Twin Peaks : The Return PART 6

監督/脚本/制作総指揮:デヴィッド・リンチ

脚本/制作総指揮:マーク・フロスト

カイル・マクラクラン

2017年6月11日放送(米国)

 

①第6章 ストーリー覚え書き(ネタバレ)

 

夜景のレイナルドが銅像の前に立ち尽くすクーパーを自宅へ送り届ける。玄関にあった封筒の中から、ダギー・ジョーンズがジェイドと一緒にいる写真を見つけたジェイニー・Eはクーパーを問い詰める。封筒を投函したジミーから電話がかかり、ジェイニー・Eに5万ドルを要求する。

 

クーパーはブラックロッジの幻を見る。フィリップ・ジェラードが「目覚めろ」「死ぬな」と告げる。クーパーは会社から持ち帰った事件資料に鉛筆でハシゴや階段などの落書きを始める。

 

大雨の中、アルバートはマックス・フォン・バーへ。カウンターで飲んでいる金髪の女、ダイアンに声をかける。

 

木材工場の倉庫。リチャードレッドと薬の取引をしている。レッドはリチャードを小僧扱いし、投げ上げたコインを消すマジックを見せる。

 

トラックを運転するリチャードは、コケにされたことに激しく憤る。

 

ファット・トラウト・トレーラーハウス。老いた管理人カールは毎日この時間に町に行く。太った男ミッキーが車に同乗する。

 

R&Rダイナーミリアムが、ウエイトレスのハイジチェリーパイの話をしている。ミリアムが帰った後、シェリーは今度ミリアムにパイをおごろうとハイジに話す。

 

カールは公園のベンチで木々を見上げながら煙草を吸っている。少年と母親が追いかけっこをして遊んでいる。トラックを暴走させるリチャードは赤信号を無視して、走ってきた少年をひき逃げする。ミリアムがそれを目撃している。

カールは、横たわる少年の体から光が離れ、空へ昇っていくのを見る。嘆き悲しむ母親の肩に、カールは手を添える。電信柱からは電気音が聞こえている。

 

 

ラスベガス。パソコンに向かうダンカン黒い点の打たれた白い封筒を取り出す。

 

爆発したダギーの車の残骸から、警官たちがナンバープレートを回収する。ヤク中の女は「119!」と叫ぶ。

 

モーテルの部屋。スキンヘッドの小人スパイクはダイスを投げて出目を記録している。ドアの隙間から黒い点の封筒が差し込まれる。中からはロレインとダギー・ジョーンズの写真。スパイクはアイスピックで写真を突き刺す。

 

コーヒーを手にして幸せそうなクーパーは出社する。ブッシュネルはクーパーを呼び出し、落書きだらけの書類について問い詰めるが、やがてその落書きに隠された意味に気付き、一転してクーパーを評価する。クーパーは壁に飾られたブッシュネルのボクサー時代のポスターに目を奪われている。

 

児童公園で、ジェイニー・Eは脅迫してきたトミーとジミーと会う。ダギーはフットボールの賭けで2万ドル借り、利息を含めて5万ドルになっているという。ジェイニー・Eは得意の早口で借金を2万5000ドルに値切る。トミーとジミーは彼女の迫力に言い返すこともできない。

 

ロレインのオフィススパイクが乱入し、彼女をアイスピックでめった刺しにする。目撃していた受付の女性も、スパイクは追いかけていく。

 

森にトラックを停めたリチャードは、バンパーについた血を拭き取る。

 

警察署のトイレで、コインを拾うためにかがみこんだホークは個室のドアにインディアンのマークを見つける。ドアに隙間があることに気づいたホークはそこから隠された紙片を取り出す。

 

フランクの元にドリスがやってきて怒鳴り散らす。チャドは「あんな女耐えられない」というが、マギーはフランクとドリスの息子が兵役の後で自殺したことを指摘する。ドリスはそれから変わってしまったのだ。

 

ロードハウス。シャロン・ヴァン・エッテンの演奏、「Tarifa」。

 

②第6章レビュー

 

旧シリーズの序章からずっと、クーパーが事件報告を吹き込むテープレコーダーの「宛先」として名前だけ登場し続け、あくまでも正体は謎のままだったダイアンが、遂に登場しました。演じるのはローラ・ダーン! これは嬉しくなるキャスティングです。「ブルーベルベット」から「インランド・エンパイア」まで、リンチ作品の最重要女優だったローラ・ダーン。クーパー役のカイル・マクラクランとは「ブルーベルベット」以来の共演ということになります。

旧シリーズ時代のクーパーとダイアンを、「ブルーベルベット」当時のカイルとローラで想像してみるのも楽しいですね。

 

ハリー・ディーン・スタントン演じるカールは、映画版で初めて登場したキャラクター。ハリー・ディーン・スタントンはリンチ作品には「ワイルド・アット・ハート」が初登場。「ストレイト・ストーリー」でも印象的な役で登場し、「インランド・エンパイア」にも登場しました。リンチ外では「パリ、テキサス」が代表作と思いますが、個人的には「エイリアン」が印象に残っています。

1926年の生まれなので、出演時にはもう90歳近くになっています。放送後の2017年9月15日、91歳で亡くなっています。

 

カールが絡むリチャードのひき逃げ事故の一連のシークエンスは、今回の白眉だと思います。愛情に満ちた穏やかな陽射し、そこに訪れる突然の暴力、そして噴出する激しい悲しみの感情。超自然のスパイス、最後の電信柱まで含めて、リンチらしさの凝縮された短編映画とも言えるパートでした。

 

③第6章 謎の考察(ネタバレ)

 

フィリップ・ジェラードが「目覚めろ」と告げていますが、クーパーはなかなか目覚めません。「死ぬな」と言うのも無理はなく、ジーンとジェイク、彼らを使うロレイン、ダンカン・トッドに彼に指示を受けるスパイクと、クーパーの命を狙う者は次々と現れています。その裏には、おそらくもう一人のダギー・ジョーンズがいるのでしょう。展開されているのは、二人のクーパーの生き残りを賭けた闘争ということができます。

 

ダイアン・エヴァンスは旧シリーズ当時のクーパー捜査官の秘書。クーパーが失踪して以後、彼女がどうしてきたのかは不明ですが、とりあえず酒場で飲んでいることが多いようです。口癖は「クソ〜」で、出会った相手すべてに悪態を吐くのは、クーパーの失踪以降にやさぐれたのか、それとも元々そういう人なのか。

 

リチャード・ホーンを子供扱いするコカインの売人レッド。しかし単なるヤクザというわけでもなく、「手について学んだことはあるか?」「”王様と私”って映画見たことあるか?」とか変なことばかり聞いてきたり、投げ上げたコインを消してリチャードの口の中に出現させ、また手元に戻すという「マジック」を見せたり、普通の人間ではない様子もあります。

 

カール・ロッドは映画版に登場した、ツインピークスの隣町ディア・メドウのトレーラーハウス管理人。そのトレーラーハウスはテレサ・バンクスが住んでいた場所であり、彼女が殺された事件を追っていたチェスター・デズモンド捜査官が姿を消した場所でもありました。

今回登場したのは”New” ファット・トラウト・トレーラーパークで、ディア・メドウではなくツインピークスの郊外に彼が新たに設けたものであるようです。しかし電信柱の番号はディア・メドウにあったものと同じ「」です。

 

R&Rダイナーでシェリーとともにウエイトレスをしているハイジは、くすくす笑いが特徴的なキャラクター。旧シリーズの序章と最終章だけに登場し、ただくすくす笑っているだけながら、ツインピークスを始め終わらせる役目を担っているようでした。

今回はセリフも増えています。シェリーは若い頃はハイジを馬鹿にしているようでもありましたが、今は仲のいい友達になっているようです。

 

リチャードにひかれた少年の体から空に昇っていく光を、カールだけが見ています。それはカールが高齢で、もう先は長くないと自分で悟っている域に達しているからなのかもしれません。少年から離れた魂が空に昇っていったのは、善良な彼は無事に天国に行ったという意味でしょうか。もし、横で唸りを上げていた電信柱に魂が吸い込まれていたら、ブラックロッジに行くことになってしまったのかも…。

 

そういう役を演じたハリー・ディーン・スタントンが放送と同じ年に亡くなったのはやはり妙な因縁というか、ツインピークスの力を感じずにはいられません。これまでもジャック・ナンスとか、「ストレイト・ストーリー」のあの人とか、リンチの映画には出演者の死がつきまとっているようで…。ハリーは高齢なので別に不自然ではないんだけど。

 

パソコンで指示を受けたダンカン・トッドは封筒で指示を出し、その指示はモーテルのアイク・”ザ・スパイク”の元へ。殺しのターゲットはロレインとクーパー(ダギー・ジョーンズ)であるようです。

第2章でダンカンが採用したのはやはりスパイクだったのではないでしょうか。

ロレインはジーンとジェイクを使ってクーパーの暗殺を企んでいたキャラですが、それが失敗したので消されるということのようです。クーパーを殺すのは継続案件で、ロレインからスパイクに引き継がれたことになります。

第5章で失敗に気づいたロレインがブエノスアイレスに連絡。刑務所のダギーが電話を使ってブエノスアイレスに連絡し、装置が反応する描写がありました。ダギーは電話を通してロレインの失敗を知り、彼女の死と次の一手を指示したということでしょうか。

そうだとすると、ダギーはずいぶんハイテクな、あらゆる情報を得られる組織網を持っているようです。ボブもリーランドに取り憑いている時は単なる田舎の弁護士に過ぎなかったので、クーパーになってFBIのテクノロジーと権力を手にいれたということかもしれません。

 

クーパーの落書きを見てブッシュネルが何に気づいたかは謎ですが、もしかしたらこれからトニーの悪行が暴かれていくのかもしれません。

 

ロレインまたはスパイクの登場シーンではなぜか常にやけに明るいヒップホップが流れています。ブランデット・ビーツ(Blunted Beatz)の「I Am」という曲で、サントラにも収録されています。

どう見ても殺し屋に向いていなさそうなスパイクが殺し屋で、ドタバタした殺し方をするのがまたリンチ流。

 

ホークが、ようやく第1章で丸太おばさんに出題された謎の答えにたどり着いたようです。「あなたのルーツに関係ある」というのは、トイレのドアについたインディアン印のマークのことでした。

 

ドリスの夫への罵詈雑言が今回も繰り返されますが、そこには悲しい背景があることが通信係のマギーによって語られます。それでも、趣味の悪い冗談を言ってヘラヘラ笑っているチャド。ホークを差別するようなそぶりを見せていたり、とことん不快な人物に描かれています。

 

今晩のロードハウスはシャロン・ヴァン・エッテン(Sharon Van Etten)の「タリファ/Tarifa」。ニュージャージー出身の女性シンガーソングライター。「Tarifa」は2014年のアルバム「Are We There」に収録されています。

 

 

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