【作品#0429】ドラえもん のび太の新恐竜(2020) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ドラえもん のび太の新恐竜

 

【Podcast】

 

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。


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【概要】

2020年の日本映画
上映時間は110分

【あらすじ】

恐竜展に遊びに来たのび太は、化石発掘体験で拾った化石を持ち帰る。その化石にドラえもんの秘密道具「タイムふろしき」を被せると本当に恐竜の卵になり、そこから双子の恐竜の赤ちゃんが生まれる。

【スタッフ】

監督は今井一暁
脚本は川村元気

【キャスト】

水田わさび(ドラえもん)
大原めぐみ(のび太)

【感想】

劇場版「ドラえもん」の第40作目で、第2期に入ってから第15作目となった。当初は2020年3月公開予定だったが、新型コロナウイルス蔓延の影響で同年8月に公開が延期となり、その影響からか興行収入は前作から20億円ほど下回る33億円のヒットにとどまった。

本作は冒頭からの展開が、第1期の第1作目「ドラえもん のび太の恐竜(1980)」、もしくはそのリメイク「ドラえもん のび太の恐竜2006(2006)」を踏襲する形になっている。さすがに恐竜映画に手を出し過ぎだし、第2期でリメイクしたばかりの作品のまたリメイクみたいな形になっている。ドラえもん映画のマンネリ化やアイデア不足は今に始まった話ではないが、ここまで来るとその深刻度合いは相当なものである。製作陣も毎度頭を悩ませていることだろうとは察するが、かなり厳しいものを感じる。

そして、本作で気になる箇所は大きく2つである。恐竜に関する新説と、描いた「多様性」というテーマである。

地球に小惑星が衝突してほとんどの恐竜が絶滅したとされるが、一部に生き残った恐竜が後の鳥類になったのではないかという新説が2018年に発表された。本作はそこからインスパイアされた物語であろう。

本作の中盤に小惑星が地球に衝突することになるが、キューとミューを助けたいのび太は歴史を改変しようとする。タイムパトロールがそれを阻止しようとして、ジルがチェックカードというカードをのび太らにかざすと、のび太らの今後の行動によって歴史が変わらないことが示される(逆時計は使わないという条件らしい)。

そして、結果的にドラえもんの道具「空間移動クレヨン」により、キューやミューらの恐竜たちは生き延びることになり、それが上述した新説に繋がるというような結末になっている。もし新説通り恐竜の生き残りが現在の鳥類になったのなら、ドラえもんが道具を使わなくても一部の恐竜は生き延びることになるわけである。ところが本作ではドラえもんの道具を使って恐竜が生き残って鳥類に進化しているかのように描かれているのだ。わざわざ「歴史を変えていませんよ」という言い訳みたいな設定を付与しているが、歴史は変えているじゃないか。別にどの恐竜が生き延びてもそれが鳥類になるわけだし、ここではそういった歴史云々ではなく、あくまでキューやミューを生き延びさせたいという願望を歴史の話に都合よく当てはめているだけだと感じる。

「歴史を改変していないから良い」というネットの一部の声を見かけたが、恐竜の化石を現代に蘇らせて過去に送り届けている時点ですでに「歴史は改変」されている。小惑星が地球に衝突するというマクロの歴史が変わらなければ、ミューとキューが助かるというミクロの歴史は変わっても別に良いと言わんばかりであるが果たしてそうだろうか。そもそもドラえもんの作品の中で描かれるのはのび太の成長というミクロの事例である。小学5年生の1人の少年という主人公にスポットを当てた作品なのだから、細かい事例なら歴史改変してよいという考えは間違っている。結局、キューとミューの命を救いたいというエゴの話になってしまっている。

それから本作で一番の問題と言えるのがテーマである。本作のテーマは製作者のインタビューなどによると「多様性」とのことだ。もっと言うと「多様性の寛容/肯定」なのだろう。ただ、本作の描いていることはそれとは全く反対の「多様性の否定」になっている。

本作でのび太は逆上がりが出来ず、キューは空を飛ぶことができないことが共通点として描かれている。キューは仲間の恐竜に遭遇すると、何の前触れもなくいきなり攻撃されて体に傷を負うことになっている。のび太は攻撃を受けた理由が「キューが小さいから、キューが空を飛べないから」だと判断して、キューが空を飛べるように猛特訓を始める。仲間の恐竜から攻撃を受けた理由も、またのび太がその理由を上述のように結論付けた理由も本作では全く明示されることはなく、のび太がそう解釈するのは話を進める上での都合でしかない。また、仲間だと思った恐竜がいきなり攻撃してくるところは、逆上がりが出来ずに馬鹿にする同級生たちに重なるところはある。

そして、のび太はスパルタの如く猛特訓をキューに課し、キューの身体はボロボロになる(これを小さな子供に当てはめたらただの虐待であることは容易に想像がつく)。のび太は自分が逆上がりができないことで仲間に入れないかもしれないという思いを経験している。そんな思いをキューに経験してほしくないからこそ、「他のみんなが空を飛べるのだから」とキューにも空を飛べるように強く当たっているのだが、この一連の描写は正直見ていられなかった。ここでは他のキャラクターはこの場面に一切関連することがない。

しかも、それを他の誰かが指摘するでもなく、のび太とキューしかいない閉ざされた孤独な世界での話として進んでいくのは非常に悲しい展開である。本来であれば周囲の誰かがのび太に「それは間違っている」と指摘するなり気付かせるなりすべきだと思う。

その後なんやかんやあってキューは空を飛ぶことができ、のび太もラストでは逆上がりができるようになるという結びになっている。本作の描き方だと、のび太が逆上がりができないことも、キューが空を飛べないこともダメなこととして描いている。「他のみんなができるのだから、君もできるようになりなさい」という話になっている。のび太が逆上がりをできないことで仲間外れにされてしまうのではないかと思ってしまうのは仕方ない。じゃあそれができないことで周囲に仲間として認めてもらえないというと、決してそうではないと思うぞ。

もし本作が多様性を訴えたいなら、のび太が逆上がりを出来なくても、キューが空を飛べなくても否定せずに受け入れることべきだろう。逆上がりが出来なくて何が悪いのか。別にのび太は逆上がりをしようとすらしていないわけではない。何度もチャレンジしたうえでそれでもできないのだ。それの何が悪いのか。確かにキューにとっては飛べないことが命取りになるが、それは弱肉強食の世界だからしょうがないというまた別の話になる。しかも、キューたちが生き残って鳥になるのだから飛べるようになれと言う歴史の押し付けみたいな都合の良い話になっている。

 

公式サイトの川村元気のインタビューによると、「2020年、多様性が叫ばれる中、それが綺麗事ではなく、人類の進化への歩みであることを語りたい。他と違う、欠点だらけに見える弱い少年・のび太と、ちいさな新恐竜が、進化・成長への第一歩を踏み出す。」と語っている。となるとやはり進化・成長への第一歩こそ、本作で逆上がりができることや空を飛べることになる。つまり、できないものは淘汰される話とも言えるわけだ。

また、のび太の逆上がりもキューが空を飛べるようになるのも、「気合いと根性」という話になっている。気合いと根性を私は否定するつもりはないが、なぜそれだけなのか。なぜ工夫して成功させようとする描写がないのか。先生や友達が逆上がりのコツを教える場面なんて描かれることもない。一人で何度も繰り返せばできるという話に見える。

 

なぜ逆上がりはできなくても他に何かできることを見つけようとする描写はないのか。のび太はキューとミューを育てる方法が分からなくなると何度も恐竜博士の元を訪ねている(深夜に窓を叩いて云々という迷惑行為は気になるが)。つまり、のび太は分からないことがあると誰かに助けを求めるという行動を取れているのだ。なのに、逆上がりは独力で臨んでいる。自分だけ逆上がりができないから意地になっている可能性はあるが、逆上がりができるようになるために何が必要なのかを考える場面はなく、ただひたすらに根気よく同じことを繰り返せばできるだろうという話になっている(繰り返すことで筋力が付いて…みたいなに好意的に解釈することはできるが)。子供にしても大人にしても「これができるんだったらそれもできるんじゃない」といった話はある。つまりのび太は困った状況を解決する手段をうまく発揮できていないのだ。こういったところこそ視野の狭くなる子供に対して周囲の大人や友達、ドラえもんが気付かせるべきだと思う。

さらに言うと、しずかちゃんを含むのび太の友人たちはのび太が逆上がりができないことを知っているのに協力するという描写もない。これだと彼らが友達であるという関係性も薄くなる。ここ最近のドラえもん映画の友情を押し出す作風を考えると相当な違和感がある。周囲の友人が協力するか、また周囲が受け入れるか、あるいは周囲の大人がそれを促すか、こういった描写こそが見に来た子供や大人たちに多様性の肯定の重要性を示すことになるだろう。

ドラえもん映画ではのび太のことを「勉強もできない。運動もできない」という風にかなり閉ざされた枠の中で判断する傾向にあり、本作もその例外ではない。また、猛特訓に嫌気が差してキューが逃げてのび太が落ち込んでいると、しずかちゃんが「のび太さんには人を思いやる優しいところがあるじゃない。そんなのび太さんが好きよ」と言ってのび太を励ましているが、のび太のキューに対する猛特訓には優しさのかけらもない(優しさを見失っているという感じであろう)。また、人を思いやる優しさは本作でもしずかちゃんの方が圧倒的に優れているという描写になってしまっている。つまり、この映画ののび太には何もないのだ。自分が育てた恐竜に愛着が湧いて意地になっているだけであり、のび太の行動に人を思いやる優しさは到底感じられない。

最終的にのび太は逆上がりができるようになって映画は終わる。逆上がりができないとか何かができないことで悩む子供は本作を見ていたら、逆上がりができないのび太や空を飛べないキューの立場に立って映画を見ることになる。そして、映画では気合と根性でそれぞれ成功して終わる。努力が報われる話と紙一重なんだが、できない側を否定しかねない、できないと周りから認められないよと言わんばかりの作品にも見える。どれだけ努力したってできない人間は必ず出てくるし、人間努力したってできないことはたくさんある。これだけ努力したんだからもういいんだよ。他に出来ることを見つけよう、あるいはほかに特異なところをもっと伸ばそうとか、ただ頑張るだけではない何か他の視点は「多様性」をテーマにするなら絶対に必要だっただろう。

結局、本作の製作陣は「多様性」について何も考えられていないのがよく分かる。このテーマなら80年代から90年代までが限界。努力が報われるというテーマと多様性というテーマは絶望的に噛み合わせが悪い。

またもや恐竜に手を出し、すでにリメイクで描いたのと同じような話で始め、気付けば脚本家の川村元気がプロデュースした「君の名は(2016)」みたいな話になっていく。さらには、多様性の肯定をテーマとして謳いながら、その多様性を完全に否定している。周囲が出来ていて自分だけできないなら、気合と根性で何とかしないと否定されるという結末になっている。もし逆上がりが出来なくて悩んでいる子供たちが本作を見たら、確かに逆上がりを頑張ろうとをもうかもしれないが、できないとダメなんだと思ってしまうぞ。そんなナイーブな子供心を全く理解せず、何かを「できる側」の人間が作った他者を思いやらない物語である。こんな映画で多様性を描けたと思っているのなら残念としか言いようがない。ドラえもん映画で酷評した作品は多々あったと思うが、本作は本当に本当にどうしようもない駄作中の駄作。


【関連作品】
 
ドラえもん のび太の恐竜(1980)」…劇場版1作目
ドラえもん のび太の宇宙開拓史(1981)」…劇場版2作目
ドラえもん のび太の大魔境(1982)」…劇場版3作目
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ドラえもん のび太のパラレル西遊記(1988)」…劇場版9作目
ドラえもん のび太の日本誕生(1989)」…劇場版10作目
ドラえもん のび太のアニマル惑星(1990)」…劇場版11作目
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ドラえもん のび太と雲の王国(1992)」…劇場版13作目
ドラえもん のび太とブリキの迷宮(1993)」…劇場版14作目
ドラえもん のび太と夢幻三剣士(1994)」…劇場版15作目
ドラえもん のび太の創世日記(1995)」…劇場版16作目
ドラえもん のび太の銀河超特急(1996)」…劇場版17作目
ドラえもん のび太のねじ巻き都市冒険記(1997)」…劇場版18作目
ドラえもん のび太の南海大冒険(1998)」…劇場版19作目
ドラえもん のび太の宇宙漂流記(1999)」…劇場版20作目
ドラえもん のび太の太陽王伝説(2000)」…劇場版21作目
ドラえもん のび太と翼の勇者たち(2001)」…劇場版22作目
ドラえもん のび太とロボット王国(2002)」…劇場版23作目
ドラえもん のび太とふしぎ風使い(2003)」…劇場版24作目
ドラえもん のび太のワンニャン時空伝(2004)」…劇場版25作目
ドラえもん のび太の恐竜2006(2006)」…2期劇場版1作目
ドラえもん のび太の新魔界大冒険〜7人の魔法使い〜(2007)」…2期劇場版2作目
ドラえもん のび太と緑の巨人伝(2008)」…2期劇場版3作目
ドラえもん 新・のび太の宇宙開拓史(2009)」…2期劇場版4作目
ドラえもん のび太の人魚大海戦(2010)」…2期劇場版5作目
ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団〜はばたけ 天使たち〜(2011)」…2期劇場版6作目
ドラえもん のび太と奇跡の島〜アニマル アドベンチャー〜(2012)」…2期劇場版7作目
ドラえもん のび太のひみつ道具博物館(2013)」…2期劇場版8作目
ドラえもん 新・のび太の大魔境〜ペコと5人の探検隊〜(2014)」…2期劇場版9作目
ドラえもん のび太の宇宙英雄記(2015)」…2期劇場版10作目
ドラえもん 新・のび太の日本誕生(2016)」…2期劇場版11作目
ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険(2017)」…2期劇場版12作目
ドラえもん のび太の宝島(2018)」…2期劇場版13作目
ドラえもん のび太の月面探査記(2019)」…2期劇場版14作目
「ドラえもん のび太の新恐竜(2020」…2期劇場版15作目
「ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021(2021)」…2期劇場版16作目
STAND BY ME ドラえもん(2014)」…3DCG劇場版1作目
STAND BY ME ドラえもん2(2020」…3DCG劇場版2作目



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├縮刷版シナリオ(112ページ)
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<小説>

 

著者

├川村元気

出版社

├小学館

長さ

├257ページ