2017年02月09日

新聞小説 「国宝」 (1) 吉田 修一

テーマ:本・国内

作:吉田 修一  画:束 芋      1/1(1)~1/26(25)

第一章 料亭鼻花丸の場  1~25

長崎、丸山町の老舗料亭「花丸」に集まる黒塗りの車。黒紋付の正装で降りる親分衆。立花組の新年会。長崎丸山は、三大遊郭の一つとも呼ばれる。時は昭和35年。

組を仕切る立花権五郎が女房マツを伴って登場し、新年の挨拶を皆の前で行う。乾杯の音頭を取るのは宮地組の大親分。戦後は時代の変遷と共に立場を変え、宮地自身は土建屋として実業家然としている。
権五郎とはかつて杯を交わし、一応兄貴分ではあるため、宴席では権五郎、と呼び捨てにするが、実力としては権五郎が数段上。

 

 

マツが愛甲会の溜まりに居る男を見て、どっかで見たことがある、と権五郎に話しかける。若頭の辻村の隣で座っている垢抜けした男。踊りの手振りを芸者に披露する姿を見て「あ」と合点する権五郎。
二代目 花井半二郎。関西の歌舞伎役者で、映画俳優としても世間に知られていた。
権五郎が辻村を呼ぶと、長崎で映画の撮影があり、この新年会の話をしたところ、来てくれたという。
挨拶に行きたい権五郎だが、お歴々の前で彼だけのために立つわけにも行かない。そんな権五郎の様子を見て、半二郎が挨拶に来た。権五郎の出す杯を受ける半二郎。

半二郎から、権五郎の名前を歌舞伎の演目(「暫(しばらく)」の鎌倉権五郎)から取ったそうでんなあ、と問われ、それまでの事を思い出す権五郎。

愛甲会の元は、興行師だった熊井勝利が興した組であり、戦後すぐ権五郎と手を組み、当時長崎で名門だった宮地組を追い詰めて行った。
昭和27年に起きた宮地組と愛甲会との抗争。愛甲会の5人の組員を待ち伏せした20人の宮地組。勝負には勝ったが卑怯だと笑い者にされ、これを潮目に宮地組は勢力を落とす。後に15年続く「長崎抗争」の始まり。
この乱闘から4年後、愛甲会の打った興業の挨拶当日に、熊井が宮地組に襲われた。素手で日本刀に立ち向かいながらも、28歳の若さで絶命した熊井。その弔い合戦の先頭に立った権五郎。熊井が常々「お前の名前は弱々しい」と言っており、歌舞伎の狂言「暫」の主人公、権五郎はどうかと提案。これこそが自分の名前だと思った権五郎。

半二郎は既に席へ戻っていた。8年前、熊井がこと切れた時の事を思い出す権五郎。
熊井の死で報復を恐れた宮地組は大阪、神戸からの助っ人を頼み、一気に愛甲会、立花組を潰そうとした。だが開戦の直前、長崎県警がようやく動き、事前に鎮圧された。
立花組と宮地組の睨み合いはその後も続くが、商売に長けた宮地は本格的に土建業に進出、娘婿などの身内を議会に送り込んで、公共事業の予算を確保。
一方、権五郎の立花組は、裏社会との繋がりを深め、拳銃、麻薬の密輸に手を染めて行く。

再び潮目が変わったのが昭和34年(5年前)。長期化する睨み合いから若い組員が暴走。立花組の組員が出所したところを宮地組が襲撃。死人こそ出なかったが、一般市民が巻き添えで大ケガをする惨事となった。
自分の保身のため、権五郎に手打ちを申し入れた宮地だが、これにより宮地組は一気に傾く。
権五郎はこの機に乗じて、長崎の裏稼業の仕切りを一手に集中させた。

宴もたけなわになった頃、舞台に突然幕が引かれた。舞台裏からはドタバタと音が。何が始まるのかを知っていて、ニヤリと笑う権五郎。
大太鼓のドロドロドロ・・・の音と共に幕が上がり、現れたのは遊女墨染。半二郎が「関の扉でっか?」と驚く。
歌舞伎舞踊の名作「積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)」の名場面。桜の巨木に控える関守の関兵衛。
巨木の中から立ち出でる遊女墨染。幻想的な舞いで関兵衛を誘惑。座敷の誰もが釘付け。
見事な墨染でんなあ、こんな達者な芸妓さん、と言う半二郎に、あれは立花親分のとこの、中学生の息子だと教える辻村。

見事に繰り広げられる墨染と関兵衛の踊りと掛け合い。演目が終わって幕が引かれても延々と続く拍手。この演目の仕掛け人はマツ。根っからの芝居好きで、新年会の余興には見合わぬ大金をはたいて準備して来た。
演じた二人をねぎらうマツ。墨染の喜久雄と、関兵衛をやった部屋住みの組員徳次は、おしろいも流れるほどの汗だく。促されて風呂に向かう。喜久雄は十四、徳次は十六。妙に気が合い、コソコソと悪さをする仲。

徳次は、華僑が芸者に生ませた子で、終戦の混乱が収まると妻子・妾を捨てて中国へ戻った。徳次の母は芸者に戻ったが、原爆症で徳次が四歳の時に他界。遠縁の家で育てられたが、三年ほど前に立花組の若頭がスマートボール屋で見つけ、何度か会ううちに組へも出入りするようになった。

風呂場で体を洗いながらじゃれ合う喜久雄と徳次。徳次を通じて彫師の辰に入れ墨を頼んでいた喜久雄。徳次の背中にはスジ彫りの虎。辰は、立花組の惣領息子の背中に、親に内緒で彫り物をする事を恐れていた。
喜久雄と恋仲の春江。春江と一緒に入れようと思っている絵柄はミミズク。ミミズクは一度恩を受けた人間は決して忘れないという。

喜久雄が湯船に体を沈めた時、地震と間違うばかりの地鳴りと男たちの怒鳴り声が聞こえて来た。

 

 

宮地の殴り込みかも、と言う徳次。出ようとする喜久雄をマツと徳次が必死に止める。喜久雄の視線の先の座敷ではとんでもない修羅場が繰り広げられている。

二階へ逃れた権五郎。立花の男たちが守るが、武器を持っていないため食い止めるだけで精一杯。そんなところへ愛甲会の辻村と半二郎が逃げ延びて来た。二階に上がる追っ手。権五郎は、二人を逃がすため、襖を外して振り回す。宮地と立花の間で繰り広げられる乱闘。
奥の間に逃げていた半二郎の肩を引く者。そこに拳銃を持った辻村。
辻村が襖を蹴破り、権五郎の後ろに出た。振り返る権五郎。「なんの真似や?」と言う権五郎の腹に向かって銃が撃たれた。

 


感想
吉田 修一氏については「悪人」「さよなら渓谷」「横道世之介」などの映画、ドラマ等の原作を書いている中堅作家。ただ、まだ作品を読んだ事がない。
今回の作品は「お知らせ」によれば題材が「歌舞伎」との事。

まず読み始めで、のっけからヤクザの話。朝日新聞が右翼の片棒担いどったらいかんだろう、と突っ込みたくなるところだが、まあ気にせず読み進む。
舞台は昭和35年の長崎。被爆の傷跡も書き込みつつ、ヤクザの抗争の中で育つ主人公(と思われる)喜久雄の周辺が描かれて行く。
無理のない文体でグイグイと引き込まれて行く。喜久雄が演じる女形の墨染が演じる動きも、数回読み返して堪能した。

 

第一章では、父親の権五郎が、新年会の最中に殴り込みをかけられて命を落とすところまで。
さて、喜久雄少年はこれからどんな人生を歩むのだろうか?

それから挿絵を描く束 芋氏。この絵にはびっくり。墨流しの技法だろうか、人の顔が墨でぼかされて流れている。まるで幽体離脱。
挿絵にここまで心奪われる経験というのが、今までなかった事であり、今後が楽しみ。
 

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