Twin Peaks : The Return PART 4

監督/脚本/制作総指揮:デヴィッド・リンチ

脚本/制作総指揮:マーク・フロスト

カイル・マクラクラン

2017年5月28日放送(米国)

 

①第4章 ストーリー覚え書き(ネタバレ)

 

クーパーは30回のジャックポットを当てる。アライド・ケミカルのビル・シェイカーという男が声をかけ、クーパーは自分がダギー・ジョーンズと呼ばれていること、家はランスロット・コートの赤いドアの家であることを知る。

 

大金を受け取ったクーパーは、リムジンで家へ送られる。家から出てきたのはダギーの妻のジェイニー・E。会社を三日も無断欠勤し、息子のサニー・ジムの誕生日もすっぽかしたことを彼女は責めるが、袋の中の大金を見て驚く。

 

ゴードンは連邦捜査局主席補佐官のデニース・ブライソンに会いに行き、クーパーがサウスダコタの刑務所に入っていると告げる。

 

ルーシーは保安官のフランク・トルーマンと電話で話し、その相手が目の前に現れたのを見て卒倒する。ルーシーはいまだに携帯電話に慣れることができない。

フランクはホークの報告を受ける。警官になっていたボビー・ブリッグスはローラの写真を見て感きわまる。別の警官のチャドは丸太のメッセージを信じようとしない。

 

アンディとルーシーの息子ウォリー・ブランドが、旅の途中で立ち寄り、フランクに挨拶をする。ウォリーは「我々の偉大なる地を旅してきた」と語る。フランクは「君の車輪にふさわしい道になるように」と声をかける。ウォリーは「俺のダーマは道だ」と言い、フランクのはこの場所だと身振りで示す。

 

朝、目覚めたクーパーはブラックロッジにいるフィリップ・ジェラードを幻視する。フィリップは金色の玉を見せて、「お前は騙された。もう一人は死ぬことになる」と言う。

クーパーはジェイニー・Eに教えてもらわないとトイレに行くことすらできない。緑のジャケットはぶかぶかで、ネクタイの締め方もわからない。サニー・ジムが微笑みかけると、クーパーはサムアップする。頭にネクタイを巻いたクーパーは「テイク・ファイブ」の流れるキッチンで、サニー・ジムと一緒にホットケーキを食べる。コーヒーを口に含んだクーパーは吐き出して「はーい!」と叫ぶ。

 

バックホーン。コンスタンスは男の死体の指紋が米軍に規制されていることに気づく。

 

サウスダコタに着いたゴードン、アルバート、タミーは刑務所に向かい、ダギー・ジョーンズと対面する。彼の吐瀉物からは毒が発見されており、車のトランクからはコカインとマシンガン、ビニール袋に入った犬の足が見つかった。ゴードンと対面したダギーはサムアップして、クーパーであるように振る舞うが、同じ言葉を何度も繰り返したり逆さ言葉を言ったり、どこかおかしい。ダギーはフィリップ・ジェフリーズと組んで潜入捜査をしていた、それについて報告に行こうとしたところで事故を起こしてしまったと言う。「俺は本当に家を出たことがない

 

アルバートは数年前フィリップ・ジェフリーズからの電話を受け、クーパーがまずいことになっているからと、コロンビアの男の名前を知らせたと告白する。その男は一週間後に死んだ。ゴードンはある人物にクーパーに会ってもらうべきだと言う。どこにいるか知ってるかと問うゴードンに、アルバートは「飲んでいるところなら」と答える。

 

ロードハウス。オ・ルヴォアール・シモーヌの演奏「Lark」。

 

②第4章レビュー

 

今回から、記憶をなくして幼児退行したクーパーと、その妻ジェイニー・Eのやりとりで笑わせるホームコメディ・パートが始まります。こういうのも、実はリンチの得意とするパターン。クーパーがトイレに行けないとか、ネクタイがわからないとか、そういうシーンをじっくりたっぷり時間をかけて描きます。

 

ダギー・ジョーンズの妻、ジェイニー・Eを演じているのは「マルホランド・ドライブ」で主演を演じたナオミ・ワッツ。「インランド・エンパイア」でもウサギの声で(声だけ)出演しています。すっかりリンチの信頼厚くなった模様。いつもイライラしていて早口で喚き散らす気の強い奥さんを、実に楽しそうに生き生きと演じています。

 

デイヴィッド・ドゥカヴニー演じる女装のDEA捜査官、デニース(デニス)・ブライソンが登場。旧シリーズでも、同時期に「Xファイル」を製作していたことからのゲスト出演でした。今回も顔見せだけの出演の模様。

 

ハリー・S・トルーマン保安官を演じたマイケル・オントキーンは今シリーズは出演していません。かわりに保安官を務めるのは、ハリーの兄フランク・トルーマン。演じるのは「ジャッキー・ブラウン」でアカデミー賞候補にもなったロバート・フォスターです。ハリーは深刻な闘病中であるようで、出てこないながら頑張って回復してほしいものだと思わされます。

 

アンディとルーシーの息子ウォリー・ブランドを演じるのはマイケル・セラ。カナダ出身の若手俳優です。

 

クーパーとジェイニー・E、サニー・ジムが朝食を食べるシーンでは、なぜかジャズの超有名曲「テイク・ファイブ」がでかい音で流れています。今シリーズではこういうやけにベタな選曲も目立ちます。

 

クーパーといえばサムアップ、クーパーといえばコーヒー。ここに来て、旧シリーズの記号がいろいろと復活してきました。あんまりそのまんまやるといかにも懐古趣味なので、クーパーが記憶を失っている設定がちょうど良くしているのかも。

 

第2章、第3章と異世界のぶっ飛んだ描写が続きましたが、今回は落ち着いたエピソードとなりました。クーパーとジェイニー・Eのコメディやフランクとウォリーのシーン、一癖ありそうなチャドなどの警官たちのシーンなど、旧シリーズの様々なサイドストーリーを思わせます。

 

第1章から3章まで続いていた物故者への献辞が、ようやく今回はなくなっています。

 

③第4章 謎の考察(ネタバレ)

 

ダギーとジェイニー・E夫妻の住む赤いドアの家があるのは、ラスベガスのランスロット・コート。ランスロットといえばアーサー王の円卓の騎士で、これは旧シリーズでブラックロッジへの入り口があった場所、グラストンベリー・グローブ(アーサー王の墓があったと言われている場所)と呼応しています。

 

フランク・トルーマンが初登場し、チャドジェシーなどツインピークス警察署の他の警官たちも初めて顔を見せます。これまで顔を見せていたのはホークとアンディ、ルーシーだけでした。旧シリーズでも他の警官たちは時々姿を見せていましたが名前まで紹介されることはなく、表に出てくるのはハリー、ホーク、アンディ、ルーシーだけでした。

 

ボビー・ブリッグスが警官になっていたことが唐突に判明し、驚かされます。昔ヤンチャして警察に厄介になっていた不良が、長じて警官になる…というストーリーは日本のドラマでありがちですが、アメリカでも同様なんでしょうか。彼はまだ40代であるはずですが、髪はすっかり総白髪になっています。

 

ボビーは生前の父に最後に会ったのはクーパーだと言います。クーパーと面会した直後、ガーランド・ブリッグス少佐は基地の火災で死亡してしまいました。そのクーパーがボブに取り憑かれたダギー・ジョーンズだったことを考えると、ブリッグス少佐の死にも疑惑が生じます。

 

ハリーに名をつけてもらったという、アンディとルーシーの息子ウォリー・ブランドが登場。第1章でのアンディの言葉によれば、マーロン・ブランドと同じ誕生日であるという彼は、映画「乱暴者」でのマーロン・ブランドと似た服装で戻ってきました。

 

映画「乱暴者」でのマーロン・ブランド

 

アンディとルーシーの子供については旧シリーズでのサイドストーリーの一つで、第7章でルーシーの妊娠が発覚。アンディは自分は無精子症であることに悩むが、再検査の結果自分に生殖能力があったことを知って一安心。しかしホーン・デパートのキザ男ディック・トレメインが登場し、子供の父親がどちらかでもめ始め…というコメディ・ストーリーがシリーズを通して描かれていました。この問題は結局はっきりとした決着はつかなかったので、ウォリー・ブランドの父はアンディではなくディック・トレメインかもしれません

 

ウォリー・ブランドは24歳とのことで、マーロン・ブランドと同じ誕生日であれば生まれたのは1989年4月3日。彼が24歳なのは2014年4月2日までなので、The Returnの日付はその辺りに限定されます。クーパーの帰還が第29章のぴったり25年後だとすれば、2014年3月26日。クーパーの帰還が25年後であることと、ウォリーが24歳であることは、とりあえずこれで矛盾しません。

ただし、そうなると第29章の一週間後にルーシーは出産したことになり、ルーシーは第28章のミス・ツインピークス・コンテストでダンスを披露したりしていたので、ちょっと訳のわからないことになってしまいます。

 

しかし! 後の第9章で、The Returnの日付が判明します。第9章の時点で、9月29日。なので、逆算すると、クーパーが帰還したのは9月25日ということになります。ウォリーがツインピークスを訪れたのも同じく9月25日です。

とすると、誕生日4月3日を過ぎていて彼が24歳であるためには、彼は1990年の生まれでなければならないことになります。

そうなるとまたおかしなことになって、ルーシーは1年以上妊娠していて彼を産んだか、あるいはウォリー・ブランドは旧シリーズの劇中で言及されていた子供ではない別の子供である、ということになります。

 

それとも、年齢か誕生日が間違っているのかもしれません。アンディがマーロン・ブランドの誕生日を勘違いしていて、彼の誕生日が仮に1989年9月末か10月であれば、2014年9月25日時点でまだ24歳なので矛盾はなくなります。ルーシーの妊娠期間としても、これが唯一の回答になりそうです。

(ローラの死体が発見されたのが2月24日であることは確実なので、ルーシーの妊娠が発覚したのが3月であることも確定。なので、この赤ん坊が4月に産まれることはどうしたって不可能である、ということになります。)

 

ダーマ」とはサンスクリット語で仏教における法のこと。チベット仏教への興味は、旧シリーズでクーパーが見せていました。

 

ダギー・ジョーンズは再三フィリップ・ジェフリーズの名前を口にしています。ダギーとレイはそれぞれ別の意図を持ってフィリップと連絡を取り合っているようで、フィリップは今後のキーパーソンとなってきそうです。演じたデヴィッド・ボウイも既に故人となっていますが…。

 

劇場版で、フィリップ・ジェフリーズはブエノスアイレスのホテルから瞬間移動してフィラデルフィアのFBI支部に現れました。その後、また瞬間移動してブエノスアイレスに戻っています。アルバートの言葉から、ダギー・ジョーンズかフィリップ・ジェフリーズがコロンビアの男を殺していることが判明しました。彼らの行動には南米が関連しているようです。

 

オ・ルヴォワール・シモーヌ(Au Revoir Simone)はニューヨーク出身、ヘザー・ダンジェロ、エリカ・フォスター、アニー・ハートの女の子3人組。3人が横並びでキーボードを弾きながら歌うスタイルが個性的。リンチはよほど気に入ったのか、彼女たちは第9章で再び登板します。今回の「Lark」、第9章で歌う「A Violent Yet Flammable World」ともに2007年のアルバム「Bird Of Music」に収録されています。

 

 

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