A Flood of Music -24ページ目

今日の一曲!BURNOUT SYNDROMES「BABEL」

 

レビュー対象:「BABEL」(2024)

 

 

 今回取り上げる楽曲は、着眼点が独特な文学性の高い歌詞とバンドの枠に囚われない多彩なサウンドプロダクションで都度驚きをくれる、BURNOUT SYNDROMESの「BABEL」です。係る形容に至った理由や全般的なアーティスト評に関しては、曾ての特集記事を下掲リンクカードからご参照ください。2021年の5月にアップしたものなので、3rdアルバムまでを対象としています。

 

 

 当時は自作のプレイリストに照らしてnの値=7*3の21曲から選曲したけれど現在は10*3の30曲編成に格上げしており、これは4th~5thアルバムにもお気に入りがたくさんあったことの証左です。詳細は次の項で語ります。

 

 普段ならこの直下には対象曲のMVないしアートトラックを埋め込む構成のところ、そもMVは存在せずATは埋め込み不可(プレミアムのみ)だったので、収録先アルバムのティザー動画[3:57~]で雰囲気だけでもどうぞ。

 

 

 

収録先:『ORIGAMI』(2024)

 

 

 本曲の収録先は5thアルバム『ORIGAMI』です。他アーティストとのコラボレーションが多い点で特徴付けられるディスクで、声優の東山奈央さんを筆頭にアニソン歌手のASCAさんにhalcaさん、アニソン特化の存在ではありませんがアニメとのタイアップで馴染み深いCHiCOさんにFLOWに石崎ひゅーいさんと、銘々でネームバリューのある方々が招かれた豪華なラインナップとなっています。唯一niLLさんという方とのコラボだけが異色の起用ですが、軽く調べた限りではブラジル人のラッパーである以外の情報を拾えませんでした。

 

 

 上記の中では×東山さんの「魔王」と×ASCAさんの「KUNOICHI」を特段のフェイバリットに推せるけれども、個人的にはノンコラボの楽曲群にこそ尚一層のツボを刺激されまして、これからレビューする「BABEL」を最上に「初恋カプチーノ」「ORIGAMI」「星屑ライダーズ」も自作のプレイリストに登録済みです。

 

 4年前の特集記事では画像でリストの内容を全開示したので今般も全開示しかし文字に起こすことにしまして、4thアルバム『TOKYO』(2021)の収録曲も含めて内訳がどう変わったのかを以下に掲載します。曲名の前に伏した◇は4thから、◆は5thからの選曲を表し何方も新規追加のマーカーです。

 

 1~10:「◆BABEL」「◇Love is Action!」「MASAMUNE」「Ms. Thunderbolt」「ʘcean」「アタシインソムニア」「エレベーターガール」「国士無双役満少女」「◇邪教・拝金教」「◇世界は愛で満ちている」
 

 11~20:「◇BLIZZARD」「BREAK DANCER」「◆KUNOICHI」「Love is @ U.F.O」「◆ORIGAMI」「POKER-FACE」「ハイスコアガール」「◆初恋カプチーノ」「◆魔王」「◇模範囚」

 

 ※ 「BLIZZARD」はシングルバージョンを登録しているので正確にはベストの2nd『The WORLD is Mine』(2023)収録のそれです。
 

 21~30:「Wake Up H×ERO!」「◇銀世界」「神戸在住」「数學少女Z」「ダーウィンに捧ぐ」「◆星屑ライダーズ」「夕闇通り探検隊」「◇ロザリオをはずして」「吾輩は猫である」「我が家はルーヴル」

 

 こうして並べると4thをかなり高く評価している現状が浮かび上がってきますね。5thはまだ聴き込みが浅いせいかミドルに集中しているけれど、深まっていくうちに何曲かは上位への移行がありそうです。

 

 

歌詞(作詞:熊谷和海)

 

 挫折とどう折り合いを付けるかにフォーカスした哀しくて憐れな…数多の夢破れた敗残兵の胸を抉るであろう内容ですが、描き方の壮大さと着地点の綺麗さで何処か美しくすらあり単なる合理化では片付けられない、尊厳が癒されていくような境地に至る歌詞世界だと評します。

 

 "階段を死ぬ気で登り続けた/栄光の星を 掴む気でいた"とその端緒は有り触れて夢に満ちていたけれど、"だけど とうとう 気づいちまったんだ/「俺の才能では届かない」ってこと"と自己の限界に打ちのめされるのもまた凡夫の定めです。とはいえその衝撃は身の程知らずのスケールに於いては計り知れないほど大きく、"その雷槌は 俺のプライドを焼き尽くして/時間が止まった/登り続けた バベルの塔が 崩れていく"と、内から外から立脚地が消失していっては文字通り立つ瀬がありません。

 

 "I fall.../落ちていく"に落伍の風切り音を聞きながらの感想は意外なもので、"夢も 理想も消えていくのに/どこか ホッとしたんだ/それが 余計 悲しい"と、夢追い人の軛から解き放たれたことで初めて解る「そも分不相応な夢を見ていたのではないか」との忸怩たる思いが、もっと言えば「夢を見ている振りをしていただけではないか」との慙死が、地面に激突してから実感の籠る惨い現実である以上この束の間の安堵は甚く残酷です。

 

 これに続くは転落死までの猶予に見る失敗の走馬灯で、"夢を追えるのは 幸せなこと/だのに 苦しんでばかりだったんだ"と向き合い方の間違いを顧みたり、"才能に感謝し 仲間を愛せば/結末は少し 違ったのでしょう"と都合の好いifを妄想してみたりしても、今更遅きに失しています。"上を妬んで 下 見下して/果てなどないんだ/それじゃ地獄だ"と競争を不健全にしか捉えられなかった結果、"奴隷のように/積んでは登る日々も 終わりか"と自らの立場を貶める語彙選択に繋がっているのも惨めです。

 

 再びの"I fall.../落ちていく"最中に耳を澄ませて"バベルを行く連中の叫びを聞きながら"と未だ塔を登り続けている他者に曾ての自分を重ねる場面では、連中の使用言語が英語である点にバベルの塔の寓意が反映されていて巧いと思いました。要するに夢追い人と夢の落人はそれぞれで話が通じないレベルの異なる世界を生きており、この対比は傲慢に雷槌を喰らって夢を追う気持ちが理解不能になったがゆえと考えると恐ろしいです。

 

 しかし本曲の"俺"は落下の途中にある気付きを得ます。それは"夢が夢のままで終わるとしても/悪くはないか"という素朴なもので、仮令合理化の産物に過ぎなかったとしても臍を噬んで夢を殺すだけの結末よりはマシなので、夢追いの言語が去来して"This is why I realized/“Such is life.”"と人生の何たるやをこの諦念に見出したとて責める気にはなれません。なればこそ"階段を死ぬ気で登るあなたが/今日の尊さに 気づけますように"と、他者を思い遣って結びとすることが出来たのでしょう。

 

 

メロディ(作曲:熊谷和海)

 

 オケと密接なAメロは塔の階段を思わせて、螺旋状に繰り返すような進行が倦んだ現状にマッチしています。俄に勢い付くリズミカルなBメロには焦燥が隠し切れず、次第にエモーショナルに揺らぎが大きくなっていく音運びです。

 

 最もダイナミックに展開するサビは旋律上の確かな聴かせ所で、突如として中空に投げ出された状況がありありと浮かびます。"I fall..."のうねりには慌てた心理が、"落ちていく"の泣きそうなラインには虚空に手を伸ばしてしまう未練が、"夢も 理想も消えていくのに/どこか"の連鎖的なメロには不可逆の厳しさが窺い知れ、伸びやかな"ホッとしたんだ"から嫌な解放感を得た果てに、戯けた"それが 余計 悲しい"にお仕舞いのSEじみた役割を察して切なくなりました。

 

 

アレンジ(編曲:熊谷和海)

 

 打ち込みが主体のダンスミュージックであるためバンドサウンドは鳴りを潜めています。Aメロの抑制的なつくりは寧ろミュートにこそ神韻を聴く感じで、動静の乙張が利いたコンテンポラリーダンスを踊れそうと喩えたいです。

 

 クラップに煽られながらのBメロはとてもアンセミックにビルドアップらしく展開し、その勢いの儘に傾れ込むサビはシンセの重ね方や声ネタのインサートが蓋しEDMのマナーに則っており、トラック自体で沸かせるお得意の手腕が光っています。