新聞小説 「国宝」 (8)  吉田 修一 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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新聞小説 「国宝」  (8)    6/30(176)~7/25(200)

作:吉田 修一   画:束 芋

レビュー一覧 

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感想
白虎が倒れてから亡くなるまでの一年間の話。後ろ盾の白虎を失った喜久雄が、世話になる相手の鶴若の持つ悪意にどう耐えて精進して行くのか。
白虎の作った一億以上の借金を、平然として肩代わりするという喜久雄にちょっと感動。

 

綾乃が喜久雄の人生にどう絡んで行くのか。この小説も始まってもう半年以上。単なる立身出世モノとはひと味違う展開を期待している。

 

あらすじ

第八章  風狂無頼  1~25
姉川鶴若を主役とした「信州川中島合戦」の終幕を袖で観ている喜久雄。喜久雄も出演しているが、鶴若は小野川万菊と人気を二分する女形であり、勉強する事ばかり。
鶴若の弟子に呼ばれて楽屋に出向く喜久雄。今夜梅木社長と会食するから同席するようにとの事。

 

 

梅木社長、鶴若、喜久雄の会食。そこで交わされる女形論。鶴若は常に喜久雄へのあてこすりを続けるが、鈍感な梅木は気付かない。
梅木の話は自身の左遷について。襲名披露での白虎の吐血、入院で会社が莫大な損害を受け、社内抗争に負けた梅木が、経営参加する大阪のテレビ局の社長に移動する。あの事件から一年が経とうとしていた。
白虎の吐血事件で全国行脚は全て中止。半二郎だけでも続けようというのは元々無理。お詫び行脚として姉川鶴之助の襲名を早め、その場をしのいだという経緯。

梅木は社を去るにあたって、喜久雄を鶴若のところで預かってもらえないかと申し出た。二つ返事でそれを引き受けた鶴若。だが「よござんすね?」と喜久雄を覗き込む目の奥でのほくそ笑み。
そんな事があってから、喜久雄への態度が次第に冷たくなり、今の公演が終わった頃には、鶴若から一年にも亘る地方巡業を言い渡される喜久雄。

 

喜久雄が新大阪の駅に降りると、最近テレビで人気の沢田西洋・花菱コンビに出会う。ファンにもみくちゃ。半二郎が交通事故に遭った時、この二人のテレビ収録につきあった事を思い出す。この二人はその収録の甲斐あって一躍人気者になった。付き添いで来ていた弁天に声を掛けられる喜久雄。

 

白虎の入院する天馬総合病院に向かう喜久雄。病室では「仮名手本忠臣蔵」の一節を暗誦している白虎。東京の様子を聞かれるが、うまく行っていると誤魔化す。
白虎は喜久雄に、お前は芸で勝負するんや、と諭す。その後小一時間ほど、先の「仮名手本忠臣蔵」を指導する白虎に付き合う喜久雄。

 

大阪の家に帰った後の深夜、寝苦しさの中で寝るのを諦める喜久雄。実家では幸子が新興宗教の「浄土会」に入れ込んでお題目を唱えていた。
喜久雄が「仮名手本忠臣蔵」の稽古をやった時の事を思い出している時に、大きな電話のベル。

病院に向かった幸子と喜久雄。深夜外来から病室に向かう途中で白虎の「俊ぼーん、俊ぼーん」という声を聞いて動けなくなる。

それでも立て直して病室に入った喜久雄の口からは「すんまへん・・・」。
昭和60年7月18日に行われた花井白虎の告別式を綴った新聞記事。

 

宇都宮市民ホールで一人舞いを踊る喜久雄。客席は閑散としており、歯がゆい思いをする徳次は、せめて掛け声でも、と「丹波屋!」と叫ぶ。
幕となり、楽屋に行った徳次。部屋に見知らぬ男、木下。三友の社員という事だが、喜久雄も詳しくは知らない。
四十九日も済んでいないのに、と恐縮そうにではあるが、白虎の大阪の自宅の立ち退きを申し出る木下。白虎は三友から多額の借金をしており、自宅がその抵当に入っていた。額は一億二千万。せめて今年中に、と言う木下に喜久雄が、その借金を自分がそのまま相続すると言い出す。驚く徳次。
木下がこの話を持ち帰り、三友本社がそれを受けた。抵当だけではとても損失を補う事が出来ず、喜久雄の将来を見越して様子を見るという事。
不安がる徳次に「人の世話になるっちゅうのは、そういうことや」と言った喜久雄。

 

東北巡業が一段落して、喜久雄は三友本社へ借金引き受けの契約に向かった。徳次は自宅へは帰らず京都の市駒の家へ。喜久雄の娘、綾乃が通う幼稚園のお遊戯会に出席するため。
やんちゃな綾乃は男の子相手に忍者ごっこ。お遊戯会の出し物は「狼と七匹の子ヤギ」。狼の役や、と胸を張る綾乃。