今日の映画を初めて観たのはもう40年以上前にもなるでしょうか。うろ覚えですが東京の高田馬場にある名画座”早稲田松竹”と記憶しています。併映は「市民ケーン」と「第三の男」で、当時は三本立てだった記憶があります。今考えたら夢のような三本立てですね。当時はまだ古い建物でしたが、それこそ映画小僧たちのたまり場で、今と違って女性の姿はめったに見たことがありません。僕にとっても忘れられない映画で、その後何度もレンタルで見てます

 

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波止場

1954年/アメリカ(108分)

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監督エリア・カザン、主演マーロン・ブランドによる骨太の社会派ドラマの傑作!

 

エヴァ・マリー・セイント(左)とマーロン・ブランド

 

 監督

エリア・カザン

 音楽

レナード・バーンスタイン

 キャスト

マーロン・ブランド/テリー・マロイ

エヴァ・マリー・セイント/イディ・ドイル

 

カール・マルデン/バリー神父

リー・J・コップ/ジョニー(マフィアのボス)

ロッド・スタイガー/チャーリー・マロイ

リーフ・エリクソン/グローバー

トニー・ガレント/トラック

ジョン・F・ハミルトン/イディの父

マーティン・バルサム/ジレット

 

監督は「エデンの東」「紳士協定」「欲望という名の電車」などの名作を多く手掛けているエリア・カザン。主演のテリーに「欲望という名の電車」「片目のジャック」「ゴッドファーザー」「地獄の黙示録」などのマーロン・ブランド。相手役には「いそしぎ」「北北西に進路を取れ」「グラン・プリ」のエヴァ・マリー・セイント。ちなみに彼女は本作が映画デビュー作品でした。そのほか「私は告白する」「シンシナティ・キッド」のカール・マルデン、マフィアのボス役には「十二人の怒れる男」「西部開拓史」のリー・J・コップ、「質屋」「夜の大走査線」のロッド・スタイガーなどのそうそうたるメンバーが勢ぞろいしています。クレジットはされていませんが、脇役俳優として名高いマーティン・バルサムも出演しており、のちに今回共演したリー・J・コップとは「十二人の怒れる男」で同じ陪審員役で共演しています

 

本作は、第27回(54年)のアカデミー賞において作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞など8部門を受賞しています

 

 

▲マーロン・ブランド/テリー・マロイ

▲エヴァ・マリー・セイント/イディ・ドイル

▲リー・J・コップ/ジョニー(マフィアのボス)

▲ロッド・スタイガー/チャーリー・マロイ

元ボクサーの青年テリー(マーロン・ブランド)は、現在ギャングのジョニー(リー・J・コップ)が支配するニューヨークの波止場で働いている。ある日、テリーはジョニーに命じられ、友人が殺される事件に関わってしまう。やがて被害者の妹イディ(エヴァ・マリー・セイント)と知り合ったテリーは、兄の死の真相を追求しようとする彼女に心惹かれていく。暴力での支配を許さないバリー神父(カール・マルデン)とイディに感化され、自らの信念に基づいて生きることに目覚めるテリーだったが、そのおかげでギャングの幹部の兄のチャーリー(ロッド・スタイガー)まで殺されてしまう・・・

ニューヨークの港を舞台に、マフィアのボスに立ち向かう一人の港湾労働者の姿を力強く描いています

 

 

  揺れ動く心情まで映し出す!

 

物語は、ギャングたちが支配する港からはじまります。ギャングたちの暴力、脅し、殺人まで蔓延している波止場で、労働者と利権を牛耳るギャングに立ち向かうひとりの若者テリー。決して彼はヒーロー然としているわけではなく、元ボクサーのチンピラなのですが、普段は仲間思いで鳩を飼う気のやさしい青年です。その彼が、愛する人のため正義のために不器用に立ち上がります。少々荒っぽいつくりですが50年代の雑多な空気感がモノクロに映えます。加えて映像が見事で人々の心情まで映し出します。登場するエキストラは本当の港湾労働者たちということで、より鮮明に迫ってきます

 

 

 

  エリア・カザンの最高傑作!

 

こういう骨太の映画を、これだけのキャストで見せられると昨今の映像主体の映画が軽く感じてしまいます。エリア・カザン作品では「紳士協定」「エデンの東」、「草原の輝き」の方が日本での評価も人気も高いようですが、アメリカ本国ではマーロン・ブランドの名演が光るこの「波止場」の方が、エリア・カザン監督作品の最高傑作と言われており、その点は全く同感です。個人的な好みを言わせていただければ「紳士協定」のグレゴリー・ペックや「エデンの東」のジェームズ・ディーン、「草原の輝き」のウォーレン・ベイティの方が本作のマーロン・ブランドより何倍も好きなのですが、脚本、演出、俳優、音楽、カメラなどの多くの部分で優れているの認めざる得ません。この映画にはエリア・カザン監督の強い思いと哀調をひしひしと感じます

 

 

  多彩な俳優陣も見どころ!

 

恋人役のエヴァ・マリー・セイントはこの作品がデビュー作で、アカデミー助演女優賞を受賞しており、この5年後にヒッチコックの「北北西に進路を取れ」で妖艶な女性を演じています。以前企画した拙ブログの”歴代美人女優投票”では番外でしたが、50年~60年代では忘れてはならない女優さんのひとりです。ギャングのボス役のリー・J・コップも存在感がありました。そんな中、テリーの兄役のロッド・スタイガーもよかったですね。当時はまだ無名でしたが、弟テリーを裁判で証言しないように説得する車の中のシーンが印象的でした。無言の2人の表情はもちろん、陰を際立たせるカメラも見事なこと!

「なあテリー、裁判でジョニーを告発するのか?」

「まだ、わからない」

それまで、テリーは不満がありながらも兄の言うことに従ってきました。ギャングの幹部の兄の立場も理解してのことでした。だが、今回は違う。以前ボクシングの八百長を頼まれたことを引き合いにだして言います

「あの時、兄貴が八百長を指示しなければ、俺はチャンピオンになってたんだ」

「今より少しは、いい顔ができたんだ!」

それは今までテリーが誰にも一度も言わなかった本音です。それを聞いて兄はテリーに銃を突きつける。この時のマーロン・ブランドの表情が素晴らしい

「チャーリー・・・」

「仲間にはお前とは会えなかったと言っておく」

そう言ってテリーと別れる兄のチャーリー。それは兄が弟に見せた最後の優しさでした。そして次の日、チャーリーは組織に殺されます

 

 

 

  別格のマーロン・ブランド

 

マーロン・ブランドというと「ゴッドファーザー」のドン・コルレオーネが思い出されますが、20代~30代の彼は抜群の演技力に加え、なんと言うか繊細さがあります。それは少しタイプが違いますが「理由なき反抗」のジェームズ・ディーンに少し似ています。彼の場合、例えば「寂しい」と表現する場合表情でわかりますが、マーロン・ブランドの場合顔というより全体から醸し出す雰囲気です。ジェームズ・ディーンの場合圧倒的にアップが多いのに対し、マーロン・ブランドは少し引いた画が多いのも頷けますね

 

言い方が悪いですが、彼が演じると演技が全て演技力という言葉でねじ伏せられてしまいます。それほど力強く、そして細やかです。これだけまざまざと見せつけられると納得せざる得ません。演技の上手い俳優さんはダスティン・ホフマン、ロバート・デ・ニーロ、ジャック・ニコルソン、アル・パチーノなど、その役に成り切れる名優は何人もいますが、彼は別格です。それまでのさまざまな作品での熱演は言うまでもありませんが、この映画でもイディとの関係が深まるにつれて、マーロン・ブランドの陰影がいよいよ際立ってきます。外見は厳ついのですが、あふれ出る叙情性に彼の体温さえも感じ取ることができます。公開当時マーロン・ブランドは30才!驚くほどの瑞々しさと上手さは群を抜いています。のちの日活映画の赤木圭一郎や石原裕次郎、小林旭などで相当数作られたマドロスもの、波止場ものはかなりこの映画、そしてマーロン・ブランドの影響を受けているだろうと思います

 

 

 

裁判でジョニーの不利な証言をした上に、言う事を聞かないテリーはジョニーらに袋叩きにされます。それでも暴力に屈しないテリーに、労働者たちもテリーを習って仕事をボイコットし、ついには仕事の依頼主さえジョニーらを追い出します

 

ラストでは労働者たち、イディ、牧師らが見守る中テリーはフラフラになりながらその仕事場の倉庫へ歩き、仲間たちは彼のあとを一人また一人続いて歩き出します。「さあ、仕事をしようぜ!」。ジョニーは怒り狂うが、依頼主はテリーたちを倉庫へ入れてしまうとジョニーを無視してシャッターを下ろし映画の幕も下ります

 

圧倒的なエリア・カザン監督の演出とマーロン・ブランドが贈る50年代屈指の一本です

 

残念ながらテレビでは放映されることはないと思いますが、機会があったら是非ご覧ください!