今日の映画を初めて観たのはもう40年以上前にもなるでしょうか。うろ覚えですが東京の高田馬場にある名画座”早稲田松竹”と記憶しています。併映は「市民ケーン」と「第三の男」で、当時は三本立てだった記憶があります。今考えたら夢のような三本立てですね。当時はまだ古い建物でしたが、それこそ映画小僧たちのたまり場で、今と違って女性の姿はめったに見たことがありません。僕にとっても忘れられない映画で、その後何度もレンタルで見てます

 

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波止場

1954年/アメリカ(108分)

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監督エリア・カザン、主演マーロン・ブランドによる骨太の社会派ドラマの傑作!

 

エヴァ・マリー・セイント(左)とマーロン・ブランド

 

 監督

エリア・カザン

 音楽

レナード・バーンスタイン

 キャスト

マーロン・ブランド/テリー・マロイ

エヴァ・マリー・セイント/イディ・ドイル

 

カール・マルデン/バリー神父

リー・J・コップ/ジョニー(マフィアのボス)

ロッド・スタイガー/チャーリー・マロイ

リーフ・エリクソン/グローバー

トニー・ガレント/トラック

ジョン・F・ハミルトン/イディの父

マーティン・バルサム/ジレット

 

監督は「エデンの東」「紳士協定」「欲望という名の電車」などの名作を多く手掛けているエリア・カザン。主演のテリーに「欲望という名の電車」「片目のジャック」「ゴッドファーザー」「地獄の黙示録」などのマーロン・ブランド。相手役には「いそしぎ」「北北西に進路を取れ」「グラン・プリ」のエヴァ・マリー・セイント。ちなみに彼女は本作が映画デビュー作品でした。そのほか「私は告白する」「シンシナティ・キッド」のカール・マルデン、マフィアのボス役には「十二人の怒れる男」「西部開拓史」のリー・J・コップ、「質屋」「夜の大走査線」のロッド・スタイガーなどのそうそうたるメンバーが勢ぞろいしています。クレジットはされていませんが、脇役俳優として名高いマーティン・バルサムも出演しており、のちに今回共演したリー・J・コップとは「十二人の怒れる男」で同じ陪審員役で共演しています

 

本作は、第27回(54年)のアカデミー賞において作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞など8部門を受賞しています

 

 

▲マーロン・ブランド/テリー・マロイ

▲エヴァ・マリー・セイント/イディ・ドイル

▲リー・J・コップ/ジョニー(マフィアのボス)

▲ロッド・スタイガー/チャーリー・マロイ

元ボクサーの青年テリー(マーロン・ブランド)は、現在ギャングのジョニー(リー・J・コップ)が支配するニューヨークの波止場で働いている。ある日、テリーはジョニーに命じられ、友人が殺される事件に関わってしまう。やがて被害者の妹イディ(エヴァ・マリー・セイント)と知り合ったテリーは、兄の死の真相を追求しようとする彼女に心惹かれていく。暴力での支配を許さないバリー神父(カール・マルデン)とイディに感化され、自らの信念に基づいて生きることに目覚めるテリーだったが、そのおかげでギャングの幹部の兄のチャーリー(ロッド・スタイガー)まで殺されてしまう・・・

ニューヨークの港を舞台に、マフィアのボスに立ち向かう一人の港湾労働者の姿を力強く描いています

 

 

  揺れ動く心情まで映し出す!

 

物語は、ギャングたちが支配する港からはじまります。ギャングたちの暴力、脅し、殺人まで蔓延している波止場で、労働者と利権を牛耳るギャングに立ち向かうひとりの若者テリー。決して彼はヒーロー然としているわけではなく、元ボクサーのチンピラなのですが、普段は仲間思いで鳩を飼う気のやさしい青年です。その彼が、愛する人のため正義のために不器用に立ち上がります。少々荒っぽいつくりですが50年代の雑多な空気感がモノクロに映えます。加えて映像が見事で人々の心情まで映し出します。登場するエキストラは本当の港湾労働者たちということで、より鮮明に迫ってきます

 

 

 

  エリア・カザンの最高傑作!

 

こういう骨太の映画を、これだけのキャストで見せられると昨今の映像主体の映画が軽く感じてしまいます。エリア・カザン作品では「紳士協定」「エデンの東」、「草原の輝き」の方が日本での評価も人気も高いようですが、アメリカ本国ではマーロン・ブランドの名演が光るこの「波止場」の方が、エリア・カザン監督作品の最高傑作と言われており、その点は全く同感です。個人的な好みを言わせていただければ「紳士協定」のグレゴリー・ペックや「エデンの東」のジェームズ・ディーン、「草原の輝き」のウォーレン・ベイティの方が本作のマーロン・ブランドより何倍も好きなのですが、脚本、演出、俳優、音楽、カメラなどの多くの部分で優れているの認めざる得ません。この映画にはエリア・カザン監督の強い思いと哀調をひしひしと感じます

 

 

  多彩な俳優陣も見どころ!

 

恋人役のエヴァ・マリー・セイントはこの作品がデビュー作で、アカデミー助演女優賞を受賞しており、この5年後にヒッチコックの「北北西に進路を取れ」で妖艶な女性を演じています。以前企画した拙ブログの”歴代美人女優投票”では番外でしたが、50年~60年代では忘れてはならない女優さんのひとりです。ギャングのボス役のリー・J・コップも存在感がありました。そんな中、テリーの兄役のロッド・スタイガーもよかったですね。当時はまだ無名でしたが、弟テリーを裁判で証言しないように説得する車の中のシーンが印象的でした。無言の2人の表情はもちろん、陰を際立たせるカメラも見事なこと!

「なあテリー、裁判でジョニーを告発するのか?」

「まだ、わからない」

それまで、テリーは不満がありながらも兄の言うことに従ってきました。ギャングの幹部の兄の立場も理解してのことでした。だが、今回は違う。以前ボクシングの八百長を頼まれたことを引き合いにだして言います

「あの時、兄貴が八百長を指示しなければ、俺はチャンピオンになってたんだ」

「今より少しは、いい顔ができたんだ!」

それは今までテリーが誰にも一度も言わなかった本音です。それを聞いて兄はテリーに銃を突きつける。この時のマーロン・ブランドの表情が素晴らしい

「チャーリー・・・」

「仲間にはお前とは会えなかったと言っておく」

そう言ってテリーと別れる兄のチャーリー。それは兄が弟に見せた最後の優しさでした。そして次の日、チャーリーは組織に殺されます

 

 

 

  別格のマーロン・ブランド

 

マーロン・ブランドというと「ゴッドファーザー」のドン・コルレオーネが思い出されますが、20代~30代の彼は抜群の演技力に加え、なんと言うか繊細さがあります。それは少しタイプが違いますが「理由なき反抗」のジェームズ・ディーンに少し似ています。彼の場合、例えば「寂しい」と表現する場合表情でわかりますが、マーロン・ブランドの場合顔というより全体から醸し出す雰囲気です。ジェームズ・ディーンの場合圧倒的にアップが多いのに対し、マーロン・ブランドは少し引いた画が多いのも頷けますね

 

言い方が悪いですが、彼が演じると演技が全て演技力という言葉でねじ伏せられてしまいます。それほど力強く、そして細やかです。これだけまざまざと見せつけられると納得せざる得ません。演技の上手い俳優さんはダスティン・ホフマン、ロバート・デ・ニーロ、ジャック・ニコルソン、アル・パチーノなど、その役に成り切れる名優は何人もいますが、彼は別格です。それまでのさまざまな作品での熱演は言うまでもありませんが、この映画でもイディとの関係が深まるにつれて、マーロン・ブランドの陰影がいよいよ際立ってきます。外見は厳ついのですが、あふれ出る叙情性に彼の体温さえも感じ取ることができます。公開当時マーロン・ブランドは30才!驚くほどの瑞々しさと上手さは群を抜いています。のちの日活映画の赤木圭一郎や石原裕次郎、小林旭などで相当数作られたマドロスもの、波止場ものはかなりこの映画、そしてマーロン・ブランドの影響を受けているだろうと思います

 

 

 

裁判でジョニーの不利な証言をした上に、言う事を聞かないテリーはジョニーらに袋叩きにされます。それでも暴力に屈しないテリーに、労働者たちもテリーを習って仕事をボイコットし、ついには仕事の依頼主さえジョニーらを追い出します

 

ラストでは労働者たち、イディ、牧師らが見守る中テリーはフラフラになりながらその仕事場の倉庫へ歩き、仲間たちは彼のあとを一人また一人続いて歩き出します。「さあ、仕事をしようぜ!」。ジョニーは怒り狂うが、依頼主はテリーたちを倉庫へ入れてしまうとジョニーを無視してシャッターを下ろし映画の幕も下ります

 

圧倒的なエリア・カザン監督の演出とマーロン・ブランドが贈る50年代屈指の一本です

 

残念ながらテレビでは放映されることはないと思いますが、機会があったら是非ご覧ください!

 

毎月1日は「シネマDEクイズ」ですが、今月は台風10号の影響を考えて急きょ延期します。一応、9月半ばに予定していますのでよろしくお願いします。今回は「投票型クイズ」を予定しています

 

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この木何の木気になる木~♪♪

 

毎日何気なく見ているテレビのCMも、ときには大笑いしたり、ふと微笑んでしまうものもあります。そんなテレビCMでお気に入りだったのが、1年以上前になりますか・・。石田ゆり子が両手をポケットに突っ込んでちょっとだけふくれっ面。スマホに夢中の息子に向かってエアコンでエールを贈るCM(エアコンのCMでした)

 

「話しかけんなってか~」

「と、言いたい気持ちをぐっと堪えて、そっとエアコン入れておきました」

「なに?」(息子)

「このエールに気づくには・・10年早いかっ!」

 

今日は、有名映画スターが出演した懐かしのテレビCMの第2弾!CMは15秒から60秒くらいの短い時間の中で表す商品と企業の名刺のようなものです。数あるテレビCMの中で思い出深いスターたちの姿を楽しんでください

 

▲懐かしの海外スターのテレビCM~第1弾~

 

/テリー・サバラス

某コーヒーのCM

 

「バルジ大作戦」やブロンソンの「狼の挽歌」などで知られるテリー・サバラスですが、何と言っても「刑事コジャック」でしょうね。強面でスキンヘッドがトレードマーク。CMでは「旨いコーヒーを飲んでいるのは誰だ!」が決まり文句。吹き替えはもちろん森山周一郎さんです。70年代の終わりの78年~79年ごろでしょうか

 

/ピーター・フォーク

某自動車メーカーのCM

 

ピーター・フォークと言うと、前出の強面テリー・サバラスの「刑事コジャック」の対極のとぼけたキャラの「刑事コロンボ」でしょうね。映画でも盟友ジョン・カサヴェテス監督の「こわれゆく女」「ベルリン・天使の詩」「名探偵登場」など数多くの話題作に出演しています。カ〇ーラのCMなのですが、できればブジョーに出て欲しかった(笑)。95年ごろのCMです

 

/ブラッド・ピット

某ジーンズのCM

 

ジーンズのエドウィ〇のCMで、記録によれば97年頃ですから「デビル」「ジョーブラックによろしく」あたりでしょうか。年齢も30才前半で人気急上昇中でした。今もカッコイイですが当時は甘いマスクでレッドフォードの再来とか言われていました。たしか前後して缶コーヒーのCMにも出てました

 

 

/トミー・リー・ジョーンズ

缶コーヒーのCM

 

誰もが知るBOS〇の缶コーヒーの”宇宙人ジョーンズ”シリーズが始まったのが06年。今でも続いているシリーズで毎回楽しみのCMの一つです。なんとデビューがラブストーリーの名作「ある愛の詩」でライアン・オニールのルームメイト役でした。その後の活躍はご承知の通りで「逃亡者」「依頼人」「メン・イン・ブラック」「ノーカントリー」など多数出演しているハリウッドを代表するスターです

 

 

/チャーリー・シーン

某靴メーカーのCM

 

高級靴メーカーのマドラ〇のCM。川?の中を、靴が濡れないように上に上げて歩いているシーンが有名です。放映されたのは90年頃で「メジャリーグ」の翌年あたりでしょうか。出演作には「プラトーン」「ウォール街」「ヤングガン」などがあります

 

/シルベスター・スタローン

某食品メーカーのCM

 

長い下積み時代を経て76年の「ロッキー」のスマッシュヒットで一躍スターとなったシルベスター・スタローン。放映されたのが91年ごろですから、スタローンが出演した映画が全てズッコケて低迷したいた時期でしょうか。〇藤ハムのCMで、お盆とかお歳暮時期に何パターンかありましたね

 

/ジュリアーノ・ジェンマ

某バイクメーカーのCM

 

「荒野の1ドル銀貨」「怒りの荒野」などのマカロニ・ウエスタンのスター、ジュリアーノ・ジェンマが出演していたのが、〇ズキの同名バイクのCMで81年ごろ。「ジェンマの休日」がキャッチフレーズでした。あまり知られてはいませんが、79年から始まった紳士服ブランドの〇ーバンのアラン・ドロンより数年前に、ジュリアーノ・ジェンマは紳士服トロージャ〇のCMに出演しています

 

 

/ジーン・ハックマン

某ビールメーカーのCM

 

88年ごろの〇リンビールのCM。初めて見た時は衝撃で、彼ほどの大物ハリウッドスターが日本のテレビCMに出たことに驚きでした。折しもバブルの絶頂期で日本経済も元気だったのですね。大好きな俳優さんで「スケアクロウ」「ポセイドン・アドベンチャー」「フレンチコネクション」などハリウッドを代表するスーパースターです

 

 

/オーソン・ウェルズ

某洋酒メーカーのCM

 

25才で監督した「市民ケーン」は斬新な映画技法を用い、未だに”歴代映画ナンバーワン”に推す人が多い名作の一本です。俳優としても「第三の男」など数多く出演しています。76年に某洋酒メーカーのCMに出演しており、カメラに向かって話すだけですが抜群の存在感がありました。一部では話題になりましたが一般的には知らない人も多かったのではないでしょうか

 

/ユル・ブリンナー

某写真フイルムのCM

 

77年ごろのフ〇カラー400のCM。いくつかバージョンはあったと思いますが海辺のシーンしか思い出せません。ユル・ブリンナーは「王様と私」「荒野の七人」など多数出演しており、精悍な顔つきからアクション映画が多かった印象です。「ターミネーター」の元ネタとも言われるSF映画の怪昨「ウエストワールド」にも出ています。このCMのあと80年ごろ、樹木希林さんの「美しい人はより美しく、そうでない方はそれなりに」というフレーズが流行りました

 

 

/ジャン・レノ

自動車のCM

 

さまざまなCMに出ていますが、11年のト〇タ自動車のCMが印象が強いですね。ドラえもんの20年後を実写化しており、ジャン・レノはブルーのスーツを着てドラえもんをコミカルに演じていました。ジャン・レノは「グラン・ブルー」「クリムゾン・リバー」「レオン」「GODZILLA」などの日本でもお馴染みのフランスの俳優

 

/ジャクリーン・ビセット

某ヘアケア商品のCM

 

60年代から70年代に抜群の美貌でスター女優として活躍してました。マックイーンとの「ブリット」「大空港」「アメリカの夜」なども話題作に出演しています。CM出演を見た記憶は全くないのですが、ハリウッド女優を多数起用しているL〇XのCMのリストに載っておりました。多分80年代の初めくらいだと思います。美人女優として有名で、以前レビューした「ワンダが選ぶ歴代美人女優」で18位に挙げさせていただきました

 

 

/ソフィア・ローレン

ファミリー向けバイクのCM

 

「ひまわり」「ふたりの女」「カサンドラクロス」などで知られるイタリアの大女優。ホン〇から発売されたファミリー向けバイクの「ラッタッ〇」に彼女が起用されたのはは76年。女性をバイクに乗せるという新しい発想で当時は爆発的に売れたそうです

 

 

/ブルック・シールズ

化粧品のCM

 

いくつも日本のCMに出演していたブルック・シールズですが、一番印象的なのが〇ネボウ化粧品のCM。とにかく可愛かったです。82年ごろですから、一気に彼女の人気が爆発した「青い珊瑚礁」の直後でしょうか。このあと出演作に恵まれなかったですね

 

/スカーレット・ヨハンソン

某ヘアケア商品のCM

 

〇ックススーパーリッチのCMです。16年前後でいくつかのバージョンがありました。このCMにはデミ・ムーアやベネロペ・クルス、アン・ハサウェイなど多くのハリウッド女優が出演しています

 

/カトリーヌ・ドヌーブ

女性用ウィッグのCM

 

「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」「昼顔」などのフランスを代表する大女優。71年にウィッグのフィンテー〇のCMに出ています。雨が降る外を憂いげに外を見つめる彼女は息を飲むほど美しい。CM自体は覚えていないのですが、YouTubeで見つけました。71年というと彼女が人気絶頂のころで、翌72年には「ひきしお」「リスボン特急」が公開されました

 

 

/オリビア・ハッセー

某化粧品のCM

 

何と言っても68年の「ロミオとジュリエット」ですね。他にも「暗闇にベルが鳴る」「ナイル殺人事件」そして角川映画のSF大作「復活の日」にも出演しています。79年〇ネボウの化粧品のCMに出演し、その時のテーマソングが布施明の「君はバラより美しい」で、その後二人は結婚しています。CMでは木にもたれかかってこちらを見つめる顔はまさに”君はバラより美しかった”ですね

 

/チャン・ツィイー

某シャンプーのCM

 

アジアンビューティーの草分けのチャン・ツィイー。03年の〇王のシャンプーのCMに出ています。20代半ばで「HERO

の直後でしょうか。今ももちろん美しいですが、何と言っても映画デビュー作の「初恋のきた道」の彼女は天使のように可愛かったです。映画も素晴らしかったですね。見たことがない人は是非見ていただきたいです

 

 

CMはまさに時代を映す鏡で、バブルの頃は多くの有名スターが起用されました。男優は車や洋酒、コーヒーなどが多いですが女優は化粧品やシャンプー、ジュエリーなどが圧倒的に多かったです。1弾も含めて、こうしてみると多くの海外スターが出演していましたね

 

次の画像は「誰」で「何」のCMかわかるでしょうか?50才以上の方なら絶対何度も見ているCMです

 

 

 

映画同様CMも楽しく、懐かしいですね。皆さんは「懐かしの海外スターCM」ありますか?

 

 

 

アラン・ドロンの訃報記事が全世界を駆け巡っていたころ、ジーナ・ローランズがひっそり天に旅立ちました(実際はアラン・ドロンの4日前だそうです)。長い間認知症を患っており94才でした。ジーナ・ローランズはアメリカの女優で「こわれゆく女」「グロリア」「きみに読む物語」などに出演しています。旦那さんは”インディーズ映画の父”と言われた名監督であり、名俳優であるジョン・カサヴェテスです。さらに「きみに読む物語」の監督ニック・カサヴェテスは二人の息子さんです。ジーナ・ローランズは、すばらしい作品にいくつも出ていますが、やはり「グロリア」ですね。女性であんなに煙草が似合う人はめったにいません

 

「グロリア、あんたはタフでクールで・・やさしいよ」

 

 

 

 

今日は大好きな70年代映画の紹介!

 

この映画の主人公は、70年代の刑事映画・犯罪映画を語る上で欠くことのできない一人です

 

その名はポール・カージー!クリント・イーストウッド演じる「ダーティハリー」のハリー・キャラハンと並んで強烈な個性の、チャールズ・ブロンソンでヒットした「狼よさらば」の主人公です。「ダーティハリー」と並び、その後多くの映画の元ネタとなっている映画で、今だに模倣した映画やドラマが山ほどあります。この映画は70年代の終わりに東京下町の名画座で観ております。個人的に意外な結末にかなり衝撃を受けた記憶があります

 

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「狼よさらば」

1974年/アメリカ(94分)

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チャールズ・ブロンソンの「Death Wish」シリーズの記念すべき第一作目のクライムアクション!

 

 

 監 督

マイケル・ウィナー

 キャスト

チャールズ・ブロンソン/ポール・カージー

 

ヴィンセント・ガーディニア/警部

ホープ・ラング/ジョアンナ・カージー

 

スティーヴン・キーツ/ジャック・トビー

キャスリーン・トーラン/キャロル・トビー

 

監督は「脱走山脈」のほか、ブロンソン主演映画「メカニック」「ロサンゼルス」「スーパーマグナム」などのマイケル・ウィナー。主演のチャールズ・ブロンソンは「雨の訪問者」「レッドサン」「大脱走」「さらば友よ」「ウエスタン」など以前レビューした作品のほか「荒野の七人」「メカニック」など多くの人気作品に出演しています。日本では某男性化粧品「マ〇ダム」のCMで一気に人気に火がつきました。捜査を担当したフランク・オチョア警部役には、ヴィンセント・ガーディニア。「コーザ・ノストラ」や以前レビューした「天国から来たチャンピオン」でも刑事役で出演しています。そのほか、当時はまだ全く無名の俳優さんも数多く出演しています(下記別途紹介)

 

 

 

▲チャールズ・ブロンソン/ポール・カージー

▲ヴィンセント・ガーディニア/フランク警部

犯罪が多発する70年代前半のニューヨークが舞台_大手土地開発会社に勤めるポール(チャールズ・ブロンソン)の妻(ホープ・ラング)と娘がある日自宅で襲われ、妻は死に娘は植物人間になってしまう。その後、ポールは護身用の拳銃で強盗を撃退したことから正義感に目覚め、復讐のため街のチンピラたちを始末していくのだが・・・

オープニングのハワイでの楽しいひと時から、ニューヨークの暗く危うい街へと舞台はシフトしていきます

 

街中に蔓延るならず者を退治していくという、今見れば単純明快なストーリーです。主人公ポール・カージー(チャールズ・ブロンソン)に降りかかる突然の不幸と戸惑い、そして警察への不信感。さまざまな思いが交錯しながら一丁の銃をプレゼントされたことから物語が動き出します。実際にあった70年代のニューヨークの治安の悪さがヴィジランテ(自警団)文化を作り上げ、過剰なまでの自己防衛精神につながってると考えるべきでしょう。さらに、そこには西部劇というアメリカの背景は無視できないのでなないでしょうか

 

銃を持つブロンソンの匂い立つような男くささ、佇まいが恐ろしくも悲しい影を落とします

 

 

  単なる復讐劇ではない!

 

この映画の好きなシーンのひとつに、妻ジョアンナ(ホープ・ラング)の葬儀シーンがあります。記憶障害となった娘と共に静かに降り積もる雪の中、なすすべもなくただポケットに手を入れて悲しみに耐えるしかなかった心情を謳ったシーンが見事でした。それは、まるでこれから起こるであろうポール・カージーの怒りを予測しているようでもあり、序章のように感じます

 

この映画は、1970年代の治安が最も悪かった時代のニューヨークが舞台になっており、アクション映画でありながら、普通のひとりの男を通して、暴力や犯罪に対する法治国家の限界、また銃社会アメリカの背景などを力強く描き出していきます

 

もともと主人公ポール・カージー(チャールズ・ブロンソン)は、暴力弱者の一般市民でしたが、家族に降りかかった災いがきっかけとなり、仕事先で見た西部劇ショーによって西部開拓時代のヴィジランテ(自警団)の認識が芽生え、友人からプレゼントされた拳銃により処刑人へと変貌していきます。つまり、彼は家族の仇を討つ復讐鬼でも、悪を裁くヒーローでもなく、銃という絶対的な力に取りつかれた男なのです。「法が罰することが出来ないのなら自分が罰する」という考えには倫理的に問題がありますが、銃社会に警鐘をならした作品であり、ヴィジランテ(自警団)に対する問題提議をしています。後の多くの映画に影響を与えたのは周知の通りで、同じヴィジランテ映画では「ダーティハリー」「黒いジャガー」「グリーン・ホーネット」「処刑人」「イコライザー」さらに、日本の「必殺シリーズ」などがありますが、これらのアクション映画とは一線を画しています


痛快さゆえにブロンソンには珍しいシリーズモノとなりましたが、「ダーティハリー」と同様に二作目以降は若干メッセージ色が薄くアクション部分が強調されております
 

▲チンピラ役のジェフ・ゴールドブラム

▲地下鉄の強盗役のジョン・ハーツフェルド

  無名時代の俳優が多く出演

 

この映画では、出演時に全く無名の俳優が多く出演していることでも有名です。まず、カージー一家を襲った3人組のひとりが「ザ・フライ」「ジュラシック・パーク」「インデペンテンス・デイ」のジェフ・ゴールドブラム。彼はこの作品がデビュー作です。他にも強盗役で「ワイスピ・MAX」など出演のロバート・ミアノ。警察での捜査会議に出てくる女性警察官役に「マグノリア」そして「月の輝く夜に」でアカデミー助演女優賞を獲得したオリンピア・デュキス。地下鉄での強盗役に「大脱出3」「セカンド・チャンス」を監督したジョン・ハーツフェルド。そして、若い警官役に「ナイトミュージアム2」などのクリストファー・ゲストが出演しています。雑誌等で強盗役のひとりにデンゼル・ワシントンが扮し、デビュー作との紹介もあるようですが、本人は否定しており真偽ははっきりしないようです。画像で何度か確認してみましたが暗くてよくわからなかったです。いずれにしても、これだけ多くの俳優が巣立っていった映画も珍しいですね

 

▲「デス・ウィッシュ」のブルース・ウィルス

  狼よさらばの意味は?

 

「我々(警察)も言いたい、狼よさらばとな」

「警部、私が憎いかね」

「いいや・・・」

 

出てくる度に鼻をかんでいるフランク警部(ヴィンセント・ガーディニア)もいい味だしています。警察に捕まったポール・カージーとフランク警部(ヴィンセント・ガーディニア)のラストの二人の会話もいいですね。ネタバレになりますのであまり詳しく書けませんが非常に深い意味のあるセリフです

 

この映画は「Death Wish」シリーズ(狼よさらばシリーズ)として人気を博し、チャールズ・ブロンソンの中でも珍しくシリーズ化されています

 

Death WishⅡ

「ロサンゼルス」/82年

Death WishⅢ

「スーパー・マグナム」/85年

Death WishⅣ

「バトルガンM-16」/87年

Death WishⅤ

「狼よさらば 地獄のリベンジャー」/94年

 

本作は、2018年にブルース・ウィルス主演、イーライ・ロス監督の「デス・ウィッシュ」でリメイクされており、そのほかにも2007年のジョディ・フォスター主演「ブレイブワン」をはじめ多くの類似映画が公開されています

 

家族を襲ったチンピラに対する復讐というより、犯罪者そのものを憎み、アメリカ社会に強く根付くヴィジランテ(自警)を描いた先駆的映画といえます

 

 

  時代が求めたダークヒーローか?

 

ヒーローといえば、古くは西部劇における主人公で悪者を倒す勧善懲悪の世界でしたが、70年代ではベトナム戦争、政治不信による挫折感、不安感からくる頑健な肉体と強い精神力を持ち合わせたヒーロー像に代わってきます。その代表が「ダーティハリー」のクリント・イーストウッドであり、本作「狼よさらば」のポール・カージーであり「ロッキー」でのロッキー・バルボアです。やがてその流れはハリソン・フォードやジョニー・デップなどの、それまでの超人的な強さというより知性とユーモアを兼ね添えたキャラへと移り変わります。したがって、70年代のアメリカ映画はアウトローでタフな俳優、それは、クリント・イーストウッドやチャールズ・ブロンソン、バート・レイノルズなどに代表され、さしずめ本作の主人公ポール・カージはこの時代の最後のヒーローかもしれません

 

アクション映画としてみるならば、約50年前の映画ですから今と比べようがありません。ただし、「ダーティハリー」と並んで新たにヴィジランテ映画のジャンルを確立し、激動の70年代の映画界に大きな一石を投じた貴重な映画だと思います

 

 

 

 

 

フランスが生んだ世紀の映画スター、アラン・ドロンが生涯の幕を閉じました。享年88才でした

 

多くの方々が追悼記事を書かれていますので今さらとは思いますが、やはり触れないわけにはいきますまい。それほど印象深い俳優さんでした。わたしが10代~20代の時に名画座で見た彼の映画は数知れません。もちろんアラン・ドロンの映画をメインで見ることも数多くありましたが、2本立てや3本立ての併映がアラン・ドロンの映画のケースも多く、彼の出演作のほとんどは名画座で見ています。当時人気のあった「太陽がいっぱい」「さらば友よ」「ボルサリーノ」は何回見たか覚えていないほどです。拙ブログでも「アラン・ドロン特集」で過去何作品かレビューしており、今後も続けていく予定です

 

 

 

  世紀の二枚目スター!

アラン・ドロンは1935年、パリ郊外の生まれ。17才でフランス海軍に志願しし20才で除隊したあと、さまざまな職業を転々としたあと57年22才で「女が事件にからむ時」で俳優として映画デビューします。その後「お嬢さんお手やわらかに」を経て「太陽がいっぱい」に主演し、その名はフランスのみならず全世界に知れ渡ることになります。その後は「地下室のメロディ」「山猫」「冒険者たち」「サムライ」「さらば友よ」「レッド・サン」「ボルサリーノ」「リスボン特急」「フリック・ストーリー」「シシリアン」など生涯70本余りの映画に出演しています。特に60年代から70年代にかけての人気は凄まじく、映画雑誌「スクリーン」の年間人気コンテストでは7回ナンバーワンを獲得しています。ちなみに最高は14回のオードリー・ヘプバーンでした

「アラン・ドロンをイケメンと呼ぶなんてとんでもない!」

これは、よくお邪魔するブログ友のマドモワゼル姐さんの名言で、アラン・ドロンは単なる”いいオトコ”とは次元が違う、まさに”世紀の二枚目”という言葉がぴったり当てはまる美男子でした。いわゆる”二枚目”の代名詞のような存在でした。以前企画した「歴代美男子俳優投票」でも2位のブラッド・ピットを倍近くの投票で引き離すぶっちぎりの1位で、引き続き発表した「ワンダが選ぶ歴代美男子俳優」でも1位に推させていただきました

 

 

 

  人気の出演映画の数々

もうかなり前になりますが、「アラン・ドロンの出演作品人気投票」という企画が某雑誌で特集しており、その時の結果が次の通りです

 

1位/太陽がいっぱい

2位/冒険者たち

3位/さらば友よ

4位/山猫

5位/ハーフ・ア・チャンス

6位/世にも怪奇な物語

7位/ボルサリーノ

8位/あの胸にもう一度

9位/レッド・サン

10位/シシリアン

11位/若者のすべて

12位/地下室のメロディ

13位/太陽が知っている

14位/サムライ

15位/アランドロンのゾロ

16位/高校教師

17位/エアポート80

18位/生きる歓び

19位/パリは燃えているか

20位/テキサス

 

▲さらば友よ

▲高校教師

▲フリックストーリー

▲冒険者たち

▲リスボン特急

▲太陽がいっぱい

▲サムライ

▲山猫

▲あの胸にもういちど

▲暗殺者のメロディ

▲レッド・サン

▲ボルサリーノ

▲地下室のメロディ

▲パリは燃えているか

▲ビッグガン

 

アンケート投票者の年齢、性別は不明でしたが、上位作品を見る限り女性の投票がかなり多かったのだろうと推察しました。個人的な好みを言えばベスト3は、リノ・ヴァンチュラ、ジョアンナ・シムカスの共演の青春ストーリーの「冒険者たち」、アラン。ドロンの魅力満載のピカレスク・サスペンス「太陽がいっぱい」、ブロンソンとの共演で話題になった「さらば友よ」でしょうか。次いで「サムライ」「ボルサリーノ」「地下室のメロディ」「リスボン特急」「山猫」「フリックストーリー」でこのあたりは順位付けができません。何よりすごいのは出演本数の多さです。60年代前半から70年代後半までの彼の全盛期には年間4~5本制作されており、常に映画界の話題の中心でした。個人的な感想ですがその注目度は今のトム・クルーズ、ジョニデ、ブラピの3人を合わせたくらいの人気だったですね

 

アラン・ドロンは、フィルム・ノワールやアクション俳優と思われがちですが、出演作は実に幅広いです。いいオトコですから恋愛ものも多いですがフランス映画特有の悲しい結末になる映画が多い印象です。さらに、彼の主演映画は40年以上前の映画が多いわりには不思議と古臭さを感じません。もちろん画像の古さや脚本の陳腐を感じる映画もありますが、アラン・ドロンに古臭さをあまり感じません。この不思議さが永遠の二枚目たる所以なのでしょう。彼は女性遍歴で度々話題になっており、人気絶頂のころに元ボディガードの殺人事件の関係者としてマフィアとの関係を取りだたされたこともあります。それでも人気は衰えるどころか、常に20世紀のスターとして君臨し続けていました

 

 

 

 

  もうひとつの「太陽がいっぱい」

 

 

「太陽がいっぱい」/1960年
監督/ルネ・クレマン
原作/パトリシア・ハイスミス
音楽/ニーノ・ロータ
出演/

アラン・ドロン(トム・リプリー)

モーリス・ロネ(フィリップ・グリーンリフ) 

マリー・ラフォレ(マルジュ)

 

▲アラン・ドロン(トム・リプリー)

▲モーリス・ロネ(フィリップ・グリーンリフ)

▲マリー・ラフォレ(マルジュ)

 

「太陽がいっぱい」は、アラン・ドロンの人気を決定づけたターニング・ポイントになった作品です。フランスの巨匠ルネ・クレマンが監督を務め、パトリシア・ハイスミスの小説を映画化したピカレスク・サスペンスの傑作です!

大富豪の父親に頼まれ、道楽息子フィリップ(モーリス・ロネ)を連れ戻そうとイタリアにやって来た貧しい青年トム(アラン・ドロン)。彼はフィリップに付き人のように使われるが、つかの間の贅沢を楽しんでいた。ところが、フィリップの我が儘からの嫉妬、婚約者のマルジュ(マリー・ラフォレ)への羨望から、殺意に変わっていき完全犯罪を目論むのだが・・・

この作品でのアラン・ドロンは、危うい美貌と演技で一躍世界のトップスターになります。物語もニーノ・ロータの音楽も素晴らしく、小道具の使い方も巧みで少々穴も目立つ作品ですが、当時としては一級のサスペンスに仕上がっています。ですが、ここで思い出すのが「もう一つの”太陽がいっぱい”」です。あの映画評論家の淀川長治氏が、ある作家さんとの対談(1970年代)で

「この映画(太陽がいっぱい)は、ホモセクシャル映画の第一号です」

と語っています。アラン・ドロン演じる貧しい青年トムが船上でモーリス・ロネ演じるフィリップをナイフで刺し殺すシーンは「最大のラブシーン」と評しています。今ではかなり有名な話しですが、この対談当時(70年代)に、この映画を同性愛の傾向を読み取ったのは淀川長治氏しかいません。わたしには羨望と嫉妬の青年が、金と女の両方を得るために起こした犯罪という単純な構図しか思い浮かばなかったのですが、それを踏まえてあらためて本作をみると「もうひとつの”太陽がいっぱい”」が見えてきます

 

冒頭、フィリップの友人フレディ(後にトムに殺される。この時に彼が連れてきた女性2人のうちの1人が、アラン・ドロンと婚約、破棄したロミー・シュナイダー)が、二人だけなのに気づいて「今日は婚約者のマルジュはどうした?」の問いに「トム(リプリー)がいやがるから置いて来た」と言ったことや、ヨットで3人の時、マルジュが不機嫌なフィリップに「わたしが邪魔なら船を降りるわ」と言ったこと、そしてフィリップがトムに「君とは地獄まで一緒だ」と言ったことなど納得できるシーンも多いです。さらに、トムがフィリップの真似をして「マルジュ・・愛しいひと」と言って鏡にキスをするシーンもあります。なによりもトム(アラン・ドロン)の目元から放つ匂いたつような色気が強烈でした

 

あらためてトムとフィリップの二人のセリフや行動に着目してこの作品と向き合うと、まったく違う魅力とおもしろさがみえてきます。貧しい青年が羨望と嫉妬による完全犯罪を目論むサスペンスとして見るのもいいですが、「もうひとつの”太陽がいっぱい”」を味わってみてはいかがでしょう

 

 

 

  さらにもうひとつの「太陽がいっぱい」

モーリス・ロネとアラン・ドロン。物語ではこの二人が対照的に描かれています、大富豪の御曹司で美しい婚約者がいて何でも持っているフィリップ(モーリス・ロネ)。対して、貧乏でフィリップの付き人のように扱われ、なにも持っていないトム(アラン・ドロン)。この二人は実生活でも似たような生い立ちです。両親が共に俳優で、パリの演劇学校出身のいわばエリートのモーリス・ロネは当時33才。この映画の3年前にルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」で認められたモーリス・ロネに対し、里親に育てられ寄宿学校を転々とした不遇な少年時代をおくり、さまざまな職業を経験して「お嬢さんお手やわらかに」でチャンスをつかんだ若者のアラン・ドロン、当時25才。もちろん俳優として演じているだけなのでしょうが、いつも蔑むような目で見るモーリス・ロネに対し羨望と嫉妬の目で見るアラン・ドロンが、物語の中の二人とダブって見えました。印象的なシーンではヨットの中での食事で、ナイフの使い方が悪いとたしなめるシーンがありました。さらに、トムがフィリップの靴やシャツを着ているところ見られて、激怒されるシーンもあります。「愛しいひと、マルジュ・・」と鏡に向かって言うセリフは、少し前にフィリップがマルジュに向かって言ったセリフをなぞっていました

 

モーリス・ロネとアラン・ドロンはフィリップとトムそのままです。そこに「さらに、もうひとつの”太陽がいっぱい”」を見た気がします

 

 

 

ニーノ・ロータの哀愁漂う音楽に見事なカメラワーク。美しい地中海の風景に溶け込む美しい青年の光と影!何も持っていなかった青年が、何もかも手に入れたと思った刹那、劇的なラストへと導かれていきます

「太陽がいっぱいだ!」

瞳の中に潜む危うさとしたたかさ。圧倒的な存在感で20世紀の映画界を席巻したアラン・ドロンの若き日の姿です


この「太陽がいっぱい」は先に述べたような、いろいろな見方があるにせよ、そこには危うさを秘めたアラン・ドロンの美貌がそうさせている気がしてなりません。いいオトコの男優さんはたくさんいます。これからもたくさん出てくるでしょう。しかし、アラン・ドロンのような俳優はもう出てこないでしょう

 

 

最後に、アラン・ドロン出演作の中で一番好きな映画「冒険者たち」から

 

「冒険者たち」は、1967年公開のフランス映画。男二人(アラン・ドロンとリノ・ヴァンチュラ)と女(ジョアンナ・シムカス)ひとりの三人の若者たちの夢と現実を描いた青春アドベンンチャー!

 

ラストシーンで、凶弾に倒れたマヌー(アラン・ドロン)を抱きかかえたローラン(リノ・ヴァンチュラ)が言うセリフ

 

「レティシア(ジョアンナ・シムカス)が言っていたぞ、お前と暮らしたいって」
「この嘘つきめ!」

 

そう言って息絶えるマヌー(アラン・ドロン)。本当はローラン(リノ・ヴァンチュラ)もレティシア(ジョアンナ・シムカス)が好きだったんですね。でもマヌーが彼女を好きなことを知っていて嘘をつきます。もちろんそれが嘘だとマヌーは承知していて言葉を返します。泣けてくるラストでした

 

アラン・ドロンの映画は、「太陽がいっぱい」「さらば友よ」「リスボン特急」「あの胸にもう一度」「地下室のメロディ」などラストシーンが印象的な映画が多いですが、個人的には「冒険者たち」が一番です



 

 

「パリオリンピック2024」ついに終わってしまいましたね。毎日夜中まで応援して泣きました、怒りました、笑いました、感動しました。選手のみなさんやスタッフのみなさんには感謝です。いつもなら五輪後の観戦記のようなものを毎回掲載していましたが、今回はいっぱいあり過ぎて止めておきます。ひとつだけベストシーンを挙げるとすれば、柔道阿部一二三選手が、決勝戦を終えたあと畳を去る際に正座をして深々と礼をしていたことです。礼に始まり礼に終わる柔道の神髄を見た思いです。柔道だけでなく他の競技について言いたいこともありますが、これ以上は何も言いますまい・・。最後に北口選手の思いきりの笑顔で終わって良かったです

 

▲2大会連続金メダルの阿部選手

▲ビーチバレーのバトルをおさめた「イマジン」

▲やり投げの北口選手

 

ビーチバレーでバトルが勃発。お互いに言い合って何度審判が仲裁に入ってもお互い怒りが収まらず、試合も中断していた時に、機転を利かせてDJがかけた曲が「イマジン」。会場や選手の空気が変わり、最後は会場中で大合唱。いがみ合っていた選手たちも笑顔で試合を再開しました。このDJにも金メダルをあげて欲しいですね

 

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さて、映画の話し_

この映画を初めて観たのは浅草の名画座で、たしかオールナイトの西部劇三本立てだと記憶しています。当時席巻していたマカロニウエスタンを片っ端から名画座で見まくり、最終的に行き着いたのが古典西部劇でした。若い頃はジョン・ウェインやジェームズ・スチュワートらが主演する西部劇を「オッサンが見るワンパターン映画」と小馬鹿にしておりましたが、実際に何度も見ると面白い、面白い。久しぶりに今日は王道西部劇の中の一本!

 

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OK牧場の決闘

1957年/アメリカ(122分)

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有名なOK牧場の決闘を、ワイアット・アープとドク・ホリデーの友情を絡めて描くジョン・スタージェス監督による名作西部劇!

 

 

 監督

ジョン・スタージェス

 音楽

ディミトリ・ティオムキン

 キャスト

バート・ランカスター/ワイアット・アープ

カーク・ダグラス/ドグ・ホリディ

 

ロンダ・フレミング/ローラ・デンポー

ジョー・ヴァン・フリート/ケイト

ジョン・アイランド/リンゴ

アール・ホリマン/バセット

デニス・ホッパー/クラントン

テッド・デ・コルシア/ピアース

 

監督は「大脱走」「荒野の七人」「老人と海」などのアメリカを代表する名監督のジョン・スタージェス。76年のマイケル・ケイン主演の「鷲は舞いおりた」が遺作となりました。主演のワイアット・アープ役は「地上より永遠に」「深く静かに潜航せよ」「大空港」「カサンドラクロス」などのバート・ランカスター。ドグ・ホリデー役には「海底2万哩」「スパルタカス」「パリは燃えているか」「テレマークの要塞」のカーク・ダグラス。あのマイケル・ダグラスのお父さんです。ほかには、ヒッチコックの「白い恐怖」「鷲と鷹」などの美人女優ロンダ・フレミング、「エデンの東」でジミーの母親役を演じたジョー・ヴァン・フリート、さらに、ジョン・アイランド、アール・ホリマンなどが出演しています。さらに、まだ無名のリー・ヴァン・クリーフが出ていて、始まってすぐ酒場で殺されます。主人公2人と対決する荒くれのクラントン兄弟の末弟役で心優しい若者を「イージー・ライダー」「ジャイアンツ」などで知られるデニス・ホッパーが演じています

 

 

 

 

▲バート・ランカスター/ワイアット・アープ

▲カーク・ダグラス/ドグ・ホリディ

▲ロンダ・フレミング/ローラ・デンポー

▲リー・ヴァン・クリーフ/エド・ベイリー

ワイアット・アープは、牛を盗んだクラントン一味を追って来たダッジ・シティーで、賭博師ドク・ホリデーを町民のリンチから救う。この事件をきっかけにワイアット・アープとドク・ホリデーは信頼関係を築き、固い友情で結ばれるようになる。やがて女賭博師のローラと出会い惹かれあうようになったワイアットは彼女と共にダッジ・シティで暮らそうと思いはじめていた。そんな時、クラントン一味と対立していた保安官の兄・バージルから救援を乞う知らせが届き、ワイアット・アープはドク・ホリデーと共に兄の待つトゥームストンの町へと向かったのだが・・・

西部劇ファンではなくても、往年の映画ファンなら一度は見たことがある西部劇の名作。ディミトリ・ティオムキン作曲、フランキー・レインの主題歌も詩情豊かで盛り上がります

 

 

  「OK牧場の決斗」と「荒野の決闘」

 

1881年に起きた実在の銃撃戦「OK牧場の決闘」を題材に、伝説の保安官ワイアット・アープと賭博師ドク・ホリデイの友情、そして悪党クラントン一家との戦いを描いた名作西部劇!

 

原題は「Gunfight at the O.K. Corral」。直訳すれば「OKコラルの銃撃戦」です。”コラル”とは家畜の囲いを意味し、一般的な意味での牧場ではありません。しかし、この映画の日本公開にあたり配給会社が「OKコラルの決闘」では分かりにくいので「OK牧場の決闘」としたとされています。1881年にアリゾナ州トゥームストーンで実際に起こった銃撃戦を題材としており、数々の西部劇映画のうちで最も有名といえる作品です。多分日本で言えば「巌流島の決闘」や「忠臣蔵」のようにアメリカでは語り継がれる物語であると思います。したがって何度も映像化されており、中でも本作「OK牧場の決斗」と1946年のジョン・フォード監督の「荒野の決闘」が特に有名です。詩情豊かでドラマとしての色彩が強い「荒野の決闘」と比較すると、娯楽性が強いのは本作「OK牧場の決闘」の方でしょうか。以前「どちらが名作か?」と聞かれたことがありますが、両方ともすばらしく好みの問題だと思います。この機会に両方見ることをおススメします

 

この2作は共に音楽がいいです。「荒野の決闘」は”Oh My Darling,Oh My Darling~”の「いとしのクレメンタイン」、対して「OK牧場の決斗」は”O.K.Corral ~O.K.Corral~”のフランキー・レインの主題歌。映画だけでなく曲も対照的ですが、どちらも誰もが聴いたことのある名曲です(最下段に2曲紹介しているので是非どうぞ)

  古典西部劇の名作!

 

わかりやすいストーリーに加え、バート・ランカスターとカーク・ダグラスという粋でカッコ良いスターの競演とくれば見ない理由はありません。冒頭を含め何度も流れるフランキー・レインの歌う主題歌も、西部劇の雰囲気を盛り上げます

 

さきほども紹介しましたが、数あるOK牧場の決闘の中でも異色なのはワイアット・アープとドグ・ホリディの友情を軸に構成していることです。彼らを愛する女性ローラとケイトとのエピソードもありますが、メインは何度となく反発しあいながらも心の奥では理解しあう2人の会話が面白い。生真面目なバート・ランカスターもいいですが、アウトローなカーク・ダグラスのカッコ良さにあこがれます。保安官でありながらガンマンとして有名で、懸賞金をかけられるワイアット・アープにかつては腕ききの歯医者でありながら、トラブルメーカーで今では町から町で渡り歩く賭博師のドグ・ホリデイ。病気に侵されながら憎まれ口をたたく彼らを応援したくなります。なんといっても個性的な二人のスターの共演を見るだけでも価値があります。人物描写が今ひとつで若干わかりにくい部分もありますが、西部劇らしい撃ち合いも迫力があり面白かったですね。まさに「ザ・西部劇」という一本で一度は観るべき映画だと思います。

 

決闘を前にケイトが止めるのを振り切って出ていくドク

「あなた(決闘に)行ったら死ぬわよ」

「どうせ死ぬのなら、唯一の友と死にたい」

 

  兄弟の絆と男の友情の物語!

 

夜明けと共に決闘に挑むアープ兄弟とドグ・ホリデイら4人が横一列になって歩く姿のカッコいいこと!撃ち合いもマカロニ・ウエスタンのように一瞬で終わるのではなく、泥臭くはありますがその分リアルで楽しめます。西部劇とはこうあるべき、と言うような見本のようなすばらしさを十二分に堪能できます。好きな女性を振り払い、兄弟のために駆け付けるワイアット・アープと友人のために力を貸すドグ・ホリディは、どことなく日本の任侠映画の匂いがしますね。個人的な意見ですが、義理を重んじ負けると分かっていても一人で殴りこむという日本の任侠映画はかなり本作を参考にしているのではないでしょうか

 

全てが終わってのエンディングも「OK牧場の決斗」と「荒野の決闘」では大きく違います

「私はクレメインタインという名が大好きです」

そう言い残し故郷へ去るワイアット・アープ(ヘンリー・フォンダ)を見送るクレメンタイン(キャシー・タウンズ)。バックに流れる”いとしのクレメンタイン”の「荒野の決闘」。詩情あふれるラストでした。本作で広く知られるようになった”いとしのクレメンタイン”ですが、もともとはアメリカ開拓時代の民謡バラードで、日本では「雪山賛歌」の曲として知られています

 

対して本作「OK牧場の決斗」では、全てが終わりカウンターで酒を飲んでいるドグ(カーク・ダグラス)にワイアット・アープ(バート・ランカスター)がからだの心配をし、あれこれ彼に指図をします。笑いながら聞くドグが、立ち去る彼の背中にかけた最後のセリフが

「あばよ、説教師!」

そして、彼女を迎えにワイアット・アープは馬を走らせます。バックに流れるのがフランキー・レインの主題歌「O.K.Corral~ O.K.Corral~」の”OK牧場の決斗”。荒々しくも切なげに歌い上げる歌声が印象的です

 

いい映画にはいい音楽が似合います。それぞれのラストがイカしてます。是非ご覧ください!

 

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