ツイン・ピークス The Return 1 ネタバレ考察とレビュー

TWIN PEAKS : The Return : PART 1

監督／脚本／制作総指揮：デヴィッド・リンチ

脚本／制作総指揮：マーク・フロスト

カイル・マクラクラン

2017年5月21日放送（米国）

これは2017年放送の「ツイン・ピークス The Return」について、エピソードごとのストーリー要約とレビューを書き留めた記事です。各エピソードへのリンクは記事のいちばん下にあります。

シリーズ全体についての解釈については、「ツイン・ピークス The Return 謎の考察」をご覧ください。

①ストーリーの覚え書き（ネタバレ）

ブラックロッジにて、ローラ・パーマー「２５年後に、またお目にかかる」

蓄音機が鳴る、モノクロの部屋。クーパーは豪華なソファに座っている。

巨人「今それは我々の家に／今はすべてを声に出してはならない／忘れるな、430／リチャードとリンダ／２羽の鳥と１石／お前は遠く離れている」

シャベルを受け取るローレンス・ジャコビー。

ニューヨークシティ。ビルの一室で、空のガラスケースをビデオで撮影し続ける奇妙な実験が行われている。学生のサム・コルビーが、カメラのメモリーカードを時々取り替える仕事をしている。サムの恋人のトレイシーが訪ねてくるが、部屋に入ることはできない。

ツインピークス。ベンジャミン・ホーンは今もグレートノーザン・ホテルにいる。ジェリー・ホーンがやってきて、ベンの秘書ビバリーについて下品な冗談を言う。

夜の森。クーパーそっくりの男、ダギー・ジョーンズが森の小屋を訪ね、レイとダーリャを連れ出す。ダギーは「ミスターC」と呼ばれている。

ニューヨークシティ。なぜか警備員が不在で、トレイシーは部屋に入る。サムとトレイシーがいちゃつき始めると箱の中が真っ黒になり、白い異形の怪物が現れる。怪物はサムとトレイシーを惨殺する。

サウスダコタ州バックホーン。マージョリー・グリーンが通報し、隣室からルース・ダヴェンボートの死体が発見される。検視官のコンスタンス・タルボットとデイブ・マックレー刑事が到着し、シーツをめくると、死体の首から下は別人の男性のものだった。

丸太おばさんがホークに電話をかける。「クーパー捜査官と関係する何かが行方不明になっている。見つけ出す方法は、あなたのルーツに関係がある」

ルースの部屋にあった指紋から高校の校長ウィリアム・ヘイスティングスが浮上する。ウィリアムは尋問を受けるが、ここ数日の夜の行動についてまともに答えられない。デイブと州警察のドン・ハリソンはウィリアムの自宅を調べ、彼の車のトランクから肉片を発見する。

②第１章レビュー

まず、ツインピークスがほとんど舞台にならないことに意表をつかれます。ツインピークスの匂いを色濃く漂わせながら、前と同じことの繰り返しではない、ということが第１章から強く伝わってきます。

第１章ではサウスダコタでの猟奇的な殺人事件の捜査と、ニューヨークでの謎めいた実験の経過が平行して語られます。旧シリーズの根幹だった殺人ミステリーとしての側面、一方の魅力だった謎めいた超常現象とアートの側面を並べることで、見事にツインピークスらしさを醸し出しているんじゃないでしょうか。この２つのパートではどちらも、旧シリーズのキャラクターが誰も登場していないにもかかわらず。

そして、やはり何と言ってもニューヨーク・パートが凄いですね。ここだけでも、シュールな短編映画として完成しているように思える。テレビであっても、いつものリンチ映画とまったく変わらないクオリティを持っていることを見せつけるパートだと思います。

リンチらしさといえば、意味のない長回しや、極めてじれったいおしゃべりなどが挙げられます。例えば、ニューヨーク・パートにおけるサムがビデオのメモリーカードを交換するシーンの、単純作業をただひたすらに映し続ける必要以上の長さ。単純作業がただ普通以上に引き伸ばされることで、モダンアートの領域に侵入しています。また、要領を得ないしゃべり方ではルーシーと張り合いそうなマージョリー・グリーンも、実にリンチらしいキャラクターです。

今回は丸太おばさんマーガレット・ランターマンを演じたキャサリン・コールソンに捧げられています。彼女は2015年9月28日に亡くなっています。彼女の出演シーンは制作開始から間もない早い時期に撮影されていたことになります。登場シーンで、彼女は鼻にチューブを挿しています。

キャサリン・コールソンはリンチとは長い付き合いのある人物です。彼女はリンチの長編デビュー作「イレイザー・ヘッド」で助監督を務めています。

デイヴ・マックレー刑事を演じたブレント・ブリスコーは2017年10月18日、５６歳の若さで亡くなりました。ツインピークス新シリーズをめぐる、不自然なまでに多い物故者の一人になってしまいました。

彼は「マルホランド・ドライブ」でも刑事役を演じています。後に登場するロバート・フォスターとのコンビです。

③第１章　謎の考察（ネタバレ）

「２５年後」が初めて言及されたのは、旧シリーズ序章（パイロット版）のヨーロッパバージョン、ラストの「赤いカーテンの部屋」シーン。クーパーたちが病院の地下でボブを射殺するシーンの後に「２５年後」というテロップが出て、ブラックロッジのクーパーとローラと小人のシーンに続いていました。

「２５年後」のシーンはその後、旧シリーズ第２章に「クーパーの夢」という形で置かれます。そこで、小人は「あなたが好きなガムがまた流行する」というヒントをクーパーに与え、ローラは「腕が時々後ろに曲がるの」と言っていました。ローラはクーパーに彼女を殺した犯人の名を耳打ちしましたが、クーパーは目覚めた時には忘れていました。クーパーはその夢について、「２５年後の夢を見た」と仲間に語っています。

ブラックロッジの中で、黒いドレスを着たローラが「２５年後にまたお会いしましょう」というのは旧シリーズ第２９章です。

旧シリーズ最終回の第２９章の劇中日時は1989年3月26日なので、それから２５年後ということは2014年ということになります。2014年10月4日、デヴィッド・リンチとマーク・フロストが「あなたの好きなガムがまた流行する」とツイートし、その三日後にツインピークス新シリーズの制作を発表しました。当初の放送予定は2016年で、それは旧シリーズの放送が終了した1991年から数えて２５年後になります。つまり、劇中の日時でも放送の日時でも、２５年後が守られているわけです。残念ながら実際の放送は2017年5月にずれ込み、２６年後になってしまいましたが。

冒頭でクーパーと巨人が会うモノクロの部屋は、ブラックロッジとは別の場所。蓄音機のあるこの場所は、第８章で再び登場することになります。

旧シリーズでたびたびクーパーにヒントを与えた巨人は、ザ・リターンでは「？？？？？？？」とクレジットされています。彼の名前を伏せるなんらかの理由があるのでしょうか。

ダギー・ジョーンズがボブに憑依されてブラックロッジから戻った「悪い方」のクーパーであることは、旧シリーズを観ていれば容易に想像がつきますが、彼が付き合っている山小屋の面々の正体は謎です。ダギーに同行するレイとダーリャの他、髭の男オーティス、痩せたオーバーオールの男、車椅子の小男、見張りの男、それに中年女のビュエラがいます。ここでも、リンチは様々な顔面に特徴のある人々を見事に集めてきています。

ニューヨークの箱の中に現れ、サムとトレイシーを血まみれにする白い怪物はクレジットでは「Experiment Model（実験モデル）」という名前を与えられています。顔がなく、全身真っ白で男か女かもわからない怪物ですが、エリカ・エイノンという美しい女優が演じています。