この映画を初めて観たのはもう40年以上前で、東京下町の名画座で「理由なき反抗」「ジャイアンツ」の超豪華な二本立てでした。”ジェームス・ディーン特集”と銘打っておりましたが、それなら「エデンの東」を入れて3本立てだろう!と思っておりましたが、「ジャイアンツ」の上映時間は3時間21分でしたから仕方なかったかもしれません。当時は入れ替えなどありませんからしっかり2周り、なんと12時間近くぶっ続けでクッションの悪い椅子にしがみ付くように観ておりました

 

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「ジャイアンツ」

1956年/アメリカ(201分)

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名匠ジョージ・スティーヴンスが豪華俳優を配し、テキサスの大牧場主ベネディクト家と変り行くアメリカを描いた壮大ドラマ!

 

 

 監督

ジョージ・スティーヴンス

 

 キャスト

ロック・ハドソン/ジョーダン・ベネディクト2世

エリザベス・テイラー/レズリー(ジョーダンの妻)

ジェームズ・ディーン/ジェット・リンク

 

マーセデス・マッケンブリッジ/ラズ・ベネディクト

デニス・ホッパー/ジョーダン3世

キャロル・ベイカー/ラズ2世

ロッド・テイラー/デヴィッド・カーフリー卿

 

監督は、本作で第29回アカデミー監督賞に輝いたジョージ・スティーヴンス。「陽のあたる場所」(51)「シェーン」(53)「アンネの日記」(59)などでも有名な監督です。出演者は、「武器よさらば」(57)などの当時ハリウッド屈指の二枚目と言われたロック・ハドソン。個人的にはジーナ・ロロブリジーダの「九月になれば」(61)などのコメディの印象が強いですね。そして「花嫁の父」(50)「陽のあたる場所」(51)「熱いトタン屋根の猫」(58)「クレオパトラ」(63)など過去何度もレビューしており20世紀ナンバーワン女優とも言われるエリザベス・テイラー。さらに「理由なき反抗」「エデンの東」のジェームス・ディーン。主要はこの3人ですが他にも「イージー・ライダー」のデニス・ホッパー、「オール・ザ・キングスメン」(49)のマーセデス・マッケンブリッジ、「課外授業」(75)「西部開拓史」(62)のキャロル・ベイカー、彼女は晩年シュワちゃんの「キンダガートン・コップ」(90)にも出てました。そして、ヒッチコックの「鳥」(63)のロッド・テイラー。ちなみに彼は63年の「予期せぬ出来事」でもエリザベス・テイラーと共演しています。こうしてみると、主要3人だけでなく脇を固める俳優さんも大物が多かったですね

 

 

 

▲ロック・ハドソン/ジョーダン・ベネディクト2世

▲エリザベス・テイラー/レズリー(ジョーダンの妻)

▲ジェームス・ディーン/ジェット・リンク

▲デニス・ホッパー/ジョーダンの息子

▲キャロル・ベイカー/ジョーダンの娘

テキサスの大牧場主ジョーダン・ベネディクト(ロック・ハドソン)のもとへ、東部の名門の令嬢レズリー(エリザベス・テイラー)が嫁いできた。東部と西部との考え方、生活に戸惑いながらも強く生きるレズリーだが、何かにつけ夫(ロック・ハドソン)とぶつかるジェット(ジェームズ・ディーン)という青年が気になり始める・・・

 

/第一部

東部の名門の令嬢レズリー(エリザベス・テイラー)がテキサスの大牧場主ベネディクト家に嫁いできて封建的な考えや生活習慣にとまどいながら力強く生きていく

/第二部

それから十数年後の設定。油田を掘り当てて大金持ちになったジェット(ジェームス・ディーン)、二人の子どもも自分たちの思惑とは別の人生を歩み始め、テキサスも大きく変貌していった

 

テキサスの裕福な牧場主一家と、一介の牧童から石油王となる男の生涯に、廃れゆく南部とそれでも生き続けるアメリカ魂を託した201分の大作ドラマで、第一部と第二部で構成されています。いわゆる青年期と壮年期ですが、主に3人の主人公の物語をベースに家族、アメリカの変革などを大きなスケールで描いています

 

▲ジェットに案内されて村の惨状を知るが・・

▲テキサスに嫁いできて戸惑うレズリー

 

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 テキサスを舞台にした壮大なドラマ

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移り変わるアメリカの西部を舞台に、女性の自立や人種問題などを描いた先駆的な映画です。ただ、内包するテーマが多すぎて映画のスケールの中に人が取り残された印象があります。今なら、人気の長編ドラマでやるべきスケールだったと思います。やや大味になったことは否めませんが、濃厚な人間ドラマであることに間違いありません。エリザベス・テイラーの美しさは言うまでもありませんが、ロック・ハドソンの封建的で頑固なまでの牧場主ぶり、ジェームス・ディーンの苦悩など見どころ満載の映画です

 

本作で、監督ジョージ・スティーヴンスが1957年第29回アカデミー監督賞を受賞しています。作品賞は以前レビューしたことがある「八十日間世界一周」ですが、この年のノミネート作品が凄い!

 

八十日間世界一周*受賞

友情ある説得

ジャイアンツ

王様と私

十戒

 

ちなみに、主演男優賞は「王様と私」のユル・ブリンナー、主演女優賞は「追想」のイングリット・バーグマンでした。この年は他にも、フェリーニの「道」、ナンシー・ケリーの「悪い種子」など名作が目白押しで、黒澤明の「七人の侍」も美術賞にノミネートされています。

 

 

 

▲果てしないベネディクト家の土地と牛の数

 

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 約60万エイカーの土地の大地主

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映画の中でも語られているベネディクト家の土地は、約60万エイカーだそうです。今ひとつピンとこないのでちょっと計算してみました。1エーカーは約4.065平方メートルで一辺が63.6メートル四方になります。単位としては人間1人と牛1頭で1日で耕せる広さが1エーカーとされたようです。よく比較に用いられる東京ドームは約46.760平方メートルですから、だいたい11.5エーカー。つまりベネディクト家の土地60万エーカーとは、なんと東京ドーム52.000個以上の広さになります。もう少しわかり易く言うと60万エーカーはだいたい2.400平方キロで、これは東京都より広く、神奈川県とほぼ同じ広さです。とにかく広さとスケールの面では私たちの想像も及ばない世界ですね。映画の中で、ベネディクト家に嫁いで来たレズリー(エリザベス・テイラー)が、何千という牛の群れに驚き「この牛、全部あなたのものなの?」という問いに牧場主の夫(ロック・ハドソン)が「そうだよ、でも、あと4万9千頭はいるよ」というセリフがあります。要するに、映画の中の話しではあるもののこの映画を見るにあたっては、私たちでは想像もできないくらいの生活だということをまず理解すべきなのです

 

ついでに、どうでもいいことですがディズニーでおなじみの「クマのプーさん」が暮らす森の広さは100エーカーの森と言われていますから、計算すると東京ドーム約8.6個分となります(笑)

 

▲出会ったころのレズリーとジェット

▲油田を掘り当ててベネディクト家に来るが・・

▲晩年のジェット(ジェームス・ディーン)

 

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ジェームズ・ディーンの最後の出演作

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この映画はジェームス・ディーンの遺作としても知られています。本作が撮影終了した一週間後の1955年9月30日に交通事故で帰らぬ人となりました。この映画が公開されたのはその一年後の1956年の秋のことで、さらに言わせていただくと彼が主演した3作(エデンの東、理由なき反抗、ジャンイアンツ)の日本公開はジミーの死後でした。このあたりの経緯は少しブルース・リーと似ていますね

 

「お金が全てじゃないわ」

「持っているひとはみんなそう言うんです」

 

物語の前半に出て来るレズリー(エリザベス・テイラー)とジェット(ジェームス・ディーン)の会話が印象深いです。彼は単に金持ちになりたかったわけではなく、レズリーに認めて欲しかった。振り向いて欲しかった。これは終始一貫変わっていません。レズリーが初めてベネディクト家に嫁いできてからジェットはずっと想い続けており、その想いが金持ちへと駆り立て、大金持ちになったあとも彼女の夫であるジョーダン(ロック・ハドソン)に対抗するように目立つことをやり続けます。その根底にあったのがレズリーに対する愛です。決してかなうことのない愛です。その想いを何十年も持ち続け、やり場のない怒りと苦しみと哀しみを独白するのが、ラスト近くのひとりっきりになったパーティ会場です。映画をご覧になった方ならお分かりだと思いますが、第二部での彼はほとんど酔っています。それは、素顔の自分の姿を見られたくなかったからではないでしょうか?この独白のシーン以後彼は映画に登場しません。最早、その必要がなかったからです。本作のジェームス・ディーンについて、「第一部のジミーは良かったが第二部は醜くく年寄りに見えない」などというコメントを目にしますが、そんなことは些細なことです。晩年の彼も、やはり彼でなくてはならなかったのです。この映画のジェットは「理由なき反抗」「エデンの東」のジェームス・ディーンそのものだった気がします。違うのは愛する人がそばに居なかったことの一点に尽きます。対してロック・ハドソンとエリザベス・テイラーは素晴らしかったです。それは、ジェームス・ディーンという影があったからこそだと断言できます。それは、この映画のテーマのひとつである、新しい時代に移り行くアメリカの光と影なのです

 

 

▲レストラン店主とジョーダン(このあと大喧嘩になります)

▲レズリーとジョーダンのラストシーン

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「Giant」(ジャイアント)と「ジャイアンツ」

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この映画の原題は「Giant(ジャイアント)」です。それなのに邦題は「ジャイアンツ」です。邦題の妙については賛否ありますし、一概には何とも言えません。初見では全く気にしませんでしたが二度目に観た時、偉大なことを成し遂げた3人に対して「ジャイアンツ」という複数形を用いたと思いましたが、それでは原題の「ジャイアント」の説明がつきません。そこで思い出すのが、ジョーンズが自分の名誉を傷つけられジェットを殴ったことに対し、ラスト近くでは、今度は人の為にレストラン店主と喧嘩をして殴られます。そんなジョーンズ対してレズリーが言うセリフです

 

「真の巨人(ジャイアント)とは、お金や名声や家柄ではなく、ひとりの人間の心を持った人のことよ。そして、あなたはあのレストランで真の巨人(ジャイアント)になったわ」

 

邦題については、はっきりしたことは言えませんが、公開当時、プロ野球で人気絶頂だった「ジャイアンツ」にあやかったというのが案外ホントかもしれません。本作公開の1956年の日本は今とは比較にならないほどの野球人気で、中でも55年~59年まで名将水原茂監督による「読売ジャイアンツ」が5連覇をした時期で名実ともに「ジャイアンツ」の名が日本中轟いていました

 

 

 

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人間の心が「ジャイアント!」

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これが200分を超える本作の終始貫かれているテーマです。激動のアメリカ、テキサスを背景に人間(夫婦)としての成長物語です

 

メキシコ人の入店を拒否したレストラン店主との殴り合いで叩きのめされたジョーンズ(ロック・ハドソン)を、妻ラズリー(エリザベス・テイラー)が「ジャイアント」だと褒めたたえた場面が肝ですね。その殴り合いは挿入曲「テキサスの黄色いバラ」にのって、決して陰湿でなく、むしろコミカルな印象で人種差別に立ち向かう応援歌のように聞こえました。自宅でそれを笑顔で話すジョーダン(ロック・ハドソン)とラズリー(エリザベス・テイラー)、そして、ひとり独白に泣き崩れたジェット(ジェームス・ディーン)

 

家族とは?お金とは?名誉とは?

 

ラストは肌の色が違う、二人孫の笑顔のアップで物語がおわり、それは輝かしい未来を暗示しているようでした

 

ひとつ思い出しましたが、パーティの時にかかっていた曲が
「 I've Been Working on the Railroad」で、日本では「線路は続くよどこまでも」の名で親しまれている曲でした

 

3時間を超える大作ですからじっくり腰を据えてご覧ください!

 

 

<~お知らせ~>

毎月一日は恒例の「シネマDEクイズ」ですが、既報通り8月1日は「歴代美男俳優(海外)は誰だ?」の皆さんの投票を予定しています。お正月に開催した「歴代美人女優(海外)は誰だ?」の男性版です。過去から現在に至るまでの数多くの「美男俳優」さんの中からひとり最大10名まで投票していただく予定です。年代や観た映画の本数などによっても違ってくるのは当たり前ですが、そういうことをひっくるめて歴代ナンバーワン美男俳優を決めませんか?投票者本人だけでなく、ダンナさん、奥さん、親兄弟、友人知人など幅広く募集しますので数週間の投票期間を設けます(投票者の代理投票になります)。詳細は8月1日の「ワンダの映画三昧」でお知らせしますのでたくさんの投票をお待ちしております

 

歴代ナンバーワン美男俳優は誰だ!