RicksDubbedOutDriftExperience / Underworld | A Flood of Music

RicksDubbedOutDriftExperience / Underworld

 Underworldのライブセット音源『RicksDubbedOutDriftExperience (Live in Amsterdam)』(2020)のレビュー・感想です。もう間もなく発売される『Drift Series 1 - Complete』に追加で収録されるため、このタイミングでレビューしようと思います。

 

 

 当ブログで『Drift Series 1』を取り立てるのは本記事で三度目で、既にサンプラー版『Drift Series 1 - Sampler Edition』(2019)』およびボックスセット版『Drift Series 1』(2019)についてはレビュー済みです。『Drift Series 1 - Complete』(2020)はこの二作に続く三形態目としてのリリースで、ボックス版の内容に表題の『Ricks~』を足した文字通りのコンプリート版となっています。サイズがLPからCDになったことで製造コストが抑えられたのか価格も安くなっているので、言い方は悪いかもしれませんが廉価版の側面もあるのでしょう。

 

 

 この概要だけを聞くと、僕のようにボックス版を購入した人間が損を被っているふうに映るかもしれません。しかしそれは誤解できちんと良心的なフォローがあり、ボックス版に付属しているダウンロードコードを使えば『Ricks~』は無料で入手が可能です。同音源は先んじてBandcampでも販売されており、そこの説明欄にこの旨が記してありました。下掲リンクカードから確認出来ます。

 

 

 そも当該のコードは、プロジェクトとしての『Drift』の期間中に発表された'additional material'を入手するためのものでした。コンプリート版にもこのコードが付属するのかは不明ですが、もし付かないとしたらボックス版の付加価値は依然高いままと言えるため、マウントついでに本記事ではそれらの追加分もレビューの対象とします。笑 …冗談は扨置き、世界的に品薄で欲する人の全てに行き届いていなかったボックス版+αの内容が再販によって広く認知されるようになることは素直に喜ばしく、せっかくなら追加分も含めてフルパッケージで鑑賞出来たらいい(=コンプリート版にもコードが付けばいい)なと願う所存です。僕はコンプリート版を新たに買うつもりはないので、コードの有無は購入者からの報告を待ちたいと思います。

 

※ コード使用時の注意点

→ 「指定されたURLにアクセスしてコードを入力」というオーソドックスな方法でダウンロードが可能であるけれども、一部わかりにくい点があるため未だコードを使用していない方向けにTipsを載せておきます。自分で書いた新規の文章なのに引用のフォーマットなのは見栄えの都合上です。

 

① ダウンロードにはサインインが必要

→ ページトップのいかにも「コードを打ち込んでください」と言わんばかりのフォームらしきものはただの画像ファイルで罠です。コードを打ち込むのはサインインした先のページとなります。外部サービスのアカウントを利用するかメールでアカウント登録をしましょう。

 

② サインアウトした先のページが危険(かもしれない)

→ 無事ダウンロードを済ませてサインアウトしようとするとSmartScreenが警告表示を出してきます。びっくりしますがきちんとサインアウトは出来ているのでブラウザをそっ閉じしましょう。今のところ不審な請求が来たりパソコン蛾物故割れたりということはないので多分大丈夫です。ダウンロードしたファイルのウイルススキャンでも何も引っ掛かりませんでした。

 

 【追記:2020.9.27】 どうやらコンプリート版にコードは付属していないようです。マウントと書いたのが冗談でなくなってしまった後味の悪さ。加えてブックレットの内容も簡略化されているらしく、ボックス版の記事に書いたところの「各MVには詳細なクレジットとフィルムノーツが副えられ」と「歌詞はスマホのスクショ風にデザインされたドラフト感のある表示が印象的」の部分がカットされているっぽいです(Dirty Forumsへの投稿がソース)。これでコンプリート版と銘打つのはうーん…。【追記ここまで】

 

 

 

 前置きというか注意書きで長くなりましたが、まずは宣言通り『RicksDubbedOutDriftExperience (Live in Amsterdam)』からレビュー開始です。順不同且つ言及量に差が出てしまうのはご容赦いただくとして、一応は全9曲を紹介します。

 

 

 括弧書きにある「アムステルダム公演」とは、具体的には2019年の11月23日にオランダはアムステルダムにあるジッゴドームで行われたライブのことです(上掲はその告知動画)。ならば『Ricks~』はそのライブの模様を収めた音源なのだなと理解しそうになりますが、厳密にはライブの前にリックが披露した言わばセルフオープニングアクトの音源化なので、タイトルも『Ricks~』ですし公式サイトに於ける説明文でも'Rick's DRIFT pre-show set'となっています。Bandcampの説明文はより直截的で、'this is not an Underworld concert as you know it. This is a live DRIFT. DRIFT alive, even.'とコンセプトが明瞭です。

 

 

01. Mary / 02. Harry / 03. Jenny / 09. Meredith

 

 O.A.と侮る莫れのたっぷり1時間もプレイされたライブセット音源は、デジタルアルバム『Manchester Street Poem Installation Score​』(2019)の収録曲で幕を開けまた閉じる構成となっています。これら4曲も含めて『Manchester~』のスタジオ音源はEp.4 [Space] Pt.4の「Doris」を除いてボックス版の内容には含まれていないため、制作背景を知らないと「この新曲群は一体なんだ?」と疑問を抱いてしまうかもしれませんね。

 

 

 ライブインスタレーション『Machester Street Poem』の概説を知りたい方は上掲リンク先をご覧くださいと丸投げして、2017年にスタートした同プロジェクトの発展のために2019年にドネーション作品としてのアルバムがリリースされ、同盤から「Doris」だけがプロモーションのために『Drift』のEp.4にシングルとして組み込まれたという経緯です。『Ricks~』のキャプションに'This is a live DRIFT'とあったように、「Doris」以外の楽曲も位置付けとしては『Drift』に含まれるということを示したくて当該の4曲が代表的に選ばれたのかなと解釈しています。

 

 このうちオープニングとエンディングを担っている「Mary」と「Meredith」には『Drift』絡みのポエトリーリーディングが追加されており、スタジオ音源との差異が顕著です。特に「Meredith」は17分超えの長尺トラックだったものが約3分に圧縮される大変化を見せているのですが、同曲の次第にエネルギーが充填されていくようなエッセンスはしっかりと感じ取れて流石リックの手腕だと絶賛します。この後にライブの本編が控えていることを思えば、実にワクワクするO.A.の幕引きと言えるでしょう。あとは小ネタ的に気が付いたことですが、ボックス版収録の未発表トラック「Big Bear」は「Jenny」を発展させたもののように聴こえます。

 

 

 曲名を出したついでに上掲動画にBGMとして使われている「Doris」にもふれておきますと、ビートレスでチルな音作りには郷愁そして音運びには何処か筝曲らしさが見出せる同曲のサウンドは、リリースノーツに'Japanese environmental music'との形容が登場するくらいには我が国の文脈で理解がしやすく、日本人のDNAに訴えかけてくるアンビエントに仕上がっています。

 

 

04. Give Me The Room

 

 

 数多くある『Drift』のMVの中でも随一のサイケデリックさを誇っている「Give Me The Room」は、カールの口から草間彌生の名が出ているのにも得心のいく独特の映像美が印象的です。『Ricks~』では「Harry」と「Jenny」に続く形でプレイされていますが、このシークエンスは3曲を纏めて1曲と扱いたいくらいに次第にダークな疾走感を帯びていく様が素晴らしく、ノーツにあった'the cliffhanger for DRIFT series 1'という表現の意図が尚の事明確になった気がします。発熱時の譫言を聞かされているが如くの不穏当なボーカルが、'Spoken words from a book tumble downwards until they lose all meaning'と描写されているのも言い得て妙です。

 

 

05. Brussels / 06. Pinetum / 07. Seven Music Drone / 08. Threat Of Rain

 

 『Ricks~』の収録曲目を初めて見た際にはこれらの選曲に殊更驚きました。なぜなら、ボックス版のレビュー記事で僕がフェイバリットとして紹介した5曲中4曲が含まれていたからです。時系列的にはライブのほうが先(2019.11.23)なのでともするとそのセットリストをレビュー(2020.3.7)の参考にしたのではと思われそうですが、実際に僕が曲目を知ったのはコンプリート版の発売が決定した後(2020.6.18)でした。要するに自分の感性に従って選んだお気に入りの楽曲群が、リックがO.A.でプレイしようと選んだそれらと多く合致していたのが嬉しかったという話です。

 

 このラインナップでは別けても「Seven Music Drone」がアレンジ面で神懸かり的な昇華を見せており、フューチャリスティックなシンセが追加された(1:13~)だけでトラックの趣が180度変わっていて驚きました。「洗脳的」と評したほどにはネガティブなパルスが渦巻いていたスタジオ音源版、その暗さは何処へやらの未来志向の明るいサウンドスケープが展開され続けて全く別の曲のようです。とりわけ大好きなトラックがシームレスでプレイされるだけでも嬉しいのに、生『Drift』ならではの変容で異なる表情まで見せられたら痺れるほかありませんよね。05.~08.は贅沢に『Drift』を堪能出来る珠玉のセクションです。

 

 

 

 『Ricks~』のレビューは以上で、続けて'additional material'の紹介に入ります。フォルダ名だと'DRIFT_Boxset-extras'だったりWikipediaの小見出しだと'Series 1's archival tracks and mixes​'だったりと表記は様々ですが、ボックス版に付属のダウンロードコードによって入手可能な音源群のことです。『Ricks~』は'UPDATE'として後から追加されたので除外して、'Original Bundle'に収められている全19曲(約5.7時間)から殊に言及し甲斐がありそうな2曲をピックアップします。以降の表示は曲名というよりファイル名です。

 

 

190711_Drift_190705 r10 Pshed 230605

 

 

 この記事の中で一足先に我慢出来ずにふれてしまいましたが、『Drift』の言わば前身の『Riverrun』というプロジェクト下の産物であるリハーサルジャムセッション音源「230605」は、知る人ぞ知る名曲「Silver Boots」からスタートします。当ブログでも過去に三度ほど同曲の名前を出しており()、僕が長らく音源化を待ち望んでいたことが察せるしつこさですね。笑 同音源の『Drift』に於ける位置付けとしては、2019年7月11日にMixcloud上で公開された'additional material'ということになります。聴けばわかると思いますが「Silver Boots」は「Always Loved a Film」(2010)の元となったトラックで、収録アルバム的に『Barking』のリイシュー盤がリリースされない限り音源化(レアトラック集行き)はないと踏んでいたので本当にサプライズでした。

 

 「SB」から「ALAF」への変遷の過程は折々に公開されてたため、コアなファンなら存在を知っていたことでしょう。ただ、バージョン違いが多いせいかコア層でもどの段階までを「SB」と見做すかは区々な印象で、この「230605」に収録のものは「SB」ではないと認識している人も居るようです。確かにMixcloud上でも'early ALAF workout'としか言及されておらず、なんなら「SB」なる曲名も何処が初出なのか実はよくわかりません。個人的に「230605」のそれは曲長が8分台の「Ver.2」であるとの理解で、上掲リンク①の「2006年の 2nd silver boots ver.(らしい) がyoutubeにあるんですが」との記述がその裏付けです。これが「SB」でないと主張する方はおそらく6分台もしくは7分台のVer.を意識していると推測され、上掲リンク③の「でも自分が知ってるver.ともまた違うな~最初に女性の英文が入って音が全部ミュートする箇所がない」というのがこのどちらかだと思います(僕自身もこの2つのVer.についてはあまり知りません)。かなり「ALAF」に近付いている「Ver.4」までを「SB」と捉えている方も確認済みですし、きちんとしたプロダクトとしてリリースされている「Lemonworld Mix」(『Barking』の豪華盤に収録)は曲名的には「ALAF」ながら「Ver.1」との通称もあって更に謎です。

 

 …と、このように神経質なツッコミはいくらでも思い付くものの、プライシー作の「Yard Beat」と「Push Upstairs」に繋がる「230605」の「Silver Boots」が最も格好良いと感じるセンスは昔から今日まで変わっていません。「Always Loved a Film」もアンセムとして申し分のない多幸感を振り撒いている傑作なので、モーフィングの意義は認めるところですけどね。とはいえ、アンセムの持つ熱量や解放感はなくともじわじわとボルテージを上昇させていく;積み重ねの妙が光るテクノ的なマナーに根差した「Silver Boots」のトラックメイキングのほうがやはり一層好みで、その上を"I'm a big sister, and I'm a little girl, and I'm a little princess"とガーリー且つファンシーな歌詞が漂っていくギャップの奇妙さが実にアンダーワールド節で惚れ惚れします。ちなみに当該の歌詞は同じくプライシー作の「Aquafunk」のイントロや『Riverrun』下でリリースされたEPのタイトルにも登場し、2005~2006年頃の惹句だったとの受け止めです。

 

 

190314_Twist Music Bank Take 7 Jam r 2

 

 

 6thアルバム『A Hundred Days Off』(2002)収録曲「Twist」のアナザーバージョンで、『Drift』上での位置付けは2019年3月15日に放たれた'additional material'となります。曲名通りMusic Bank(ロンドンにあるスタジオ?)でのライブジャムセッション音源らしいですが、上掲動画概要欄のスティーブン(Junior Boy's Ownレーベルの創設者のひとりSteve(n) Hallのことかと思われます)曰く、同音源の詳細を正確には思い出せないそうです。直近のギグのためのリハかライブのためのスタジオ音源練り直しかと候補を挙げつつ、とにかく「Twist」のアレンジを何度もレコーディングした覚えがあると振り返っています。原曲を殆ど認識出来ないようなものから、原曲を忠実に解釈したもの('faithful renditions')、或いは'wild guitar solos'をオーバーダブさせた15分以上のものと幅がある中、この「Take 7 Jam r 2」は最終稿に分類されるテイクで、実際にライブでプレイされたバージョンにかなり近い(少し長いくらい)だろうとの言です。参考までにライブブート盤『60minutsOff』(2002)収録の「Twist」の曲長を確認すると約9分だったので、そこから3年後の2005年の音源とはいえ約11分という曲長はその記憶が正しいことの証左となるでしょう。

 

 「Take 7 Jam r 2」は聴けばすぐに「Twist」とわかる点では原曲に忠実なアレンジだと思いますし、楽想も原曲から大幅に逸脱しているわけではありません。しかしそれはあくまでも楽曲の骨子の話で、音の積み重ねの鮮やかさ;もっと砕けた表現にして音の賑やかさで言えば、本音源にはロングテイクになった分だけ原曲を超えた魅力が宿っていると思います。特にハイセンスだと感じたのは、「Cups」(1999)終盤の気味の悪いボーカルトラック(10:12~)と同じものが1:20あたりからうっすら聴こえ出す点で、「Twist」を冠してはいても同時に「Cups」のアナザーバージョンとしても楽しめる一挙両得なところを評価したいです。中盤から存在感を強めてくるエッジィなシンセも「Rez」(1993)を彷彿させてアガりますし、前出の''overdubbed with wild guitar solos'の確かなこだわりを感じさせるギターもグルーヴに寄与していて、全体的に凄くバイタルなアウトプットになっています。原曲の【破壊 → 再構成(解釈) → 拡大解釈】の履歴が窺える、敷衍して言えばジャムの魅力たっぷりの名アレンジです。  

 

 

 以上、'additional material'のごく一部にふれたレビューでした。『Ricks~』も含めて『Drift Series 1』の補遺的な側面が強い内容であるため、総括するようなまとめの文章は載せずにここで記事を終えます。ボックス版の記事も下掲の動画を埋め込んで〆としていましたが、この動画に使用されている口上は『Ricks~』の「Meredith」にも引用されているので関連性を考慮しての再掲です。

 

 

 

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