赤ちゃんのお迎えで保育園に向かっていたところ、突然、


「%$#¥○&#$だろうがぁ!


と男の人の叫び声が聞こえてきました。

見ると、路上で男が女の人に向かってブチギレていました。

黙ってうつむいている女性に対して男が一方的に叫び続けているので、

(止めに入った方が良いんじゃないか……)

と思ったのですが、保育園のお迎えの時間が迫っていたのでそのまま向かいました。

そして、ベビーカーに赤ちゃんを乗せて保育園から戻ってきたのですが、、、


「%&$#$だろうがぁ!


とまだ同じ場所で男が女の人に向かって叫んでいたのです。周囲の人も気づいている様子ですが、足早に通り過ぎるだけでした。

(やっぱり、止めに入った方が良いんじゃないか……)

再び逡巡しましたが、今、ベビーカーの上には赤ちゃんがいます。

もし声をかけて男とトラブルになると赤ちゃんが巻き込まれてしまうかもしれません。妻からも「危ないことに首を突っ込まないで」と日ごろから言われています。

……こうして僕は、罪悪感にさいなまれながらも周囲の人と同じように、女の人を置き去りにして自宅に向かって歩き出したのですが、そのとき、頭の中で声が聞こえました。


「……本当にそれで良いの?」


僕は声をかき消そうと歩くスピードを早めましたが、むしろ声は頭の中で大きく響いてきました。


「このまま何もしないで、君は、本当に、君でいられるの?」


ちょうど交差点に差し掛かり信号が赤になりました。
立ち止まった僕は耐えきれなくなり目をぎゅっと閉じましたが、そのとき、まぶたの裏側に、はっきりと、声の主の姿が浮かび上がったのです。


声の主はーー









ミズノンノでした。



※ミズノンノとは
2004年に刊行したメールマガジン「オシャる技術」で登場したキャラクター。ファッションがアイテム同士の組み合わせである以上、ダサいアイテムを1点でも所持しているとオシャれになれないと結論づけ、持っている服をすべて燃やし、文字通り「裸一貫」からファッションリーダーを目指した。その斬新な発想と破天荒な行動がインターネットの黎明期に大旋風を巻き起こし、当時、「インターネット界で名前が5文字の著名人といえば?」という質問に、ネット民の8割が「ミズノンノ」、残りの2割が「ビルゲイツ」と答えていたと言われている。



「君は……変わらないな」


僕がミズノンノの姿を見て声を漏らすと、ミズノンノは言いました。




「君の方は、ずいぶんと変わってしまったようだけどね」


ミズノンノは続けました。

 


「昔の君なら――つまり、僕なら――迷うことなくあの叫んでいる男を止めに入っていたはずさ。なぜなら、僕たちが何より大事にしていたもの。それが、『行動すること』だから」




「僕たちは、物心ついたころから、ずっと思っていたよね。『どうして神様は、人間を生まれつき[見た目が悪い]とか[運動神経がない]とか[親が貧乏]とかにする理不尽な世界を作ったんだろう。もし、自分が死んで神様に会うことができたら絶対にぶん殴ってやる』って。でも、僕たちは、あることに気づいたんだ。それは、神様がいかに不平等な世界を作ったのだとしても、『行動すること』だけは――すべての人間に与えられているってことに。だから、バカにされても、恥をかいても、ただ、傷つくだけで終わったとしても、自分がやるべきだと感じたら、どんなことでも行動に移す。それがアイデンティティになったんだ、僕たちミズノの――」



そこまで言って


「……そうか」


とミズノンノはうなだれ、寂しそうに言いました。


「君は、もう、ミズノじゃなかった。結婚して君の苗字は、『ミズノ』から『カワムラ』に変わってしまったんだったね」    ※現在の僕の戸籍名は川村です



「そんな君に、『ミズノ』ンノの言葉が届くはずもないかーー」







 

 








 

「待ちな」





「えっ?」















「き、君はーー」





「確かに、君の言うとおり、俺は、結婚して苗字が変わり、子どもも生まれた」






腹はたるみ




シミが目立つようになり


何よりも、




ハゲた




でも、


それでも、


俺は、劣化したわけじゃない。



「水」に行き先ができて「川」になり


「野」に人が集まり「村」になった




「水野」の進化した姿、それが・・・・・・







KA




WA




MU





RA






だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
 

 

※4児の父です




気づいたとき、僕は、ベビーカーを押しながら猛ダッシュしていました。

そして自宅に着くと妻にベビーカーを預け、踵を返して現場に走りました。

そのとき僕の頭の中では、次の言葉が連呼されていました。


「KAWAMURA! KAWAMURA!」


そして、現場に到着したころには、「ケンカ止め師」と呼ばれていたころの僕が、完全に蘇っていたのです。


説明しましょう。


長くなりますが、説明させてください、っていうか長くても何の問題もないよね。だって、あなたが大好きだったあの水野が、川村として進化して1年ぶりのブログを更新してるわけだから。今日は手加減なしでやらせてもらいますわ。


僕が「ケンカ止め師」として活動を開始したきっかけは、言うまでもなく
「岐阜のペンション事件」
ですよね。


僕が若かりしころ、岐阜のペンションのレストランでアルバイトをしていたところ客のクソダサいヤンキーに因縁をつけられ、店員という立場ゆえに謝り続けるしかなかった、あの一件以来、当事者だけでは関係性などで言い返せない状況が生まれるので、街でもめ事をみつけたら第3者として必ず介入することを自分に課し、結果、ケンカを止めるスキルが爆上がりし、いつしか「ケンカ止め師」と呼ばれるようになった、

あの、水野が、「シン・ケンカ止め師 川村」として再降臨したのです。


そして、現場に戻った僕は――これは、神が「水野復活の儀・および川村生誕祭」として、この舞台を用意したのは間違いないのですが、



男はまだ、女の人を怒鳴り続けていました。



さて。


こんなとき、ケンカ止め「素人」たちはどうするでしょう?


「うるさいから迷惑だ」

とか

「警察を呼ぶぞ」


などと「凄(すご)む」わけですが、師に言わせたら、愚の骨頂オブ骨頂です。

 


では、師はどうするか。どう動くか。



結論を言うと↓です。








「あっ、あのう……」



見てください。この、チワワのように不安を浮かべた表情、

そして限界まで落とした腰。

もちろん現場では服を着ていますが、心は完全な丸腰であるところの――全裸――で臨みます。



ちなみに、今、師の全体像を見てもらっていますが、

腰を落としていることによって、もめている二人の視界に映っている師の姿は




こうです。

こんなやつが声をかけてきて、誰がケンカを続けられるんだって話じゃないですか。

 

これが、「止めの呼吸 壱の型 怯(おび)え」です。


そして、この技を炸裂させた僕に顔を向けてきた男に対して、すかさずこう続けました。





「すみません。僕、完全に部外者の者なんですが」(止めの呼吸 弐の型 外様承知)



「向こうにいる病院の警備員さんとかもこっちを気にしてて警察とかが来たら(お二人も)大変なんじゃないかって思いまして」(止めの呼吸 参の型 冷や水)


 

――順に見ていきましょう。

 

まず、「弐の型 外様承知」ですが、ケンカの当事者に「自分は『部外者』であることを重々承知している」ことを伝えるのが非常に重要になってきます。

なぜなら、「ケンカをしている人に声をかける」ことが「自然」なのは、警察官や警備員、あとは、ケンカが店の前で行われていた場合のお店の人など、声をかける行為が仕事である人であり、そういうのをすっ飛ばして声をかけると「関係ねえやつが口出してくんな!」となります。そこで、「止めに入っているのが出過ぎたマネであることを私は重々承知していますよ~」と伝えることで共感を取り、会話を始める土壌を作るわけです。

 

そして、「参の型 冷や水」ですね。

「警備員や警察が来て面倒なことになるかもしれない」とケンカをすることのデメリットを伝えることで、相手の意識をケンカから逸らす効果があります。もちろん今回の目的は女性を守ることなのですが、その前提として会話を始めるために「警備員」「警察」といった冷や水ワードを浴びせるのです。

 

――ここまでの動きをまとめましょう。

 

ケンカ止め師の止めの極意は、上から目線で「やめろ」というのではなく、

 

 

1. 弱そうで怯えた

2. 部外者が

3. 当事者にとってマイナスなことが起きそうだと伝えに来た

 

 

という構図を生み出すことであり、

 

一流のケンカ止め師は、止め入る際に必ず

 

 

自分が伝書鳩になるイメージを持つと言われています。

 

 

「どんなに熾烈な戦闘をしている武将も、自分のもとに飛んできた伝書鳩は追い払わない」――伝説のケンカ止め師 安斎孫一郎の言葉です。



そして、この型を実践した場合、ほぼ、相手の方から話し始めます。

この時点で、ケンカが止まる場合もありますが、中には興奮が冷めず

「警察なんて関係ねえよ!勝手に呼べよ!」

とすごんでくる場合もあります。ただ、こうした台詞が出たらこっちのもの。なぜならもう、師との「会話」が始まってしまっている――師の技術によって、「ケンカ」から「会話」に引きずり込まれてしまっているわけですから。


返しとしては、たとえば、

「いやいや、警察が来たら大変ですよ! 僕も経験あるんですけど、名前や住所言わないといけなかったり、かなり時間取られますよ!」

他には、

 

「いや、お兄さんめちゃくちゃ強そうだから、手が出て相手が大怪我とかしたら刑事事件とかになっちゃうかもしれませんし!」

 

という「止めの呼吸 肆ノ型 忍び褒め」を使いながら会話を進めていきます。

 

さらには、この時点ですでに警察を呼んでいる場合もあります。

今回は暴力が振るわれていなかったので連絡しませんでしたが、一流の止め師は状況を的確に判断し、先に警察に連絡したうえで「止め」に入る場合もあるのです。(「止めの呼吸 拾壱ノ型 警察頼り」



……と、ご覧になってもらったとおり、ありとあらゆるケースに対応できるのが「止め師」なのですが、

 

今回、

 

止めの呼吸、壱、弐、参の型を繰り出した僕に対する男の返答は、まったく予想外のものでした。

 

男はこう言いました。




「こいつが俺の家のカギ返さないんすよ」



え?


男はうつむいている女性を指さして続けました。


「別れ話になって、こいつが俺の家のカギ持ってるんで返せって言ってるんですけど、全然返してくれなくて」


すると女の人が言いました。


「だって……別れたくない」


すると男の人が


「だからカギ返せって!お前がカギを返さねえから(僕を指して)こういう人にも迷惑かけてんだろうがぁ!」


も、もしかして――


もしかして、男が被害者――


ただ、男の言い方が激しいので、男の人に聞きました。


「あの、結構激しく言ってるように見えるんですけど、暴力とかは」


「いや、そんなことするわけないでしょう。それこそ警察が来ますから」


それからまた「カギ返せって言ってんだろうがぁ!」のやりとりに戻っていったので、

 

しばらく見守っていたのですが、

 

僕は、意を決して、もう一度会話に入りました。



「すみません、1つだけ確認させてもらっていいですか?」

 

 

そして、僕は、女性に向かって言いました。



「何か、助けが必要ですか?」



すると女性は顔を上げ、僕をまっすぐ見つめて言いました。







「必要ありません」







僕は、

 

「僕の勘違いでした、すみませんでした」

 

と頭を下げ、二人に背を向けて歩き出したのですが、


(……良かった。あの女性はハラスメントを受けていたわけじゃないんだ)


とは、1ミリも、壱ミリも思えませんでした。


僕が思ったのはーー

 


「水」に行き先ができて「川」になり、「野」に人が集まり「村」になったとか言ってたけど、














 

あの姓名判断、正しいんじゃねえのかーー!?





 

※今はまだ幼き4人の子どもたちへ 


もし将来、君たちがこの記事を読んでショックを受けたなら、お父さんは君たちに胸を張って、

 

「これがお父さんの仕事なんだ」

 

とは言わないだろう。だって仕事じゃないからね。1円も入ってこないし。じゃあコレが何かっていうと、まあ趣味っていうか、ある日突然、こういう記事をアップしないと生きていけなくなるタイプの、病人なんだ。だから君たちには、学んでほしい。こういう父親と生きることが「共生」なのだと。