月玉 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 一人きりで夜道を黙々と歩いていると周辺の景色が普段よりも全体的に幾分か明るいように見受けられる。そのせいで頭の中が冴え渡ってくるような気がする。常日頃よりも意識自体が広々として感じられて爽快である。
 
 天空の地面に近い場所にはこの惑星に一つしかない満月が浮かんでいる。豊かな光量だ。大気が澄み切っているせいだろうか、いつもよりも白っぽい。それに、随分と距離が近しく感じられる。雲は漂う高度によって何層かに分かれている様子だが、月は下から二層目のすぐ向こう側に位置しているように見える。そして、無数に瞬く星々はどれも小さ過ぎて目測では距離感がはっきりと掴めない。
 
 大きな満月のせいで夜空全体が小さくて窮屈に見える。それによって覆われている範囲はせいぜい私が暮らす街くらいだろう。なんとなく世界が縮尺したように感じられる。普段ならば宇宙空間における天体の運行などに思いを馳せて雄大な気分を味わったりもするが、今夜ばかりはそんな学術的知識に基づいた想像を弄ぶ気にはならない。現実感が伴う見込みがないからだ。いっその事、知らぬ間に小人の国に迷い込んだのだと考えた方が気分がすっきりとなるに違いない。それくらい、自分を取り囲むすべてが空々しい絵空事であるように思われている。
 
 そして、そのような視点に立って物事を捉えるならば、満月さえも実に愛らしい存在だ。実際、表面に幾つもクレーターがあるせいで小さな石ころのように見えている。指先で触ればざらりとした質感であろう。ぽかんと殴れば古い陶器のように呆気なく割れそうだ。私は歩きながら、「月玉」という造語を思い付く。それで、さらに愛しさが募っていくように感じられる。

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