本記事での紹介としました。加えて、c/wの「先生あのね」(2018)にも続けて言及しますが、こちらは文句なしに「可愛い系」の楽曲であるため、ディスク全体を総合的に判断した結果だと受け取っていただけたれば幸いです。




 ボーカルへの参加キャラクターに関しては、もう少し人数を多くしたほうがよりオールスターズ感が出てよかったのではと思わなくもないですが、たとえば『鬼灯の冷徹』OP曲「地獄の沙汰も君次第」(2014)と同様、混声でノリが良くて作品内容の紹介も兼ねている主題歌は、アニメごとヒットを記録する傾向にあると分析しています。

 放送が始まるより前に、コミックスのCMとして『はたらく細胞』のアニメPVが流れていたと記憶していますが、それだけでも「これ絶対面白いやつじゃん」と思わせるには充分な出来だったので、売り出す側もヒットにある程度の確信はあったのではないでしょうか。漫画原作者の清水茜さんによる高い擬人化センスと生理現象の表現を、アカデミックな観方も可能なほどに正しく、そして楽しく描いてくれたアニメスタッフも称賛に値します。


 先の「混声で~」に続く形容が、僕の本曲に対する印象を端的に表したものなので、正直これ以上掘り下げる必要性を感じないというか、「良さは聴けばわかる!」と感性に丸投げしたほうがベターだと思っているぐらいで、これはアニソンに対するものとしては個人的に最大級の賛辞です。

 しかし敢えて細かいツボを挙げるならば、1番では"細菌ウイルス 出てこいやぁ"の後の"(ハッハッ)"によるリズムの補助が、2番ではAメロ裏の編曲の変化;ビーチ感の漂うギターの挿入や大胆なピアノアレンジが、それぞれお気に入りでした。


 作詞作曲を手掛けたゆうまおさんについては、第一次アニヲタ期の頃に見覚えがある気がするなと思って調べたところ、本人名義のデビューシングル曲「みちしるべ」(2006)をED曲とするアニメ『かしまし ~ガール・ミーツ・ガール~』を観ていたからだと得心がいきました。他にも当ブログ上に関連記事がある作品としては『sola』『最終試験くじら』に、ないけれど馴染みのある作品としては『D.C. ~ダ・カーポ~』や『ギャラクシーエンジェル』への楽曲提供があると知り、何気に接する機会が多かったクリエイターで驚きです。

 編曲者の末廣健一郎さんは本作の劇伴も務めた方で(補足:共同制作者であるMAYUKOはゆうまおさんの別名義)、氏の直近のワークスで個人的に印象に残っているのは『少女終末旅行』のサントラでした(関連記事)。また、劇伴にまでは言及していませんが、今回の振り返り記事に挙げた作品では『ミイラの飼い方』(第九弾)、『ゴールデンカムイ』(第十一弾)、『こみっくがーるず』(第十二弾)の音楽も末廣さんの担当で、アニメの作風を問わずに活躍出来るマルチな劇伴作家だと評しています。





 続いては予告通り、c/w曲「先生あのね」のレビューです。こちらは作詞作曲のみならず、編曲も含めて全てゆうまおさんによる楽曲で、歌い手の名義は血小板(CV:長縄まりあ)・マクロファージ(CV:井上喜久子)となっています。作中設定に忠実に書くならば、上掲動画内のようにマクロファージさんと血小板ちゃんたちと表示するのが適切でしょう。

 こちらも表題曲同様に作品紹介ソングですが、可愛さや健気さに全振りした、あざとさすら感じさせるつくりがグッドです。その最たる要因は血小板ちゃんのキュートさ、もとい長縄さんの声質によるものが大きくて、彼女の歌声の良さに関してはこれまでにも幾度かふれてきました(関連記事)。

 シンプルなメロディラインとアレンジも相俟って、子守唄のような心地好い中毒性を生んでいる点が素敵です。勿論、井上さんの安心出来る大人ボイスによるレスポンスも魅力と言えます。"先生あのね いちばんつよいの先生だって本当?"を受ける「あらあらうふふふ」からの、"ヒミツ"のコーラスには少し笑ってしまいました。





 お次は『はるかなレシーブ』挿入歌・大城あかり(CV:木村千咲)「ワクワクシークヮーサー」(2018)をレビュー。

 同作の音楽に関しては、後の振り返り記事でOP曲(通常/特殊)にもED曲にもサントラにも言及するつもりなので、本記事に於いては全体評的な記述は割愛とし、当該楽曲の魅力にのみフォーカスしていきます。もう少し具体的に言うと、スポーツ要素や僕の沖縄愛を文章に盛り込むのは遠慮したという意味です。それらは次の【(格好良い系)編】に回します。




 同曲は作中キャラクターのあかりが、子役時代に出演していたローカルCMのナンバーという設定で、シークヮーサーが取り立てられていることからもわかるように、沖縄を舞台としていることが解釈された沖縄節全開のトラックです。三線によるご機嫌なビート感&メロディラインに、沖縄民謡でお馴染みの囃子詞の挿入、琉球方言が取り入れられた歌詞と、聴き手が期待するストレートな沖縄要素は大体取り入れられています。

 作詞を手掛けたhotaruさんは、本記事中にも名前を出したMYTH & ROIDのメンバーの一人ですし、作編曲者である杉下トキヤさんも、Tom-H@ckが代表を務めるTaWaRa所属のクリエイターであるため、サウンドプロダクションとしてのレベルが高いことはクレジットからも窺えますね。


 とはいえ、アニメで聴いてから暫くは沖縄風ポップス以上の感想は抱けず、「作品を彩るアクセントとしては良曲」という無難な判断をしていました。しかし音源で繰り返し聴くうちに、本曲にはとてつもない中毒性が宿っていることに気付き、聴けば聴くほどに気持ち好くなってきてしまい、ヘビロテが止められなくなっている自分を認めた時点で、評価の爆上げが不可避となりました。笑

 抽象的に表せば「圧が強い」とでも言いましょうか、音圧がどうこうという意味ではなくて、ボーカルを務める木村さんの元気溌溂な発声や、最初にポップスと感じたのを撤回したいぐらいに実は重厚だったギターサウンド、先の三線がシンセと重なることで一層のアグレッシブさを見せている点などの、鼓舞されるような諸々のファクターが功を奏して、格好良さすら覚える可愛い楽曲に仕上がっているところを絶賛します。

 "だって いっちょやってみて/ほらおちゃのこさいさい"のフロウの流麗さや、"あそーれ!/ワックワックワックワックシークヮーサー"の思わず口遊みたくなってしまう調子の良さなどの一見アホっぽく映る要素も、しっかりとしたトラックメイキングの上に成り立っているからこその妙ではないでしょうか。





 最後は『ゆらぎ荘の幽奈さん』OP曲・春奈るな「桃色タイフーン」(2018)を紹介します。

 春奈さんの楽曲にはこれまでにも「君色シグナル」(2015)、「Ripple Effect」(2016)、「ステラブリーズ」(2017)、「KIRAMEKI☆ライフライン」(2017)などのお気に入りがありましたが、それらをおさえて個人的なトップヒットに躍り出たのがこの「桃色~」です。


 

 『週刊少年ジャンプ』に連載されているお色気漫画を原作とするアニメの主題歌だけあって、その作風に見合うだけの可愛さやあざとさがプラスに許容される素地があるため、本曲から受ける甘い印象(言葉を選ばなければ「媚び媚びの」或いは「萌え系」のアウトプット)も、正しい良さとして昇華されていると感じました。徹頭徹尾キュート&キャッチーが維持されており、『ゆらぎ荘~』の世界観にもマッチしていたと言えるでしょう。


 春奈さんはアニソンを多く歌っている方とはいえ、声優ではありませんし(声の出演は今のところ『URAHARA』のみなので)、楽曲によっては自ら作詞にも携わっていますが、本曲の歌詞は大塚利恵さんによるものであるため、良い意味で作品からは一歩引いた位置に居る(=あくまで「主題歌を担った歌手」としての役割をこなしている)と認識しています。

 それゆえの(…と僕が勝手に思っている)細かい嗜好を披露しますと、Bメロで旋律が少し台詞調になるセクション、"規格外のラブ・ヘクトパスカル"や、"やばいやばい 気づいて~"の発声に、恥じらいを捨てきれていない成分が滲んでいるところがお気に入りです。声優が歌唱を務めているのであれば、「そこは振り切って演じてほしかった」といった感想になるかもしれない部分ですが、春奈さんのような立ち位置の歌手によるものであれば「味」となります。





 以上、【'18夏アニメ・アニソン(可愛い系)編】でした。本記事の序盤に記した通り、このクールで僕が「可愛い系」に分類したナンバーが本当に少なかったため、第七弾第十二弾には存在していた『「中身の濃いレビューには発展させられそうにない曲」をまとめて紹介します』のコーナーはありません。このような特性上、本記事では普段よりも楽曲制作陣の掘り下げに注力しました。過去記事へのリンクが多いのも意図的です。

 「可愛い系」が少なかったということは、即ち「格好良い系」と「切ない系」に偏ったことを意味しているので、次とその次の記事は選曲と字数制限に悩まされることになりそうな予感がします。笑