細胞分化のシナリオを書き換える~ガードン教授から山中教授まで 日経サイエンス | 再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞-

細胞分化のシナリオを書き換える~ガードン教授から山中教授まで 日経サイエンス

「やはり来たか」「意外に早かった」──。ノーベル生理学・医学賞の発表で「シンヤ・ヤマナカ」の名が読み上げられた時、そう思った人は少なくない。誰もが「いつかは」と思っていたが、実際に人工多能性幹細胞(iPS細胞)の臨床応用が始まってからだろう、との観測が強かった。
早期の受賞となったのは、iPS細胞の作製が、医療応用ではなく「細胞が分化していくとはどういうことか」という生物学の根本問題に答える基礎的な成果として評価されたためだ。身体の細胞の分化のプログラムを巻き戻し、発生初期の胚だったときのように、どんな細胞にもなり得る「万能性」を持たせることができる。その発見は、細胞分化に関する従来の考え方を根本的に変えた。
山中教授の研究の源流には、共同受賞者であるJ.B.ガードン教授の実験がある。動物の身体は、もとは1個の受精卵だ。それが分裂を繰り返し、皮膚や心筋など、特定の形と機能を持った細胞に分化していく。かつて細胞はこの過程で必要のない遺伝子を失うと考えられていた。だがガードン教授は1962年、オタマジャクシの小腸の細胞から取り出した核を、元の核を壊した未受精卵に移植し、カエルに成長させた。小腸細胞という分化した細胞の中で、丸ごとのカエルを作れるだけの遺伝子が保存されていることを証明したのだ。
細胞が種類ごとに異なるのは、不要な遺伝子がなくなったからではなく、細胞内で働き、タンパク質を作る遺伝子のセットが違うためだ。だから細胞の核を「リプログラミング(初期化)」すれば、もう一度万能性を持たせることができる。
ガードン博士が用いた体細胞の核移植という方法は、1997年にI.ウィルムット博士が哺乳類に応用し、クローン羊「ドリー」の誕生につながった。
ドリーから約10年後の2006年、山中教授は核を未受精卵の中に移植するという手順を経ずに、体細胞をリプログラミングできることを示した。それまでリプログラミングには卵細胞が持つ何らかの作用が必須と考えられていたが、たった4つの遺伝子を入れるだけで、皮膚の細胞が直接に万能細胞になることを示し、研究者らを驚かせた。
かつて分化は、初期胚の時に山頂にいた細胞が山を下りるにつれ、皮膚や心臓、神経などどこかの谷に落ちていくことに例えられた。変化は一方通行で、一度どこかに落ちたら、間の壁を越えて別の谷に移ることはないとのイメージだ。だがそうではない。分化は「確率論的に徐々に可塑性を失っていくプロセス」(山下潤京都大学iPS細胞研究所教授)。強力な転写制御因子などの強い外力が働けば、壁は越えられるとの描像に取って代わられた。
細胞分化は「遺伝子を失って機能が固定化する過程」から、「少数の遺伝子によって制御され、直接に操作可能なもの」へととらえ方が変わった。現在では皮膚細胞に遺伝子を導入し、iPS細胞を経ずに直接に別の細胞を作るといった研究も進んでいる。
(日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGG2301A_T21C12A0000000/




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