
DRIFT into ADAPT ~パンデミックで繋がるデュアル・プロジェクト~
前置き
何やらタフな内容を予感させる記事タイトルですが、暫く更新をサボってしまった後に例によってアップする雑記です。と言っても僕の中で目下熱を帯びているトピックは表題に関することなので、その話題が中心となります。
UNDERWOLRD × サカナクション
この一報を知った時、自分史上最高の勢いで「行きたい!」の嵐が胸中に巻き起こりました。かつてこれほどまでに俺得なツーマンライブ(主催曰くは「ダブル・ヘッドライン公演」)があっただろうかと歓喜したのと、なるほどだからここ最近は当ブログ上でアンダーワールドとサカナクションの記事にアクセスが多かったのかと納得した次第です。
DRIFTおよびADAPTはそれぞれが通年で行っているプロジェクトの名称で、ドリフトは2018年11月1日から翌年同日までのワークスがSERIES 1としてコンパイルされており、アダプトは2021年11月20日のオンラインライブで幕を開け今年の11月にはNAKEDと題されたホールツアーの最終公演が控えています。奇しくも両者共に霜月を起点としたyear-long projectであるのと、次の展開が示唆されている(前者は便宜的にSERIES 2/後者はAPPLY)のも共通項です。
ドリフトはコロナ禍直前に一区切りついていたのが幸いとはいえその後のスケジューリングには混乱を来したでしょうし、アダプトはまさにコロナ禍をコンセプチュアルに捉えたものであるため、「パンデミックで繋がるデュアル・プロジェクト」と表現しました。もっと言えば仮に今の世の中でなかったとしたら、果たして今般の共演があり得たのだろうかと考えさせられたわけです。
当然ながらこの二つのプロジェクトは本来互いに何の関係もないので、書くにしても「DRIFT and ADAPT」と並列させるかもしくは「(from) DRIFT to ADAPT」と通時的に表示すればいいところで、僕は敢えてintoを用いました。これはdrift intoの意「いつの間にか○○になる」にフォーカスしたからで、グラマティカルにはadaptationと名詞にしなければならない点はお目溢しいただくとして、コロナ禍も三年目に入ってニューノーマルが当たり前となってしまった実態を示すのには、「DRIFT into ADAPT」が最も据りが好いと判断したからです。
しかしご存知の通り現状のトレンドは寧ろget back to old normal;つまりそろそろマジでかつての日常を取り戻そうぜといったもので、慎重派の我が国でさえ種々の規制緩和が行われています。今回こうして外タレを招いてのライブが日本で開催される運びとなったのもその一例で、加えて電子音楽ないしダンスミュージックが主体というサウンドの性質に鑑みると、音楽業界のみならず観光業界延いては日本経済にコロナ前の潤いを!と切に願う声が結実して企画されたのだろうなと勝手に腹落ちです。
パンデミック以降、困難だった海外アーティストによるコンサートや音楽イベントの本格的な再開を告げる、新たな歴史を刻む2日間をお見逃しなく!!
とはプロモーターのCreativemanによる謳い文句ですが(引用元)、掛け値なしで「本格的な再開を告げる」および「新たな歴史を刻む」と表現したのだと思えました。とはいえ流石に屋内の音楽ライブでノーマスクがOKになったり歓声を上げても構わなかったりする未来に後一ヶ月では足りないと思うので、依然制約はあれどこういう場を用意出来るようになったのは進展という意味に於いて、
確かに「再開」のフェーズには入ったと受け止めています。
本公演は言わば試金石だと認識していて、これまで散々擦られてきたアフターコロナ(一体いつになったらアフターになるんだ?的な学習性無力感)が、遂に終わりを迎えて愈々脱コロナの雰囲気が醸成されている今だからこそ、より意義深いものになるはずと期待を寄せずにはいられません。UWサイドに立てば遅れて来たパンデミックとサカナとの共演が次のドリフトに、サカナサイドに立てば渦中のコロナ禍とUWとの共演が後のアプライに活かされるでしょうから、再始動後の世界で両プロジェクトの発展と相互作用を味わえるのであれば、こんなにエモいことはないと心の底から思います。
7月7日!七夕!エジーのバースデーイブ!
これほど熱意のある文章を認めておいて行きませんでしたでは格好が付かない…の見栄っ張りから逆説的に導き出せるのは、既に本公演のチケットを確保済であるがゆえに筆が乗ったという図式です。というわけで僕はバルコニーS指定席をイープラスの一次プレオーダーで当てたので二日目に参戦します。確か第四希望まで選べたはずだけれど、一本勝負の精神で狙いを絞ったのが功を奏したのか将又競争率が高くなかっただけか第一希望通りで満足です。その後一般販売の開始日に各サイトを確認してみたところ、バルコニーSは普通に空席があったので焦る必要はなかったですね。
さて、アリーナSは狙わなかったんだ?と思われるかもしれませんが、UW×サカナで演出や照明を凝らないわけがないと見越して上から全体を把握したかったのと(そも全席指定のため観劇と割り切っています)、UWを最前列で見ながら踊り狂いたい欲求は12年前に満たされているので今回は至近距離に拘っていないのと、そこまで感染を恐れてはいないもののやはりまだアリーナの密集感を避けたかったのと、会場のクチコミを調べたところバルコニーS(3Fのバルコニー1)は中々に良席で意外とステージが近く見えるらしいのと、反対にアリーナは位置取りが悪いと平坦さが仇になりそう且つ移動も不可能だと如何ともしがたい…等々の理由からバルコニー一択でした。東京ガーデンシアターはコロナ禍以降に開業した新しいハコなので、見え方レポを載せているサイトやアカウントの存在は有難かったです。
ただ日程に関しては最初に思い描いたプランと少しズレまして、当初は7月6日の一日目に申し込むつもりでした。確実にチケットを手にしたかったので、初日のフィードバックを受けてパフォーマンスが洗練されていそうな;更には七夕でサカナ江島さんの誕生日前日というイベント感の強い二日目よりかは、一日目が狙い目なのではと推測してのことです。しかしイープラスを利用するのが久々過ぎて会員情報が消されており、新たに登録する際のSMS認証の番号が偶々0707だったのを見た瞬間、7月7日で申し込めとのメッセージじゃね?と天啓に打たれた気分で予定を変更しました。そして、この時点から計画が思わぬ方向へと発展していきます。
This is me.
斯くして7日にフィックスしたので曜日を確認すると木曜日。18時開演なら終演後余裕で帰宅出来るけれど翌日も休めば四連休。TGTって住友不動産が手掛けてるんだ。ならホテルもあるのかなとFAQを見ればヴィラフォンテーヌグランド東京有明が公式ですとの旨。場所を確認したらTGTの側も側というか同じ敷地(有明ガーデン街区)内。ホテルの公式サイトを眺めていたら一瞬見えた「ラブライブ!」の文字。今年の1月~8月まで虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会とのコラボルームが行われていることを知る。当日の空室もある。
…と、上記の意識の流れを経てホテルも予約しちゃいました。コラボルームは色々と種類がありますが詳細を明かすと万が一が怖いので念のため伏せまして、ともあれプチ旅行感覚で更に別の楽しみをぶっこんだ次第です。当ブログに於けるレビューの傾向からも、僕の音楽的嗜好のトライアドは海外電子音楽勢・邦ロック勢・アニソン勢と言えるので、UWとサカナの共演を堪能し終えた足でニジガク部屋に帰っていく節操のなさは我ながら自分らしいと思います。笑
こうした個人的趣味を扨措いても会場近くのホテル利用はメリットが大きく、早めにチェックインすれば開場までゆったり出来ますし開演ギリギリでも間に合う上に、ライブ後直ぐにシャワーで汗を流せてついでに公衆衛生上のリスクを減らせるので良い事尽くめです。ライブ前は勿論ライブへの期待が優勢で、ライブ後は余韻に浸っている&疲労で他事に感けていられない気がするため、翌朝起きてからチェックアウトまでの間にコラボルームの妙に触れてみようと思います。ちょうどこの頃には現在放送中のアニメ第2期が最終話を迎えているはずなので、評判の芳しくないアプリ版ストーリーからの改変をどう着地させるのかも注目です。
もっと音源を聴き込もう、そうしよう。
僕自身がコロナに罹るもしくは誰かの濃厚接触者になる、もっと悪くて出演側に陽性者が出て公演が流れてしまう、或いは全く別種の不測の事態が起きて詰む可能性もあり(この記事を書いている最中にも某週刊誌報道の影響がありましたしね…)一応は最悪も想定しているものの、行けるとなった以上は全力で楽しみたいのでこの一ヶ月で両者のスタジオ音源を更に聴き込むつもりです。UWについては普段からそうしていますし、現状の最新作『DRIFT SERIES 1』(2019)は都合三度レビューしているに等しく(後述)、アウトプットを通じて理解もそれなりに深まっていると自負していますが、サカナに関しては新譜の『アダプト』(2022)だけでなく何なら7th『834.194』(2019)も聴き込みが浅い自覚があるため、これを機に改めて向き合ってみます。
7thの収録曲「マッチとピーナッツ」をレビューした際に、前文としてアルバム評を載せようとして言葉を濁した経緯があるのだけれど、ぶっちゃけると当時はあまりこの盤を好意的に受け止められずサカナ熱が若干冷めていました。同作が不出来だとは決して思わなかったけれども、6th以降は流石に寡作過ぎだろうとやきもきしていたところに満を持して放たれたにしては、シングル曲およびタイアップ曲の多さも相俟って「知ってるサカナの延長線上だなぁ」と肩透かし気味だったのです。6年以上待たされたので二枚組になると聞いた時には得心が行って、例えばMr.Childrenの『REFLECTION』(2015)のようなボリューミーさ(19/23曲が同作で初出)を期待していたのに、あまり新鮮味のない曲目でアレ?と。
なお、この文脈下での「寡作」とは完全新作のリリースという点についてのみ言っています。ライブで過去曲のアレンジを練ったり企画盤を発売したりメディア露出を増やしたりネットを通じて斬新な活動をしたりも結構ですしそれらが制作の糧になるのは理解出来るけれども、もう少しパッケージングを早めてくれたら嬉しいなと気が急くのが僕の本音です。7th以降も依然寡作傾向だとは思いますがパンデミックを挟んでいるので仕方ないとして、しかしその災禍の下で蓄積されたノウハウを反映させた連作プロジェクトに着手している現状には、今再び期待している自分がいます。
実際『アダプト』は素直に好いなと感じていて、エレクトロニカのイメージから脱してファンキーなアウトプットとなった「ショック!」や「キャラバン」からは、Daft Punkが『Random Access Memories』(2013)で世にダンスミュージックの在り方を問うた時と同様のことを想起させられて進化を感じましたし、The Chemical Brothersの「Another World」(2010)を彷彿とさせるハウス感を巧くバンドサウンドに落とし込んだなと評したい「月の椀」もお気に入りです。あとはやはり言葉の力も捨て置けず、「フレンドリー」は歌詞内容に甚く共感出来ました。特に2番の鮮やかな対比が好きで、"すぐに飲んで吐いた嘘本音を/額に入れて飾る人/すでに飲んで消化した本音を/ゴミに出して笑う人/リアリティ/飛んでる鳥と水に浮かぶ鳥に"からは、"正しい/正しくない"を決めるべくもないと痛感させられます。
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一方でUWの『DRIFT SERIES 1』も収録曲数の多さから更なる深掘りが必須で、上掲のボックスのレビューで取り立てた5曲「Brussels」「Seven Music Drone」「Threat Of Rain」「Tree And Two Chairs」「Pinetum」と、サンプラー盤のレビューで取り立てた5曲「Schiphol Test」「This Must Be Drum Street」「Dune」「S T A R」「Border Country」は、そのままフェイバリットのトップテンに相当するため聴き込みも相当です。コンプリート盤もとい『RicksDubbedOutDriftExperience (Live in Amsterdam)』(2020)のレビューでふれた、『Manchester Street Poem Installation Score』(2019)の楽曲群に「Big Bear」「Give Me The Room」そして一部のadditional materialも充分にヘビロテしていますが、ライブで聴けるとなると他にもオススメはたくさんあります。
Ep.1 [Dust]からは「Another Silent Way」「Dexters Chalk」「Universe Of Can When Back」を、Ep,2 [Atom]からは「Appleshine」「Soniamode (Aditya Game)」を、Ep.3 [Heart]からは「Custard Speedtalk」を、Ep.4 [Space]からは「Listen To Their No」を、Ep.5 [Game]からは「Mile Bush Pride」「Imagine A Box」「Two Arrows」を、それぞれ挙げておきましょう。今ここに曲名を出した22曲ならどれがプレイされても僕は歓喜します。勿論定番のアンセムも聴きたいですし、基本的にネガティブなスタンスでいる『Barbara Barbara, We Face a Shining Future』(2016)の収録曲も、生で味わえば化けるかもなので聴けたら重畳です。
とりわけ「Nylon Strung」は演奏される可能性大だと予想していて、この曲名でサカナの「ナイロンの糸」と組み合わせないわけなくない?…と、安直ながら期待しています。他にも「Threat Of Rain」×「Ame(B)」とか「Moon in Water」×「月の椀」とか、変化球ですが「Pinetum」中盤の"I look around"が「アルクアラウンド」に空耳出来る点からのつなぎとかを妄想する日々です。基本的には所謂対バン形式だとは思うけれども、共時演奏セクションもあると信じています。
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ニジガクに関してはライブに行くわけではないけれどせっかくなので好みの音源を紹介しておきますと、自作のプレイリストに於けるラブライブ!シリーズのセクションに照らして、上位30曲までに「Beautiful Moonlight」「Butterfly」「NEO SKY, NEO MAP!」「Sing & Smile!!」「Starlight」「Sweet Eyes」「無敵級*ビリーバー」「めっちゃGoing!!」を、上位60曲までに「Dream with You」「Märchen Star」「SUPER NOVA」「夢がここからはじまるよ」を、上位90曲までに「LIVE with a smile!」「Swinging!」「TOKIMEKI Runners」「ミラクル STAY TUNE!」「ヤダ!」をランクインさせています。敢えてナンバーワンの推し曲を選ぶとしたら『虹色Passions!』(2020)のc/w「Sweet Eyes」で、一貫して多幸感に満ちたメロディラインの心地好さが蓋し"恋なんだ"で気分が弾む名曲です。サビ後半("高鳴る Every Day"~)の食い気味な音運びも逸る恋心が為せる業と首肯します。
【遅報】 今更『ひなビタ♪』にハマる
内容が二次元趣味に寄ってきたところでここから別のトピックです。まとめサイトみたいな小見出しの通り、KONAMIによるWeb連動型音楽配信企画(この表現は非公式かもですが広く使われているため倣います)『ひなビタ♪』に、全くの偶然に端を発して興味を持ちました。自身のアニメ視聴履歴記事の中でふれているように、2007年夏~2015年夏までの8年間は非アニヲタ期にあたるので、2012年から始動しておそらく2014年~2016年辺りにピークがあったのではと推察される(実のところは知らないので事実誤認だったらごめんなさい)同企画のことは、つい最近まで全く知らなかったと白状します。
そして去年の秋ぐらいから僕のヲタ活観に変化があり、その過程は購入履歴の開示という形でこの記事に適宜追記しているのですが、アニメ関連のCDについては限界文字数の都合上具体的な品名を明かしていませんでした。今年に入ってから買った分だけでも点数をカウントしてみたところ100枚近くに上ることが判明し、そのうちの1枚に日向美ビタースイーツ♪によるアルバム『Bitter Sweet Girls!』(2014)のコナミスタイル盤があります。この購入は言わばジャケ買いによるものと言えるけれどダメ押しになったのは値段の安さ:なんと70円で、100円以下なら知らないIPにガンガン手を伸ばしてみようとのストライクゾーン拡張戦略に基づき注文したディスクです。
そんな軽い気持ちで鑑賞した本作がとんでもない名盤で衝撃を受けました(注:厳密には『ひなビタ♪ ORIGINAL SOUNDTRACK』(2013)の再録曲も含まれていますがまとめて語ります)。初聴時に圧倒されたのは「虚空と光明のディスクール」で、音楽に力を入れている二次元IPで且つロックを扱った作品は数多くあり僕は人並み以上に多くのIPに沼ってきたと自認しているけれど、シューゲイザーというチョイスも含めてここまで音楽ファンを狙い撃ちにするような魅せ方があったのかと鳥肌です。泣きたくなるほどに切ないアルペジオと透明感のあるコーラスワークと瑞々しいシーケンスフレーズによる美麗なサウンドはまさに光彩陸離、それらの儚さが轟音ギターとの対比で尚の事鮮明に映り強く心を揺さぶられました。アウトロに1分以上割くガチさもアニソン界隈ではレアだと思います。
次に惹かれたのは芽兎めうが絡むナンバーで、電波ソングの教科書に載せたいくらいにツボを押さえた要素のオンパレードで中毒性抜群の「めうめうぺったんたん!!」と、"ちくパちくパ ちくわのパフェなんだよ!"とパワーワードから幕を開けるのも道理と言いたいほどに予測不能な進行と音作りが印象的でジャンルが迷子な「ちくわパフェだよ☆CKP」の2曲は、ポジティブな意味合いでイヤーワームと化して脳内リピートが止まらず定期的に聴きたくなるループに陥りました。シリーズ全体としてもめうがメインを張る楽曲がとりわけ好みで、その第一位に据えたいのは軍艦マーチ風プログレッシブチップチューンとカオスな形容をしたくなる広告宣伝歌「地方創生☆チクワクティクス」(2015)です。歌詞もメロもトラックも非常に細かく作り込まれていて、IOSYSのサウンドプロダクション能力に脱帽しました。「けもののおうじゃ★めうめう」(2017)も聴けば聴くほどに、野性のグルーヴで気持ち好くなってしまってヤバいです。
はんこ屋の娘というキャラ設定も奇抜で面白く、作中舞台である日向美商店街の名物ちくわパフェも含めてそうそう何曲も発展させ難いモチーフだと思えるのに、手を替え品を替えではんことちくわ要素を楽曲に取り入れているところにも感心します。ところでめうの歌や台詞を聴いていて何か既聴感を覚えるなと調べてみるとCVが五十嵐裕美さんだとわかり、最初はまり花のCVが日高里菜さんだから半分クリティクリスタじゃん!と『SHOW BY ROCK!!』に根源を求めたのですが、デレマスの杏の声の人と知って「あんずのうた」(2012)のせいか!と腑に落ちました。ちなみにまり花の曲では「クラゲファンタジーソーダ」(2015)のチル具合が秀逸で、別けても"触手さん"から始まる台詞パートはサイバネティックな情景描写と併せて没入感が半端なくトリップ出来ます。
日向美ビタースイーツ♪と双璧を成す作中ユニット・ここなつの音楽もまた素晴らしいです。ガールズバンドに対するライバルポジのサウンドがデジタル志向に傾くのは王道と言え、ここなつもご多分に洩れずテクノポップにエレクトロニカにEDMといったジャンル名で表せる作風を有しているけれども、音楽の持つ享楽性に反して読み解き甲斐のある歌詞世界と一部実験的なトラックの存在によってオリジナリティを得ています。中でも攻めまくっていると感じたのは『ホシノメモリー』(2021)収録の「マーメイドペレパスィ」で、間奏のグリッチなセクションは再生機器がイかれたのかと勘違いするレベルの挑戦的な音作りで驚きました。
勿論ストレートに良い曲も多く、同盤からは「メモリーズ」と「リバース」がお気に入りのワンツーです。センチメンタルな言葉の紡ぎ方に胸がいっぱいになる前者は、DTMerの新星たるパソコン音楽クラブが手掛けているだけはあってスノードームの如きコンパクトな美しさを誇っており愛おしいですし、後者はミュートの使い方が巧くin the blue shirtの引き算で魅せるトラックメイキングが光ります。ここなつ2.0と名義がバージョンアップしていることにも納得です。
その他の好みを『ここなつBEST』(2021)からまとめて挙げますと、「ヒミツダイヤル」「ルミナスデイズ」「シノビシノノメ」にはそれぞれ特筆性を感じました。この調子で短文レビューを続けていこうと考えたものの、このままダラダラと書き続けるとひなビタ♪のほうが本記事のメイントピックになってしまいそうなので、いつか本当に特集を認める機会が来るのを見越してここでは割愛します。またも自作のプレイリストに照らすとひなビタ♪のセクションは今のところ全45曲編成のため、ここまでに曲名を出した12曲に「温故知新でいこっ!」(2015)と「完全無欠の無重力ダイブ」(2016)と「じもとっこスイーツ♪」(2017)の3曲を加えたものが上位15曲までのラインナップです。この中では「温故知新~」の歌詞が神懸かり的な完成度の高さで、「守りたい!この精神」と男だてらに自分の中にもあるであろう幼い少女性に深く刺さりました。
【追記:2024.5.7】
『ひなビタ♪・バンめし♪』双方の特集記事をアップしました。下掲リンクカード記事からご覧ください。
【追記ここまで】
その他の掘り出し物
前述の「ストライクゾーン拡張戦略に基づき注文したディスク」で他に琴線に触れたものを紹介しますと、『オルタナティブガールズ』の音楽も悪くないと感じました。買ったのはシングル『もっと Be My Power!/笑顔でgoing up!』と『Heart Cleaning/リフレイン・ウォーズ』(共に2017)のみだけれど特に後者が両曲ともストライクで、高瀬愛虹さんと伊藤翼さんの鉄板タッグによる優しい旋律と心尽しの歌詞を茅野愛衣さんが癒しの歌声で彩り高い包容力を持つM1も、オケの爆発力がボーカルを強く牽引してアガりっぱなしのM2もとても好みです。
M2はsasakure.UKによるワークスで、当ブログ上での言及は『Japari Café2』(2017)のレビューに際してだけですが、『けものフレンズ』関連なら「らいくあらいと」(2018)もツボでしたし、『Re:ステージ!』の「ガジェットはプリンセス」(2019)も令和の渋谷系といった趣で聴き応えのあるナンバーなので、注目しているクリエイターの一人と言えます。オルガルはその後ベスト盤にも手を出し、作品の音楽が粒揃いだとわかったのは収穫でした。
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先にデレマスの楽曲にふれているのでここにも『THE IDOLM@STERシリーズ』の項を立てまして、実は「100枚近くに上る」とした今年の購入分のうち1/3はアイマス関連であることを明かします。1枚77円以下なら片っ端からポチっていったために数が積み上がりました。なぜ77円なのかを説明すると長くなるゆえ省略しますが、アイマスの楽曲はアルバムで網羅することが難しく定期的にシングルをちまちま蒐集しているのです。僕のアイマス知識は初代のTVアニメと大量の同人誌だけに依存していてゲームは一切遊んだことがなく、そのくせCDだけは無軌道に買い漁っているので実質的に音楽が先行してキャラクターを把握している状態と言えます。
従って推しだの担当だのの贔屓目一切なしで純粋に音楽的な嗜好を提示出来るのが強みとお含み置きいただいて、直近のまとめ買いの中では「TOKIMEKIエスカレート」(2012)と「Radio Happy」(2016)と「Light Year Song」「Funny Logic」(共に2017)と「矛盾の月」(2020)が殊に素敵に響いた楽曲群です。同じギャル系のキャラソンでも2012年のそれはまだサウンドがJ-POPらしいと感じるのに、2016年になると出音や音像が洗練されてつくりが海外寄りになっている点に時流を聴き出したり、初代の面子が後年の音作りと見事なケミストリーを起こしている『DANCIN' BLUE』の収録曲もまた見事な熟成で味わい深かったり、『Tokyo 7th シスターズ』の「Behind Moon」(2016)に感動した時と近しい解釈の一致を見せて「月」がテーマの良曲ストックが潤い嬉しかったりと、音楽だけでも色々と楽しめます。
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前回の記事の最後に余談として殆どのスマホゲーを引退した旨を書いたのですが、俗っぽく美少女ゲームのカテゴリに限った話では今でも唯一続けているのが『八月のシンデレラナイン』です。ハチナイもまた音楽に力を入れているということは以前にも語った通りだけれど、『ダンベル何キロ持てる?』とのコラボで聴いた「おかわり☆タイムリー!」は元ネタを熱くレビューしていただけに音源で欲しくなり、普通に中古らしい価格で『灼けつくエール<後攻>』(2021)を買いました。曲の最後に爆弾の音が聞こえるデレストネタが笑えて、加奈子推しでゲームでも主砲として頼りにしている自分にとっては満足の仕上がりです。
ゲーム音楽にふれているのに全くゲーム語りがないのもどうかと思うので少しの脱線をご容赦いただくとして、僕は大型アップデート後のチーム評価がSSS+4になるくらいにはやり込んでいます。引けたURをとにかく全員育成し続け艦隊を組んでゴリ押ししているだけですが、最高値が52622なので+5も目前です。ちなみにUR加奈子は琴音様とリンクさせてファーストで起用しています。更にウチはサードが手薄だったためコラボ時にひびきも回しまして、ウェディングいろはちゃんとリンクさせてホームラン要員にする方針で落ち着きました。今開催中のウェディング柚も変換コインで入手可能な状態で性能およびイラアド的には欲しいものの、夏のために温存しておきたい気持ちもあり迷っています。
そんな柚がメンバーの一人である一年生ユニット・IN-HI 16による「Generic Riot!!」は、個人的にハチナイ楽曲でいちばんのお気に入りとなりました。オケも楽想もプログレッシブで、セクション毎にジャンルが変わるような複雑なつくりであるのに、巧みな音運びで移行を自然にする高度な作編曲術を聴き出せます。鍵盤使いがエモいイントロ~1番Aでまずエレクトロニカ寄りの印象を与えておいて音数を絞った短いBメロでそのイメージをリセット、フラットな状態から俄に鳴り出すロックなサウンドが一段と水際立ってサビで格好良い転身を遂げたなと痺れていたら、"(Now is the time for Riot)"のチャントが畳み掛けられ1番からラスサビの如き盛り上がりを見せるアッパーな進行に感奮興起です。
2番Aは後半のメロ変化が異なる展開を予感させ、果たして2番Bはヒップホップ調になるという予想外のアレンジにTEQNICAさんのハイセンスぶりを見ました。"氷雨を燈す摩天楼/靄に錆びた排気口/燃ゆる灰を冠した華"と、いきなり語彙レベルが上がるのもラップらしさ顕で大好物です。2番サビは後半のチャントがない代わりにアジテーティングな口上パートへと移行し、"Explode"を合図にHR/HMオリエンテッドな激しさが牙を剥き、その実に"Riot! Riot! Riot! Riot!"な勢いに圧倒されます。奔放の後に来る虚しさを落ちサビで表現してから再度超克せんとするラスサビは、新たに挑発的な副旋律が加わりボーカルが多層的にぶつかり合って即発の雰囲気です。"停電したナイター 乱れる観客席のハーモニー/ああもう 長い長いよ しつこいな"は、従前の"稲光"と"批評家"の筋を鮮やかに回収する一節であると同時に画もドラマチックで昂ぶります。
本曲の凝ったつくりは類例を探しにくいので、上掲の説明記事の最後に見出しだけ付して本文を書いていない、「ユニークな楽想の例(仮)」のひとつとして紹介したいです。最終更新日が5月16日になっているところから察せるように、先達てこの記事に大幅な改訂を施しました。語彙や表現の修正を主軸にほぼ一から書き直したと言っても過言ではないため、お知らせを兼ねてリンクしておきます。先月は新記事こそ書いていませんがこういう一見して更新が止まっている時は、密かに過去記事に向き合っていることも多いのが当ブログの傾向です。
後書き
最後の掘り出し物コーナーは延々と書けそうなので三作品で打ち止めにしまして、一ヶ月間更新をサボっている間にアウトプットしたい欲求が高まっていた楽曲については大体言及出来たので満足です。先月の更新減は多忙によるところが大きいものの、今月はまた別の理由でブログにあまり時間を割けそうにないため、次の更新はライブレポになるのではないかなとやんわり予告しておきます。
【追記:2022.8.28】
ライブは延期になったけれどホテルには泊まったので、プチ旅行記をアップしました。本記事を補完するものと位置付けたため、『ひなビタ♪』つながりで『バンめし♪』のプチ特集とアイマス楽曲のレビューもあります。下掲リンクカードからどうぞ。