新聞小説 「国宝」 (4) 吉田 修一 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

新聞小説 「国宝」(4) 吉田 修一    3/19(76)~4/13(100)

作:吉田 修一  画:束 芋

レビュー一覧 

                  10  11  12  13  14  15  16  17

18 19 20  全体まとめのあらすじはこちら

 

感想
最近、家事多忙でちょっとご無沙汰。

半二郎の厳しい稽古を、全く辛いとは思わずどんどんのめり込む喜久雄。半二郎が喜久雄と俊介に見出した女形の素質と、小野川万菊との出会い。

 

ずっと喜久雄を見守って来た徳次が、一旗あげようと北海道に行く。そんなうまい話があるわけないとは思うが、さてこの先どうなって行くのか。喜久雄から離れたサブストーリーにも興味がある。

 

あらすじ

第四章 大阪二段目 1~25 
1965年(昭和40年)の大阪駅前。両手にバッグを下げた春江。弁天という名のチンピラに絡まれていると、そこに現れる徳次。
先に手を出した徳次と弁天のケンカが始まる。昼休みで多くの見物人が居たが、五分五分の力でなかなか決着がつかない。散って行く見物人。
大の字に倒れてゼーゼーと息をしている二人。

 

 

市電で春江を半二郎の家に案内する徳次。家に着くなり皆から声を掛けられる徳次は、すっかりこの家に溶け込んでいる。
徳次は稽古中の喜久雄を春江に見せるために、稽古場の襖を僅かに開ける。
半二郎に稽古を付けられている俊介と喜久雄。足の踏み出しが悪い、と喜久雄が太ももを掴まれて動かされる。二人とも青痣まで作っていた。

 

厳しい稽古に驚く春江に、しばらく終わらないから、と春江のために借りたアパートへ連れて行く徳次。
部屋はみすぼらしく、ため息をつく春江。長崎のマツからは毎月三万の仕送りがあったが、しつけに厳しい半二郎は自分の息子の俊介にも月百五十円の小遣いしか渡しておらず、当然喜久雄や徳次にも自由になる金がなかった。

 

稽古を終えた喜久雄がアパートにやって来ると、春江が飛びついた。稽古疲れでへたり込む喜久雄。春江は母親の紹介でミナミのスナックで働くという。

 

授業を終えて、自転車の二人乗りで駅に向かう喜久雄と俊介。駅で源さんが荷物を持って待っている。この月、京都南座の興業で半二郎が「土蜘」の僧の役を演じるため、半月の間二人に黒衣をさせるために呼ばれていた。
だが半二郎の目的は別にあり、この月に「隅田川」で演ずる希代の女形「六代目小野川万菊」の舞台をどうしても二人に見せたかった。
喜久雄が大阪に来てから一年あまり。喜久雄と俊介に女形の才能を見出す半二郎。

 

自転車で駅に向かう俊介は、荷台の喜久雄に「うちの部屋子になるん?」と聞いた。部屋子とは、子役の時から幹部俳優に預けられて全てを仕込まれる立場の事。見込みがあれば将来大きな役がつく可能性がある。
喜久雄を部屋子にしたい、という事は半二郎から長崎のマツに伝えられていた。その話を受けるかどうかの前に、まず我が子の顔を見なければ、と上阪したマツは、ここでの暮らしを喜々として話す喜久雄を見て安堵する。

 

興業が終わった京都の夜、お茶屋遊びをした喜久雄と俊介は、その店「井出」の市駒と富久春を待っていた。そこへ普段着に着替えた二人が。
境内で焚火がしたいという市駒の言葉で、枯れ葉を集めて火を囲む四人。俊介が富久春の手を引いて暗がりへ行き、キスを交わしている。
二人はもう長いんやろな?と話す喜久雄に、ポツポツと身の上話を始める市駒。
お茶屋遊びが初めてだったと言う喜久雄に、市駒が「うち、喜久雄さんにするわ」と言い自分の人生を賭けると言う。慌てる喜久雄だが、満更でもない。奥さんなどとは言わず、二号さんか三号さんに予約だと市駒。

 

京都南座の屋上でキャッチボールをしている喜久雄と俊介。半二郎がどうしても二人に見せたいという小野川万菊は、身内では遠州屋の小父さんと呼ばれている。挨拶をすると半二郎に言われていた二人は階下に降りた。半二郎に連れられて小野川万菊の楽屋へ挨拶に。
万菊が俊介に会うのは五年ぶり。半二郎は喜久雄も紹介した。喜久雄は、ちらっと向けられた万菊の視線にゾクッとするが、俊介には遠州屋の小父さんとしか見えていない。
挨拶を終えて去る時、万菊は喜久雄を呼び止めてきれいなお顔、と褒めたが、役者になるならその顔は邪魔も邪魔、いつかその顔に自分が食われる、と忠告。混乱する喜久雄。

 

 

半二郎の楽屋で昼食を済ませた喜久雄と俊介は、万菊の舞台を観るために、用意された席でその出番を待った。

出し物は「隅田川」。狂乱ものと言われるもので、我が子を人商人に攫われてもの狂いとなる、班女という女。
万菊演じる、班女の作り出す怪奇な世界に引き摺り込まれる喜久雄。「化け物」。あまりに強烈な体験に、心が拒絶反応を起こすが、次第にその化け物がもの悲しい女に見えて来る。
この日の小野川万菊の姿が、のちの二人の人生を大きく狂わせて行く。

 

アパートの炊事場で、店に出す煮物を作っている春江。小皿を貸してくれたおばさんとの会話。そこに飛び込んで来る徳次。店用の冷蔵庫が見つかったという。探し出したのはあの弁天。春江に惚れている、と徳次。
弁天とつるんでいる徳次を心配する春江。本来なら鑑別所から逃亡中の身の上なのだが、喜久雄のお供が決まってからは、愛甲会の辻村が動いて、その収容期間を短縮させた。
そんな逃げ得が身に着いた徳次は、手代の修行にも飽きて弁天と遊び歩いている始末。
冷蔵庫をトラックに載せて待っている弁天。何やら徳次と北海道行きの話などひそひそやっている。現場監督もどきの仕事で月四万のボロい話。

 

弁天と共に手配師から話を聞いた徳次は、喜久雄にこの話の次第を説明した。
北海道で勝負に出てみようと言う徳次に、急な話で声も出ない喜久雄。騙されているのでは?と心配する喜久雄に、もっと大きな事で坊ちゃんを助けたいと話す徳次。
字が書けるのも、計算が出来るのも、全部坊ちゃんが教えてくれたおかげやけん、と話す徳次。
「徳ちゃん・・・」それだけ言うのがやっとの喜久雄。止めたところでここに徳次の居場所がない事も事実。
心配いらんて、と言った徳次の笑顔を、本当に久しぶりに見たように思う喜久雄。