新聞小説 「国宝」まとめ  作:吉田 修一 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

新聞小説 「国宝」まとめ   2017/1/1~2018/5/29(1~500)
作:吉田 修一  画:束 芋

レビュー一覧

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朝日新聞朝刊で連載されていたもの。

世襲が一般的な歌舞伎の世界で、ヤクザの息子から人間国宝にまで上り詰めた男の人生を描いた。

 

全体感想
ヤクザの家系に生まれ、数奇な運命で歌舞伎の世界に入り、世襲の壁を越えて「人間国宝」まで昇りつめた男を描いた物語。
最初描かれたヤクザの世界で「朝日新聞がヤクザ小説出したらアカんだろう」と思っていたが、その話は二章までで終わり、以後は歌舞伎の世界。

 

物語の軸になるのは「世襲」の俊介に対する「部屋子」の喜久雄との対比。実際の歌舞伎界でも、片岡愛之助などは血縁のない関係で、立派に歌舞伎役者となっている。

 

序章でカギになると思われていた、辻村の権五郎殺しについてはその後封印され、最終章で死の直前、彼の告白として浮上する。
この辻村、最初は裏切り者として悪感情を持っていたが、喜久雄を半二郎に預ける方向付け、その後の巡業支援等、親がわりとも言える献身。これは単に父親を殺した引け目を越えて、人間的なものを感じた。

 

喜久雄については、徳次という無私の支援者のおかげで助けられ、またそれが徳次の幸せ。この関係はうらやましくもある。
肝心の喜久雄は、自分にとって損と思われる行動を取ったり、逆に千五郎に取り入るため、娘の彰子を誘惑。ここでも「最低の男」と断じてしまったが、恩のある辻村のために踊った事で勘気が解けた。
そこで喜久雄の背中の、刺青のミミズクが効いて来る。

ミミズクは一度恩を受けた人間を忘れない。

 

喜久雄を取り巻く女たちも、様々な形で魅力を放つ。
喜久雄の義母マツ。病気だった喜久雄の実母を看取り、彼が半二郎に預けられてからは身を粉にして仕送り。春江も、喜久雄を追って大阪に来たものの、破滅寸前の俊介に手を差し伸べる。
喜久雄の策略に乗せられた彰子も、真実の告白を聞いて「最後まで騙してよ」と許す。
娘の綾乃、孫の喜重も物語に厚みを持たせている。

 

こうして終わってみると、いい小説だったな、と思う。
惜しむらくは挿絵。最初はその独特の描写を絶賛したが、延々と続く、顔なしに墨を流す表現。まともな顔が描けないのかよ!としまいにはツッコミたくなった。

 

さて、次回は「重松 清」氏の「ひこばえ
彼の作品は好きで、何冊かレビューしている。
彼とほぼ同年代の男性が主人公らしい。楽しみ。

 

 

あらすじ

1.料亭花丸の場
昭和35年。長崎で立花組を仕切る立花権五郎と女房のマツ。

新年会に集まる親分衆。確執のある宮地組。
当代きっての歌舞伎役者、二代目花井半二郎を伴って談笑する愛甲会の若頭、辻村。
気にする権五郎を認めて挨拶に行く半二郎。

長崎で映画の撮影だったというのを辻村が誘った。
余興として田舎歌舞伎が始まる。

遊女墨染を演じるのは、権五郎の息子で中学生の喜久雄。
相方を勤めるのは部屋住みの組員、徳次。喜久雄より少し年長。
喜久雄の達者な舞いに驚く半二郎。

 

演目も終わり、風呂で化粧を落とす喜久雄と徳次。
そこに宮地組が殴り込みをかけて来た。地鳴りと怒声。
武器を持っていない権五郎は二階に逃れ、逃げ延びて来た辻村と半二郎を逃すために暴れ回る。
だがその最中、辻村が権五郎に向けて銃を撃った。

見ている者はいない。

 

2.喜久雄の錆刀
事件から一年後。付き合っている女、春江の家でゴロゴロしている喜久雄。そこへ、鑑別所に居る筈の徳次が顔を出す。

 

事件の顛末。

宮地の大親分は、自身の潔白を押し通し、組員を切り捨てたため、組は解散。立花組は権五郎を失い、若頭も投獄され弱体化。愛甲の辻村が喜久雄の将来も含めて進言し、影響力を持った。

徳次が鑑別所送りになった事件は、権五郎の納骨が終わった頃の出来事。喜久雄、徳次らが映画を観に行った時、他校の不良たちと揉め事になった。

親父が撃ち殺され敵討ちも出来ん腑抜け息子、と罵る不良たち。
騒ぎが大きくなり、警官が駆け付ける中、不良どもが逃げ出し、徳次は喜久雄を逃がすために捕まった。

 

徳次は、権五郎親分の敵討ちが待ち切れずに鑑別所を逃げ出していた。だが全くその気がない喜久雄。
マツは後妻であり、喜久雄は病死した先妻の子。

彫師の辰に、背中へ彫り物をされる喜久雄。絵柄は春江とお揃いのミミズク。一度恩を受けた人間を忘れないという。泣き言を言い、春江より進行が遅い喜久雄だが、もうすぐ終わる。
喜久雄が通う中学の体育教師、尾崎。ヤクザを毛嫌いし、春江に客引きをさせている様な喜久雄を殴り付ける。

 

珍しく学ランを来て出校する喜久雄。春江からそれを聞いて待ち伏せていた徳次。大阪へ行くという徳次に、昼から俺も行くと言って、駅での待ち合わせを約束する喜久雄。
だがその直後、警察に電話して徳次を売り渡す。喜久雄の覚悟。
学校はその日、寄付をした宮地恒三の演説があるという。

ドスを腹に差し込んで機会を窺う喜久雄。
壇上に上がった宮地に向かって、叫びながら突進する喜久雄。
手応えはあったが、肩に衝撃を受け、ふわりと浮く。

 

3.大阪初段
どしゃ降りの中、タクシーから改札に走るマツと喜久雄。

発車する寝台特急「さくら」
あの朝、喜久雄のドスは宮地の腹には届いたが、財布に阻まれて軽症。それよりも体育教師 尾崎の体当たりで脱臼して、喜久雄が保健室に運ばれた。
尾崎が宮地に交渉して警察沙汰にしないよう済ませた。

ただし宮地の条件は、喜久雄を長崎から追い払う事。

 

列車が博多に着こうとした頃、喜久雄の前に徳次が現れた。

驚く喜久雄。あの朝、徳次は警察の気配を察知して逃げ延びていた。その後聞いた喜久雄の刃傷沙汰。
立花組での喜久雄の扱いを盗み聞きして、知った預け先が二代目花井半二郎宅。高校にも通わせるよう頼むマツ。

 

大阪駅で出迎えてくれた源吉(源さん)。
半二郎の家。そこの女将幸子は半二郎の後妻。台所でうどんをすする少年は、半二郎の一人息子俊介。喜久雄と同じ十五歳。
稽古に行くという俊介の言葉を聞いて興味を持った喜久雄。

それは義太夫。

幸子の計らいで義太夫の見学をする喜久雄と徳次。師匠の岩見鶴太夫は、半二郎から子供を預かった事を聞いており、俊介にライバル意識を持たせるため、その子供にも稽古をつける様、頼まれていた。
そうして、喜久雄は義太夫の虜になって行った。

 

4.大阪二段目
昭和40年。大阪駅に降り立つ春江。弁天というチンピラに絡まれていると、迎えに来た徳次が手を出す。

大騒ぎになるが、互角で決着が着かず、見物人もいなくなった。
春江を半二郎の家に案内する徳次。稽古中の喜久雄を見た春江は、その後徳次が探してくれたアパートに行く。
春江は、母親の紹介でミナミのスナックで働くという。

 

喜久雄が大阪に来て一年あまり。俊介と同じ高校に通う喜久雄は、自転車の二人乗りで駅に向かう。この月は、半二郎の出る興業で二人に黒子の役が付き、授業後に京都まで通う毎日。
半二郎から喜久雄を部屋子にしたい、と打診されていたマツは上阪し、喜久雄の様子を見て安堵。

興業が終わった京都の夜、喜久雄は俊介に連れられて初めてお茶屋遊びをする。そこで知り合った市駒。普段着に着替えた市駒とキスをする喜久雄。遊び慣れている俊介の相手は富久春。
「うち、喜久雄さんにするわ」と市駒。

二号でも三号でもいいと言う市駒に慌てる喜久雄。

 

京都興業の間に、半二郎がどうしても見せたいのが小野川万菊。

希代の女形と言われていた。
楽屋での挨拶。俊介にとっては遠州屋の小父さんだが、その視線にゾクッとする喜久雄。きれいなお顔、と喜久雄を褒めるが、役者になるならその顔は邪魔だとの忠告。
万菊演じる「隅田川」の班女。我が子を商人にさらわれて狂ってしまう。強烈な体験が後の二人に大きな影響を与える。

 

大阪駅で徳次と派手なケンカをした弁天とはその後仲良くなり、春江のアパートにも出入りするようになった。
辻村が手を回して徳次の収容期間を短縮させた。
弁天と北海道で勝負に出たい、と喜久雄に話す徳次。

現場監督もどきの仕事。ここに居ても徳次の居場所はない。

心配いらんて、と言った徳次の笑顔。

 

5.スタア誕生
徳次が北海道に出てから既に四年。

喜久雄は半二郎の部屋子になっていた。高校に入った喜久雄だが、背中の彫り物の事もあり、あっさり中途退学。

 

歌舞伎の低迷期でもあり、半二郎が始めたのが地方巡業。

そんな中で喜久雄と俊介が行う「二人道成寺」
巡業にあたっては九州の辻村が援助。

巡業を仕切る三友興業の梅木社長。若い二人の演技に満足。

早大教授の藤川が二人を絶賛していると聞いて、今の演目を京都の南座でかけたいと提案。
梅木に同行している竹野。ただの世襲の世界だ、と喜久雄の境遇を冷笑。女形のまま竹野を蹴り付ける喜久雄。

 

西回りの巡業の最後は博多。

半二郎が、里帰りしてはどうか、と喜久雄に持ち掛けた。
実家に帰った喜久雄を見て慌てるマツ。実は、屋敷は抵当に取られ、そこで住み込み女中として働いていた。

そんな苦しい中で半二郎に金を送っていたマツ。
巡業も一段落した頃、半二郎が通帳を喜久雄に差し出した。

毎月マツが仕送りしていた金を全て貯金していた。

好きに使うたらええ、と半二郎。

 

京都南座での「二人道成寺」は成功を収めた。

東一郎(喜久雄)と半弥(俊介)に目を向ける女の子たち。
浮かれる俊介の祇園通いに対し、早く一流になりたいと願う意識の喜久雄。それが大きな違いを生む。

 

6.曽根崎の森の道行
北海道へ行った徳次。実はひと月で大阪に戻っていた。弁天と共に手配師に頼んで渡ったが、道路掘削の現場に放り込まれた。
早々にそこを逃げ出し、人の情を受けながらどうにか帰阪。

手配師を訴えようと労働福祉センターにねじ込んだ徳次。

そこでたまたま撮られていた、ドキュメンタリー取材の様子がそのままTV放映され、話題を呼んだ。

その時の監督が三友興業、映画部出身の清田。

その後も芝居勘の良さで清田は徳次を使い、多少注目を集める。
そんな話が喜久雄の耳に入り半二郎に相談したところ、三友に早速話をつけてくれ、徳次は大部屋俳優として雇ってもらえた。

 

弁天は、漫才師の沢田西洋に弟子入りしており、TV収録の付き添いをしていた。徳次と弁天もそれに立ち会っていたが、初めての事であり、西洋はトラブルを重ねてキレたり詫びたり。
そんな時にスタジオへ、半二郎が交通事故に遭ったとの知らせ。
早速病院にタクシーで乗り付ける喜久雄。両足骨折だった。
来週から大阪中座で始まる「曾根崎心中」のお初を半二郎がやる事になっている。

半二郎の代役は当然俊介、と思っていた幸子だが、三木社長が電話で告げたのは喜久雄。半二郎が決めたという。

坂田藤十郎の逸話。世襲ではなく実力を重んじた。
実の子より部屋子の方がうまい、と決めたのが半二郎なら仕方がない。代役が勤まるよう助ける、と俊介。

舞台稽古までの三日間、病室での苛烈な稽古を受ける喜久雄。

容赦ない半二郎。
座頭で相方の、徳兵衛役の生田庄左衛門による舞台稽古が始まる。初役の割りには良く入っているとの評価。

だがそれも客から見ればお情け。二度目はない。

 

こうして始まった公演。昼の部は俊介との「二人道成寺」。

夜の部は「曾根崎心中」と称賛を受ける喜久雄。

一方、俊介には容赦ない野次が飛ぶ。
極限の二十一日間も、終わってみれば絶賛され、一躍東一郎ブームとなった。楽日の翌朝から俊介が行方不明になった。

同じ日に、北新地で雇われママをやっていた春江も姿を消した。
二人の仲を全く疑っていなかった喜久雄。

 

7.出世魚
マンションの一室で麻雀をする四人。

喜久雄と、女優の赤城洋子、荒風関に徳次。
半二郎の代役で「曾根崎心中」のお初をやったのが三年前。

俊介の出奔もあって近所のマンションへ引っ越した喜久雄。
喜久雄の人気は続かず、三木は喜久雄を東京に送り出そうとしたが、半二郎は反対。喜久雄は数本の映画にも出演したものの、特有の色香は表現されず。
そんな頃、喜久雄は半二郎から貰った金でスポーツカーを購入。母のマツを大阪見物させるためだったが、半二郎は落胆。

 

祇園で知り合った市駒との間に娘「綾乃」が生まれていた。

二歳になるところ。この時世話を焼いてくれたのが幸子。
喜久雄を半二郎の養子に、という話が出てから既に半年。

出奔してから三年経つ俊介との関係が悩ましい。

糖尿の気があった半二郎。骨折時、軽度の緑内障と言われていたが、俊介の出奔で放置。もうどうしようもない所まで来ている。
出番のところまで半二郎の手を引く喜久雄。

半二郎は、自分が白虎を継ぐからお前も半二郎を継げと言う。
穏やかではない幸子だが、こちらも腹を決める。

 

大阪中座での襲名披露。演目は「連獅子」
幕が開き白虎、半二郎を挟んで大幹部が並ぶ。
喜久雄の挨拶が終り、次は白虎というところで、口上に入る筈が、動きがない。
花井白虎が、突然大量の鮮血を吐いて倒れた。

 

8.風狂無頼
姉川鶴若の舞台を袖で見ている喜久雄。

鶴若は小野川万菊と人気を二分する女形。
白虎の吐血事件で全国行脚は全て中止。そのお詫び行脚として姉川鶴之助の、鶴若への襲名を早めて何とか凌いだ。
結局そのせいで梅木は社内抗争に負け、大阪のTV局社長へ左遷となった。
社を去るにあたって梅木は、鶴若に喜久雄を預けた。

底にある鶴若の悪意。鶴若の、喜久雄に対する扱いは冷たく、一年にも亘る地方巡業を言い渡される。

 

入院中の白虎。彼には現在の厳しい状況など話せない。
幸子は新興宗教の「浄土会」に入れ込んでいた。
そんな時の深夜、白虎の危篤を告げる電話。
白虎の最後の言葉は「俊ぼーん、俊ぼーん・・・・」
昭和60年7月18日に行われた花井白虎の、告別式記事。

 

閑散とした客席の市民ホールで踊る喜久雄。

楽屋に戻った喜久雄を訪ねる木下という三友社員。
白虎の自宅の立ち退きに関する話。

白虎が作った一億超の借金。自宅は抵当。

その借金は全て自分が相続する、と言う喜久雄に驚く徳次。
三友本社はそれを受けた。

抵当だけではとても損失の補填が出来ず、喜久雄に期待。

 

9.伽羅枕(きゃらまくら)
麻雀仲間だった荒風関の引退。

マンションの引き払いを手伝う喜久雄。

荒風とは東京に来て以来の仲。早い出世をしたが膝を痛めた。
その後明治座へ楽屋入りする喜久雄。この月は小野川万菊と姉川鶴若の共演による出し物。喜久雄には端役しか与えられない。

 

弁天は、持ち前の毒舌キャラで師匠と入れ替わりに人気が出始めていた。そんな中、以前徳次を撮影した監督、清田の映画への参加が決まった弁天が、劇中に歌舞伎の女形が必要という事を聞いて、徳次に話を繋いだ。

徳次が持ち込んだ話を、最初は断る喜久雄。映画には向いていない。だが八方塞がりの状態。年齢も、もう二十八。

 

ようやく決心する喜久雄。映画は「太陽のカラヴァッジョ」

太平洋戦争末期の沖縄戦を描く。

喜久雄に難色を示した清田だが、結局使う事を決める。
アメリカのロックバンドのメンバー、ミスター・ハドソンも加えて撮影開始。

だが喜久雄の演技は気に入られず、それが次第に感染して、全体の雰囲気が喜久雄を責めるものになった。
映画の中でも重要な、暴行を受けるシーンを翌日に控え、何者かに本当に暴行される喜久雄。

 

過酷な撮影が終わり、東京に戻ってからの喜久雄は人が変わったように飲み歩く。
映画が高い評価を受け、カンヌ映画祭で賞を取った。だがそれを無視する喜久雄。受賞セレモニーにも喜久雄の姿だけがない。

体調を崩して入院する喜久雄に、途方に暮れる徳次。
しばらく市駒のところで暮したい、と喜久雄。

 

10.怪描
かつて三友で梅木の部下として丹波屋に出入りしていた竹野。

梅木に引っ張られて大阪のTV局に出向中。そんな番組企画の中で、見世物小屋でやる化け猫が人気との話を聞く。

 

鳥取の三朝温泉の劇場で、ビール片手に化け猫の出し物を観る竹野。目も当てられない田舎芝居だが、化け猫への素晴らしい早替わりに驚く。楽屋とも言えない暖簾の先で化粧を落とす男。

 

海水浴場で綾乃と遊ぶ喜久雄。長い逗留に、次第に慣れる綾乃。
そんなところへ訪ねる徳次。気力の戻った喜久雄を見て喜ぶ。

小野川万菊を連れて別府に向かう竹野。

俊介の芸を見てもらうため。
竹野の狙いは、俊介の復活劇をTVで特集することで一大ブームを巻き起こす。核となるのは、喜久雄を完全な悪役にする事。

 

鉄輪温泉郷の芝居小屋で、化け猫の早替わりを見る万菊。

次第に手が動き出す。楽屋で俊介に声をかける。

「ほんとにあなた、生きててくれてありがと」

 

三友本社での、喜久雄と俊介の対面。この十年の思い。
春江に会ってくれないか、と俊介。そして「ガキ、おんねん」
もうすぐ三歳だという一豊を抱きしめる喜久雄。傍らに春江。

俊介の復帰公演の準備を進める三友。万菊と絡む大役。

結局血筋か、と腹を立てる徳次を制しながらも複雑な喜久雄。
万菊に直接稽古を付けられる俊介を見て、悔しさがこみ上げる喜久雄。
そんなところへ「喜久雄お兄ちゃん!」と飛び出して来た娘。

江戸歌舞伎の大看板、吾妻千五郎の娘、彰子。

 

11.悪の華
故花井白虎の屋敷。春江が一豊に柿を食べさせている。

幸子は「西方信教」の信徒らとお題目。豊一をけしかけて信徒を追い払う春江。その手腕に感嘆するお手伝いのお勢。
幸子の相談。復帰公演もあり、ここを出て東京へ行ってはとの話。反対する理由はない。
「喜久ぼんの事は・・・ええんやな?」の問いに「はい」

喜久雄への手紙を春江に指示する幸子。

これまでの感謝、今後の展望について。

 

東京に移った幸子と俊介家族。
多忙の俊介に代わって雑多な手続きは幸子と春江が済ませた。
喜久雄の返信。

大阪の屋敷の返却、借金の移譲と丹波屋への感謝。

竹野のシナリオ。喜久雄の隠し子暴きでワイドショーの餌食に。
喜久雄が白虎の代役を奪い、三代目半二郎を名乗っている事の告発。そうして喜久雄の悪いイメージが定着。
その上で、俊介一家をNHKのトーク番組へ出演させた。

 

復帰公演の初日。劇評家の藤川も絶賛。一方喜久雄は、売りに出された大阪の屋敷の事まで勝手にやったと報じられていた。
春江を訪れる松野という男を気にする幸子。

 

吾妻千五郎の次女、彰子。婚約している。

相手は東大卒。キャンパスから喜久雄に電話をかける彰子。
電話の後、自分に喝を入れる喜久雄。現状に焦る喜久雄は、彰子が婚約中と知って抱いた。吾妻千五郎の後ろ盾欲しさ。

吾妻千五郎の足元で土下座する喜久雄。横に彰子。

足蹴にされる喜久雄。
とりあえず帰ってくれと懇願する母親に、私も出て行く、と彰子。

 

12.反魂香(はんごんこう)
源吉からの情報で、喜久雄が八重垣姫を踊る事を知る俊介。

俊介は歌舞伎座で同じく八重垣姫を、喜久雄は新派。

これは竹野の目論見。競合させて注目を集める。

 

彰子を利用して吾妻千五郎に取り入ろうとした事を知って徳次は激怒。それを受け止め、全てを彰子に話した喜久雄。
廃業寸前まで追い詰められた喜久雄に、見かねて彰子の母桂子が、遠縁で新派の大看板、曽根松子に助けを求めた。
試しに「遊女夕霧」を踊ったところ、大きなを評判を呼んだ。
喜久雄が移った事で、新派における歌舞伎の演目も増え、その対立軸でファン層が広がった。以来四年。

 

その流れの先が八重垣姫の踊る「本朝廿四孝」の新派、歌舞伎による同時期公演。
この話を聞いた万菊が、二人に稽古をつけてやると申し出た。
万菊のマンションを訪ねる喜久雄と俊介。板張りの稽古場も備えられている。俊介の首がずっと振れている事を指摘する万菊。

喜久雄が数段上だと言う一方、綺麗なままの顔は悲劇だ、とも。

 

俊介との不遇の日々を思い出す春江。
出奔の後、名古屋に落ち着いた二人。日雇いを始めた俊介だが三日と続かない。働きに出た春江は、半年あまりで店を任される。
ヒモ生活の俊介だが、アパートの大家が見かねて自分が経営している古書店で働く事を勧めた。
その店が歌舞伎、文楽を扱う店であり、専門書に接する俊介。

名古屋に来て一年ほどで春江が懐妊。

家に戻る様な望みも口にして、決意の甘さに驚く春江。
生まれた息子の豊生を連れて三人で父、半二郎との再会。
試験や、と言って「本朝廿四孝」の一場面をやらせる半二郎。
あと一年やって、それでもダメなら喜久雄に半二郎を継がせる、と言う父。俊介は、あと一年で戻れると考えていた。
そんなある日、春江が不在の時に豊生が熱を出した。

様々なトラブルの末、ようやく病院に運んだが手遅れ。
俊介の、筆舌に尽せない落胆。
荒みきった数年を経て、ようやく旅役者となった俊介。

 

帰宅した俊介が仏壇の前で手を合わせる。白虎と豊生の位牌。

追って来た春江が聞くと、「本朝廿四孝」の八重垣姫で芸術選奨を受賞したと言う。
喜久雄に電話をかける俊介。彼も同じ賞を受けていた。
数年ぶりの会話。

 

13.Sagi Musume  
俊介が芸術選奨受けた直後に披露したのが「鷺娘」。

俊介が長らく研究して復活させた内容。
竹野が以前同様、喜久雄にも鷺娘をけしかけた。
喜久雄はかねて考えていたオペラとの競演を実現させ、七日間の東京公演が行われた。
その絶賛を受けてのパリ公演も大成功。

半二郎の名は一般にも知られるところとなる。

そんな折りに九州の辻村からの電話。

辻村が愛甲会を引き継いで二十年。

その記念パーティーで喜久雄の鷺娘を踊って欲しいという。
徳次の反対をよそに、二つ返事で引き受ける喜久雄。

 

そんな時、徳次に京都の市駒から電話。不良とのつきあいを深めている綾乃。渡阪し弁天から情報を集めて、関係している暴走族のタカシを割り出す徳次。
タカシの家で綾乃を確保する徳次。部屋にはシンナーの臭い。
上の組織の南組に乗り込む徳次。
父親の半二郎に因縁を付けるつもりだった組長だが、その名代だと腹を据えて対峙する徳次。
命を捨てるつもりで来た事を覚った組長は「指詰めて帰ったらええ」と続ける。前に出されたまな板と鑿。

淡々と準備を進める徳次に「役者の付き人にしとくのは惜しい」
「杯交わしたんが色男、しゃーないですわ」

と鑿に体重をかける徳次。

 

福岡のグランドホテルで鷺娘を踊る喜久雄。
見とれる客たちの前で、クライマックスを迎える寸前に照明が入り、警察のガサ入れが始まった。連行される辻村に声をかける喜久雄だが、無言で首を横に振る辻村。

 

辻村逮捕と共に、その場にいた喜久雄の事がスクープに晒された。今まで控えられてきた刺青の事も一気に歯止めが崩れる。
マスコミからの出演拒絶を受け、新派の舞台にも出られない。

市駒の元に戻った綾乃。男にはもう相手にされない。更に悪い者たちへの接触で、薬物にまで手を出したところで補導された。
さすがに喜久雄も関わらざるを得ない。

だが決定的な綾乃との断絶。そんな時に春江が声をかける。

俊介を薬物から更生させた経緯があった。
春江に預けられる事で、生活の乱れも正されて行く綾乃。

 

仕事の面での苦しい状況が続く中、彰子に千五郎からの電話。
喜久雄と二人で出向くと「戻って来い」と喜久雄に言う。
貧乏クジだと分かっていて、世話になった親分の顔を立てた事を評価した千五郎。

千五郎の許しが出た事はすぐ広まり、形を整えるため喜久雄が記者会見を行って、暴力団との絶縁を宣言。
それを受けて三友が仕掛けたイベントが、半二郎と半弥が交代で配役を変える「源氏物語」

 

14.泡の場
「源氏物語」は高い評価を受けた。
舞台の後、二人で酒を酌み交わす喜久雄と俊介。

大阪で初めて会ってから、はや二十余年。
次の演目の構想を話す喜久雄。経済的にも余裕の出始めた二人。

銀座のクラブで飲む喜久雄、俊介、弁天、徳次の四人。
弁天が、歌舞伎役者の鶴若がお笑い系の番組にレギュラー出演すると話した。「あの鶴若さんかいな?」と徳次。
持ちビルのテナントが焦げ付いて、資金繰りが苦しいらしい。
かつて白虎の吐血騒ぎの余波で、喜久雄が鶴若に面倒を見られていた時の仕打ちを、徳次も一緒に経験していた。
今その鶴若が、明治座の喜久雄らの公演で端役をやっている。

 

三友の計らいで仕事量をセーブしている喜久雄にイラつく徳次。俊介は新作「土蜘蛛」の準備。
喜久雄にも「阿古屋」をやろうという目論見があった。

だが胡弓の演奏が難しく、今高名な師匠に付いている。

 

年が明け俊介の「土蜘蛛」公演が始まる。三友からそろそろ「襲名」の打診。半二郎は喜久雄が継いでいるため俊介は「白虎」
だが先代の不吉を思い、不安の幸子は滝行に励む。

俊介の舞台の後見をする源吉。ふらつく体で無理をしている。何とか襲名までは勤めさせて、幹部役者になってもらいたい俊介。
だが源吉の心配をする俊介自身、足の冷えが気になっていた。

 

15.韃靼(だったん)の夢
竹野の仕込みでセットされた宴会。喜久雄と、同じく歌舞伎役者で七歳ほど年長の伊藤京之助が呼ばれた。

相手は矢口建設の若社長夫妻。
この人がスポンサーとなって、歌舞伎を後世に残すためのプロジェクトを進める。社長のリクエストは、前の二人による「国性爺合戦」をやること。

 

丹波屋での正月に、勝手口から顔を出す松野。
松野は春江の義理の父。春江が三歳の頃から住み始め、当時は暴力をふるった。俊介が廃人になりかけて母親を頼った時も、ヒモ生活をしていたが、男手としてそれなりに役に立った。


「国性爺合戦」の稽古が進む中、徳次が中国に渡って勝負をかけたいと言って来た。呆れる喜久雄だが、徳次の意思は固い。
「国性爺合戦」が終わるまでは支える、と徳次。
演目も無事に千秋楽を迎えた翌日、誰にも知られずに姿を消した徳次。

 

次第に進む襲名の準備。喜久雄が口上に同席してくれると聞いて喜ぶ俊介。俊介の復活がなければ白虎の名跡を継ぐのは喜久雄の筈だった。
ふと俊介の足元を見て、痣を指摘する付き人の恵美。

小指の付け根がうっすらと紫色。

 

京都南座での襲名披露。俊介演ずる「曾根崎心中」、喜久雄の「鷺娘」そして俊介の襲名口上。
形通りの枕の後、一度は逃げ出した事と、亡くした豊生の話をし、初日だけはこの三人で襲名披露をしたい、と結ぶ俊介。

 

16.巨星墜つ
小野川万菊の通夜に駆け付ける喜久雄と俊介。

死んだ場所は三谷のドヤ街。享年九十三歳。
三年前の俊介襲名以来、公の場に出ていなかった。
風邪をこじらせて長期入院した後の長期療養で、人を寄せ付けなくなった。マンションのゴミ問題を起こして三友が乗り出し、入院させたが、九十歳の身で出奔。それからは消息知れず。ドヤ街の日雇いの者の話では、元おかまバーをやっていたとの説明。

 

阿古屋の稽古が進む中、綾乃からの電話。会わせたい人というのが相撲取りの大関、大雷(おおいかずち)
腹に子が居る。披露宴の時だけ三代目花井半二郎の娘として嫁に行きたいと言う綾乃。

 

「阿古屋」の舞台が開き、大入りの大盛況。
一方俊介の「女蜘」も当たり、全国規模の巡業が計画される。

九州の「女蜘」公演での事故。俊介の足がもつれ、花道へ転落した。尋常でない痛がりよう。
診断によれば右足先の壊死。原因で考えられるのは糖尿病など。
幕間で春江からの電話を受ける喜久雄。

俊介の右足切断手術の件。急ぎ病院に行く喜久雄。

「あかんて、あかんて」と言う喜久雄に対し、覚悟を決めている俊介。

 

近づく綾乃の結婚式。父親が、出席するためにリハビリをしている、と言う息子の一豊は、もう二十歳。
「娘道成寺」で高評価を受けている。
盛大に行われた綾乃と大雷の結婚式。手術後初めて公の場に出た俊介は、松葉杖もつかず歩き、復活をアピールした。
その後綾乃は女児、喜重(きえ)を出産。

 

花井白虎の復帰公演は「お富さん」の元となる「与話情浮名横櫛(よはなさけうきなのよこぐし)」奇跡の復活と讃えられた。

深夜、春江からの電話を受けた彰子が喜久雄に渡す。俊介が暴れているらしい。駆け付けた喜久雄。

病院の検査で、左足も壊死のため切らなくてはならないという。
もうあかん、と言う俊介に、旦那さんは最後まで舞台に立っていた、と諭す喜久雄。

 

17.五代目花井白虎
両足義足の姿で喜久雄の楽屋に顔を出す俊介。一刻も早く舞台に立ちたい、と「隅田川」を提案する。
班女を俊介、舟人が喜久雄。「喜んでやるよ」

懸命なリハビリの結果、俊介の「隅田川」による復帰公演が決まる。だが三友側のテストではまだまだ。
元になっている能の動きに戻しては、と提案する喜久雄。

動きも穏やかで今の俊介にマッチ。苦しい稽古は続く。

 

俊介の復帰公演「隅田川」の開演から五日目。同情ではなく、その演技は絶賛された。だが俊介には過度な負担。

楽日まで勤めたものの意識障害を起こし、そのまま入院。
そんな俊介に「日本芸術院賞」が授与された。夫婦して喜ぶ俊介。だが俊介の容体は次第に悪化して行った。

 

出の寸前に、付き人の蝶助から俊介の死を告げられる喜久雄。
緊張が走る中「はい」と言って喜久雄が歩み出る。
観客が観たいのは美しい女形。どんな言い訳も通用しない。

 

18.孤城落日
花井半弥を継いだ一豊。若手の中心として忙しい。今年は父俊介の七回忌。

深夜一時。すすり泣く声を聞いて起き出す春江。一豊が人を撥ねたという。動転した春江は向かいのアパートに走り、松野をたたき起こした。一豊の事を聞いて全て悟った松野は「その車、運転してたん俺や」
だが正気に返って、事故を起こしたという現場に走る春江。

その先には救急車のライトと警官に囲まれた一豊の姿。

 

三友本社で記者会見する喜久雄。進行は竹野。
謝罪会見は全国に流された。

徹頭徹尾、謝罪を続けるという喜久雄の姿勢は好感を与えた。

結果的にそれは、これからの若い役者を抹殺した。

 

一豊が起こした事件は、被害者の治癒、判決(執行猶予)により一応決着。それを受けて喜久雄の公演が始まる。
歌舞伎のイメージアップも賭けて、喜久雄の意気込みが凄く、近寄る者もいない。

 

喜久雄に起きた事件。
この時期演じているのは「藤娘」。何を演じても突出してしまう喜久雄は、一人で踊る演目が多くなっていた。
喜久雄の醸し出す気品に観客はうっとりし、それが後方の客にも伝わって行く。

第一幕の終わり。

若い男性客がうっとりしているのを認めた喜久雄。
第二場でもその視線を感じ、その客だけのために踊る様な気分になった喜久雄。だが一連の流れで回転し、次に目を向けた時、その客がいなかった。訝りながらも踊りを続け、再び回転して戻った時、目の前にその客が立っていた。

どよめく客席。男は焦点が合わないまま喜久雄を見つめている。
一瞬の後、黒子やスタッフが男を引き摺り出した。
 

再開した三味線、長唄の中でぽつんと取り残される喜久雄。

 

19.錦鯉
国立劇場での近松演目の「女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)」。喜久雄の相方を演じる伊藤京之助は、微妙な違和感を感じる。三年ほど前から舞台以外の仕事を一切受け付けなくなった喜久雄。
そんなわがままも、舞台での演技が群を抜いており許される。

それが彼の神格化を進めた。

 

そんな時期に動き出した喜久雄への「人間国宝」プロジェクト。だが一昨年に文化功労者を受けたものの、その出自から喜久雄を不快に思う者もいた。

「女殺油地獄」の終幕間際に知らされた綾乃の家の火事。
幕が下りて駆け付ける喜久雄。孫の喜重が火傷を負ったという。
病室に入ろうとする喜久雄を綾乃が制した。
「お父ちゃんは来んでええ!」
皆の幸せを奪って行く父親。

ずっと憎まれていた事を思い知らされる喜久雄。

 

一豊の妻、美緒。謹慎が解けた頃結婚した。ねん挫して入院中の幸子を見舞ってから三友の竹野を訪れる春江。
屋敷を担保に入れるための手続き。

 

珍しく舞台を観た竹野。

最近聞く、最近の三代目は窮屈そう、と言う声。
まるで錦鯉を小さな水槽で飼っている。喜久雄を見ていられない竹野。喜久雄の付き人をしている一豊に聞く竹野。
「いつから三代目はああなんだよ」
「・・・時々ああなるんです」喜久雄の、ガラス玉の様な目。

正気とは思えない。六年前、あの事件があって以来の事。
狂人の目に見えるものが完璧な世界なら、それが喜久雄の求めたもの。

 

20.国宝
タクシーで病院に向かう喜久雄と一豊。辻村の娘からの連絡。
辻村が逮捕されたのは、もう三十年も前の事。

それまでの間、一切の連絡を絶っていた辻村。

痩せた手を握る喜久雄に、父親殺しを告白する辻村。
小父さん、もうよかよ。

 

喜久雄演じる「阿古屋」。準備は全て彰子の仕事。
竹野宛てに喜久雄の「重要無形文化財」認定への答申通知が届く。綾乃宛に届いた「阿古屋」のチケット。

「お嬢へ 天狗より」のメモ。

二枚ある席には誰もいない。春江に促されて席に座る綾乃。

 

始まった「阿古屋」の舞台。

思い人の居場所を詰問される阿古屋。
高貴な香りに包まれてこの五十年舞って来た。

羽田空港から歌舞伎座に向かう男、徳次。中国で大成功した。

喜久雄の人間国宝を知って飛んで来た。

続く阿古屋の舞台。阿古屋が無罪放免される場面。
その幕が引かれようとする時、喜久雄が客席に向けて足を出した。そのまま降りて行く。
劇場スタッフも気圧されてされて扉を開ける。

歌舞伎座の大扉から現れた花魁に周囲は驚く。

 

スクランブル交差点によろめきながら飛び出した喜久雄。
その瞬間、喜久雄はいつもの様に「はい」と頷いて出の合図をした。

その眩い照明がどれほど役者の心を痺れさせるか、鳴りやまぬ拍手がどれほどの幸福感か。
日本一の女形、三代目花井半二郎は、今ここに立っている。