【作品#0430】北国の帝王(1973) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

北国の帝王(原題:Emperor of the North Pole)


【概要】

1973年のアメリカ映画
上映時間は122分

【あらすじ】

大不況の1930年代のアメリカ。職を求めて無賃乗車で放浪を続ける浮浪者(ホーボー)と、そんな浮浪者を追い払おうとする車掌の対決を描く。

【スタッフ】

監督はロバート・アルドリッチ
音楽はフランク・デヴォール
撮影はジョセフ・F・バイロック

【キャスト】

リー・マーヴィン(エース・ナンバーワン)
アーネスト・ボーグナイン(シャック)
キース・キャラダイン(シガレット)

【感想】

リー・マーヴィンとアーネスト・ボーグナインが揃ってロバート・アルドリッチ監督作品に出演したのは「特攻大作戦(1967)」以来となった。ちなみに映画のタイトルとなった「北国の帝王(Emperor of the North Pole)」は、当時、世界最高のホーボーが北極の帝王になるだろうという彼らの間のジョーク(誰も住んでいない北極で帝王になっても意味がない)から取られているようだ。また、当初監督予定だったマーティン・リットは解雇され、サム・ペキンパーにオファーされたが金銭面で同意できず、ロバート・アルドリッチに白羽の矢が立ったようだ。

いかにもロバート・アルドリッチ監督らしい男臭い映画に仕上がっている。何と言っても女性はたったの2人しか出てこない(列車内でムダ毛の処理をする女性と河で儀式を受ける女性)。それからポスターイメージも良い。エースの股越しにシャックが鎖を持ってこちらを向いている画は本作のイメージにぴったりである。

本作は無賃乗車をする中年の男とその男を意地でも追い払おうとする中年の男の戦いを描いている。この文言だけ見るといかにも馬鹿らしい話ではある。ホーボーのエースは、無職でありながら最低限の尊厳を保とうとしているのか終始スーツを着用しているが、無賃乗車をして都市へ向かい仕事を探しているという訳ではない。ホーボーを追い払う嫌なシャックという男の列車の19号車に乗り込むことが目的であり、それができるかを列車の運転手なども賭けの対象にしているほどである。無職のエースが鉄道員として働くシャックを打ち負かしたいだけである。

シャックは本作における完全なる悪役で、彼に関わるほぼ全員から嫌われている。この役はアーネスト・ボーグナイン以外に考えられないほどはまっており、彼の顔がアップになり、ぎょろっとした大きな目で相手を睨みつける表情は最高である。彼は自分の所有物とも言える、そしてステータスとも言える列車を誰にも奪われたくない、貶されたくないと思っており、そのためにとる行動は暴力的で執念深いものがある。シャックだって転落すればホーボーのような底辺での生活が待っているかもしれないのだ。そして、このシャックは列車の上でこそ力を発揮するが、いざ列車から降りるとホーボーたちを追いかける程の力もない。

そんな彼らに割って入ってくるのがキース・キャラダイン演じるシガレットという愛称の若者である。シガレットは口だけは達者で実は何もわかっていないし、何もできない若者である。基本的にエースに付いて来ているだけなのに、何かがうまくいくと自分の手柄だと勘違いしているほどである。このシガレットを主人公に話を作ればニューシネマ期の湿っぽい作品になったかもしれないが、本作の主人公はエースとシャックという中年の男であり、このシガレットはキャラクターの配置としても俳優の魅力としても圧倒的に劣っており、ラストの決闘ではただの傍観者に過ぎないのである。

エースとシガレットのバディものの側面もあるが、基本的にエースはシガレットの相手をしていない。エースが坂道の下にいて、シガレットがそれを見下ろすショットが何度か登場する。シガレットが立ち位置としては上なのに、下にいるエースの方が余裕があるという構図は面白く、シガレットは坂道をまともに降りることができずに転げ落ちているのだ。

また、エースとシガレットが列車の下に潜りこんでいると、シャックは紐で結んだ鉄の棒を列車の下に落とし、その鉄の棒が地面に当たる度に跳ねてエースとシガレットを攻撃するという、映画でもあまりお見掛けしない場面がある。鉄の棒なんていかにも男性的だし、その攻撃をシガレットが受け続け声を上げるシーンは笑えてくる。そこではエースが助けたのに、後に同じ場面になってエースが苦しんでいてもシガレットは助けることはない。ここがラストでエースがシガレットを川に突き落とした最大の要因となった場面であろう。こういった場面の繰り返しが本作では非常に効果的である。

ラストはエースとシャックの一騎打ちになる。ただの殴り合いから木材を使い、鎖、斧と武器の殺傷能力はどんどん過激になっていく。一度列車から落ちそうになったシャックを「まだ戦いは終わっていない」と言って引き上げるところはいかにもエースらしい。その後はエースがシャックを斧で攻撃し、列車から突き落として決闘は終わる。そして、ただの傍観者だったくせにまだ偉そうなシガレットもエースは突き落とす。年を重ねて経験を積んできたからこそエースはシャックにもシガレットにも負けなかった。

ロバート・アルドリッチ監督らしい反骨精神全開の男臭い良作で、鑑賞後もエースの雄たけびが耳に残り続ける。

【音声解説】


参加者
├ディナ・ポーラン(映画歴史家)


ニューヨーク大学映画学科で教授をやっている映画歴史家のディナ・ポーランによる単独の音声解説。ロバート・アルドリッチ監督作品内での位置づけ、70年代の類似作品との比較、映画内の登場人物やキャラクターの配置から読み取れるメッセージなどについて指摘しており、大学で教鞭をとっている人だからこそ話せる非常に聡明な音声解説であると感じた。



取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【ソフト関連】

 

<DVD>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

音声特典

デイナ・ポーラン(映画歴史家)による音声解説

映像特典

├オリジナル劇場予告編
├TVスポット #1
├TVスポット #2
├隠しコマンド:“EMPEROR OF THE NORTH POLE"TRAILER

 

<BD>

 

収録内容

├上記DVDと同様