OUT OF BLUE / APOGEE +α | A Flood of Music

OUT OF BLUE / APOGEE +α

 次に買う予定の新譜まで少し空くので、復帰後初の旧譜レビューをしたいと思います。選んだのは、APOGEEの4thアルバム『OUT OF BLUE』(2014)+α。ツアーを全制覇(といっても全て都内ですが)するほどハマっていたAPOGEE。そんな彼らが久々にリリースした作品のレビューがこのブログにないというのは僕としても寂しいので、ブログの充実のために書きます。その前に長い前置きがありますが、読み飛ばしても支障はありません。

OUT OF BLUE/APOGEE

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 こんなことを言っては失礼なのですが、正直もうAPOGEEの新譜は出ないと思っていました。このアルバムの前に、7thシングル『Fall Into The Sky / Grayman』(2014, 会場限定盤は2013)がリリースされていますが、その前の公的なリリースは3rdアルバム『夢幻タワー』(2009)なので、実に5年近くのブランクがあったことになります。といっても、2010年はライブを精力的にやっていましたし、2011年には新曲「Fallin'」が無料配信されるなど、3rdアルバムの次の構想は確実にあったはずだと思います。…が、待てど暮せど何の音沙汰もない。



 一方で、ボーカルの永野亮さんのCMソングライター・シンガーとしての活躍だけはよく響いてきて、2012年には1stアルバム『はじめよう』をソロでリリースしています。ちなみに、表題曲の「はじめよう」のMV(監督は新井風愉さん)は、文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門新人賞を受賞しています。僕の好きなテレビ番組『TECHNE 映像の教室』(Eテレ)でも「ワイプ」の回で紹介されていました。
 現在でも、永野さんはCMにて売れっ子継続中で、本当に彼の声・作品を聴かない日はないんじゃないかというぐらいよく耳にします(地域差はあるでしょうが)。本人が歌っているものはもちろんですが、他の人が歌っているものでもAPOGEEファンならすぐわかるんじゃないでしょうか。CM WORKSについては永野さんの公式サイトでまとめられているので、詳しくはそちらで。

 話をAPOGEEに戻しますが、5年近いブランクといっても、それぐらいのリリース間隔が普通のアーティストも居るので、これだけでは新譜は出ないなとまでは思いません。しかし、2010年のライブで次のアルバムについて言及していたのに、その後リリースはおろか何の活動報告すらないことや、メンバーが個々で活動し始めたことなども加味すると、これはもう解散したのかなと思っていたのです。ということもあり、ひと足先に2013年秋にライブで復活していたとはいえ、7thシングルが発売されると聞いたときは耳を疑いました。
 本当はここで色々空白期間のことについて書くつもり…というか書いていたんですが、無駄に長くなったので止めにしました。気になる方は「APOGEE インタビュー」で検索して上位のサイトをご覧ください。




 さて、前置きが長くなりましたが、ここから記事タイトルの作品のレビューになります。長い休止を挟んだとはいえ、メンバーが変わることもなく、シンセとダンサブルなグルーヴ感が印象的なニューウェイヴサウンドは健在で、「おかえり、APOGEE」と言いたくなる1枚です。全9曲、1曲ずつレビューしていきます。

01. Runaway Summer

 透明感のあるイントロから始まり、シンセが鳴り出した瞬間、「あ、APOGEEだ」と懐かしい気持ちにさせられる。キックが入ってからは、「そうそう、この心地好いシンセとグルーヴ感だよな」と感慨深くすらある。
 間奏~のシンセは、最初聴いた時思っちゃったので書きますが、Van Halenの「Jump」を彷彿とさせますね(雰囲気がね)。シンセの隙間を埋める永野さんのボーカルが気持ちいい。次のパートへの繋ぎのシンセベースが地味にツボです。
 タイトルからもわかるように逃避の歌ですが、ネガティブではなくポジティブな逃避、男女で考えるなら駆け落ちのような、危ういけど希望に満ちた歌ですね。とってもキャッチーで、アルバムの幕開けにぴったりだと思いました。

02. Tonight

 本作の中で初聴からいちばん好きな曲です。イントロからもうミラーボールが見えるような、夜の危うさと楽しさを感じるダンスナンバー。音楽に陶酔することの素晴らしさを見事に表現した歌詞と、それを体現するかのような妖しいメロディと恍惚感のあるアレンジで中毒性が凄い。
 "Dancing tonight~"のパートは、DJが遊んでいるみたいといいますか、ボーカルへの処理が素敵です。最初の"Da(n)"連打もいいし、女性ボイスのサンプリングも切り方がかっこいいし、最後の"(al)right"の残響が左右にパンして消えていくのも好き。
 2番はアレンジは違えどもう一度頭から繰り返す感じですが、この繰り返しがまさに"鳴り止まない音楽"を感じさせます。そのままラストの絶頂へ向けて曲は進み、03:03で弾ける。ここからが本当にめちゃくちゃかっこいい!これで身体が動かなきゃ嘘だぜ。ここで主張してくるシンセは、よく聴くと2番からバックで既に鳴っているのがわかりますが、ボーカルがなくなりメインに据えられ、ベロシティ強めのクラップ2回がここぞというタイミングで響くだけで、こうもソウルを刺激するかと感心してしまいました。

03. Losing you

 正直初聴ではいちばん印象に残らなかった曲。しかし、何度も聴くうちにシンプルだけど凝っているということがわかってきて、後からかなり好きになりました。
 8割方英語詞で、内容としては未練がましい男の歌であるといえるんですが、タイトルに反して曲としては明るく、歌詞もクサイぐらいの愛の表現にあふれているので、どうしてもっと早く気付かなかったんだとつっこみを入れたくなる感じです。はい、耳が痛い。1番は日本語詞が1行だけですが、2番では4行に増え、これが音響的な意図ではなく詞的な意図だとしたら、段々と飾らない本音が出てきているという表現だろうか。
 この曲で凝ってるなと思ったのが続く3番Aメロで、1・2番Aと歌詞は同じなのにメロディが全然異なるという、アナザーバージョンを聴いているような面白さがあるところ。メロディをよく把握していないうちはこれに気付かず、何でまたAから繰り返すんだ?くどくないか?と思っていました。異なるといっても3Aの後半は1・2Aと同じというのが気付きにくかった要因かも。余談ですが、こういう時シラブル言語は便利だよなあと思った。

04. OUT OF BLUE

 アルバム中盤に表題曲。鳥の囀りのような電子音が響く中、揺らぎが心地好いシンセが水際を思い起こさせます。少し「スプリング・ストレンジャー」っぽさもあって、春夏両方の季節感を併せ持つような音作りだなぁと感じました。終始ゆったりとしたリズムとメロディの曲で、ビーチでまどろんでいるような情景が浮かんできます。これもラストサビのメロディが全然違って新鮮な驚きがありました。
 歌詞は、03.「Losing you」での想いも空しく…と感じるような切ない別れの内容。サビの"You are out of my life"というフレーズに全て集約されていると思います。

05. Twilight Arrow



 MVがあるのでリードトラックなのかな?この怪しいイントロも凄くAPOGEEらしさを感じる。いきなり歌詞にない"Ah"の連呼で意表をつかれますが、歌詞は"色", "音", "光"が"矢になって"びゅんびゅん飛んでくる内容。透過する矢に壁(境界)など無意味と言わんばかり。サビは、そんなボーダーを越えてロマンチックな感じがする。
 この曲は長いアウトロがかっこいい。02:37~の静けさは弓を引いている状態のような緊張感に満ちていて、"Here comes (the) arrow"で放たれた感じがする。その後のギュルギュル鳴っている音は空を裂いているように聞こえます。パッドシンセで更に空気が張り詰め、ドラムロールのところで多くの矢が一斉に放たれたような光景が目に浮かびました。
 ちなみにこのMV(監督は「はじめよう」と同じく新井風愉さん)も、『TECHNE 映像の教室』の「プロジェクション3」の回で取り上げられていました。

06. Fall Into The Sky

 7thシングル曲。長いブランクを経て最初にリリースされた楽曲ということもあり、注目度が高かったと思われます。子供の声をサンプリングしたイントロを聴くと「The Sniper」を連想しますが、こちらも同じく幻想的なサウンドの楽曲です。
 日本語詞から静かに始まり、1番サビではまだ弾けずじわじわ盛り上げていく展開。2番は1番の日本語詞を英訳した(直訳ではなく、補足するように語数を増やした)歌詞になり、言語の切り替わりと語数の増加に応じてメロディも異なるものに。しかしサビは共通のメロなので、英訳もそれに沿うかたちになっています。2番サビでもまだ弾け切らない焦らす展開。
 次のパートで、天地逆さまの情景が示され、歌詞中の主人公が落下している様が描かれる。"fall into the sun"の後の、ジリジリとした陽光を感じるようなギターの音がとってもツボです。ちょっとシタールっぽいところがいい。
 この曲で最も盛り上がるのが続く間奏部~ラスト。ウィンドチャイムのようなキラキラした音の世界を笛(ファイフ?)が劈き、ドラム(シンバル)が入ると一気に音の隙間が埋まり重厚に。シンセのメインメロが加わってからは鼓笛隊のような感じですごく好きです。この曲、歌詞に一切"森"の要素はないんですが、ここのパートからはなぜかすごく森を感じる。笑

07. A Boy In The River

 やっとか!と言いたくなるほど音源化までに時間を要した楽曲。自分が記憶している限り、2009年には既にライブで披露されていたはずなので、約5年越しということになりますね。
 幼い頃の夏の思い出が甦ってくるような、和テイストあふれる曲。瑞々しいサウンドに、ちょっとチープに聴こえるシンセがいい味出していると思います。記憶がもう朧げなんですが、ライブで披露されていたアレンジからさほど変わっていないような気がします。ただ、間奏や2番バック、アウトロで鳴っている優しいシンセのメロはなかったような…。2番頭のメロディが変化するパートがとても好き。"暗がりで"と"冷えた身体を"の間で鳴る、水滴が落ちるような綺麗な音がいいアクセント。

08. Fictionalizer

 "Fictionalize"は"~を物語化する"という意味の他動詞。最初はあまり印象に残らなかったんですが、結構面白いメロディの曲だと思います。サビは普通にかっこいいんですが、Aにあたるメロディはダサかっこいい感じというか、やる気がないような歌い方といいますか…譜割りが面白いのかな?とにかく何かユニークだなと僕は感じました。2番のAは後半メロディが変わるのですが、そっちは普通に感じる。笑
 間奏の目が回って墜落していくような感じのシンセがインパクトありますね。

09. Transit

 ラストは東京が舞台の曲。本作中では02.「Tonight」と一二を争うぐらい好きな曲です。
 うっすらと光が射してくるような静かなパッドシンセと共に幕が開き、気怠いベースと寂寥感のあるピアノが奏でる雰囲気は、心が落ち着かない夜といった感じ。ザラザラとした質感を与えられたボーカルが歌い上げるのは、東京を生きる人々と呼吸をする街そのもの。"眠らない", "帰らない", "乱れ飛ぶ", "かき消される", "大渋滞の"という煩雑さを思わせる言葉を受けても、全て"皆元気"で締められているところがまさに東京だと思う。しかし、続く"Hey"には哀愁を感じます。サビは綺麗なコーラスが美しくも恐ろしくもある感じですね。このカオスを受け容れ、地下鉄に乗り、"from Tokyo to 桃源郷"と歌うのは、希望を目指すようにも絶望から逃亡するようにも受け取れる。余談ですが、この曲をメトロの電車内で聴いたときのトリップ感は半端なかったです。
 2番に"通奏低音(つうそうていおん)"という聞き慣れない単語が出てきて辞書を引いたのですが、音楽の専門用語みたいです。ただ、ここでは"唸りっぱなし通奏低音"という形で出てくるので、字面通り"常に鳴っている低音"のことと捉えました。東京のサウンドスケープですね。
 ラスサビの歌詞がとても心に響く。"先を急いじゃいけないな Baby slow down", "このままじゃ乗り遅れるな Baby hurry up"というスタンザ。僕は常にこのどちらの思いにも駆られて生きている気がします。
 アウトロのアレンジも堪らなく好きです。ラスサビで最高潮へ行き、そのまま曲がフェードアウトしたと思わせたところに意表をついて出てくるシンセ。温かみのある音と旋律で泣きたい気分になります。最後の"(Ah) Transit"は細切れにカッティングされ、調子のおかしいプレイヤーが壊れる最期のようなリピートをみせて幕引き。


 以上、珠玉の全9曲でした。もう2年は聴き込んでいるので詳細にレビューできましたが、実は初聴の印象は何か地味だなというものでした。今までのアルバムに比べて詞の情報量が減っていることや、内容がシンプルになっていたのでそう感じたのかもしれません。しかし、聴き込むほどにメロディの変化の付け方の面白さや細かいアレンジの妙に気付くことができ、地味な印象は払拭されました。また、シンプルゆえにグルーヴの良さが際立っているということもわかったので、単純と複雑が計算されたバランスで成立しているという最終評となりました。名盤だと思います。


 ここからは+αとして、APOGEEのその他の作品についてふれます。

 さて、こうして再びAPOGEEの作品が世に放たれたことは喜ばしいことなのですが、3rdから4thの間にライブで披露されていた新曲群が埋もれているのは非常にもったいないと思います。「A Boy In The River」は収録されましたが、無料配信されていた「Time To Synchronize」と「Fallin'」はどちらもいい曲なのできちんとした形で収録してほしいところ。他のは曲名がわからないのばかりですが、通称「チンゲンサイ」や「ゆりかご」に似ていたゆったりとした曲あたりもボツにするには勿体無いと思います。

 ライブ披露曲といえば、「Grayman」の音源化は嬉しかったです。こちらも何年越しかわからないぐらいですが、ライブ限定という役目があったので音源化はないと思っていました。CDできちんと聴くとアレンジのかっこよさに惚れ惚れしますが、それより素直にめちゃくちゃいい曲だなと思いました。"gray zone"に居る人間には救済の曲だと思います。

TOO FAR/landscape/APOGEE

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 8thシングル『TOO FAR / LANDSCAPE』(2015)も良かったです。「TOO FAR」はMETAFIVEでもお馴染みのLEO今井が参加していて、彼のラップが光るクールなコラボ作。「LANDSCAPE」は楽器的な使われ方のボーカルが印象的な綺麗な曲。記憶が曖昧で確証が持てませんが、過去にライブで披露されていたキラキラしたインスト曲が元じゃありませんかね?

RAINDROPS/LITTLE8 RECORDS

¥価格不明
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 今年も既にリリースがあり、配信およびライブ会場限定で『RAINDROPS』(2016)が発売に。「RAINDROPS」は全編英語詞の透明なビート感がある曲で、日本のバンドの曲とは思えない出来。しかし、よりツボだったのはc/wの「Higher Deeper」。色んな音が細かく配されていて、かなり遊んでいるなと感じる楽しい一曲。


 活発とはいえないかもしれませんが、活動再開後にもこうしてコンスタントに作品はリリースされていますし、ライブも行われているので、まだAPOGEEの音楽にふれられるのは嬉しいですね。

 最後に3rd『夢幻タワー』(2009)からいちばん好きな「1,2,3」のMV(監督は田中裕介さん)を埋め込んで終わりにします。映像のインパクトが凄いので、人によっては怖く感じるかも。笑




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