加賀美アッコは赤塚不二夫先生原作のアニメ『ひみつのアッコちゃん』に登場する女の子で、鏡の国の女王様からもらった「テクマクマヤコン」という呪文を唱えれば何にでも変身できる魔法のコンパクトを持っています。これは、コンパクトの力でロボットに変身したアッコが元の人間の姿に戻れなくなってしまうという設定のアナザーストーリーです。

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『それからというものは、なにを見てもお嬢さんの顔に見えて……掛け軸の達磨さんがお嬢さんに見える。横の花瓶がお嬢さんに見える。鉄瓶がお嬢さんに見える。お前の顔までがだんだんお嬢さんに……』

ガンモにもらった落語を聞きながら、犬や猫やハトやナマズや婦人警官やバニーガールや女性型ロボットまでアッコに見える俺もこの落語の若旦那みたいに恋わずらいってやつかもしれないぞと大将は思いました。しかし若旦那の恋わずらいが、上野の清水にお参りに行って百人一首の歌を書いてもらったのがきっかけなら、自分の場合は何がきっかけだったんだろう。そういえば…
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「大将、ちょっと起きてよ、大将!」
赤点の補修で教室に居残りしていた大将は、うとうとと自分の机につっぷして眠りこけていたところを、聞き覚えのある元気な声に起こされました。
「うーん、なんだい。アッコか…」
「また赤点とって居残りさせられてたのね。しょうがない大将ね」
と呆れた表情はいつものアッコですが、首から下にぴっちり体に張り付いた真っ赤なレオタードを着ているところはいつもと違うアッコでした。
「アッコ、おまえ、どうしてそんな恰好してるんだ?」
「うーん、ちょっとした事情があってね…なんか中等部の体操部女子がらみのもめ事にまきこまれて…」
体操部上級生の後輩いじめがひどいという話を聞いたアッコは、いつものお節介でそこに首をつっこみ、上級生たちのうち特にたちの悪い連中に目をつけられてしまったのでした。
「なんか体操部部室の横を通りかかったら水道の故障で…たぶん嘘だと思うけれど…大量の水を頭からかぶせられて、びっくりしているところを、何人もに取り囲まれ、風邪をひくからと親切ごかしに衣服を全部剝がされて、そのかわりこの下級生用のレオタードを無理やり着せられたの」
衣服は大事なコンパクトとともに「大切に保管」という名目でどこかに持っていかれてしまい、アッコは強制的に体操部下級生の役割を押しつけられてしまったのでした。
「『とりあえずそのレオタードを着ている限りはお前は体操部下級生だ。上級生に反抗するのは許されない』なんてバカバカしい理屈なんだけれど、でもそこにいる全員がその理屈で動いているとなるとどこにも反抗する余地なんてないのよ。ずいぶん手酷くやられたわ」
自分がその子のために動いてあげていたはずの下級生まで旗色を見て上級生の側についてしまい、アッコは聞き分けのない下級生として皆から吊し上げをくらい、さらには反省の意を示すためだと、ファッション部のレオタードの素材研究に協力するよう命じられてしまいました。
「レオタードの素材研究?」
「いや、最初は私も意味がわからなかったんだけれど、要は、バレた時に体を触ってたんじゃなくてレオタードの生地を触って素材を確かめてただけですと言い訳するための理屈で、実態は女子体操部が伝統的に反抗的な下級生に行う通過儀礼で男子生徒が胸やお尻を触りまくるセクハラらしいのよ。それを知って、さすがにヤバいと思って隙を見て逃げてきたんだけれど、衣服を置いて来たままなのよね。たぶん体操部の部室の中だと思うの。で、あたしが戻ったらまたつかまっちゃうかもしれないから、大将にお願いが…」
「衣服を見つけて持ってきたらいいんだろ?わかったよ。やってやるよ」
「さすがは大将、恩に着るわ」
「でもよ、女子更衣室の中とかはさすがに俺は入れないぞ」
「それもそうね。あたしも一緒に行くわ。見つからないといいんだけれど…」
いつもどんなトラブルにも自信満々で首を突っ込むアッコが、妙に弱気なので、コンパクトの秘密を知らない大将は、レオタードが恥ずかしいのかと思い、ちょっと興奮してしまいました。

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「アッコ、そんな恰好じゃ恥ずかしくて外に出れないだろう。俺が必ず服を取り戻してやるからな」
「う、うん…お願いね。大将だけが頼りよ」
アッコは昔バレエを習っていた時にレオタードを着ていたこともあったので、それほど恥ずかしい恰好と感じていたわけではなく、どちらかと言うと衣服よりコンパクトを取り戻しに行きたかっただけなのですが、大将にそう言われて(そうか…男子の目からは女子がこういうレオタードみたいな格好をするのはすごく恥ずかしく感じていて人目が気になるように見えるのね。それなら協力してもらうためにはそう思わせておいた方がいいかも)と考えました。
「実は私、以前からね、大将にはちょっと感謝していたことがあるのよ」
「えっ、アッコが俺に?」
「そう。私お転婆だし、わりとそそっかしくておっちょこちょいだから、本来ならもっと陰で悪口を言われていたんじゃないかと思うのよ。でも、大将が必ず私よりも大きなヘマをしでかしてくれるから、私のヘマってあんまり目立たないのよね。それにみんなが怖がっている大将とガンガン対等に言い合えるから、大将の抑え役みたいに思われて一目おかれていたりするの。私がクラスで浮かずにいられるのは大将のおかげだと思ってるのよ」
「…………それって褒めてるのか?」
「うん。良く喧嘩もするけれど、そういう意味では最高の男友達だと思ってる」
目の前でレオタード姿の可愛い女の子にそう言われて、大将はすっかりのぼせてしまいました。
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アッコと大将が体操部部室の近くの木陰から覗くと、レオタード姿の女の子が1人立っているのがちらりと見えました。
「やっぱり体操部員が部室の前で見張っていたわね。どうしよう?」
「アッコ、ここは俺にまかせとけ」
大将が手にした長いものをほうり投げると、ものすごい悲鳴が上がり女の子はどこかに飛んで逃げていってしまいました。
「何をしたの、大将?」
「ヘヘヘ…途中で見つけたヘビを捕まえて、それを投げつけたんだ。女の子って大体ヘビは苦手だろ」
「まあ…気をつけてよ。毒ヘビだったらどうすんの?」
2人は見張りがいなくなった体操部部室のドアに駆け寄りました。
「ありゃ、鍵がかかっていてあかないや」
「大将、ドアの上の小さな窓が開いてるから、そこから入れるわ。衣装もレオタードだし、氷室冴子先生の『クララ白書』みたいね」
「何だいそりゃ?」
「有名な少女小説よ。読んだことない?」
「この俺が少女小説を読むわけないだろ」
「それもそうね。大将はドアに手をついてそこに立っといて。私は肩の上にのってそこから小窓をすり抜けるわ…ちょっと遠いわね。悪いけれど、お尻を押して私を持ち上げてくれる?」

「ええっ?レオタードのお尻を!?」

「構わないわよ。減るもんじゃなし」

「だってこれってセクハラになるだろ?」

「本人が嫌がるからセクハラになるのよ。私がいいって言ってんだから」
アッコが小窓を抜けて、体操部部室の中に入ると、部室の机の上にアッコの衣服とともにお目当てのものが置いてありました。
「あった、あった。私の大事なコンパクト。これさえあれば百人力。今日はもう遅いけれど、明日になったらあいつら、とっちめてやるわ!」

アッコは室内の椅子を組み合わせて適当に土台を作ると、小窓から顔を覗かせ、心配げな顔の大将に人差し指と親指で丸を作ってOKのサインを送りました。

「見張りが戻って来るかもしれないから急ぐわよ。頭を下にして小窓から飛び出すから、ちゃんと受け止めてよ、大将!」

「ええっ?お、おい!」

大将の体にレオタードの布地に包まれた柔らかい肉体が勢いよく覆いかぶさり、2人は勢い余ってアッコを下にする形で地面に倒れました。

「重いわね、大将…少しはダイエットしたら?」

「ごめんごめん…って俺が謝るところか?そもそも出る時は内側から鍵を開けて出られたんじゃないのか?」

「そういえばそうね。相変わらずそそっかしいわ、私……でも大将の左手も相当そそっかしいわよ。一体どこ触ってんの?そこはさすがにダメでしょ!」
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「ありがとう大将。すごく助かったわ。今日という今日はすごく感謝してる」
「服が無事見つかって良かったな、アッコ。それじゃあ着替えて帰ろうぜ」
「大将は赤点の補修はもういいの?」
「へへへ…今日はもういいや。明日補修の補修をしてもらうよ」
「それじゃあ、もう着替えなくてもいいわ。このまま一緒に帰りましょ!」
「ええっ!?服着替えなくてもいいのかよ。その恰好恥ずかしいだろ?」
「ふふふ…恥ずかしいけれど、大将はこんなレオタード姿のあたしと一緒に帰りたいんじゃない?」
「ええっ…」
「今日限りのサービスよ。私からの感謝の印…まあ、また明日からは元どおりの喧嘩友達に戻るつもりだけれどね」
それ以来、大将は何を見てもアッコに見える(大抵の場合、実は本物のアッコの変身だったりしますが)恋わずらいの症状をみせるようになったのでした。

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「ピーッ!ナカナカ面白イ映画デシタネ…」
「ピポポポポッ!ソ、ソウネ…デモ…ウ~ン…ピキュ~ン!」
「ピーッ!ナニカ気ニナルトコロデモアリマシタカ?」
「ピポポポポッ!チョットダケネ…ピキュ~ン!」
アッコは、映画の中で、悪人にリモコン仕掛けのロボットに改造された女の子が、人間だった時の友達に見下され面白半分に玩具にされる描写にすっかり嫌な気分になってしまったのでした。
(私もロボットから元に戻れなくなったら、モコちゃんや大将に見下され、リモコン操縦で操られて玩具にされちゃうのかな…いや、そんなことあるわけないわ…2人ともそんな時こそ信用できる友達だし…いや、大将は買い被りすぎか…)
「ピポポポポッ!ピースケクンハ・リモコンモードニサレタコトアルノ?…ピキュ~ン!」
「ピーッ!私ニハリモコン操縦ノ設定自体アリマセンカラ…自律思考デキルロボットノ場合・必ズシモ必要ナ機能ジャナイノデ…鉄腕アトムニハ・鉄人28号ミタイナ思考機能ノナイ単純ナロボットト違ッテ・操縦機ハ付イテナイデショ?」

「……………………鉄人28号ナミニ思考機能ノナイ単純ナロボットデ・悪カッタワネ!鉄腕アトム…アトムジャダメカ…ノ妹ノウランミタイナ・自立シタロボット女性ヲ・ガールフレンドニシタライインジャナイ?…ピポポポポッ!ピキュ~ン!」
「ピーッ!スミマセン…AKKO132NOサンニハ・リモコンモードガアルンデスネ…ソコガ地雷トハ思ッテモミマセンデシタ…」
「ピポポポポッ!イイノヨ…ナンカロボットニハ必要カト思イコンデ・ウッカリツケチャッタノヨ…イヤ・私ガジャナク・製造者ガネ…ピキュ~ン!」
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「相変わらず、無駄に運動神経だけはいいわね…大将。でも片手大車輪はさすがに危ないんじゃない?」
大将が校庭で1人で無心に鉄棒の練習をやっていると、いつの間にか一段低い隣の鉄棒に腰掛けていたアッコが声をかけました。
「ほっとけ。今度の体育の授業でみんなに見せてあっと言わせてやるんだから」
「ふうん。まあがんばって…そうそう。この間はありがとね。モコちゃんがそばにいると詮索されてなかなかお礼も言いづらくて」
「そういえばあの件あれからどうなったんだ?」
「校長先生に体操部の顧問と部長が怒られて一件落着よ。まああとで顧問と部長に正式に謝りに来られた校長先生は、自分では怒った記憶がないから首をひねってたみたいだけれど…ふふふ」
「そういえば、チカ子が校長先生の双子の兄弟を見たって大騒ぎしてたっけな」
「あの子が変なものを目撃するのは毎度のことだから…それはそうと、大将って何で女子に対して乱暴なの?」
「悪いかよ」
「悪いに決まってるじゃない。顔は悪いけれど、スポーツは良くできるんだし、本来ならそこそこ人気がとれるんだからもったいないわよ」
「顔悪いは余計だよ。好きな女の子にそんなこと言われたくない」
「大将、今なんて言った?よく聞こえなかったけれど…」
「なんでもねえよ」
「まあガサツなところとか成績悪いのとかは仕方ないけれど、露骨に乱暴なのをやめてくれたら、女子に大将のカッコいいところをなるべくアピールしといてあげるわ。女子にモテたいでしょ?」
「う、うん…」
「話はそれだけ。そうそう、自分では良くわからないんだけれど、私のレオタード姿って大将から見て色っぽかった?」
「あ、ああ…」
「良かったわ。私自身としては、顔とお尻は及第点だけれど、胸がもう少しないと色っぽいとは言えないかなと、ちょっと気にしていたので」
「アッコのそういうところ、羨ましいよ。俺も自分の外見にそのぐらい自信を持ちたい…」

「毎日毎日鏡を見るのがコツよ。こんなことを言うと男の子は笑うかもしれないけれど…鏡にはね、自分の本当の心が映ると思っているの。だから女の子はそれを見て、いつもいつも自分の心をチェックしているのよ」
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「ピポポポポッ!ピースケクン、次ハドコニ行クノ?…ピキュ~ン!」
「ピーッ!チョット気ニナルコトガアルノデ・AKKO132NOサント一緒ニ行キタイ場所ガアルンデスガ」
「ピポポポポッ!ソレハドコ?…ピキュ~ン!」
「ピーッ!マインドミラーハウス…自分ノ本当ノ心ガ映ル鏡ノアル場所デス」
 

改造絵日記(11月10日)「機械人形化ひみつのアッコちゃん」
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『ひみつのアッコちゃん(Wikipedia)』

【今回描いた絵】