新聞小説 「国宝」 (14)  吉田 修一 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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新聞小説 「国宝」(14)  12/1(326)~12/26(350)

作:吉田 修一  画:束 芋

レビュー一覧

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感想
バブル期に活躍する喜久雄と俊介。お互いの得意な演目で、どんどん活躍の場を広げて行く。
かつて喜久雄を厳しく扱った鶴若の凋落ぶり。徳次は喜ぶが、複雑な気持ちの喜久雄。

 

長年、俊介たちを支えて来た源吉の衰えも気になるが。

何気なく伝えられる俊介の足の不調。何か重大なトラブルの予兆か?・・・

 

あらすじ

第十四章 泡の場   1~25
喜久雄演じる光源氏と、俊介が演じる人妻の空蝉(うつせみ)。
劇作家、藤川教授の評。

光源氏と女たちを日替わりで演じる趣向は成功だった。
山陰の芝居小屋で私が初めて見た少年たちは、今や歌舞伎に撮り憑かれてしまった。

 

舞台が終り、風呂から出た喜久雄に俊介が「酒でも飲まへんか?」と誘う。二人で乾杯の後、春江に預けた綾乃の事で礼を言う喜久雄。
思い起こせば、大阪の屋敷で初めて会ってから、はや二十余年。紆余曲折を経て辿り着いた二人。
この「源氏」の全国公演が終わったら、今度は古典で共演したい、と喜久雄。「仮名手本の九段目とかな」とすぐ演目で返す俊介も同じ思い。
赤穂浪士の討ち入りに材を取った全十一段の九段目は「女たちの忠臣蔵」とも呼ばれる演目。
近いうちに竹野のところへ行こう、と話がまとまる。

 

 

「源氏物語」の後の「仮名手本忠臣蔵」、その後も様々な演目に喜久雄と俊介は活躍を続けた。それがバブル景気と言われた1986年から1991年と重なる。
人気と共に金回りも良くなった二人。母マツのためにハワイにコンドミニアムを購入した喜久雄。俊介は、万菊が知人に売った土地の半分の購入を決意。

 

銀座のクラブで飲む喜久雄、俊介、弁天の三人。呼ばれて到着した徳次。夜の街での徳次人気を持ち上げる弁天。
弁天が思い出したように、鶴若という歌舞伎役者が「サバイバルズ」というコンビのコント番組にレギュラー出演すると話した。
「鶴若て、姉川鶴若さんかいな?」と聞き返す徳次。
弁天情報では、鶴若の持ちビルで、テナントに入っていたスーパーが潰れて借金が焦げ付き始めているとの事。
今までの仕打ちを思い「いい気味やな」と言う徳次。

巡り合わせの妙。かつて明治座で、万菊が主役、相手役が鶴若だった時に喜久雄が、大部屋俳優がやる様な役を振られたことがあった。
今明治座でかかっているその演目で、俊介と喜久雄が主役を張っているところへ「どんな役でもいい」と待女役をやっているのが、あの鶴若。

 

そんなサバイバルズの番組が始まり、鶴若は戦隊もののパロディまでやらされているという。
あまりのひどさに、弁天を呼び出して、何とかならないかと話したが、若いものには彼に対する敬意がそもそもないという。
だが、お笑い芸人が低く見られているのも確かだ、と弁天。歌舞伎役者が入れても、お笑い芸人が入れない場所もある。
語られる鶴若の経歴。先代に恵まれず、四十年の間、万菊に食らいつくようにして歌舞伎界を生き抜いて来た。

 

 

京都南禅寺を散策する喜久雄。

今までの超過密スケジュールに、三友側が計らって夜の部だけの舞台としていた。却って暇を持て余す喜久雄。
そんな喜久雄に苛々する徳次。俊介は「土蜘(つちぐも)」を女形でやるために準備しているという。能の「土蜘蛛」に倣って作られたもの。
だが喜久雄もこれで満足しているわけではなく「阿古屋」をやろうとしていた。正式には「檀浦兜軍記~阿古屋」。

平家の残党、景清の愛人阿古屋が詮議される中で、様々な楽器を演奏する場面がある。最も難しいのが胡弓。
その準備のため、師匠に通っている。厳しい師匠は、自分がいいと言わない限り舞台には立たせないという。

 

年があけ、この好景気にバブルという命名がされた頃、俊介の新作「土蜘」のお目見えとなった。これが成功すれば息子の一豊と共に同時襲名、との打診が三友から出る。
半二郎は既に喜久雄が襲名しているため、俊介が継ぐのは大名跡の「白虎」。

 

京都南座で始まった俊介の「土蜘」興行。

贔屓筋の出迎えに立つ幸子と春江。古希を迎えても凛とした幸子。贔屓の方々を廻って挨拶に忙しい。
会話の中で、自分から襲名という言葉を出してしまった幸子。白虎の襲名の時に吐血した夫の二代目半二郎の記憶。
春江に、襲名前の滝行を行うため、風呂で水浴びの稽古をしていると話す幸子。うちもお供します、と春江。

 

舞台に立つ前に、源吉を気にする俊介。後見として毎回舞台に上がる源吉は、すでに七十。大腸癌の手術も経験している。
大立ち回りの後で袖に下がった時、ふらついた源吉の事を気にした俊介。次の出番の直前に倒れた源吉。

慌てる俊介だが「はよ行き」と怒鳴られて舞台に上がる。

何とか舞台が終わり、楽屋に駆け戻る俊介。源吉は既に病院へ運ばれていた。
源さんは休ませないと、という幸子に、彼には幹部役者になってもらいたいと自分の思いを話す俊介。何とか襲名までは勤めさせたい。
病院の春江からの電話で、一応大事ないと判った俊介だが、風呂上りの足の甲をしきりに揉み始める。
声をかける幸子に、風呂に入っても足先だけが冷える、と話す。