黒巨鳥が舞う冬 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 どんよりとした曇り空を見上げると一羽の黒巨鳥がゆったりと街を睥睨しているかのように旋回している。一般的な傾向として寒冷地に居住する動物は体温の低下を防ぐ為に大型化するらしいが、あの鳥もその例外ではない。夏期は惑星の極地付近で活動しているらしいが、毎年冬の訪れと共に街の付近にも飛来する。しかし、それでも人間の目に触れる機会はあまり多くない。大抵は雲よりも高い所を飛行しているし、人類に対して警戒心を持っているので地面にはほとんど近付かないのである。
 
 滅多に見られない光景なので私は道端で立ち止まり、白い息を吐きながら観察する。姿が大きくて威圧的な雰囲気を漂わせているが、肉食動物ではないので危害が加えられる心配はいらない。その鳥は植物に似た特殊な生態を持っていて、二酸化炭素と陽光から栄養分を生成して活動している。しかも、水分を雲から摂取しているので子育ての時期以外は地面に下り立つ機会が滅多にない。ただ、姿は黒い。これは植物のような緑よりも陽光の吸収効率が高い為であると考えられている。
 
 彼等の存在によって大気中の二酸化炭素濃度は低下して寒冷化が進行し、そのせいで肉体がさらに大きく進化していく。いずれ、そうした循環の影響でこの惑星は氷河期に突入し、全球凍結という状況まで引き起こされるかもしれない。それでも黒巨鳥は生き残るだろう。人類は生きていけない。だから我々は巨鳥を狩る必要があった。かつての話だ。彼等の動作は非常に鈍い。植物と同じ原理でしか栄養を摂取できないし、元々天敵が存在しなかったからだ。だから戦闘機を操る人間にとっては狩り放題だった。そのせいで個体数が激減し、一時は絶滅の危機に瀕した。
 
 しかし、今では希少種として保護の対象にされていて人間の居住地でもちらほらと姿が見られるまでに数が回復している。いずれ、また大量の黒巨鳥によって空が覆い尽くされ、地面にまで陽光が届かなくなるといった状況が再現されるかもしれない。昔はそれが冬恒例の風物詩だったのだ。しかし、そうなれば再び害鳥として駆除されるだろう。日照不足が冬の気候をより険しくさせて人類の生活にまで深刻な悪影響が及ぶのだから仕方ない。我々は常に彼等の個体数に留意し、適切に調整を行わなければならないのである。

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