新聞小説 「国宝」 (3) 吉田 修一 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

新聞小説 「国宝」 (3)   2/22(51)~3/18(75)

作:吉田 修一  画:束 芋

レビュー一覧 

                  10  11  12  13  14  15  16  17

18 19 20  全体まとめのあらすじはこちら

 

感想
親の仇を討ち損ねた喜久雄が、あの花井半二郎の家に預けられるまでの話。
徳次の人生を考えて、敢えて警察に売ったのだが、勘のいい徳次はそれを切り抜け、大阪に行く喜久雄になおも付いて行く。この、何があってもゆるがないという徳次のキャラクターにも惹かれる。

 

喜久雄が歌舞伎役者としてのし上がって行くための、端緒というべき章であり、新たに加わった俊介との関係も楽しみになっている。

 

あらすじ

第三章 大阪初段 1~25

どしゃ降りの中、タクシーを降りて改札に向かって走る喜久雄とマツ。それを見送るために追う組員数名。
発車する寝台特急「さくら」。この慌ただしい出発の理由は、例の朝礼の一件。

 

 

あの朝、喜久雄のドスは宮地の大親分の腹には届いたが、財布のおかげで傷は浅いものだった。むしろ体育教師、尾崎の体当たりで肩を脱臼した喜久雄の方が重傷。
普通なら警察沙汰になるところを、尾崎が宮地を保健室まで連れ込み、治療の折りに、この話を美談として穏便に済ませる事を提案。吉良上野介を引き合いに出され、宮地がその話に乗った。
ほどなく宮地は朝礼の場に戻り、警察を呼べ!と暴れる喜久雄を前に演説を続けた。
ただし宮地が被害届を出さないための条件は「立花の息子を長崎から追い払うこと」。

 

列車がそろそろ博多に着こうとした時、徳次がバッグを持って現れた。驚く喜久雄。
話はあの朝に戻る。警察に徳次を捕まえさせようと電話をした喜久雄。だが徳次はそれを察して捕まる事はなかった。その後伝え聞いた喜久雄の刃傷沙汰。
徳次が向かった立花組では、喜久雄をどこかに預ける件の協議。ヤクザにはしないと言い張るマツに、組を仕切っている辻村が、あの襲撃の時にも来ていた、二代目花井半二郎の名前を出した。

 

大阪の駅に着き、改札を出ると「立花喜久雄君」という紙を持った男。早速タクシーに乗せられる。男は半二郎のところの番頭をしている多野源吉。
マツに仕込まれた挨拶を聞いた源吉は気さくに「源さんと呼んでくれ」と言って二人を中華そば屋に連れて行く。

 

廊下を歩く女中の足音に目を覚ます喜久雄。早朝の5時にここ、花井半二郎の家に着いたのだった。
源吉が「もう昼近いで」と言って布団を畳みに来た。
源吉は、洗面台で身繕いをした喜久雄と徳次を連れて、ここの女将、幸子に引き合わせる。半二郎の後妻で四十前の色気ざかり。
マツ仕込みの挨拶をする喜久雄に、お昼にしよかと気楽に返す幸子。

 

喜久雄たちが連れて来られたのが家族用の台所。そこでうどんをすすっている同じような年恰好の少年。花井半二郎の一人息子の大垣俊介。花井半弥の名で舞台にも出ている、喜久雄と同じ十五歳。
母親に子供扱いされて面白くない俊介。喜久雄たちを下働きと勘違いして丼の片付けを喜久雄に言いつけ、それを怒った徳次と揉めそうになる。
更に俊介は、稽古に行くから車を回せと源吉に命令。そんな事やった事もないくせに、と大笑いする幸子に面子を潰された俊介は、プイと玄関に向かう。

稽古と聞いて気になった喜久雄は幸子に聞いた。義太夫の稽古だという。聞かれるままに、母親から文楽を観せられていた事を話す喜久雄。
興味があるなら、俊介が行っている岩見のお師匠さんとこを覗かせてもらい、と話す幸子。

 

マツが愛甲の辻村に頼んだのが、とにかく大阪で高校に通わせて欲しい、という事。その旨を半二郎に伝えると、うちの倅と同い年だから倅が通う予定の天馬高校に通わせる、との段取りに。半二郎は、役者に学問は不要、という先代の方針に苦しんだ経験を持っていた。

 

昼食を終えて、俊介が稽古を受けている岩見に出掛ける喜久雄と徳次。
中から聞こえる張扇の音と共に聞こえる俊介の声。稽古をつけている岩見鶴太夫。古希を迎えたが生気が漲っている。

 

 

稽古の中休みで、見学していた二人が呼ばれた。幸子があらかじめ連絡を入れていた。
歌舞伎役者はまず義太夫と踊りを知ってなければ半人前にもなれないという。また、歌舞伎には文楽を歌舞伎にしただけのことがなければ意味がない、と鶴太夫は皆に話す。

ふいに鶴太夫が喜久雄に声を出せと指示。聞いていたものをそのまま真似る喜久雄。それに続けて徳次も。そうして唐突に稽古の続きが、喜久雄と徳次も含めて始まった。

 

鶴太夫が喜久雄たちを神聖な稽古場に引き上げたのには訳があった。数日前に訪れた半二郎は頼まれて男の子を預かる事になったが、俊介と一緒に稽古をつけて欲しいという。
俊介にはどうしても甘えがあって、ライバルが必要だという事。そしてもう一つ、その子が生来の役者の資質があるように思える、という事。
そんな事も知らず、喜久雄は義太夫節の虜になって行く。