冬の小人 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 寒いので全身が縮まったように感じている。街で擦れ違う人々が重ね着をしていて大きく見える。それで、余計に自分が小人になったかのような錯覚を受けている。
 
 見上げると分厚い雲が空の低い場所を覆っていて、そのせいで世界全体が随分と窮屈になったような印象が感じられる。背筋が小刻みに震え、そろそろ圧縮傾向が臨界点に達しようとしているという警告を発している。自分ばかりではなく、周辺一帯の空気も同様に震えているように感じられる。視界の中で景色が振動し、境界を失い、曖昧になってきている。輪郭が薄れ、色彩が薄れ、明暗が薄れてきている。
 
 私はふと悲鳴を発したいという衝動に駆られる。或いは、泣き出したいような気分に陥っていく。何事かを鮮明にしたいと願う。全速力で走り出そうか、と思い付く。拳で壁を殴り付けようか、とも考えてみる。
 
 しかし、実際にはただ茫然としたまま道端に佇んで空を見上げている。雲の隙間から太陽が顔を覗かせる瞬間を待ち構えている。早く季節が移り変わらないものか、と期待している。

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