山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 昨夜から口内がやけに痛む。睡眠が阻害される程に激しいわけではないが、患部に物が接触する度に鋭い痛みが走るので食事の際には細心の注意が必要になる。異常は奥歯付近を中心として発生しているのだが、原因が口内炎なのか虫歯なのかは判然としない。なるべく刺激を与えないように注意しながら慎重に舌で舐め回して口の中を探ってみるのだが、歯茎が広範囲に腫れているので患部を絞り込む作業が困難である。
 
 それで原因がわからないまま夜が過ぎて朝を迎えた後も事態を放置していたのだが、道を歩いていて咳き込んだ拍子に唇の隙間から白い固形物が飛び出てきたのに驚かされて反射的に足を止めた。路上に転がった物体を目で追うのと同時に舌で口内を探ってみると奥歯の一本がない。それは視界の中に居場所を変更したのである。こんなにも呆気なく歯が抜け落ちた経験がないので私は事実の許容に抵抗を覚えたが、舌や目で何度確認しても状況は変化しなかった。
 
 欠落は奥歯だけではなく、痛みにも及んでいた。舌で歯茎を舐めると早くも腫れが治まっていくように感じられた。これらは喜ばしい事実のはずだったが、私は血の味を感じ取りながら頼りない気分を覚えていた。そして、道端にしゃがみ、路上に転がった奥歯を凝視した。それは既に自分とはまったく関連がない物体であるように見受けられた。それとの間に存在していたはずの絆は断ち切られていた。そして、生命はこちらを選択し、歯には継承されなかったのだった。
 
 奥歯に痛みの原因があったとしたら不用意に接触すると伝染するかもしないと直観したので私は棒切れを拾い、軽く小突いてみた。すると、歯はころころと転がった。今もその内部に痛みが含有されているのだろうか、と考えた。昨夜は雨が降っていたようで路面がまだ少し濡れていた。ちょっと哀れに思われたので私は鞄からハンカチを取り出し、それに奥歯を包んだ。直接触れないように注意した。そして、その処置をどうしようか迷いながら立ち上がり、鞄に仕舞って再び歩き始めた。

目次(超短編小説)
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