ザ・ベストミステリーズ2023
日本推理作家協会 編
2023/12/31
★ひとことまとめ★
ミステリー好きはどうぞ
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
これがミステリーの最前線! どれを読んでもハズレなし、珠玉の短編推理小説が詰まった一冊!
第76回日本推理作家協会賞短編部門受賞作も収録!
2022年に発表された短編推理小説の中から、プロの読み手たちが熟練の目で選び抜いた作品を収録。
長年の愛好者に向けたコレクションとしても、ミステリーの入門書としてもぴったりの一冊。
新鋭からベテランまでキャリアに関係なく、「とにかく面白くて優れた」短篇のみを集めました。
巻末には昨年のミステリー界の動向を記した「推理小説・二〇二二年」に加え、推理小説関係の受賞作を完全網羅したリストも収録!
【感想】
過去の関連作品↓
久しぶりのザ・ベストミステリーズです
・異分子の彼女(西澤保彦)
タクシー運転手の主人公・寅谷が、テレビから流れてきたニュースーかつての友人が妻を殺害したという事件ーをきっかけに34年前の忘れられないある事件について、市役所のリモート相談窓口員に相談し真相を暴いてもらうお話です。
結婚式当日に殺害された新郎は、実は自分と間違われて殺されてしまったのだった。
自分は殺されずに済んだけれど、人違いで殺されてしまった友人のことを思うと、たとえそれが何年後だろうと心苦しい気持ちになりますよね。
どこまでが正しいんだろうなあ。
冒頭でタクシーに乗車していたおばちゃんは本当に当時のVR嬢だったんだろうか?
最後のくだりは、VR嬢が犯人だったのかもと思う寅谷のただの想像(夢)かもしれないし、本当にそうだったのかもしれないし、わからないですよね。
コウマがナナちゃんを殺した理由も結局わからないままだったしな〜。
信じるか信じないかはあなた次第的な感じですかね。
・ファーストが裏切った(浅倉秋成)
野球選手・鳥兜万次郎が起こした前代未聞の裏切り事件、通称「鳥兜の乱」を紐解く特集記事のお話です。
鳥兜万次郎はちょっと精神的なものなのか、生まれつきのものなのか、ちょっと人とは違う部分があるんじゃないかな〜と思いました。
膜というのは理性のストッパー、歯止めのようなものでしょうか。この膜が割れてしまったら、人としてやってはいけないことなどを躊躇なくやってしまうようになる。
鳥兜万次郎はこの膜が割れてしまったことで、やってはいけないこと、つまり試合中に味方を裏切り敵チームに有利になるように働いてしまった。
実際の団体競技でこんなことがあったら大問題ですよね
登録抹消されたりしちゃうのかなあ?
・ベッドの下でタップダンスを(鵜林伸也)
造園会社で働く主人公の僕。社長宅で社長夫人と不貞行為中、まだ帰ってこないはずの社長が帰ってきてしまった。
バレないようベッド下に隠れるも、隠れたことが社長にバレてしまう。
幸いなことに顔は見られていなかったが、社長は僕が出てくるまでベッドのそばから離れようとしない。繁忙期でろくにお互い寝ていないため、どちらが先に寝るかの持久戦となった。
色々と考えを巡らせているうちにどうやら僕は寝てしまっていたらしい。
部屋は静かで人の気配はない。
恐る恐る僕がベッド下から出てみると、ベッドの上にはなんと社長の死体が横たわっていた。
さて、誰が殺したのか?というお話です。
結論からいうと夫人は浮気常習犯で、過去の浮気相手である専務が犯人でした。
社長はベッド下にいる僕の正体を突き止めるため、"ある道具"を持ってきてくれ、と専務を呼んだだけでした。
なのに専務は自分の過去の浮気のことを追求されるのではないかと勘違いして、社長を殺してしまった…。
ベッドの下に隠れるなんて往生際の悪いことしなければ社長も死なずに済んだのにねえ…。
(そもそも不倫なんてしなければね…)
・美しさの定義(川瀬七緒)
服飾と美術解剖学の達人である仕立て屋探偵・桐ヶ谷と、ヴィンテージショップ店長兼人気ゲーム実況配信者で骨董の知識豊かな水森の2人が、迷宮入り事件を解決していくというお話。
シリーズ物のようですが、私はベストミステリーズで初めて知りました。
服飾専門学校に通っていた被害者。
家族の反対を押し切り、バイトを掛け持ちし自分で授業料を払いながら技術を学んでいた。
そんな強い意志のあった人間が、このような殺人事件に巻き込まれてしまった。
怪しい交友関係もなく、至って真面目だった彼女はなぜ殺されなければいけなかったのか。
このお話も良かったなあ。
服飾の知識がない私でも、お話の中で詳しく服飾の用語などを解説してくれるので読んでいて服飾への理解も深まりました。
殺されていなければ、もしかしたら彼女はデザイナーとして成功していたかもしれないのに…。
人を殺してまで地位、名声を得たいのか…と思いましたが、現実の事件もそんなものですよね…。
・神の光(北山猛邦)
このお話が一番好きでした。
まとまりがあって、簡潔。けれどどこか不思議さも残す感じ。
SF味もありつつ、ちゃんと謎も解かれている。
バーで男に声をかけられた主人公。
君の抱えている『謎』に関する話が聞きたいと言われ、主人公はかつて祖父が体験した不思議な話を語り始める。
当時、カジノで一攫千金を狙った祖父は、通常一般客は立ち入ることのできない高レートカジノ行きのバスに潜り込むことに成功した。
バスが到着したのは、荒涼とした砂漠の中煉瓦や木造づくりの建物が立ち並ぶ小さな街。
どうやらここにカジノがあるようだ。
記憶力が抜群に良かった祖父は、ブラックジャックで勝ち大量の札束を手に入れた。
大急ぎでカジノを後にしようとするも、帰り道がわからない。
近くにあったバイクを盗み走らせるも、調子が悪く人に見つからないよう小屋の影で調整しようと停車する。
調整しているうちに夜になってしまい、夜の砂漠を走るのは危険と判断し小屋で一晩を過ごした。
朝、祖父が目を覚まして周囲を見渡すと、カジノのあった街がなくなっていた。
たった一晩で街が丸ごとなくなるなんて!
確認するために街があった方向まで行くも、やはり街はない。
めまいを感じ虚空を仰いでいると、光がものすごい速度で近づき、またたく間に頭上に到着した。
次の瞬間光に包まれたように意識が真っ白になり気を失ってしまった。
目覚めると、真っ白な部屋に寝かされ、全身灰色の奇妙な人間らしきものに注射を打たれた。
そして再び意識を失った。
目を覚ますと祖父は空港にいた。
手に入れた大金はなくなっていた。
体験したことすべては夢だったのだろうか…。
UFOはステルス戦闘機。消えた街のあった砂漠は軍の施設、地下には核実験場。街が消えたのは核爆発が起きたから。
灰色の人間は放射線防護服を着ていたから。
そう言われるとそうかもしれない、と思ってしまう納得感があります。
ただ、黒ずくめの男たちは結局なんだったんだろうなあ。軍の関係者なのか、それとも本当に宇宙人だったのか…。
・赤の追憶(櫻田智也)
このお話も良かったです。
たしかベストミステリーズの過去作でこのシリーズの別のお話を読んだような気がします
花家を営む翠里と、客として店に来た魞沢泉との会話でお話が進んでいきます。
翠里がお店においていた、季節外れのポインセチア。1年前の今日、ポインセチアを買いに来た女の子と交わした約束。
母親になってから、ニュースでも小説でも、子供に関する悲しい出来事に対してかなり敏感になっています
子供の気持ち、親の気持ち、どっちもわかるからなあ。
目の前の元気そうな女の子が、まさか死んでしまう病気を抱えているだなんて、事情を知らなければ初見ではわかりませんよね。
残念ながら女の子は春を迎えることができずポインセチアの約束は守れませんでしたが、(たぶん)お母さんに渡すことができて良かった…
・倫敦スコーンの謎(米澤穂信)
氷菓を思い出しました。同じ米澤さんですしね
調理実習の授業にて。
献立は決められており、サンドイッチ・カナッペ・スコーンを各班で時間内に作る。
小佐内ゆきの班では、スコーンには自信があるという沢海がスコーン作りに立候補し、一人で作りあげた。
彼女には相当な自信があったはずなのに、スコーンは生焼けで失敗してしまった。
彼女のスコーン作りの手順には特におかしな点はなかったはず。正しい手順で作ったのであれば、失敗するはずはない。
…なぜスコーンは失敗してしまったのか?
調理実習とか懐かしいなあ〜
中学か高校か覚えていませんが、ピザを作った記憶があります
スコーンについていままでの人生で深く考えたことなかったなあ
クロテッドクリームも知らなかったし、クリームを先に塗る食べ方、ジャムを先に塗る食べ方と、食べ方が地域によって異なるのも知らなかったし、地域によってスコーンの大きさも異なるのも知らなかったです。
ちなみに私がスコーンをイメージしたときに頭に思い浮かぶのは、スタバのスコーンです
そういえば米澤さんのお父さんが亡くなった件は衝撃だったなあ。。
米澤さんのツイート見ていたから、どうか無事に見つかりますようにと思っていたけれど…
やっぱりベストミステリーズはいいですね〜。
どうしても好きな作家さんや有名な作品などを選んでしまって、全く知らない作家さんの本を読むということが少ないので、新しい作家さんを知るいい機会になります