光との逢瀬 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 視界の横から強烈な光線の放射を浴びたので私はバスがヘッドライトで夜道を照らしながら接近してきたのかと思って顔を持ち上げた。すると、バス停の斜向いにある公園に巨大な光体が浮遊していた。眩しいので正確な大きさは推し量れなかった。音はなく、動きもなかった。初めて見る物体だったので私は興味津々で見入ったが、立ち上がって近付いていこうとは考えなかった。ベンチに腰掛けたまま事態の推移を見守る事にした。互いの存在を尊重するには現状の距離をしておく事が肝要だと直観していた。初対面であるにも関わらず、なんとなく気心が通じ合っているような気がしていた。
 
 その夜以降も同じような時間帯にその光体を目撃した。ほとんどの場合は仕事帰りであり、場所は最初に発見したバス停の近所が多かった。相変わらず正体は不明だったが、何度か邂逅を重ねている内に大きさは拳大程度であり、人間が歩くのと同じくらいの速度で移動できる事もわかってきた。しかし、私は距離を埋める努力をしなかった。常に遠い場所から眺めていた。光体は滅多に身じろぎしないので大抵は私の方が根負けして視線を外した。光体はその拍子に消え去る場合が多かった。その時にはいつも私は切なくて仕方がない気分になった。
 
 仕事からの帰り道にはいつも逢瀬を期待して胸を躍らせていたが、実際には遭遇しない日の方が多いので非常に頼りない気分が続いた。それに、いつか今の関係が終焉するという予感があった。なにしろ正体も思惑も一切不明なのだった。ある日を境にふいに現れなくなるかもしれなかった。私はあまり期待を強めないように心掛けた。胸の奥深くに落胆と寂しさばかりが募っていく事態を警戒していた。しかし、それでも私は夜道を歩くと視野が輝く瞬間を待ち焦がれるのだった。その心の動きを止められなかった。

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