【作品#0762】007/ユア・アイズ・オンリー(1981) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

007/ユア・アイズ・オンリー(原題:For Your Eyes Only)

【概要】

1981年のイギリス/アメリカ合作映画
上映時間は127分

【あらすじ】

イギリス軍のミサイルを自由に操ることのできる装置を搭載したイギリスのスパイ船が沈没する事態になった。さらに政府の意向で調査していた博士も殺されてしまい、ボンドはその博士を殺した男のいるスペインへ向かう。

【スタッフ】

監督はジョン・グレン
音楽はビル・コンティ
撮影はアラン・ヒューム

【キャスト】

ロジャー・ムーア(ジェームズ・ボンド)
キャロル・ブーケ(メリナ)
ジュリアン・グローヴァー(クリスタトス)
トポル(コロンボ)

【感想】

シリーズで第二班の監督や編集を担ってきたジョン・グレンが初監督を務めたシリーズ12作目は、1981年の興行成績で「レイダース/失われたアーク(1981)」に次ぐ大ヒットを記録した。

このシリーズはシリアス路線から徐々に荒唐無稽な路線へ行き、再びシリアス路線に戻ってくるなんてよく言われる。本作も前作「007/ムーンレイカー(1979)」の荒唐無稽さに比べるとシリアス路線なのかもしれない。ただそれは前作のような作品を基準にしたから相対的にそう見えるだけであり、本作が堅実に作られた真面目な作品だとは一切思わない。

指令を受けて早速マドリードに乗り込むボンドだが、殺し屋のアジトに忍び込もうとするとあっという間に捕まってしまう。そうすると、その殺し屋に両親を殺されたメリナが敵討ちに現れボンドの命を助けてくれる。もしメリナが来ていなければ本作は上映時間20分程度で終わっていたことだろう。もう少しまともな筋書きを考えられないものかね。

何とか逃げ切ったボンドは本部に帰って報告すると、「失敗だな。打ち切り」と言われてしまう。そこでボンドは切り札の如く、その殺し屋にお金を渡した男の存在を知らせると、メカ開発のQの開発した「人相グラフ」でその男の正体を突き止めていく。当時の技術だからしょうがないのだが、あんなへっぽこコンピューターでよくも本人を突き止められたなと感心してしまうわ。というか、その男が怪しいならイギリスに帰って来る前に調べないのか。あんな報告なんて電話でできるだろうに。安易に舞台を移動させ過ぎ。

ボンドはその男のいるイタリアへ向かい、連絡員の男と情報提供者のクリスタトスに会う。そこではクリスタトスが次のオリンピックでフィギュアスケートの金メダル選手にと育てるビビも紹介される。するとこのビビはボンドに惚れたようでデートに誘うは、ベッドを共にするはの何ともオープンなキャラクターである。ちなみに、ビビを演じたリン=ホリー・ジョンソンもメリナを演じたキャロル・ブーケもボンドを演じたロジャー・ムーアからして30歳ほど年下である。寅さんが年を重ねる度に若い女優とのロマンスを描くのが厳しくなってきたように、本作もボンドとボンドガールの関係性はリアリティに欠ける。というか、ビビがボンドに惚れるとかそういう設定や場面は必要だったか。

ただ、ボンドがイタリアのスキー場で殺し屋に追われることになる一連のシークエンスは素晴らしかった。特にボブスレーの試合が行われる会場へ追われるボンドがスキーで、殺し屋がバイクで追いかけるシーンの迫力は本作までのシリーズで最もスリリングであると感じた。ボブスレーのコースを猛スピードのバイクで走り抜ける迫力よ。ちなみにそのボブスレーシーンの撮影でスタントマンがそりの下敷きになり死亡し、またその1週間後に行われた競技でも死亡者が出てしまい、コース設計が見直されたそう。ただ、その後のスケートリンク上でのアクションシーンは蛇足。敵をゴールに入れる度にゴールをカウントする音が鳴るのをやりたかっただけでしょ!?

その後は「実は敵だった」とか「味方してくれる」といった展開が用意されているのだが、どうも話が進んでいる実感はない。特にスキーシーンのスピード感で見せた後に、水中のシーンでのろのろやっていると眠たくなってくる。前作までの項でも指摘してきたが、やっぱり映画全体に推進力がなく冗長で本作も127分の上映時間が必要だったと思えない。どこかの場面とどこかの場面をくっつけて物語を展開させれば良かった。たとえばスペインの殺し屋を省略してその殺し屋にお金を渡した男からの話にしたって構わないわけだ。殺し屋というクッションを一つ挟むことでそのためのシーンが必要になってくる。

さらに、海底に何かを隠すネタは「007/サンダーボール作戦(1965)」でもやっている。本シリーズを見ているファンなら同じことの繰り返しに見えてしまうところだ。

クライマックスは山頂にあるクリスタトスのアジトが舞台となる。ボンドガールとボンドの味方になったコロンボらが見守る中、そのアジトに向けてボンドは崖を登り始める。とてもこの作戦が正解とは思えない。あの高さだと一体何時間かかるんだと感じてしまう。ようやく山頂に近付いたところでクリスタトスの手下に見つかってしまう。そのクリスタトスの手下の男は持っている拳銃を使ってボンドが打ち込んだハーケンを1個ずつ外していく。いやいや、その持っている銃でロープを撃てよ。案の定、最後のハーケンを外している最中にボンドからナイフを投げられ遥か下に落ちてしまう。アホか。

ラストはボンドらがクリスタトスを追いつめる。両親の敵を討ちたいメリナをボンドが制止していると、クリスタトスがナイフを投げようとしてくるが、後方にいたコロンボがクリスタトスの背中にナイフを投じてクリスタトスは絶命する。敵から目を離している隙に殺されかけるなんて間抜けすぎるし、あの小さなナイフが背中に刺さったくらいで即死するなんてそんな話あるかい。クライマックスですよ!?

オウムを使った下らないエピローグ(エリザベス女王をコケにするなんてイギリス人はどうかしてる)の間にボンドはメリナと結ばれる。この二人が結ばれるドラマなんてあったかな。もっとキャラクターを減らして二人のドラマをせめてちゃんと描こうとしてくれよ。ボンドに惚れるビビも必要性を感じないし、ただ殺されるだけのコロンボの愛人リスルの扱いも相当酷かったぞ。ちなみにリスルを演じたカサンドラ・ハリスは当時のピアース・ブロスナンの妻で91年に闘病の末に41歳の若さで他界している。

映画全体を見渡してみても、キャラクターが多いし、場面自体も多いと感じる。映画が始まってから終わりまでにきれいな一筋の線が通っているように思えず、チグハグの繋ぎ合わせた映画という印象だ。また、音楽がジョン・バリーからビル・コンティに代わっている(次回作で元通りになるが)。特にスキーシーンの前半部分の音楽はダサい。当時よく作られていた70年代末から80年代っぽい音楽なのだが、まるで雰囲気と合っていない。

いくらシリアス路線に戻ったと言われても、これほどまでにツッコミどころが多すぎると「これでですか?」と言わざるを得ない。スキーシーン以外に評価すべきポイントのない失敗作。

 

【関連作品】

 

007/ドクター・ノオ(1962)」…シリーズ1作目
007/ロシアより愛をこめて(1963)」…シリーズ2作目
007/ゴールドフィンガー(1964)」…シリーズ3作目
007/サンダーボール作戦(1965)」…シリーズ4作目
007は二度死ぬ(1967)」…シリーズ5作目
女王陛下の007(1969)」…シリーズ6作目
007/ダイヤモンドは永遠に(1971)」…シリーズ7作目
007/死ぬのは奴らだ(1973)」…シリーズ8作目
007/黄金銃を持つ男(1974)」…シリーズ9作目
007/私を愛したスパイ(1977)」…シリーズ10作目
007/ムーンレイカー(1979)」…シリーズ11作目
「007/ユア・アイズ・オンリー(1981)」…シリーズ12作目
007/オクトパシー(1983)」…シリーズ13作目
007/美しき獲物たち(1985)」…シリーズ14作目
007/リビング・デイライツ(1987)」…シリーズ15作目
007/消されたライセンス(1989)」…シリーズ16作目
007/ゴールデン・アイ(1995)」…シリーズ17作目
007/トゥモロー・ネバー・ダイ(1997)」…シリーズ18作目
007/ワールド・イズ・ノット・イナフ(1999)」…シリーズ19作目
007/ダイ・アナザー・デイ(2002)」…シリーズ20作目
007/カジノ・ロワイヤル(2006)」…シリーズ21作目
007/慰めの報酬(2008)」…シリーズ22作目
007/スカイフォール(2012)」…シリーズ23作目
007/スペクター(2015)」…シリーズ24作目
007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(2021)」…シリーズ25作目
「007/カジノ・ロワイヤル(1967)」…本シリーズのパロディ
ネバーセイ・ネバーアゲイン(1983)」…「007/サンダーボール作戦」のリメイク
ジェームズ・ボンドとして(2021)」…ダニエル・クレイグに焦点を当てたドキュメンタリー

サウンド・オブ・007(2022)」…本シリーズの音楽/主題歌に関するドキュメンタリー



取り上げた作品の一覧はこちら

 



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├日本語吹き替え
音声特典
├ジョン・グレン(監督)、キャストによる音声解説
├ロジャー・ムーア卿(出演)による音声解説
├マイケル・G・ウィルソン(製作)、製作スタッフによる音声解説
映像特典
├MI6:機密書類保管庫
├秘密任務
├任務遂行レポート
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