今日の一曲!阿良々木月火(井口裕香)「白金ディスコ」【平成24年の楽曲】 | A Flood of Music

今日の一曲!阿良々木月火(井口裕香)「白金ディスコ」【平成24年の楽曲】

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:平成の楽曲を振り返る】の第二十四弾です。【追記ここまで】

 平成24年分の「今日の一曲!」は阿良々木月火(井口裕香)の「白金ディスコ」(2012)です。アニメ『偽物語』第8~11話「つきひフェニックス」のOP曲で、CDの初出は下掲した円盤の完全生産限定版に付く特典となるので、これを同年の楽曲である根拠にしています。



 ただし、音源だけが欲しい場合は、後年にリリースされた『歌物語 -〈物語〉シリーズ主題歌集-』(2016)を購入するほうがお手軽です。同盤には楽曲制作陣によるライナーノーツが付属しており、以降で「LNに~」的な文言が出てきたら、それを出典とする情報であることに留意してください。

 本曲については実は過去にも寸評程度のレビューを載せたことがあり、その内容は次の墨付括弧内の通りです。【井口さんのボーカル曲に於ける個人的なベストは「白金ディスコ」(2012)で、これは神前暁さんが手掛けた楽曲であるため、今後ブログテーマ「MONACA」で取り上げるのもいいかもしれませんね】。約3ヶ月前の投稿のものなので割と直近ですが、この伏線を回収するべく筆を執りました。

 MONACAとは、神前暁さんが所属する音楽制作集団および会社の名称です。同プロダクションによる音楽の魅力については、以前にも幾度か言及を行っているので、興味のある方は同テーマ内の過去記事をご覧いただくか、ブログ内検索をご活用ください。後者のほうが、より多くの記事がヒットします。



 以前の寸評はボーカルを担った井口さんの歌声に関するものであったため、まずはそこから語り出すとしましょう。さて、本曲を象徴するフレーズとして、冒頭の「はぁどっこい!」(表記揺れ対策:「はーどっこい!」)を引用してくることに、異論を唱える方は少ないかと思います。歌詞には載っていない部分でありながらインパクトがあって、この合いの手だけでも名曲の予感を覚えてしまうような、類い稀なるキャッチーさを備えているからです。

 中毒性と換言しても構わない要素ですが、この魅力に井口さんの声質は無関係ではないと考えます。可愛いけれど何処か引っ掛かりがあるというか、悪い意味ではなく少しのノイズ成分が滲むボイスの持ち主であるというのが、他作品での演技も踏まえた僕の井口さんの声に対する印象です。キュートさの一点突破ではライバルが多過ぎる女性声優界隈に於いて、フックたる機能性に富んだ良い違和感のある声は殊更に重要との理解なので、それを面白い語感のワードと共に曲の序盤に据え置くことは、聴き手の心を一発で掴むのに非常に効果的な選択であると、納得するほかありません。

 以上は敢えて理屈っぽく説明すればこうなるといった記述ですが、シンプルに「はぁどっこい!」が絶妙に心地好い発声の下に成り立っているのだと、それだけでも共感していただけたら御の字です。愛らしくて、勢いがあって、馬鹿っぽくて、ちょっと怒っているような気もして、自棄っぱちな向きもあって、でも確かな期待感にも満ちていて…と、色々な想像が出来るところを気に入っています。


 係る中毒性は歌声のみならず、トラック自体にも要因を求められるため、お次は作編曲の面を掘り下げていきましょう。といっても、メロディに関してはポップさと切なさが良い塩梅で綯い交ぜられたものであると、過不足ない描写で短く表せるほどに完璧だ(=大絶賛ゆえに言葉数が減るのは往々にしてある)と捉えているので、ここでは旋律の妙味よりもアレンジの技巧性に文章を割きます。

 LNにある神前さんの言葉を借りると、本曲のキーワードはずばり「和ディスコ」です。これは編曲上の魅力を端的に表した、とても正しい形容であると言えます。スクラッチがクールなイントロを経て、「はぁどっこい!」の掛け声を合図に、神楽笛風の音が駆けていく。この立ち上がりを聴いただけでも、楽曲へ抱くリスナーの期待と実際の方向性が、時代を越えた表現たる「和ディスコ」で一致するであろうことは明白だからです。

 前述した神楽笛も要素のひとつですが、和琴らしい音も加わって雅楽然とした趣が醸されているのは、文字通り「和」を解釈したサウンドスケープにほかなりませんし、グルーヴィーなストリングスと丁度良い圧のクラップからなる、踊れるリズムの補助(わかりやすいのはサビ後半裏でしょうか)は、実に「ディスコ」的なマナーに則っていると感じられます。


 クレジットを見るに、これらは全て神前さんのプログラミングの領分です。しかし、そこには同時にギターとベースは生音でレコーディングされていることも示されており、打ち込みだけで楽曲をまとめるのを良しとしなかった事実に、何か意義が見出せそうだと思案しました。両者とも終始リズムに徹しているため、決して目立つ存在ではありませんが、楽曲全体に手弾きの温かみを与えることには成功しており、これこそが地味に重要ではないかと主張します。

 電子音楽はまた別の話であるとして、全てを打ち込みに頼るリスクは、何処か嘘っぽくなってしまうことではないでしょうか。それならそれで月火の出自に(ネタバレ回避で詳細は書きません)、ひいては作品題の『偽物語』に合った音作りになるような気はしますが、だからこそ翻って生身の体温を感じさせるトラックメイキングが映えるのだと僕は解釈します。熱ついでに補足をするなら、「ファイヤーシスターズ」の一翼でもあるわけですしね。LNには「サウンドをキャラにも怪異にも寄せられない」と書かれていたので、これは妄想の域を出ない感想でしかありませんが、結果的に月火に相応しいアウトプットとなっている点は、流石神前さんのワークスだと称賛します。


 最後は歌詞について。LNで作詞者であるmeg rockさんが語るところの「プラチナ」のシンボリックな意味合いには、素直に感心させられました。これもネタバレになるので多くを書くのは自重しますが、サビの歌詞は1番のものも2番のものも、月火を思えばこそ一層の尊さと表裏一体の哀しさが同時に強まっていくため、情緒纏綿で素晴らしい内容だと評しています。

 "かわってくもの/かわらないもの/飽きっぽい 私が/はじめて 知った/この永遠を/君に誓うよ"に、"ささやかだけど/かけがえのない/歴史を重ねて/偽りさえも/ほんとうになる/君のとなりで"と、素直な言葉繰りの背後に遠大な時間を思わせるフレーズが鏤められているのが暗示的です。後者は厳密にはラスサビからの引用で、一部が2番と異なります("ちいさなうそも"の箇所)。

 そこからサビ後半、"プラチナ うれしいのに/プラチナ せつなくなって/プラチナ なみだがでちゃうのは/なんで? どして?/ディスコティック"へと進み、ついに漢字がなくなるほどに子供じみた歌詞でもって、いたずらっぽいクロージングを迎えるという流れ。「はぁどっこい!」の幕開けからは意外な着地かもしれませんが、この切ない幕切れにダンスミュージックらしい刹那性を、或いは花火のような儚さを感じます。