【作品#0773】007/トゥモロー・ネバー・ダイ(1997) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

007/トゥモロー・ネバー・ダイ(原題:Tomorrow Never Dies)

【概要】

1997年のイギリス/アメリカ合作映画
上映時間は119分

【あらすじ】

イギリスの戦艦が中国領海近くで攻撃を受けたが、それは中国による攻撃ではなく世界のメディア王カーヴァーのステルス潜水艦の仕業であった。衛星回線を利用してイギリスと中国両者に誤った情報を流して戦争を引き起こそうとしていた。そうとは知らない英国諜報部だったが、衛星回線で世界を牛耳るカーヴァーを調査するためにジェームズ・ボンドを派遣する。

【スタッフ】

監督はロジャー・スポティスウッド
音楽はデヴィッド・アーノルド
撮影はロバート・エルスウィット

【キャスト】

ピアース・ブロスナン(ジェームズ・ボンド)
ジョナサン・プライス(エリオット・カーヴァー)
ミシェル・ヨー(ウェイ・リン)
テリー・ハッチャー(パリス・カーヴァー)
ジュディ・デンチ(M)
ヴィンセント・スキャベリ(カウフマン)

【感想】

前作「007/ゴールデン・アイ(1995)」の成功を受けて5千万ドルも製作費が上乗せされたシリーズ18作目は前作の興収にはわずかに届かなかった。ちなみに、アメリカでは「タイタニック(1997)」と同時公開となり、ピアース・ブロスナン演じるボンド作品で唯一週間ランキングで首位を逃した作品である。また、長きに渡ってシリーズのプロデューサーを務めてきたアルバート・R・ブロッコリが1996年87歳で亡くなり、本作のエンドクレジット前に追悼の一文が挿入されている。

本作はシリーズで最も「楽しさ」を味わうことのできる作品であると感じる。特にQの作ったガジェットとそれを使って楽しそうに、そして涼しげに仕事を終えるピアース・ブロスナン演じるボンドの佇まいが素晴らしい。ガジェットを使った楽しさで本作以上のものを出すのは難しいのではないだろうか。まして、次のボンドを演じたダニエル・クレイグ期は基本的にダークでハードボイルドな路線である。

本作の見せ場はやはり中盤の駐車場での場面とバイクとヘリのチェイスシーンだろう。まず、駐車場でのシークエンスはシリーズ屈指の「楽しさ」を味わえる。メカ開発のQは毎作品のように大小問わず様々な武器をボンドに提供してきた。そんな武器の中でも本作に登場するあらゆる装備を搭載したBMWはシリーズでも屈指と言える。リモコンで操作可能なBMWはそもそも敵が触ろうとすると電流が走り、ハンマーでいくら叩いても全く壊れる気配はない。男たちが車を取り囲む中、ボンドがリモコンのボタンを押すとガスが焚かれて敵たちを目くらましすることに成功する。そしてボンドは車を急発進させ、車が自分の前にやってくると開けた後部座席の窓から飛び乗り後部座席に横たわりながらリモコンで車を操縦していく。

そこからは立体駐車場の中を上がったり下ったりしつつ、そのフロアにいる敵や追ってくる車との戦いとなる。搭載したミサイルで敵をやっつけ、後続車両にはまきびしを撒いてパンクさせ、行く手をふさぐワイヤーにはワイヤーカッターを使う。ボタン一つで次々に武器が登場するシーンは観ていて楽しい。さらには目の前にいる敵がミサイルを撃って来たかと思えば、攻撃を受けてフロントガラスもリアガラスも割れたボンドのBMWを通り過ぎて敵の後続車にミサイルが直撃してしまう。運も味方するところもこのシークエンスの雰囲気に合っている。そして、一度撒いたまきびしの上をボンドの操縦するBMWが通ると、当然パンクするのだが、こちらもボタン一つでタイヤのパンクが治ってしまう。これにはボンドもニヤリとしており、本当に楽しそうである。この様子を窓越しに捉えるショットが良い。

最終的にボンドの操縦するBMWを立体駐車場の屋上から落として、無人のお店に突っ込むのはちょっとやりすぎかもしれないが、このシークエンスこそボンド映画の楽しさを象徴していると言える。シリーズ全作品観てきたが、「楽しさ」という観点で考えると本作のこのシークエンスが最高であると感じる。

そんな中盤の見せ場と対照的にラストの戦いは盛り上がりに欠けた。船の中という空間を生かしたとは思えない大味なアクションシーンだった。今ボンドがどこにいて、どこに向かい、どこで決着するのか。上述の立体駐車場での場面とバイクとヘリのチェイスシーンのような「分かりやすさ」や「楽しさ」はラストのアクションシーンには全くない。何となく始まって何となく終わったという感じである。クライマックスにはクライマックスなりの見せ方があるのは承知だが、中盤並の、あるいはそれ以上の面白さを用意できなかったのは残念である。

また、前作「007/ゴールデン・アイ(1995)」ではボンドとボンドガールが結ばれるのが唐突であり、かつ結ばれるなら最後まで取っておくべきだと考えていた。本作ではその問題がかなり解決されている。騙された国同士の諜報員が手を取り合ってカーヴァーの企む計画を阻止し、最後の最後で彼らはキスをする。この方がよっぽど説得力がある。

かつてのボンド映画にもボンドとボンドガールの連携プレイは見られたが、本作ほど徹底したことはなかったはずだ。手錠に繋がれたボンドとウェイは否応なしに協力しなければならなくなる。それが顕著なのがバイクに乗って追手のヘリから逃げるシーンである。手錠で繋がれた二人がバイクに前後で乗るにはどちらかがアクセル、もうどちらかがクラッチを操作しなければならない。なのでボンドがアクセル、ウェイがクラッチを操作することになり、息が合わなければエンストしてしまう。そしてそれを繰り返していくことで次第に息も合っていく。また、やや強引な展開ではあるが、後方の敵の数を確認するためにウェイはボンドに跨ることになる。当然男女の関係を想像するわけだが、ボンドはウェイから変なことを想像しないように釘を差される。

そして、バイクでヘリコプターから逃げるシークエンスが終わるとボンドとウェイはその一帯のとある場所でホースから出る水で体を洗っているシーンになる。これはバイクチェイスシーンをセックスにたとえ、その後に二人で汗を流していることを思わせるシーンである。バイクチェイスシーンでウェイがボンドの体に跨ったところが何よりもそれを表している。

女性上位になる描写、さらにはウェイが手錠を外してボンドの手錠をパイプに固定して逃げる描写、そして後に自転車屋で敵に囲まれたウェイが次々に敵をやっつけていく描写などはすべてボンドよりも「上」であることを示す描写である。自転車屋で最後の敵だけボンドがやっつけるのは本当に埋め合わせでしかない。ウェイの戦闘能力を考えると彼女がすべての敵をやっつけたって構わない。と言っても本作はジェームズ・ボンドが主演の映画である。ただ、この場面はあくまでウェイが主人公であり、ジャッキー・チェンと対等に戦えるレベルのアクションを披露したミシェル・ヨー相手に細身の体のピアース・ブロスナンが勝るわけもない。さらにここで出てくるキーボードが中国語であると分かるとボンドはお手上げ状態になる。冒頭にデンマーク語の先生からデンマーク語を習う描写があった。ちなみに次回作「007/ワールド・イズ・ノット・イナフ(1999)」でボンドはロシア語を披露している。別にボンドがオクスフォード大学時代に中国語を習っており、中国語にも長けているという設定もいけるのに、ここではミシェル・ヨーに完全に譲っているのだ。ボンドにも専門外のことはあるし、できないことだってある。それでもボンドガールにここまで譲歩した作品は記憶にない。

このボンドガールの見せ場自体はジャッキー・チェンのスタントチームを呼んで完成させたようだが、それでもミシェル・ヨーの香港時代のアクションを見た観客からすれば「まだまだできる」と思ってしまうところなので、最終的には演出する監督の問題だったのではないだろうか。それでもちゃんとアクションのできる女優をボンドガールに抜擢してミシェル・ヨーがそれに余りある活躍を見せたのだから十分に満足できる。後のダニエル・クレイグ期のボンド映画まで見渡してもアクションのできるレベルではミシェル・ヨーが最高であろう。また、香港返還と同年の作品への出演も決して偶然ではないだろう。

そして、本作の悪役はジョナサン・プライス演じるカーヴァーである。カーヴァーはメディア王であり、偽の情報を流してイギリスと中国を戦争させようと考えている。今までのシリーズに居そうで居なかったタイプの悪役である。そして、戦争回避には48時間しか残されていない状況でボンドは派遣されるのだが、時間の制限がある描写が以降全く出てこないのはもったいない。また、カーヴァーの計画がちょっと実現可能性に欠けるところは気にかかる。メディア王でもそこまで世界を牛耳ることができるかね。

カーヴァーを演じたジョナサン・プライスにアクションができないからか、ドイツ人俳優ゲッツ・オットー演じるスタンパーがボンドの実質的な対戦相手となる。頭脳派のカーヴァーと肉体派のスタンパー。まずまずの組み合わせだったんじゃないだろうか。

傑作とまでは思わないが、シリーズ屈指の楽しさに溢れていた。ボンドを演じる俳優はもちろんのこと、ボンドガールを演じる女優にも「動ける」ことが重要だと示した作品でもある。もちろんボンドガールにアクションができなくても成立する設定や物語はもちろんありだが。ピアース・ブロスナン期のボンド映画では一番好きな作品。

 

【関連作品】
 

007/ドクター・ノオ(1962)」…シリーズ1作目
007/ロシアより愛をこめて(1963)」…シリーズ2作目
007/ゴールドフィンガー(1964)」…シリーズ3作目
007/サンダーボール作戦(1965)」…シリーズ4作目
007は二度死ぬ(1967)」…シリーズ5作目
女王陛下の007(1969)」…シリーズ6作目
007/ダイヤモンドは永遠に(1971)」…シリーズ7作目
007/死ぬのは奴らだ(1973)」…シリーズ8作目
007/黄金銃を持つ男(1974)」…シリーズ9作目
007/私を愛したスパイ(1977)」…シリーズ10作目
007/ムーンレイカー(1979)」…シリーズ11作目
007/ユア・アイズ・オンリー(1981)」…シリーズ12作目
007/オクトパシー(1983)」…シリーズ13作目
007/美しき獲物たち(1985)」…シリーズ14作目
007/リビング・デイライツ(1987)」…シリーズ15作目
007/消されたライセンス(1989)」…シリーズ16作目
007/ゴールデン・アイ(1995)」…シリーズ17作目
「007/トゥモロー・ネバー・ダイ(1997)」…シリーズ18作目
007/ワールド・イズ・ノット・イナフ(1999)」…シリーズ19作目
007/ダイ・アナザー・デイ(2002)」…シリーズ20作目
007/カジノ・ロワイヤル(2006)」…シリーズ21作目
007/慰めの報酬(2008)」…シリーズ22作目
007/スカイフォール(2012)」…シリーズ23作目
007/スペクター(2015)」…シリーズ24作目
007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(2021)」…シリーズ25作目
「007/カジノ・ロワイヤル(1967)」…本シリーズのパロディ
ネバーセイ・ネバーアゲイン(1983)」…「007/サンダーボール作戦」のリメイク
ジェームズ・ボンドとして(2021)」…ダニエル・クレイグに焦点を当てたドキュメンタリー

サウンド・オブ・007(2022)」…本シリーズの音楽/主題歌に関するドキュメンタリー



取り上げた作品の一覧はこちら




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├ロジャー・スポティスウッド(監督)、ダニエル・ペトリJr.(映画プロデューサー)による音声解説
├ヴィク・アームストロング(スタント・コーディネーター/第二班監督)、マイケル・G・ウィルソン(製作)による音声解説
映像特典
├MI6:機密書類保管庫
├秘密任務
├任務遂行レポート
├007プロパガンダ
├イメージ・データベース

 

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収録内容
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収録内容
├46曲/146分


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