Twin Peaks : The Return PART 7

監督/脚本/制作総指揮:デヴィッド・リンチ

脚本/制作総指揮:マーク・フロスト

カイル・マクラクラン

2017年6月18日放送(米国)

 

①第7章 ストーリー覚え書き(ネタバレ)

 

森の中で、ジェリー・ホーンが途方に暮れている。ベン・ホーンに電話をかけ、車を盗まれたと訴えるジェリー。ハイになっていて、自分がどこにいるかわからない。

 

ホークは、トイレのドアから見つけた紙片をフランクに見せる。それはローラ・パーマーの秘密の日記から破り取られたページだった。「昨日見た夢にそれは出てきた。”私の名前はアニー。デイルとローラと一緒にいるの。いいデイルはロッジにいてそこから出られない。あなたの日記にそう書いておいて”

ホークはフランクに、それがハロルド・スミスの家で見つかった秘密の日記であることを説明。4ページが破り取られていて、3ページはここに見つかったが1ページはなお失われたままだ。

”午前1時30分、私は息もできないくらい泣いている。あれはボブじゃないってことがはっきりわかったから”

その記述を読んで、リーランドが隠したのだろう。機会はジャック・ルノー殺しの容疑で彼を警察署に呼んだ時だ。

 

フランクはハリーに電話するが、ハリーの病状が思わしくないと知って何も伝えない。「絶対負けるな」とフランクはハリーに伝える。

 

アンディはリチャードが運転していたトラックの持ち主を尋問しようとするが、今は話せないという相手の言うことを聞いて2時間後に約束をする。

 

フランクはドクター・ヘイワードスカイプで話す。グレートノーザンホテルでクーパーを診察した時、彼の様子はかなり奇妙だった。クーパーを病院に連れて行って検査を受けさせたが、戻ってくるとICUからこっそり戻ってくる彼を見た。振り返ったクーパーの顔には、またあの奇妙な様子が見てとれた。ICUに行ったのは、銀行の一件で昏睡状態だったオードリーの様子を見に行ったのではないか。

 

シンディ・ノックス大尉がバックホーンに到着し、デイヴ・マックレイ刑事に会う。指紋が遺体から採取されたと聞いて驚くシンディ。指紋はブリッグス少佐のものだが、遺体は40代後半で年齢が合わない。大佐に報告の電話をかけるシンディの後ろで、真っ黒な顔の男が歩いている。

 

口笛を吹くゴードン。アルバートはダイアンに「クソ喰らえ」(Fuck you)と言われたと報告する。

ゴードンとアルバートはダイアンを家に尋ねる。ゴードンもアルバートもクソ扱いするダイアン。ゴードンたちは、サウスダコタに行ってクーパーと会ってくれるようダイアンに頼む。

 

サウスダコタに向かう飛行機の中で、タミーは刑務所にいるダギー・ジョーンズの指紋が25年前のものと一致したが、コードマークの位置が左右逆だと報告する。

ゴードン「”とても"をひっくり返して”もてと”だ」

 

ヤンクトン連邦刑務所で、ダイアンはダギー・ジョーンズと対面する。最後に会った夜のことを忘れないとダギーは言う。ダイアンはダギーに「あなたは誰?」と尋ねる。

面会を終えたダイアンは「あれは私の知ってるクーパーじゃない」と言う。

独房に戻されたダギーはマーフィー所長に会いたいと看守に伝える。「ストロベリーの件について話さなきゃならない」

 

ツインピークスで、アンディは約束通り男を待つが、男は現れない。

 

マーフィー所長はダギーを所長室に連れて来させる。「あの犬の足。1本は俺の車に、残り3本はあんたが今考えている情報とともに消えた。俺に何かあればあんたが来てほしくない二人がここに来る」ダギーが「ジョー・マクラスキー」と言うとマーフィーの表情がこわばる。ダギーは自分とレイ・モンローを今夜自由にするよう要求する。

 

ラッキー7社で、アンソニーがクーパーにブッシュネルとの会話について聞き出そうとする。ロンダが刑事たちを案内してくる。D・フスコ、T・フスコ、スマイリー・フスコの3人の刑事がやってき、同時に夫を迎え来たジェイニー・Eも来る。刑事たちは爆破されたダギー・ジョーンズの車について尋ねる。クーパーはろくに答えられないが、ジェイニー・Eが車は盗難にあったと答える。

 

クーパーとジェイニー・Eが会社を出たところで、スパイクが銃を持って近づいてくる。クーパーはとっさにスパイクをねじ伏せる。地面から進化した腕が生えてきて、「手を引きちぎれ」と言う。クーパーはチョップでスパイクから銃が奪い、スパイクは逃げ出す。事件後、鑑識が銃にへばりついた肉片を引き剥がす。

 

グレートノーザンホテル。ベン・ホーンとビバリーは、どこからか聞こえる謎の音の出所を探っている。ビバリーは今日届いたキーをベンに渡す。「確かこの部屋だったな。クーパー捜査官が撃たれたのは」

 

ビバリーが家に戻ると、病気で療養中の夫トムが遅くなったビバリーを責めるような態度をとる。

 

ロードハウス、バンバン・バー。店員が床を掃いている。ジャン・ミシェル・ルノーが電話を受ける。彼は売春婦を斡旋しているようだ。

 

深夜、ダギー・ジョーンズとレイ・モンローがレンタカーで刑務所を出て行く。

 

R&R。男が「ビリーを見なかったか?」と尋ねる。

 

②第7章レビュー

 

ローラの日記が出てくると、一気に旧シリーズのムードがよみがえります。旧シリーズのブームの際にはデヴィッド・リンチの娘ジェニファー・リンチによる小説版「ローラの日記」も出版されていました。

 

今回はドクター・ウィル・ヘイワードを演じたウォーレン・フロストに捧げられています。ウォーレン・フロストはデヴィッド・リンチとともにツインピークスの企画・制作総指揮・脚本を務めているマーク・フロストの父。彼も放送直前の2017年2月17日に亡くなっています。スカイプの画面越しの出演なのは、体調が思わしくない中での出演だったかもしれません。キャサリン・コールソン、ミゲル・フェラーなど、ツインピークスではそういう状況での出演がやけに多くなっています。

 

ベン・ホーンの秘書、ビバリー・ペイジを演じているのはアシュレイ・ジャッド。「コレクター」「ダブル・ジョパディー」などに主演しています。

 

今回のクライマックスはスパイクのクーパー襲撃でしょうが、しかしある意味で裏クライマックスと言えるのはロードハウスでの延々と続く掃き掃除シーンじゃないでしょうか。なぜか今夜はライブがなく、カウンターにルノーがいて店員が床を掃いている映像がただ延々と流されます。ライブがあったらそれがそのまま入るくらいの長さ。「グリーン・オニオン」をほぼフルコーラス聞かされるくらい。尋常じゃない長さです。ここまで来ると笑うしかないというか、モダンアートと思って鑑賞するしかないですね。

 

 

ロードハウスのバーテン、ジャン・ミシェル・ルノーを演じているのはウォルター・オルケウィッツで、彼はなんと旧シリーズでジャック・ルノーを演じていた本人です。

 

ベン・ホーンがクーパーが25年前に撃たれたことに言及しますが、それは旧シリーズ第7章の出来事でした。The Returnの第7章でも、クーパーが銃による襲撃を受けます。旧シリーズ第8章はリンチ監督による評価の高いエピソードでしたが、次回であるThe Return第8章非常にぶっ飛んだ内容の問題作になります。旧シリーズと今シリーズと、エピソードナンバーでも対応関係が考えられているようです。

 

③第7章 謎の考察(ネタバレ)

 

ローラ・パーマーが日記が破られていることに気づいたのは、彼女が殺される一週間前のことでした。ローラは日記を持ってハロルド・スミスの家に向かい、彼に日記を預けます。ローラは日記を破ったのはボブだとハロルドに言います。「私が12歳の頃から、ボブは私を所有してる。ボブは私になりたがってる。そうでなければ、私を殺す」

 

ハロルド・スミスは旧シリーズの第10章で登場。家に引きこもって蘭を育てる孤独な青年でした。ドナとマデリーンがハロルドが持つローラの秘密の日記を盗もうとして、それに傷ついたハロルドは首吊り自殺してしまいました。彼が残したローラの日記から、クーパーはボブが何度もローラのもとを訪れていたことを知りました。

 

映画版を観る限り、ローラが日記が破られたことに気づくローラが日記をハロルドに預けるローラがアニー・ブラックバーンの夢を見て「このことを日記に書いておいて」と言われるの順になっています。

そうなると、リーランドが破った日記のページにアニーの夢のことが書かれているのは奇妙です。

 

ドクター・ヘイワードの話は第29章の後の出来事について初めて触れています。グレートノーザンホテル315号室のバスルームで鏡に額を打ち付け流血したクーパーは、ハリーとドクター・ヘイワードに介抱されます。この後、病院に行って検査を受けたということのようです。

 

その病院にはオードリーも入院していました。第29章で、オードリー・ホーンはゴーストウッド開発計画に反対するパフォーマンスのため、ツインピークス貯蓄貸付銀行の金庫室に自分を縛り付けます。しかし、そこにアンドリュー・パッカードピート・マーテルがやってきます。彼らはジョシーに殺されたトーマス・エッカートが残した金庫室の鍵を持って、彼が残した遺産が何かを確かめるためにやってきたのでした。アンドリューとピートが金庫を開けると、トーマス・エッカートが仕掛けていた爆弾が爆発し、アンドリューとピート、オードリーも巻き込まれてしまいます。

ツインピークス旧シリーズを通して描かれていたジョシーと製材所をめぐる陰謀ストーリーは、このシーンをもって幕を閉じました。アンドリューとピートも、それにオードリーも、それによってどうなったのか、生きているのか死んだのか、一切語られることはありませんでした。

 

オードリーは死ななかったけれど、重傷を負った模様です。彼女は集中治療室に運び込まれていました。ドクター・ヘイワードが目撃したクーパー(ボブ)は、昏睡状態にあるオードリーを訪問したようです。

同じ病院にはアニー・ブラックバーンも入院していたはずですが、クーパー(ボブ)がそこに関係したかどうかはよくわかりません。

 

ところで、第29章では善行に目覚めたベン・ホーンがヘイワード家を訪れ、過去にあったアイリーン・ヘイワードとの関係について謝罪しようとしていました。ドナの父親もベンであったかも…ということになって、彼の無神経な行為に怒ったウィルがベンを殴り、ベンが倒れて気を失う…というシーンで終わっていたのですが、ドクターやベンの現在の様子を見る限り、これは結局大したことにはならなかったようです。

 

サウスダコタの殺人事件が、思わぬ形でガーランド・ブリッグス少佐とつながりました。彼はボビーの父親ですが、空軍のUFO関連の極秘プログラム、ブルーブック計画に関わっていました。ローラ事件の解決後、彼はクーパーと森に出かけて行方不明になり、数日後戻ってきました。ブラックロッジへの鍵を持つ彼はウインダム・アールに誘拐されることになりました。

 

シンディ・ノックスの後ろに真っ黒な顔の人物がいます。彼は第2章で留置所のウィリアム・ヘイスティングスの近くに出現していました。彼は第8章で登場する森の男であると思われます。

 

ダイアンとともにサウスダコタに向かう飛行機の中で、クーパーの指紋が裏返しになっていることをタミーが報告します。

ゴードン「”とても”(very)をひっくり返して”もてと”(yrev)だ」

もてと(yrev)」は刑務所でダギーが言っていた言葉です。逆さ言葉といえばブラックロッジ。小人を始め、ブラックロッジのシーンでは誰もが「セリフを逆から喋り、それを逆再生した言葉」でしゃべっていました。

逆さ言葉がブラックロッジの住人の印なら、「もてと」はダギーがブラックロッジの住人ボブであることの証拠であり、ゴードンはそれに気づいているのかもしれません。

さらにゴードンはタミーに手を出させ、それをひっくり返させた上で、指を1本ずつ押さえながら言います。左手で「私は/とても/とても/うれしい/また」右手に移って「きみと/再開/できて/懐かしの/友よ」

ゴードンはタミーの手のひら側の指をさして「これはスピリチュアルな山」手の甲側の指をさして「スピリチュアルな指だ」

「逆」がキーワードなら、ダギーが本当に言いたかったのは「私はまったくうれしくない。おまえは懐かしの友ではない」ということでしょうか。そういえば、そもそもブラックロッジはホワイトロッジの逆の存在でした。

光があれば闇がある。良い面と悪い面は常に表裏一体。ツインピークスでは、それが大きなテーマとして全体を流れているようです。ボブとマイク小人と巨人など、悪と善が表裏一体になったような登場人物のペアも数多く配置されていました。

ブラックロッジの住人が逆さ言葉で喋るのも、悪の化身のような人々が決して我々とまったく関係ない者ではなく、我々を裏返した存在に過ぎない…ということなのかもしれません。

 

ダイアンとクーパーは、ダイアンの家で最後に会っていたようです。それがクーパーがダギーになってからかどうかは、今回の会話からはわかりませんが。

 

マーフィー所長のどんな弱みをダギーが握っているのかはわかりませんが、ヤンクトン刑務所に収監されることを見越した上で、布石を打っていたということでしょうか。ミスター・ストロベリーの死の責任をマーフィーが負っていて、そのことをジョー・マクラスキーが知るとマーフィーはヤバイことになる…ということかもしれません。

 

ラッキー7保険会社にやってきた3人の刑事。なぜか全員フスコという名前。3兄弟? 顔はあんまり似ていませんが。こんなどうでも良さそうなところにも妙なギャグを仕込んでいますね。

 

会社を出る間もしゃべり続けているジェイニー・E、そこへトコトコやってきて銃を突きつけるスパイク! クーパーのFBIとしての本能がよみがえり、チョップであっさり返り討ち。旧シリーズの小人はどちらかというと悪のムードでしたが、進化した腕は今回クーパーの味方のようです。

 

旧シリーズの序盤では女好きで悪辣なキャラクターだったベン・ホーンですが、いろいろあって、旧シリーズ最終章時点では「心を入れ替えて善行を行おうとする人物」になっていました。その結果、ヘイワード家に波紋を起こしたり迷惑なことをするのですが…。

The Returnでも彼はそのキャラのままであるようで、美人秘書のビバリーに手を出そうとは頑なにしません。

 

ロードハウスの「お掃除」でかかるのはブッカー・T&ザ・MG’sの1962年のヒット曲「グリーン・オニオン(Green Onions)」。彼らのデビュー曲にして、最大の代表曲です。オルガンのブッカー・T・ジョーンズ、ギターのスティーヴ・クロッパー、ベースのドナルド・ダック・ダンらによるメンフィス出身のインストルメンタル・ソウル・バンドです。

 

ロードハウスのバーテンジャン・ミシェル・ルノー。「このロードハウスはルノー・ファミリーが57年経営してるんだ」と言ってます。旧シリーズでロードハウスのバーテンを務めていたのはジャック・ルノーで、彼は弟のベルナール・ルノーとともにカナダからのコカイン密輸に精を出していました。ジャック・ルノーはレオ・ジョンソンとともにローラが殺された当日に彼女(とロネット・ポランスキ)を買っていた人物で、ローラ殺しに関連して逮捕された後、リーランドによって枕で窒息死させられました。

ジャックとベルナールの兄弟にはさらにジャン・ルノーという長兄がいて、二人の仇を討つためにクーパーの命を狙ってツインピークスにやってきました。

ジャン・ミシェルが3兄弟の何に当たるのかはわかりませんが、ジャック・ルノーにそっくりです。

 

ダギー・ジョーンズとレイ・モンローがあっさり出所

R&Rダイナーの仕事ぶりを淡々と映しながらエンディング。

いよいよ、問題の第8章に突入です。

 

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