屋上の長椅子に座って読書をしている。その本は特殊な素材で出来ていて陽光が翳ったとしても瞬時に紙面上の明度を安定させる機能が働く為に非常に活字が読み易い。それに、防菌機能もあるので清潔である。
私は水が入ったコップを傍らに置き、それを時たま口に運ぶ。今日は暖かいが、風が強い。洗濯物がよく渇くはずである。書物から視線を外して空を見上げると白い雲が幾つも浮かんでいる。かなりの速度で移動している様子である。よく観察すると、すべての雲が悉く一方向に流れているわけではないという事実に気付く。上空と底辺では風の向きが異なっている様子なのである。なかなか複雑な動きであると感心させられる。
そして、空の広大な体積に魅了される。これこそが死ぬ瞬間に見るべき風景であると直観する。そこに看護師が現れる。病室に戻ろうと言ってくる。私は拒否する。断固とした態度で拒否する。
目次(超短編小説)