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「千亜さんてさー、土方さんと僕だったらどっちと付き合う?」
「ちょ、何その質問」
唐突な質問にカフェオレを噴き出しそうになるのを堪えながら応える。
「じゃあ左之さんと僕だったら?」
「待って、その質問何の意味があるの?」
「気になったから」
いたずらっ子のような笑みを浮かべて私の顔を窺う沖田くん。
その表情を見ながら私は小さく息を吐いた。
「あのねー。からかうのはよしなさい。ほら、もう稽古時間になっちゃうよ。行きなさい!」
「ふーん。僕、千亜さん満足させる自信あるけどな」
「何の話してんの!」
私がそう言えば目を細めて心底楽しそうにニヤリと笑う沖田くん。
「え、デートの話。千亜さん何考えたの?」
「だからからかわないの!沖田くん、ご飯もおかずも少なくするよ!」
「’なし’じゃないんだ。千亜さん優しいね」
立ち上がりながらカラカラと笑う。
私は少し悔しくて目を細めて軽く睨んでみる。
「ほら、いってらっしゃい!!」
「はーい」
後ろ手で手を振りながら立ち去る沖田くんを見送る。
息を吐いて自然と零れた笑み。
飄々としてる彼だけど、主将として頑張ってるんだろうな。
下は幹部の背中を見てついてくるからね。
一息ついて、カフェオレを飲む。
ソファにもたれて開いている窓から空を見上げた。
青い空に山際から入道雲が顔を出している。
窓から入ってきた風が前髪をくすぐる。
「誰と付き合う…か」
沖田くんの言葉を思い出す。
沖田くんはからかうだけだから除外として。
土方さん…?
左之…?
左之は彼女いるし…。
ぃや、土方さんだって好みがあるだろうし、土方さんが私のことなんて…。私は…。
「何、百面相してるんだ?」
「ひ!土方さん…」
目の前に現れた土方さんを見て身体が跳ねた。
「そんな驚かなくてもいいだろ。どうした、考え事か?」
「な、何でもないです。土方さんはどうしたんです?」
「ああ、コーヒー飲みにな。練習前に一服もしてぇし」
「そう、ですか」
自販機に向かいコーヒーを買う彼の姿を見ながら応える。
コーヒーを取った土方さんはさっきまで沖田くんが座っていた場所に身体を預ける。
そして土方さんの真っ直ぐな視線が私を捕らえた。
「どうした、どこか具合でも悪いのか?」
「大丈夫ですよ。一息入れてただけですから」
私が笑えば「無理するなよ」と溜め息混じりに口元に笑みを浮かべた。
「そういや高橋、明後日のトレッキングは来なくていいぞ」
「え?」
トレッキングは部員にとってはある意味合宿の最初の難関。
疲れが溜まってきた頃に行うトレッキングはかなりの疲労になる。
私も付いて行くもんだと思ってたんだけど…。
「少しぐらい休む時間も欲しいだろ。のんびりしてろ」
「じゃあお言葉に甘えますね。ありがとうございます」
そう応えれば「ああ」と土方さんの優しい声が届いた。
それから少しの間、会話もなく二人してコーヒーを飲む。
その時間はどこか心地いいもので。
心のどこかで「ずっとこうしていたいな」なんて思った自分がいることに少し驚いた。
「さてと。行くか」
「はい、頑張ってくださいね。鬼もほどほどに」
私がそう言えば鼻で笑って、コツンと指先で頭を小突かれた。
くすぐったい感情になりながらも土方さんの背中を見送る。
昔、左之と付き合ってた頃、私を良く思ってなかった女子に突っかかれてた時とか
土方さんに助けてもらったりしたな…。
そんなことを思い出す。
学生の頃はわからなかったけど、周りのことをよく見てくれてるんだよね。
それは今も変わらなくて。
この時の私は土方さんを「先生」ではなく、
1人の「男の人」として見始めている自分にまだ気付いていなかった。