大男の跳躍 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 大男は四つん這いの姿勢で地表を移動する。図体があまりにも巨大なので真っ直ぐに直立すると頭部が成層圏を突き抜けて呼吸に支障が出る。彼は毎日多量の食料を摂取しなければならないが、それを確保する為には一箇所に留まるわけにはいかず、惑星中を絶えず放浪し続けなければならない。彼の食欲は餌場となった地域の生態系に多大な影響を及ぼす程に旺盛だ。とにかく、動物だろうが、植物だろうが、生物ならば見境なく何だって食べる。料理はしない。すべて生のまま食べるのだ。しかし、それでも彼は今までに一度たりとも満足感を覚えた試しがない。この惑星の生物はすべて小さく、それらをどれだけ口に放り入れたとしても常に何らかの栄養が不足しているように感じられる。例えば、どれだけ豊かな森林が足元に広がっていたとしても、その体積は惑星の表面を薄く覆う程度でしかないので規格外の巨体とはまるで釣り合わないのだ。しかも、そこに棲息するすべての種を絶滅させて大地を不毛な砂漠に変えるわけにはいかないので根こそぎ喰らい尽くすわけにもいかない。
 
 時々、大男はなぜ自分の肉体だけが他の動植物と比較して不自然なまでに大きいのだろうか、と考えてみる。しかも、異性として大女が存在するわけでもなく、このままでは子孫を残せる見込みもない。それどころか、彼は自分の親を知らない。植物のように地面から生えてきたのかもしれないが、それにしても同種の生き物をまったく見掛けないという事実はかなり奇妙である。大男は自分の出自がこの窮屈な惑星にはないのではないかと疑う。空のどこらから落ちてきたのではないかと見当を着けてみる。宇宙はこの惑星よりも格段に広い。そこにこそ自分にふさわしい世界が存在しているはずだと大男は直観する。では、どの天体が一番大きいだろう?彼は月を見上げ、直立してから思い切り跳躍してみる。しかし、惑星の引力からは解放されない。着地に失敗して盛大に尻餅を着いたので付近一帯に砂埃が舞い上がった。

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