【作品#0772】007/ゴールデンアイ(1995) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

007/ゴールデンアイ(原題:GoldenEye)

【概要】

1995年のイギリス/アメリカ合作映画
上映時間は130分

【あらすじ】

ロシアの犯罪組織「ヤヌス」のゼニアが秘密基地にある衛星兵器「ゴールデンアイ」を盗み出した。英国諜報機関のジェームズ・ボンドは基地の生存者と接触すべくロシアへ向かう。

【スタッフ】

監督はマーティン・キャンベル
音楽はエリック・セラ
撮影はフィル・メフュー

【キャスト】

ピアース・ブロスナン(ジェームズ・ボンド)
イザベラ・スコルプコ(ナターリア)
ショーン・ビーン(アレック)
ファムケ・ヤンセン(ゼニア・オナトップ)
ジュディ・デンチ(M)

【感想】

前作「007/消されたライセンス(1989)」からシリーズでは最長となる6年の空白期間を経て製作されたシリーズ17作目は、シリーズでも最高となる全世界で3億5千万ドルを超えるヒットを記録した。4代目ジェームズ・ボンドに抜擢されたピアース・ブロスナンは3代目に就任する機会もあったがドラマシリーズの契約の関係で実現せず、ようやくジェームズ・ボンド役を演じることになった。

また、イアン・フレミングの原作を元にしていないオリジナル脚本としてはシリーズ初の作品となり、当初はティモシー・ダルトンが続投することを想定してダークで現実的な脚本だったらしい。さらに、製作中に公開された「トゥルーライズ(1994)」と似た設定があったため脚本に変更が加えられたそうである。

そして、ジョン・ウーやレニー・ハーリンは監督のオファーを受けたが実現せず、低予算アクション映画を手掛けていたマーティン・キャンベルが監督を務めることになった。ちなみに、マーティン・キャンベル監督はダニエル・クレイグが初めてジェームズ・ボンドを演じた「007/カジノ・ロワイヤル(2006)」でも監督している。

まず、4代目ジェームズ・ボンドを演じたピアース・ブロスナンだが、見事に馴染んでいる。前任者のティモシー・ダルトンに比べると体の線の細さは感じるが、一仕事終えた後のユーモアある一言が何とも決まっており、どこか堅苦しい印象もあったティモシー・ダルトンのボンド像と差別化も出来ている。

また、こちらもティモシー・ダルトンよりかは遥かに男前の俳優をキャスティングしたことでボンドガールとの色恋も期待されたことだろうが、本作で体の関係を持つことになるのはナターリアだけである。これはティモシー・ダルトンがボンドを演じた1980年代後半にエイズが流行し、映画の主人公が複数の女性と関係を持つことを控えたという流れを汲んでいるのだろう。ボンドも女性関係についてMから言及されてそれに従うようなセリフで返している。あちらもこちらも手を出すよりかはよっぽど印象が良い。

なので、本作はファムケ・ヤンセンが演じた悪女ゼニア・オナトップ(ちなみにオナトップは「On a Top」であり、女性上位の意にも取れるように日本語字幕があった)が目立つのだが、あくまでボンドとナターリアの物語に着地している。ただ、彼らが恋仲に落ちるのはあまりにも唐突だし、ドラマが積み上げられた印象は全くない。彼らが結ばれるのありきだったとしても、ボンドとナターリアは最後の最後に結ばれた方が良かったように思う。また、ここまで二人のボンドガールを対極の印象で描いたのも珍しい。フェロモン全開で色っぽさを全面に押し出したゼニアと、理系女子で露出はかなり控えめのナターリア(終盤前に水着シーンこそあるが、ビキニだけというわけではなくパレオを身に着けている)。

一つ指摘しておきたいのは、列車に閉じ込められたボンドとナターリアがなんとか脱出して走って爆破を逃れた場面。座り込んだ二人が会話する場面で、走っていた二人だから息切れしている。ただ、ナターリアの息が整ってもボンドはまだ息切れを起こしている。これはナターリアを演じたイザベラ・スコルプコとある意味息が合わなかった場面だろう。

そして、ジェームズ・ボンドの上司Mを演じてきたのは1代目バーナード・リー、2代目ロバート・ブラウンといずれも男性であったが、3代目Mは女優のジュディ・デンチが演じることになった。さらに、このジュディ・デンチ演じるMにはジェームズ・ボンドに対してはっきりとした主張までしている。この場面はどう見てもこの時代にスパイ(あるいはスパイ映画)が必要であるのかという観客からの問いに対する答えであると受け取れる。とにかくこのジュディ・デンチの存在感が素晴らしく、出番が実質2場面くらいしかなかったのは寂しいところ。

前作「007/消されたライセンス(1989)」では、ジェームズ・ボンドが個人的感情に走り、殺しのライセンスを剥奪される展開が用意された。前作でボンドの親友フェリックス・ライターが襲われたことに続いて、本作の冒頭でボンドは同僚の006を失ってしまう。本作では前作のようにボンドが個人的感情で動かないようにか、主人公に冷静さを促す場面もある。こちらも前作からの差別化されたポイントであろう。

そんな本作の大きな失敗は、音楽にエリック・セラを起用したことだろう。冒頭のガンバレルの描写こそ「007」っぽさを演出すべきなのに、その際に流れるアレンジからして「007」っぽくなく、はっきり言ってエリック・セラっぽさが全面に押し出されている。確実に本作の前年に公開された「レオン(1994)」の音楽を引き継いでいる。また、エンドクレジットで流れる、本作の音楽を担当したエリック・セラによる「The Experience of Love」は当初、「レオン(1994)」のために書かれた楽曲であった。

ようやく「007」っぽい音楽が流れるのは、中盤の戦車アクションシーンである。ただ、ここはエリック・セラの作曲した「A Pleasant Drive in St. Petersburg」が音楽プロデューサーより没を喰らい、いかにもボンド映画っぽい楽曲をほぼそのまま使用しているのでエリック・セラのおかげではない。何ならこのシークエンスの合間に流れる静かな音楽がまたエリック・セラっぽくて、せっかく盛り上がるテンションも下がってしまう。

前作から6年も経過し、キャストやスタッフを一新する流れで音楽も今までとは違うタイプの作曲家を連れてきたのだと察するが、定番の音楽を作れる人の方が良かったのだと思う。「こういうものを見たい」という観客の意見より、「何か変えよう」という製作陣の思惑が裏目に出た形だろう。

そして、今回の敵となるのはロシアである。前作以降にソ連は崩壊し、ロシアとなった。これにより冷戦は終結し、かつてのスパイ映画の格好の材料とも言えるものがなくなってしまったのだ。それでも、その名残りからか、あえてなのか今回の敵に選ばれたのはロシアである。冷戦終結によりロシアでの撮影ができたことも大きいかもしれないが。

また、そのロシアと繋がる最大の敵はなんとボンドと同じIMFに所属していた006のアレックである。アレックがイギリスの敵になる過程や背景はやや入り込み過ぎで、この事情を説明しきるのは到底無茶な話である。また、終始存在感を示していたファムケ・ヤンセン演じるゼニアはボンドらが本丸に乗り込む前にボンドによって殺されてしまう。なんとも間抜けな死に方だったので、せめて本丸に乗り込んでからボンドらと戦わせるべきだったんじゃないだろうか。

メカ開発担当のQが作ったメカが実線で役に立つのはベルトとペンだけである。特にラストにはペン型爆弾を使ったシーンが用意されている。ボンドの所持品が置かれた場所にボリスが突き飛ばされたことでペン型爆弾はボリスが握ることになる。ノック部分をカチッと4回ノックして数秒後には爆発する仕組みであり、ボリスが何回ノックするかが緊張感を煽る演出になっている。ただ、プログラマーである彼がボールペンを右手に左手だけでキーボード操作するのはあまりにも不自然だ。その後、必死になってキーボードを叩くボリスは両手を使っている。もう少し良い筋書きはなかったものか。

映画のラストに出てくるパラボラアンテナは後の映画「コンタクト(1997)」にも登場するアレシボ天文台にあるものである。なかなか姿を現さないゴールデン・アイと一度は死んだと見せかけた006がようやく姿を現す様子は重なるものがある。また、ラストに草むらで愛し合うボンドとナターリア。ナターリアは人に見られないかを気にしているがボンドはお構いなし。すると、ジョー・ドン・ペイカー演じるウェイドがやってきて、更に周囲の草むらには多くの海兵隊員が潜んでいたことが分かる。まるでゴールデン・アイが隠されていたのを思わせる気の利いたエンディングである。

映画全体を振り返ると、やはり中盤はボンドが移動してその先で情報を得て移動するを繰り返す、やや単調な展開になっていく。しかも、セリフでの説明が多いため退屈に感じられてしまう。この辺りはキャラクターを減らして展開も省略していけばもっとテンポアップできたように思う。

これまで数年おきに製作されてきた「007」シリーズが6年も間隔をあけて製作された本作。様々なプレッシャーがあった中、ピアース・ブロスナンはそれに負けない魅力たっぷりなボンド像を1作目にして築き上げたと言えよう。他にもジュディ・デンチ演じるMも存在感があっただけにもう少し出番を与えても良かったように思う。

また、アクション面については、確かに戦車を使ったアクションシーンこそインパクトあるものだったが、全体通してみるとやや大人し目の印象。というか戦車を使っているのに戦車砲を使わないのか。戦車を使って街中車を追いかけるだけでも十分に迫力はあったが、戦車砲を使えばもっと迫力を出せたのに(もちろんナターリアが乗っている車以外の敵を狙うとして)。そして、この内容であれば120分以内に十分収まったように思うし、エリック・セラの音楽はやはり違うかな。

長きにわたるシリーズだからこそ、新しい作品が出る度に過去の作品との違いや共通点を探すのも楽しめる。6年の間隔をあけて製作された本作がシリーズ最大のヒットを記録したのだからやはり観客は楽しみに待っていたのだろう。その成功の要因はどう考えてもピアース・ブロスナンだった。

【音声解説】

参加者
├マーティン・キャンベル(監督)
├マイケル・G・ウィルソン(製作)

上記2名による対話形式の音声解説。おそらくDVD発売に向けて収録されたものであると思われる。製作時の裏側について二人が饒舌に語ってくれる。

賛否両論あったエリック・セラの音楽、ようやく実現したピアース・ブロスナンのキャスティング、ロケ地やミニチュア、視覚効果を使った撮影、スタントマンとピアース・ブロスナンによるスタントやアクション、タイミングを合わせるために何度も撮影した場面の話、ボンドガールのイザベラ・スコルプコを発見したのは2週間前だった話、ボンドとMの会話シーンに批評家へのメッセージを込めた点、キャスティングやロシアでの撮影、悪役ショーン・ビーンがボンド候補であり、ボンドと似たイメージの役者を悪役に起用した意図など、本作が好きなら知りたいことがたくさん聞けるのではないかと思う。

 

【関連作品】
 

007/ドクター・ノオ(1962)」…シリーズ1作目
007/ロシアより愛をこめて(1963)」…シリーズ2作目
007/ゴールドフィンガー(1964)」…シリーズ3作目
007/サンダーボール作戦(1965)」…シリーズ4作目
007は二度死ぬ(1967)」…シリーズ5作目
女王陛下の007(1969)」…シリーズ6作目
007/ダイヤモンドは永遠に(1971)」…シリーズ7作目
007/死ぬのは奴らだ(1973)」…シリーズ8作目
007/黄金銃を持つ男(1974)」…シリーズ9作目
007/私を愛したスパイ(1977)」…シリーズ10作目
007/ムーンレイカー(1979)」…シリーズ11作目
007/ユア・アイズ・オンリー(1981)」…シリーズ12作目
007/オクトパシー(1983)」…シリーズ13作目
007/美しき獲物たち(1985)」…シリーズ14作目
007/リビング・デイライツ(1987)」…シリーズ15作目
007/消されたライセンス(1989)」…シリーズ16作目
「007/ゴールデン・アイ(1995)」…シリーズ17作目
007/トゥモロー・ネバー・ダイ(1997)」…シリーズ18作目
007/ワールド・イズ・ノット・イナフ(1999)」…シリーズ19作目
007/ダイ・アナザー・デイ(2002)」…シリーズ20作目
007/カジノ・ロワイヤル(2006)」…シリーズ21作目
007/慰めの報酬(2008)」…シリーズ22作目
007/スカイフォール(2012)」…シリーズ23作目
007/スペクター(2015)」…シリーズ24作目
007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(2021)」…シリーズ25作目
「007/カジノ・ロワイヤル(1967)」…本シリーズのパロディ
ネバーセイ・ネバーアゲイン(1983)」…「007/サンダーボール作戦」のリメイク
ジェームズ・ボンドとして(2021)」…ダニエル・クレイグに焦点を当てたドキュメンタリー

サウンド・オブ・007(2022)」…本シリーズの音楽/主題歌に関するドキュメンタリー



取り上げた作品の一覧はこちら




【配信関連】


<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(英語/ロシア語/スペイン語)

 

<Amazon Prime Video>
 

言語
├日本語吹き替え


【ソフト関連】

<DVD(2枚組/アルティメット・エディション)>

言語
├オリジナル(英語/ロシア語/スペイン語)
音声特典
├マーティン・キャンベル(監督)とマイケル・G・ウィルソン(製作)による音声解説
映像特典
├MI6:機密書類保管庫
├秘密任務
├任務遂行レポート
├007プロパガンダ
├イメージ・データベース

 

<BD>

収録内容
├上記DVDと同様


【音楽関連】

<CD(サウンドトラック)>

収録内容
├16曲/55分