切り裂きジャックの告白
中山七里
あらすじ
臓器をくり抜かれた若い女性の遺体が発見される。その直後「ジャック」と名乗る犯人からの声明文がテレビ局に届く。果たして「ジャック」の狙いは何か?警視庁捜査一課の犬養隼人が捜査に乗り出すが……。
感想
胸から下腹部まで切り開かれて臓器をきれいに抜き取られた他殺体が相次いで見つかる。まるで1800年代にイギリスで起きた連続殺人事件の模倣のよう。
他殺体の描写が残虐極まりないけれど、読みやすい文章とストーリーで淡々と不快なく読み進められる。さすがの中山七里さん。
本作は、連続殺人事件の謎解きやミステリーというよりも脳死判定後の臓器提供に関する是非を問うことに重きをおいた内容に感じた。
脳死は人の死なのか、臓器移植は人としての倫理に反してはいないのか。
臓器移植が認められてからずっと問われ続けている問題であり、今後もずっと考え続けられる問題であると思う。
臓器提供する側、いわゆるドナーは、脳死状態なので生前の意思表示とその家族の判断になる。
ドナー自身の意思と家族の意思が同じとは限らないし、肉親が脳死となりました意思表示に基づいて臓器提供お願いしますと言われてはいどうぞと言える人は少ないのではないだろうか。
臓器提供してもらう側、レシピエントは、一分一秒でも早く臓器提供されるのを待ち侘びている。
臓器移植ができるということは誰かの死を意味する。もちろんレシピエントは誰かの死を望んでいるわけではないけれど、結果的にそういうことになる。一生誰かの人生を背負い、誰かの命と引き換えに真っ当な人生を送らねばならないという誰からともいえないプレッシャーを感じる人もいる。
臓器移植というセンシティブなテーマを描いており、臓器移植の推進派と慎重派の対立だけでなく、臓器移植にあまり関わりなく生きている人間が知らないようなドナーとレシピエントとの関係、そしてドナー患者の家族の想いなど、色んな視点からそれぞれの立場や役割の中での葛藤がまざまざと感じられました。
ドナーやレシピエント本人、そしてその家族はもちろん、医者や移植コーディネーター、移植に関わる人たち、様々な思いが入り混ざり、臓器提供は良いとか悪いとかそんな簡単な問題ではなくずっと是非を問い続ける必要があるものなのだと思った。
小説としては、事件が連続して起き謎も怪しい人物も多くて解決するまではすごく面白かったが、犯人の正体や動機が分かると、ちょっと個人的にはスンと覚めてしまった。
用意周到で大胆不敵なジャックは、殺人犯とはいえ聡明で技術も持ち合わせ言葉は不適切かもしれないが魅力的でもあり、臓器移植に関して確固たる主張があると匂わせていたが、動機や行動を知り犯行中のジャックの賢いイメージとはかけ離れていたのとあまりにも稚拙すぎてちょっとがっかり。
というところも、犯罪とは愚かで滑稽なものだということをあえて描いているのかなとも考えたりもしたが、どちらなんだろう。
エピローグは、他の人の中で生きる大切な人の一部との再会に切なくなりました。
切なくなり、母の愛に触れ、最後の最後で少し救われた気持ちで終わりました。
