市川沙央さんのデビュー作&文学界新人賞受賞作&第169回芥川賞受賞作。選考前からチョー話題になってて、絶対読むぞ!と思ってた。いや~とんでもねー小説でした。


主人公・釈華は筋疾患先天性ミオパチーという難病の女性で、背骨が肺を押しつぶす形に湾曲しており、人工呼吸器を常に装着している(ここまでは作者と同じ)。重度障害なので一人で移動もままならない。呼吸の苦しさ、紙の本を読むことのしんどさ、健常者の何気ない一言のなかに見え隠れする無意識の優位性などなどに対する怒りがこれでもかこれでもかと迫ってくる。


「私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いにいけること、――5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた」ここなんかすごかった。


ところが!釈華は裕福な家に生まれていて、親の残したグループホームで、億という遺産を相続し、金銭的な不自由はひとつもない暮らしをしている。障がい者だけど、経済的には強者。この設定があとから効いてくる。ルッキズム、フェミニズム、障がい者と生産性、そして経済格差、いま避けて通れない社会的トピックが全部盛りでくんずほぐれつ、強者と弱者がぐるんぐるんして目が回る。


そして釈華は、カネにものをいわせて、ある目的を叶えようとするんですね。だけど最後の最後に出てくるある人物が、それを難なく達成(?)し、しかもカネまでもらってるという対比にもうちのめされた。こんなことって…。


その最後のシーン、かなり賛否が分かれるらしい。私も、あれがあったほうがいいのか、なかったほうがいいのかわからない。あってもなくてもとんでもねー小説っていうことだけはわかる。でも私は、作者の市川さんは、あの最後のシーンがなくて終わってたら当事者小説として非常に行儀のいい作品におさまってたところを、あえて跳んだのだ、と思う。そのジャンプに「いいね!」しまくりたい。


と、まじめに語ろうと思えばどんだけでもまじめに語れるんだけど、私は市川さんって、実はとんでもねーユーモアの持ち主でもあるのでは?と思うんだけどどうでしょう。「♡喘ぎ」の解説なんて爆笑だったわ~。このようなユーモアの持ち主が、ラノベの公募に20年応募して落選しつづけて埋もれていたですと!?


市川さんのラノベ超よみたいんですけど!そして、今なら落選した賞の出版社から出版依頼が引きも切らないだろうけど、でも私はこの人、全部蹴ると思うね。全部蹴って、素性を隠してまた応募して、どこかでラノベの大賞とって、しれっとダブルデビューすると思う。きっと、そんなかっけーことをやってのけちゃう人だよ、この人は!予め惚れるわ!





●芥川賞受賞作の本(隠居の本棚より)

・『送り火』高橋弘希


・『百年泥』石井遊佳



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