新聞小説 「国宝」 (15)  吉田 修一 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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新聞小説 「国宝」  (15)   12/27(351)~1/21(375)

作:吉田 修一  画:束 芋

レビュー一覧 

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感想
俊介の白虎襲名までの大まかな流れ。松野の正体がようやく判明。

徳次との別れ。まあ北海道からの出戻りの事もあるから、これでおしまいではないかも知れないが・・・

 

そして再び指摘される右足のアザ。不安を感じさせるが、さすがに先代白虎のようなことはなく、襲名は滞りなく終わった。


今回の副題「韃靼(だったん)の夢」の意味を考える。

だったん【×韃×靼】
モンゴル系部族の一。8世紀ころから東モンゴリアに現れ、のちモンゴル帝国に併合された。宋ではモンゴルを黒韃靼、トルコ系部族オングートを白韃靼と称し、明では滅亡後北方に逃れた元の遺民を韃靼と称した。タタール。

 

俊介は、一度歌舞伎の世界から逃げ出した。それを韃靼と卑下したのだろうか。

 

あらすじ

第十五章 韃靼(だったん)の夢
雨降る中、料亭「新喜楽」に向かう喜久雄。

同じ席に呼ばれた伊藤京之助もそれに加わる。

喜久雄より七つほど年長で、人気の二枚目役者。
今回は竹野の仕込みで、矢口建設の若社長夫妻の接待。

若社長と言っても五十代半ば。
酒も進み、竹野が口火を切ってお座敷遊びの「虎々」を始める。

元は演目「国性爺合戦」の中の武人、婆さん、虎のいずれかを演じてジャンケンするもの。
一通りの遊びを終えて喜ぶ若社長。

この会合の目的は、映像録画技術が進歩したこの時期に、喜久雄たちの歌舞伎を後世に残そうという話の具体化。
若社長のリクエストが、先の「国性爺合戦」を京之助の和藤内、半二郎の錦祥女でやること。

 

年の瀬の俊一たち一家を追う撮影隊。来年の秋に予定されている二代同時襲名に向けてのドキュメント番組の収録。
これから豊一が入っているバスケット部の試合に出掛けるところ。
役者なので怪我が心配だが、卒業するまではやりたいように、という俊介の方針。
体育館での春江と豊一を追うカメラ。撮影はその後も続き、新居でおせち料理の準備をする幸子、お勢の様子も撮られた。

 

丹波屋での正月。俊介、豊一と幸子、春江が訪問客たちを迎える。
来客も一段落した頃、勝手口から「松野さんがみえてます」の声。
春江の「明日にでも出直して」の言葉に俊介が「正月くらいええやないか」ととりなす。
松野は春江の義父。春江が三歳のころに母親と所帯を持ったが、酒に酔っては母や春江を殴る蹴るの毎日。

喜久雄を知って家を出る事で逃れた。
俊介が豊生を亡くし、薬物にまで手を出して廃人になりかけていた時、松野は母とよりを戻してのヒモ生活。
それでも暴れる俊介を押さえ付けたり、治療のための闇医者への口利きなど、男手として頼ったのも事実。
俊介が、春江の母親の十三回忌を思い出す。

一人で行くという春江に一家で行こう、と俊介。

 


喜久雄が、近所で借りている稽古場で観ているビデオは、次の演目とされる「国生爺合戦」。ここで和藤内を演じているのは十一代目伊藤京之助であり、今度共演する京之助の祖父。
そのビデオ鑑賞を最後まで付き合った徳次が、喜久雄に話がある、と言う。中国に行って、勝負がしたいという。

商売でも始めて、成功したら何でも買ってやる。
そう言って昔、北海道に行ったんだよ、と呆れる喜久雄。

だが徳次の意思は固い。
今まで一心同体で続いて来た間柄。簡単には承諾しかねる喜久雄。徳次も次の「国生爺合戦」まではきっちりやるという。

 

時は流れ、はや「国生爺合戦」も既に中日を迎えた頃、喜久雄が幕間で徳次にこれからの事を聞く。送別会を開くという話にも乗って来ず、喜久雄に日本一の女形になれ、と励ます徳次。
その舞台が千秋楽を迎えた翌日、誰にも知られず姿を消した徳次。

アパートもきれいに引き払っていた。

 

楽屋で遅い昼食を食べる俊介を訪ねる一豊と春江。一豊が大学進学を決心したという。エスカレーター式の一貫校に入学させたが、常に成績下位で進学は難しいと担任にも言われていた。
綾乃に勉強を見てもらおうという話もあるが、綾乃は就職活動。その先は思い出話でうやむやに。
幸子が顔を出す。襲名の演目で「曾根崎心中」をやる事に不安だと言う。その演目は、かつて二代目半二郎が交通事故を起こした時に、喜久雄が代役として立ち、俊介が出奔した原因でもあった。
その逆や、あの事があったから今の自分がある、という俊介。

 

久しぶりに相撲観戦に行った喜久雄。二段目の取り組みの中に懐かしいものを思い出し、後で調べると「荒木」という十五歳。若い頃親交のあった荒風の息子だった。
秋田に戻って居酒屋をやっている荒風に電話を掛ける喜久雄。

 

楽屋で出番の準備をしている俊介の元へ、付き人の恵美が、襲名披露公演のチラシを持って来た。
喜久雄が襲名の口上に同席してくれるのを喜ぶ俊介。丹波屋一門とはいえ、俊介の復活がなければ白虎をつぐのは喜久雄の筈だった。
「源さんの具合はどうなんやろ?」と聞く俊介。春江が見舞いに行ったと聞いて、悪いのだと直感する。
出番の前に小用に行こうと立ち上がった俊介の足元を見て、恵美が足の痣を指摘。
小指の付け根がうっすらと紫色になっている。痛みはないが、こそばゆい感じ。

 

 

 

着々と進む襲名披露の準備。テレビ、ラジオ関係への出演。中でも俊介復帰を強く印象付けたNHKのトーク番組も、今回のために一年密着の取材を行っていた。千七百年代まで遡る丹波屋の歴史。

 

そして迎えた京都南座での襲名披露公演初日。
俊介演ずる「曾根崎心中」、そして喜久雄の「鷺娘」。夜の部では俊介親子の「連獅子」。その前に最も大事な襲名の口上。
出番の前、緊張の一豊に、彼が子供の頃の、将棋のエピソードを話して和ませる俊介。
舞台には小野川万菊も列席。俊介がその手を取って案内する。

幕が上がって始まった口上。
筆頭の五代目生田庄左衛門、一豊に続いて、いよいよ五代目白虎、俊介の口上。
形通りの枕の後、一度はこの世界から逃げ出した自分を親不孝と悔やみ、そして幼くして亡くした豊生の話。
初日の今日だけは私と一豊、そして長男豊生の三人で、この襲名披露を勤めさせて頂きたいのでございます、と結んだ。