新聞小説 「国宝」 (17)  吉田 修一 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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新聞小説 「国宝」(17)  2/17(401)~3/13(425)

作:吉田 修一  画:束 芋

レビュー一覧 

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感想
両足を失った俊介の、壮絶な復帰への執念。だが結局力尽きる。
中盤で戻って来た俊介の描き方を読んで、主役はどっち?とも思ったが、結局喜久雄、か。

 

しかしこのまま話が続いても、長いばかりで最近は疲れる・・・・・
最後の興味は、題名にある「国宝」への収斂という点だけだが、さてどんなものか。

 

あらすじ

第十七章 五代目花井白虎  1~25
次の出番までの間、小休止している喜久雄。たまたま自分に付いた若衆が誰かを弟子の蝶吉に聞く。中堅どころを守って来た三國屋権十郎の息子武士。若衆役の割りに、首筋の風情に色気があった。

 

俊介が、両足義足の体で顔を出した。慣れた様子で座布団に尻もちをつく俊介。


リハビリに苦労する身だが、一刻も早く舞台に立ちたいと「隅田川」を提案する。それを物陰で聞いている一豊。

俊介は続ける。自分が班女をやり、喜久雄が舟人をやる。
「喜んでやるよ」と喜久雄。二人がまだ十六の頃に見た万菊の「隅田川」。当時、美しい化け物や、と言った俊介。

次の出番があり、俊介に「何でもやるから連絡しろよ」と言って舞台袖に向かう喜久雄。
先ほどの武士が来て挨拶する。大学も中退したと聞いていた。唐突に「おまえ、女形やれ」と言われて驚く武士。

立役失格と言われているようなもの。
そう言い残して舞台に向かう喜久雄。
俊介から預かっている一豊。喜久雄の見立てでは女形よりも立役に向いており、その相方を探すのも親代わりの務め。それが武士だった。

 

出番の前に大相撲の中継に見入る喜久雄。娘婿、大雷の優勝決定戦。相手は横綱の鷲ケ浜。
その戦いを制して優勝した大雷。万歳三唱する喜久雄。
大雷の優勝パレードが終わり、喜久雄の公演も終わろうとした頃、綾乃から孫娘の喜重の七五三に付き添って欲しいとの連絡があり、二つ返事の喜久雄。
その当日、大雷の両親、市駒も交えた大人数。優勝力士と歌舞伎役者の登場で、参拝客も集まる。早々に退散する一行。
ホテルでの昼食時、綾乃が俊介の様子を教える。

復帰を焦るあまりの、常軌を逸したリハビリ。
喜久雄自身も漢方医局で薬を調合してもらっている身。

無理が利かない年代。老眼を嘆く市駒。

 

俊介の懸命なリハビリの結果、「隅田川」での舞台復帰が決まる。

だが三友側にも信用を与える必要があり、一度通し稽古を見せる事となる。
俊介と喜久雄はそのテストのための稽古を始める。

だが贔屓目に見てもよたよたした動き。
「隅田川」の演目説明。もともと能から歌舞伎となった。我が子を商人にさらわれ、その行方を尋ねて東国まで流れて来た女の話。
元々の、能の「隅田川」に戻してはどうかという喜久雄の提案。歌舞伎のように、最初から狂った女として行う動きより、能での、心地よく酔いしれた様に踊る、という解釈の方が、今の俊介に合っている。
すぐにそれを理解する俊介。
その後も続く苦しい稽古。激しすぎる稽古に倒れ込む二人。

俊介が、子供の頃父親に仕込まれた時の思い出を話す。

 

俊介の復帰公演「隅田川」が始まってようやく五日目。開いてみれば新解釈の舞台は、同情ではなく、子を失った女の悲しみに対して絶賛の拍手を受けた。
俊介の疲労は凄まじく、抱き抱えられて楽屋に戻る毎日。
万が一の時には代役を立てるという状況の中、何とか千秋楽まで勤め上げた俊介。その三日前の公演では花道で立てなくなり、舞台まで這ったという事まであったが、気力だけで持ちこたえた。

 

楽日の翌日、貧血で意識障害を起こした俊介は、そこから長期入院。
その後、喜久雄が義父の吾妻千五郎から借り受けた、鎌倉の別荘で療養させると、気力も戻って来た。

そんな俊介の努力は報われ、「隅田川」の演技に対して「日本芸術院賞」が授与される事になった。四十年前、先代の白虎も受賞していたもの。夫婦して喜ぶ俊介。
俊介が受賞した直後、逗子の老人ホームへの入所を決めた幸子。俊介の看病に忙しい春江を気遣っての事。車椅子の母親は、息子の寿命が長くない事を感じていた。


療養中の俊介の姿が、週刊誌にスクープされた。やせ細った姿。

喜久雄の立つ舞台は、以前俊介と踊った「娘道成寺」を一人で踊る「京鹿子娘道成寺」として演じていた。

 

そんな時の部屋入りの場で、突然報道陣のライト。

白虎の病状を聞こうとするレポーター。
「お前ら、よってたかって、何待ってんだよ!」と怒りをぶつける喜久雄。昨晩俊介が緊急入院した事を、喜久雄も聞いていた。

俊介入院の知らせは、舞台裏の楽屋にも知らされており、皆緊張している。
白拍子花子の衣装で喜久雄が舞台に出る寸前、蝶助が声をかけたまま息を飲む。目で次を促す喜久雄。
「丹波屋の旦那さんが、今、亡くなったそうです・・・」
浄瑠璃の流れる中、揚幕係が緊張する中、「はい」と言って喜久雄が進み出て幕が開く。
観客たちが見たいのは、当代一の美しき女形。

どんな言い訳も通用しない。
俊介と共に踊った場面を思い出しながら舞う喜久雄。

幕間の着替えで蝶助が、立ち位置のズレを指摘。

「もう大丈夫」と喜久雄。
そして再び舞台に戻り、花子の顔に蛇が宿る。
鬼気迫る喜久雄の演技に湧き立つ喝采。
「俊ぼん、ここなんやけどな・・・・」と独り言を言う喜久雄。