【古事記神話】本文 (~その21 大地の神生み)


前回の記事では河と海の自然神、またその泡などの自然現象神、さらに人間が造った灌漑設備などの加工物神が次々と生まれました。

今回は大地に関わる神々が生まれます。



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【読み下し文】
次に風の神を生みき名は志那津比古神 [此の神の名は以て音] 次に木の神を生みき名は久久能智神 [此の神名は以て音] 次に山の神を生みき名は大山上津見神 次に野の神を生みき名は野椎神 [志那津比古神自り野椎神に至り并びて四柱の神] 


【大意】
次に志那津比古神という風の神を生みました。次に久久能智神という木の神を生みました。次に大山上津見神という山の神を生みました。次に野椎神という野の神を生みました。


【補足】
◎大地の神々が生まれました。
志那津比古神 → 風の神
久久能智神 → 木の神
大山津見神 → 山の神
野椎神(ノヅチノカミ) → 野の神

大山津見神の「大山」と「津見」の間に「上」という字が挟まっています。これまでにも出てきていますが、おそらく発音上の指示であろうと思います。

◎野椎神の別名は鹿屋野比売(カヤノヒメ)。野椎神だと野の神霊という意味、鹿屋野比売だと萱(かや)を神格化したもの。大差は無いと思います。


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【読み下し文】
此の大山津見神 野椎神の二柱 神を山野に因り持ち別けて而して生みき神名は天之狹土神 [土と云ふは豆知と訓む] 次に國之狹土神 次に天之狹霧神 次に國之狹霧神 次に天之闇戸神 次に國之闇戸神 [惑と云ふは麻刀比と訓む下此れに效ふ] 


【大意】
この大山津見神と野椎神の二柱は、神を山と野とそれぞれに分けて生みました。先ず天之狹土神と次に國之狹土神。次に天之狹霧神と國之狹霧神。次に天之闇戸神と國之闇戸神。


【補足】
◎大山津見神と野椎神との間に生まれた神々が載せられています。「天」と「野」とに分けて生んだとしています。
天之狹土神・國之狹土神
天之狹霧神・國之狹霧神
天之闇戸神・國之闇戸神
つまり「天」は「山」を指し、「野」は「國」を指しているということになります。

◎「狹」に意味は無く、御調を整えたものと考えています。したがって「土」と「霧」、そして「闇戸」。
「山の土」がどれほど大事なものであるのかということを、古代日本人は知っていたと思います。もちろん「埴」として利用することもあれば、鉄などを採ることもありました。ところが取り過ぎると、しっぺ返しがいずれやってくることまで知っていたのだろうと考えています。
雨が降ると霧が漂い、闇戸(谷間のせせらぎか)が潤う…そのような神々であろうと思います。

◎大山津見神と野椎神とについては、実在した神であると考えています。
公には観念的な事績のみしか記されないものの、密かな伝承があまりに多く各地で見られるが故。またその伝承においては、なかなか切り捨て難い末裔たちの密かな活躍もちらほらと。
「山野に因り持ち別けて」というのが、部族間での衝突だったのか、同盟であったのか、想像は膨らみますが。


大山津見神を祀る


久久能智神を祀る但馬国 久々比神社


野椎神を祀るとされる丹後国與謝郡 加悦天満宮 境内社の吾野神社