蟻達と機械 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 公園でパンを齧りながら蟻達の活動を見守る。彼等は隊列を組み、一定の幅を保持しながら移動している。数は多いのだが、滅多に行列から外れる個体がない。整然とした集団行動である。まるでプログラミングされた機械の単純な動作の繰り返しを見守っているような気がしてくる。その小さな肉体に高度な知性が宿っているとは想像し難いのだが、その活動を観察していると社会が形成されているという事実を認めざるを得ない。数多の個体がただ目的もなく集合しているわけではないのである。これだけ細かな動物でも可能なのだから人間ならば社会的に有為な存在として自分自身を律する事など簡単であるはずだという印象を受けるが、実際にはそうではない。だからこそ、私はこうして誰もいない公園で一人きりでパンを齧っているのである。
 
 しかし、ひょっとしたら蟻には単独で自らの食事を用意して摂取するという行動の選択肢がないのかもしれない。選択の幅が広いせいで躊躇できるのならば人間の方がやはり高踏な生物なのだろう。その推察を証明しようと私はパンの欠片を蟻達の行列の近くに置いてみる。彼等はそれをさらに細かく千切って巣に持ち帰らざるを得ないはずである。本能には逆らえないのだ。生物といってもプログラミングされた機械と同様に行動は単純明快で画一的なのである。しかし、私の予想に反して蟻達はなかなかパンに集合しない。
 
 焦れったいので私は次に行列に変化を加えてみようと考え、それを遮るように石ころを置いてみる。すると、蟻達は右に迂回したり、左に迂回したりする。石を乗り越えようと試みたり、来た道をそのまま引き返す個体もいる。その様子を観察して私は蟻達が少なくともプログラムされた機械よりは多彩で場当たり的な行動を取れると認識を改めた。

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