フランスが生んだ世紀の映画スター、アラン・ドロンが生涯の幕を閉じました。享年88才でした
多くの方々が追悼記事を書かれていますので今さらとは思いますが、やはり触れないわけにはいきますまい。それほど印象深い俳優さんでした。わたしが10代~20代の時に名画座で見た彼の映画は数知れません。もちろんアラン・ドロンの映画をメインで見ることも数多くありましたが、2本立てや3本立ての併映がアラン・ドロンの映画のケースも多く、彼の出演作のほとんどは名画座で見ています。当時人気のあった「太陽がいっぱい」や「さらば友よ」「ボルサリーノ」は何回見たか覚えていないほどです。拙ブログでも「アラン・ドロン特集」で過去何作品かレビューしており、今後も続けていく予定です
世紀の二枚目スター!
アラン・ドロンは1935年、パリ郊外の生まれ。17才でフランス海軍に志願しし20才で除隊したあと、さまざまな職業を転々としたあと57年22才で「女が事件にからむ時」で俳優として映画デビューします。その後「お嬢さんお手やわらかに」を経て「太陽がいっぱい」に主演し、その名はフランスのみならず全世界に知れ渡ることになります。その後は「地下室のメロディ」「山猫」「冒険者たち」「サムライ」「さらば友よ」「レッド・サン」「ボルサリーノ」「リスボン特急」「フリック・ストーリー」「シシリアン」など生涯70本余りの映画に出演しています。特に60年代から70年代にかけての人気は凄まじく、映画雑誌「スクリーン」の年間人気コンテストでは7回ナンバーワンを獲得しています。ちなみに最高は14回のオードリー・ヘプバーンでした
「アラン・ドロンをイケメンと呼ぶなんてとんでもない!」
これは、よくお邪魔するブログ友のマドモワゼル姐さんの名言で、アラン・ドロンは単なる”いいオトコ”とは次元が違う、まさに”世紀の二枚目”という言葉がぴったり当てはまる美男子でした。いわゆる”二枚目”の代名詞のような存在でした。以前企画した「歴代美男子俳優投票」でも2位のブラッド・ピットを倍近くの投票で引き離すぶっちぎりの1位で、引き続き発表した「ワンダが選ぶ歴代美男子俳優」でも1位に推させていただきました
人気の出演映画の数々
もうかなり前になりますが、「アラン・ドロンの出演作品人気投票」という企画が某雑誌で特集しており、その時の結果が次の通りです
1位/太陽がいっぱい
2位/冒険者たち
3位/さらば友よ
4位/山猫
5位/ハーフ・ア・チャンス
6位/世にも怪奇な物語
7位/ボルサリーノ
8位/あの胸にもう一度
9位/レッド・サン
10位/シシリアン
11位/若者のすべて
12位/地下室のメロディ
13位/太陽が知っている
14位/サムライ
15位/アランドロンのゾロ
16位/高校教師
17位/エアポート80
18位/生きる歓び
19位/パリは燃えているか
20位/テキサス
▲さらば友よ
▲高校教師
▲フリックストーリー
▲冒険者たち
▲リスボン特急
▲太陽がいっぱい
▲サムライ
▲山猫
▲あの胸にもういちど
▲暗殺者のメロディ
▲レッド・サン
▲ボルサリーノ
▲地下室のメロディ
▲パリは燃えているか
▲ビッグガン
アンケート投票者の年齢、性別は不明でしたが、上位作品を見る限り女性の投票がかなり多かったのだろうと推察しました。個人的な好みを言えばベスト3は、リノ・ヴァンチュラ、ジョアンナ・シムカスの共演の青春ストーリーの「冒険者たち」、アラン。ドロンの魅力満載のピカレスク・サスペンス「太陽がいっぱい」、ブロンソンとの共演で話題になった「さらば友よ」でしょうか。次いで「サムライ」「ボルサリーノ」「地下室のメロディ」「リスボン特急」「山猫」「フリックストーリー」でこのあたりは順位付けができません。何よりすごいのは出演本数の多さです。60年代前半から70年代後半までの彼の全盛期には年間4~5本制作されており、常に映画界の話題の中心でした。個人的な感想ですがその注目度は今のトム・クルーズ、ジョニデ、ブラピの3人を合わせたくらいの人気だったですね
アラン・ドロンは、フィルム・ノワールやアクション俳優と思われがちですが、出演作は実に幅広いです。いいオトコですから恋愛ものも多いですがフランス映画特有の悲しい結末になる映画が多い印象です。さらに、彼の主演映画は40年以上前の映画が多いわりには不思議と古臭さを感じません。もちろん画像の古さや脚本の陳腐を感じる映画もありますが、アラン・ドロンに古臭さをあまり感じません。この不思議さが永遠の二枚目たる所以なのでしょう。彼は女性遍歴で度々話題になっており、人気絶頂のころに元ボディガードの殺人事件の関係者としてマフィアとの関係を取りだたされたこともあります。それでも人気は衰えるどころか、常に20世紀のスターとして君臨し続けていました
もうひとつの「太陽がいっぱい」
「太陽がいっぱい」/1960年
監督/ルネ・クレマン
原作/パトリシア・ハイスミス
音楽/ニーノ・ロータ
出演/
アラン・ドロン(トム・リプリー)
モーリス・ロネ(フィリップ・グリーンリフ)
マリー・ラフォレ(マルジュ)
▲アラン・ドロン(トム・リプリー)
▲モーリス・ロネ(フィリップ・グリーンリフ)
▲マリー・ラフォレ(マルジュ)
「太陽がいっぱい」は、アラン・ドロンの人気を決定づけたターニング・ポイントになった作品です。フランスの巨匠ルネ・クレマンが監督を務め、パトリシア・ハイスミスの小説を映画化したピカレスク・サスペンスの傑作です!
大富豪の父親に頼まれ、道楽息子フィリップ(モーリス・ロネ)を連れ戻そうとイタリアにやって来た貧しい青年トム(アラン・ドロン)。彼はフィリップに付き人のように使われるが、つかの間の贅沢を楽しんでいた。ところが、フィリップの我が儘からの嫉妬、婚約者のマルジュ(マリー・ラフォレ)への羨望から、殺意に変わっていき完全犯罪を目論むのだが・・・
この作品でのアラン・ドロンは、危うい美貌と演技で一躍世界のトップスターになります。物語もニーノ・ロータの音楽も素晴らしく、小道具の使い方も巧みで少々穴も目立つ作品ですが、当時としては一級のサスペンスに仕上がっています。ですが、ここで思い出すのが「もう一つの”太陽がいっぱい”」です。あの映画評論家の淀川長治氏が、ある作家さんとの対談(1970年代)で
「この映画(太陽がいっぱい)は、ホモセクシャル映画の第一号です」
と語っています。アラン・ドロン演じる貧しい青年トムが船上でモーリス・ロネ演じるフィリップをナイフで刺し殺すシーンは「最大のラブシーン」と評しています。今ではかなり有名な話しですが、この対談当時(70年代)に、この映画を同性愛の傾向を読み取ったのは淀川長治氏しかいません。わたしには羨望と嫉妬の青年が、金と女の両方を得るために起こした犯罪という単純な構図しか思い浮かばなかったのですが、それを踏まえてあらためて本作をみると「もうひとつの”太陽がいっぱい”」が見えてきます
冒頭、フィリップの友人フレディ(後にトムに殺される。この時に彼が連れてきた女性2人のうちの1人が、アラン・ドロンと婚約、破棄したロミー・シュナイダー)が、二人だけなのに気づいて「今日は婚約者のマルジュはどうした?」の問いに「トム(リプリー)がいやがるから置いて来た」と言ったことや、ヨットで3人の時、マルジュが不機嫌なフィリップに「わたしが邪魔なら船を降りるわ」と言ったこと、そしてフィリップがトムに「君とは地獄まで一緒だ」と言ったことなど納得できるシーンも多いです。さらに、トムがフィリップの真似をして「マルジュ・・愛しいひと」と言って鏡にキスをするシーンもあります。なによりもトム(アラン・ドロン)の目元から放つ匂いたつような色気が強烈でした
あらためてトムとフィリップの二人のセリフや行動に着目してこの作品と向き合うと、まったく違う魅力とおもしろさがみえてきます。貧しい青年が羨望と嫉妬による完全犯罪を目論むサスペンスとして見るのもいいですが、「もうひとつの”太陽がいっぱい”」を味わってみてはいかがでしょう
さらにもうひとつの「太陽がいっぱい」
モーリス・ロネとアラン・ドロン。物語ではこの二人が対照的に描かれています、大富豪の御曹司で美しい婚約者がいて何でも持っているフィリップ(モーリス・ロネ)。対して、貧乏でフィリップの付き人のように扱われ、なにも持っていないトム(アラン・ドロン)。この二人は実生活でも似たような生い立ちです。両親が共に俳優で、パリの演劇学校出身のいわばエリートのモーリス・ロネは当時33才。この映画の3年前にルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」で認められたモーリス・ロネに対し、里親に育てられ寄宿学校を転々とした不遇な少年時代をおくり、さまざまな職業を経験して「お嬢さんお手やわらかに」でチャンスをつかんだ若者のアラン・ドロン、当時25才。もちろん俳優として演じているだけなのでしょうが、いつも蔑むような目で見るモーリス・ロネに対し羨望と嫉妬の目で見るアラン・ドロンが、物語の中の二人とダブって見えました。印象的なシーンではヨットの中での食事で、ナイフの使い方が悪いとたしなめるシーンがありました。さらに、トムがフィリップの靴やシャツを着ているところ見られて、激怒されるシーンもあります。「愛しいひと、マルジュ・・」と鏡に向かって言うセリフは、少し前にフィリップがマルジュに向かって言ったセリフをなぞっていました
モーリス・ロネとアラン・ドロンはフィリップとトムそのままです。そこに「さらに、もうひとつの”太陽がいっぱい”」を見た気がします
ニーノ・ロータの哀愁漂う音楽に見事なカメラワーク。美しい地中海の風景に溶け込む美しい青年の光と影!何も持っていなかった青年が、何もかも手に入れたと思った刹那、劇的なラストへと導かれていきます
「太陽がいっぱいだ!」
瞳の中に潜む危うさとしたたかさ。圧倒的な存在感で20世紀の映画界を席巻したアラン・ドロンの若き日の姿です
この「太陽がいっぱい」は先に述べたような、いろいろな見方があるにせよ、そこには危うさを秘めたアラン・ドロンの美貌がそうさせている気がしてなりません。いいオトコの男優さんはたくさんいます。これからもたくさん出てくるでしょう。しかし、アラン・ドロンのような俳優はもう出てこないでしょう
最後に、アラン・ドロン出演作の中で一番好きな映画「冒険者たち」から
「冒険者たち」は、1967年公開のフランス映画。男二人(アラン・ドロンとリノ・ヴァンチュラ)と女(ジョアンナ・シムカス)ひとりの三人の若者たちの夢と現実を描いた青春アドベンンチャー!
ラストシーンで、凶弾に倒れたマヌー(アラン・ドロン)を抱きかかえたローラン(リノ・ヴァンチュラ)が言うセリフ
「レティシア(ジョアンナ・シムカス)が言っていたぞ、お前と暮らしたいって」
「この嘘つきめ!」
そう言って息絶えるマヌー(アラン・ドロン)。本当はローラン(リノ・ヴァンチュラ)もレティシア(ジョアンナ・シムカス)が好きだったんですね。でもマヌーが彼女を好きなことを知っていて嘘をつきます。もちろんそれが嘘だとマヌーは承知していて言葉を返します。泣けてくるラストでした
アラン・ドロンの映画は、「太陽がいっぱい」「さらば友よ」「リスボン特急」「あの胸にもう一度」「地下室のメロディ」などラストシーンが印象的な映画が多いですが、個人的には「冒険者たち」が一番です