高山羽根子さんの小説。『破局』とともに、第163回芥川賞を受賞。

主人公の未名子は、リモートで辺境にいる人にクイズを出題する、という一風変わった仕事をしながら、休日は沖縄の個人郷土資料館で資料整理を手伝うという……一風も二風も変わった女性。友だち家族もおらず、海をたゆたうような孤独なくらしに、ある日とつぜん、絶滅危惧種の宮古馬が迷い込み、変化が訪れる。

何度も変化を強要されてきた場所の情報を、整理保存しておくことでいつか誰かの役にたつことがあるかもしれない、でもそれは同時に、再びこの場所が変化を強要されたときなのかもしれない、だとしたらそんなことは起こらないほうがいいのかもしれない…。

と、心は行きつ戻りつしながら、未名子は宇宙の彼方に、戦場のシェルターに、孤独な深海に(いやマジで)、遠くへ遠くへ情報を放つ。宇宙から見たら塵のようなこの島の情報を、壮大な祈りのように世界の端っこまで届かせる。

なんかこれって、今日あったできごとをブログに書き記すみたいですよね。あるいは写真をインスタにアップするみたいな。とても個人的なできごとを、インターネットの海に放出する、それを人類規模でやってる時代。そんなふうに視点を宇宙までどんどん拡大すると、孤独もふくめた人間の小さな営為が、がぜんきらきら輝きはじめるような気がするじゃないですか。

とつぜん世界がオゾン層を超えて拡大していくところなど、SFってこういうことができるんだなぁと面白く読んだ。


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●5年前に発売したデビュー作が文庫化されました!よろしくお願いいたします。