今日の一曲!あおい ひなた かえで ここな「夏色プレゼント」 | A Flood of Music

今日の一曲!あおい ひなた かえで ここな「夏色プレゼント」

 【テーマ:夏】の「今日の一曲!」第六弾は、あおい、ひなた、かえで、ここなの「夏色プレゼント」(2014)です。TVアニメ『ヤマノススメ セカンドシーズン』の1stOP曲で、作中メインキャラ4名のCVを務めた声優陣により歌われています。

 記事タイトルでは字数制限のために声優名を省略しましたが、ディスクの正しいアーティスト表記は、あおい(CV:井口裕香)ひなた(CV:阿澄佳奈)かえで(CV:日笠陽子)ここな(CV:小倉唯)です。



 『ヤマノススメ』は各方面(アニメファン・登山フリーク・行政[地域興しや観光など])から高い評価を得ている人気作との認識ですが、アニメの第1/2期が放送されていた2013/2014年は僕が二次元趣味から離れていたため、当時の盛り上がりのほどはよくわかりません。原作も持っていませんし、去年から始まった再放送(MX1)での後追い視聴民ゆえ、あまり突っ込んだ言及は出来ないものの、登山描写は勿論のこと人間関係や心情の変化の描き方が丁寧な良いアニメだと思っています。

 現在は第三期にあたる『ヤマノススメ サードシーズン』が放送されており、そのOP/ED曲も共に素晴らしかったため、新譜レビューという形で作品の音楽を特集してもよかったのですが、「夏色プレゼント」は単独で記事を立てるほどの名曲だと考えているため、【テーマ:夏】を口実にその魅力を語ることにした次第です。実は過去にひっそりとこの記事の中でも本曲のことを絶賛しているので、一応リンクしておきます。




 楽しげなマーチ風のアレンジ、高低差の大きいアドベンチャラスなメロディ、複数の意味が込められているであろう"わお!"を軸とした未来志向の歌詞と、本曲の良いところを要素毎に端的に表せばこのような表現となり、登山と友情を描いたアニメの主題歌としてこの上なく完璧な仕事が熟されていると評せますが、個人的に何よりも素晴らしいと感じたのは、ラスサビの歌詞とメロ変化に対してです。


 先にメロディ面から語ると、ラスサビでそれまでに提示された旋律に少しの変化を加えて異なる色を出すというのは、他の多くの楽曲でも行われている王道の手法だと言っていいと思います。本曲に於いても、ラスサビでは"ねぇ 夏色プレゼント"の部分で下降するメロに変化するので、これは聴き手の意識を散漫にしないための工夫のひとつであるとの認識です。しかしこれは変化量としては決して大きくないので、そこまで特筆性はないと捉えています。

 真骨頂はその先、歌詞で言えば"ラッピングは"から先のメロ変化にあると言え、ここからの展開には非常に驚かされました。"ラッピングは"に差し掛かったところで「おっ?」と期待が膨らみ、続くグラデュアルな旋律による"七色の風"で高揚感があおられ、それを受ける"なんだってやれるような気がした"の美メロっぷりに胸が熱くなるというこのシークエンス。神懸かり的に綺麗であるとしか言いようがなく、何度聴いてもこのセクションで出所不明の涙に襲われてしまうくらいです。続く歌詞に"キラキラの季節"とあるように、自身が経験した過去の煌めき(とりわけ「友人と共に見た風景」に類するもの)がフラッシュバックして、瞬間的にその時の感動が蘇ってくるせいでしょうかね。


 どうしてここまで記憶や体験の深い部分にまで刺さるのだろうかと考えると、やはり歌詞の力がとても大きい印象で、特に"なんだってやれるような気がした"という一節は、シンプルな言葉繰りでありながら言語の特性と情感を十二分に活かした秀逸なものであると高く評価しています。

 先に書いた「煌めき-友人と共に見た風景」に関して言えば、そこにはある種の「全能感」が宿っているとの理解なので、ここに"なんだってやれる"と出てくるのはごく自然な発想でしょう。しかしここで「言い切っていない」のが実に巧くて、"ような気がした"と婉曲させることで一層リアルな心情を描き出しているところに、作詞者である稲葉エミさんの卓越したセンスを窺うことが出来ます。

 不確実な断定を表す助動詞と推量の意味合いを含む表現の畳み掛けによって、"なんだってやれる"が無責任に放たれるそれとは異なり人間味の感じられる同じ目線の言葉になっていますし、テンスを過去にすることで、この全能感は瞬間的で掛け替えのない儚いものである(=ゆえに大切にしよう)ということが意識されるようにもなっていて、表現の技巧性に感服するばかりです。


 …と、分析的なレビューを披露すれば以上のようになりますが、ラストの"わお! わお!! わ? わお!? わお!!!"のパートを聴くだけでも、ここまでに書いたことが小難しいことを抜きにして伝わるだろうとまとめ、記事を終えます。