吉本ばななさんの最新短編集。帯にびっくりすることが書いてある。「この本が出せたから、もう悔いはない。引退しても大丈夫だ」いやほんとに引退するわけじゃなくて、こうしてまたひと山越えるような気持ちで、この先も書いていく、ということらしいんだけど、そんなこと書かれたら期待せずにはいられない。


したら、ま~よかったんですよ、これが。近年、社会問題を扱った小説とか本をなるべく読むようにしていて、それはそれで価値観がアップデートされる感じがあっていいんだけど、あんまりそれが続くとだんだんしんどくなってくる。いやこれは今も社会のどこかの誰かのしんどさなのだ、目をそらしてはいけない、と思うけれども、正直いってたまには休みたい。


ここに収録されている小説たちはどれも、なんつーか、社会問題としては注目してもらえないような、個人的すぎる、けれども自分にとってはとても大切な時間や場所や人間関係のことが、じつに静かにさりげなく織り込まれていて、そういう何気ない毎日のなかで、人間が生きていくことのひみつに触れる、まさにその瞬間のことをひとつも外さずに突いてくる。さりげなさすぎてみんながスルーしてしまうことを、忙しない現代社会を生きるわたしたちにもわかりやすいように翻訳して目の前に見せてくれるような。


そんで、たぶんこの主人公たちは、周りからみたら「ちゃらんぽらんに生きてる、甘すぎる人生」とか思われていて、思われるだけじゃなくて何度もよく知らないおせっかいな人から怒られたりもしていて、でも彼らは彼らの中にある、生きることに対する真剣さを、わかってもらえなくてもあきらめずに持ち続けるだろう、ということにとても励まされる気持ち。


私がいちばん好きな作品は、ぶっちぎりで『情け嶋』。この先何度もこの小説に帰るだろうという予感がする。今まで読んだばななさんの小説の中でもトップクラスに好き。読んでよかった!

 

 


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