今日の一曲!riya「ディアノイア」 | A Flood of Music

今日の一曲!riya「ディアノイア」

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:雨】の第二十二弾です。【追記ここまで】

 「今日の一曲!」はriyaの「ディアノイア」(2004)です。R18ゲーム『最終試験くじら』のOP曲で、同作のイメージサウンドトラック『最終試験くじら ~progressive memories~』に収録されています。


 riyaさんのことは、eufoniusのボーカリストと紹介したほうが通りがいいですかね。僕が本ディスクを所持しているのも、先にeufoのファンになってそこから興味を広げた結果であるため、『最終試験くじら』については何の知識も持っていません。ゲームは当時年齢的に買えませんでしたし、アニメもちょうど僕の第一次アニヲタ期が終わった頃に始まったので、名前だけは知っているのレベルです。

 eufoに関しては未だ単独記事を作ったことはないものの、過去にはこの記事の中で「ココロニツボミ」(2017)をレビューしていて、訳あって少しセンシティブな内容になっていますが一応リンクしておきます。更に遡ると名前だけはこの記事でも出していて、eufoとの出逢いをごく簡単にですが記してあるので、あわせてお楽しみいただければ幸いです。


 ということで、本曲はriyaボーカル曲でありながらeufoとは違った魅力を宿したナンバーだと言えます。ここで今「え?むしろかなりeufoっぽくない?」と思われた方、確かにその意見もわかるのですが僕の考えは以下の通りです。

 前提として、eufoの作編曲担当である菊地さんの楽曲制作スタイルは、良くも悪くも従来の観念に囚われていないという認識から始めます。これに対する是非は個々人の好き好きなので何方も否定しませんが、たとえばよく知られている和音や定番のコード進行から少しでも逸脱すると許容出来なくなるような生真面目なリスナーにとっては、厳しいものがあるのだろうなという意味です。個人的にはそこはあまり拘らないポイントで、これは自分がDTMer且つ感覚頼りの面を持っているがゆえの感じ方かもしれませんが、正道でなくとも結果的に自分にとって心地好いものが出来れば可とする姿勢は、アーティスト名の由来からも推し測れると思うと補足しておきます。


 この観点で「ディアノイア」を聴くと、菊地さんの楽曲とは異なり、終始(間奏は除く)正しいアウトプットがなされているとの印象を受けるのではないでしょうか。本曲の作編曲者である大久保薫さんはアニソン界では広く名が通っている方で、当ブログでも過去に二度お名前を出していますこの記事この記事;後者には突っ込んだ言及あり)。riyaさんの透明感のある歌声に対して真正面からのアプロ―チを試み、美しい旋律と繊細なアレンジでもってきちんとまとめあげる良質のサウンドクリエイションが披露されているので、大久保さんの手腕をただ褒めるばかりです。

 こう書くと間接的に菊地さんをディスっているように映るかもしれませんが決してそういうわけではなくて、「ボーカリスト・riyaにどういう色を付けるか」にそれぞれの個性が表れるという話に於いて、僕はどちらも好みであっただけだと結ぶことが出来ます。菊地さんは自身の発言により悪い意味で注目を集めてしまった過去があり、それによって僕も大いに失望したのは事実ですが(絡まれた方のファンでもあったので余計に)、楽曲に込めた思いまでは否定したくありません。


 脱線してしまいましたが、話を「ディアノイア」に…というか「雨」に戻しましょう。歌詞に雨が登場するのは次の二ヶ所で、1番サビとラスサビの"雨上がりの花はキラリ 光浴びて"と、2番サビの"降り出した雨の中で 切なくて傘もない"が該当します。ここだけを取り立てると、特に季節を限定する言葉はないため、ニュートラルなイメージとしての雨が頭に浮かぶのではないでしょうか。しかし歌詞全体を見ていくと、複雑な情景描写がなされているとわかるフレーズが幾つか認められ、それらが醸す不思議な魅力こそが真に素晴らしいと言えるのです。

 冒頭に書いた通り、僕はゲームもアニメも未鑑賞ゆえに『最終試験くじら』について詳しいことは語れません。そこでwikipediaにあるあらすじ(出典あり)を見たところ、仰けから突飛な説明が出てきて驚きました。曰く、季節が夏で固定されてしまった世界の話だそうで(歌詞カードにも「常夏の田舎町で起こった」との文言があります)、これを考慮すると歌詞の内容が一層味わい深いものとなります。


 たとえば"微笑みの涙のあと 夏に降る雪のように/風のように雲のように ほら、包み込む愛がある"や、"やさしく微笑んで 抱きしめてくれたから/いまも澄みわたるよ 冬の空のように"などは、季節の巡りが正常であるならそこまで非凡ではない表現だと思いますが、上掲の設定を適用すると「この表現に至るまでに何があったのだろう?」とあれこれ想像してしまい、この機微に感動を覚えました。"セピア色の風景は愛しい記憶空にほどける"も、遥か昔の正しい世界のことを指しているのだと思うと切なくなります。

 この設定は今回のレビューを書く過程で初めて知ったのですが、まさか"変わらない夏の日々"がそのままの意味だとは思いもしませんでした。こうなると"雨"の意味合いも変わってきて、"雪"や"冬"が引き合いに出されていることからもわかりますが、「雨が降る=終わらない夏」の暗示とも取れるんですよね。想像以上に深い歌詞に脱帽です。


 作詞を担当したのはtororoさん。調べたところ同ゲームを開発した会社・CIRCUSの代表取締役会長らしく、当時の詳しい経歴は知りませんが、会長自ら手掛けた歌詞ということでこれだけの気合いが入っているのかもしれませんね。CDのクレジットにも、本名の松村和俊名義でSupervisorにお名前が掲載されています。

 余談ですが、yozuca*さんの楽曲…というか同社のエース級作品『D.C. 〜ダ・カーポ〜』の主題歌の作詞作曲もtororoさんによるものが多いとわかり驚きました。当時は全く意識していませんでしたが、昔から好みのクリエイターだったと今知りました。本ディスクにもyozuca*さん歌唱のナンバーが収められていますが、他にもボーカリストとしては霜月はるかさんと美郷あきさんが参加していて、riyaさんも含めて全員好みの歌い手であったため、改めて本作のモンスターアルバムっぷりにも驚かされています。笑


 最後に雨は関係なく好きな歌詞に言及しますと、2番Aの"書き溜めた言葉は つけたはずの日記と/想い出はキレイな 夢を紡ぐから"が非常にお気に入りの一節です。特に"つけたはずの日記"という言葉が持つ切なさが素敵で、記録すること自体へ思いを馳せたくなってしまいます。