特別な記念日というわけでもなかったのだが、恋人が私の自宅に訪れた際にプレゼントとして卓上照明器を持ち込んだ。それはおかしなデザインの代物で、数十個もの豆電球が平板に整然と並んでいた。彼女の説明によると、街中の古道具屋でそれを見掛けた瞬間、いつか私が可愛らしさを感じる物の一例として豆電球を挙げていたのを思い出し、是非ともこれをプレゼントしなければならないという奇妙な使命感に駆られたらしいのだった。
私は彼女との間でそのような会話が交わされた事などすっかり失念していたのだが、期待に満ちた視線が横顔に差し向けられてくるのを察知したので笑顔で礼を言っておいた。ただ、確かに豆電球自体は可愛らしいような気がするのだが、それが数十個も集合すると不気味に感じられなくもなかった。異常大量発生した小型動物の群れや、水生生物の卵などを連想させるのだった。
せっかくなので早速コンセントを繋げて点灯させたのだが、数十個の豆電球が一斉に光を放つ様は予想していた以上に壮観だった。その瞬間には私も胸が躍るように感じられた。丸い真空管内で発光するフィラメントが心中にぬくもりを灯してくれた。私はなんとなく懐かしいような気持ちになった。
ただ、卓上照明器として読書などに用いるには光が弱々しいのではないかという懸念があった。それに、もう一つ気掛かりだったのは、あまりにも密集していて隙間に指が入りそうにないので交換が難しいのではないかという点だった。例えば、中央部にある豆電球が寿命を迎えた場合、それを取り替える為にはまず端から順番に一個ずつ回転させて外していかなければならないのだった。私はその作業の手間を考えて気分がうんざりとなるように感じたが、それでも片時も笑顔を絶やさなかった。恋人と肩を寄せ合って和やかに談笑しながら何度も豆電球の点けたり消したりを繰り返し、そのささやかな行為をいつまでも続けていたいと願っていた。
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